WIPO

 

WIPO 仲裁調停センター

 

紛争処理パネル裁定 

Moomin Characters OY Ltd. 対  広浜 基己

事件番号 D2004-0802

 

1. 紛争当事者

申立人
Moomin Characters OY, Ltd.
Lapinkylantie 191
02880 Veikkola
FINLAND

被申立人
広浜 基己
180-0083
東京都世田谷区奥沢8丁目1番地5号 101

 

2. ドメイン名および登録機関

紛争の対象であるドメイン名:<moomin.com>
本件ドメイン名の登録機関:
Online NIC.com
2315, 26th Ave., San Francisco,
CA 94116, U.S.A.

 

3. 手続の経過

 本件申立書は、2004年9月24日に電子メールで、および同年9月29日に文書で、世界知的所有権機関(WIPO)仲裁調停センター(以下「センター」)に提出された。この申立書は、ICANN (Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)  が1999年8月26日に採択した統一ドメイン名紛争処理方針(以下「処理方針」)、ICANNが1999年10月24日に承認した統一ドメイン名紛争処理方針手続規則(以下、「手続規則」)およびWIPO統一ドメイン名紛争処理方針補則 (以下,「補則」) に従った裁定を求めるものである。センターは、この申立書が手続規則第4条(a)項および補則第5条に定められた形式要件をみたしていること、および,申立人が所定の金額の手数料をセンターに支払ったことを確認した。センターは、2004年10月6日、申立人に対して申立書の受理を通知した。センターは、同日、本件ドメイン名の登録者に対し登録の確認を要請し、2004年10月11日その確認を得た。1004年10月13日、センターは、本件申立を被申立人に通知し、手続規則第4条(c)項)に従い、紛争処理手続を開始した。2004年10月28日、センターは、被申立人から答弁書を受理し,その旨を通知した。申立人は単独のパネリストによる本件紛争処理を求め、被申立人はこれに同意した。センターは、2004年11月9日、手続規則第6条(b)項に従い、パネリスト1名を指名し、両当事者にその旨を通知した。

 

4. 背景となる事実

 申立人は、申立書において,次の事実を述べている: 

申立人は、日本における登録商標第4616787号の商標「MOOMIN/ムーミン」を所有する。この商標は、フィンランドの作家トーベ・ヤンソン氏(Ms. Tove Jannson)の小説に登場する主人公である架空の生物「moomintroll」の略称・通称として世界的に著名である。ムーミン・シリーズの小説は、全9作品からなり、1945年に第1作「小さなトロールと大きな洪水」(“The Little Trolls and the Great Flood”) が出版され、以降1946年「彗星追跡」(“Comet in Moominland”)(「ムーミン谷の彗星」)、1948年「魔物の帽子」(“Finn Family in Moomintroll”)(「たのしいムーミン一家」)、1950年「ムーミンパパのお手柄」 (“The Exploits of Moominpappa”)(「ムーミンパパの思い出」)、1954年「危険な夏祭り」(“Moominsummer Madness”)(「ムーミン谷の夏祭り」)、 1957年「トロールの冬」 (Moominland in Midwinter”) (ムーミン谷の冬))、1962年「目に見えない子とそのほかの物語」 (Tales from Moominland”)(「ムーミン谷の仲間たち」)、1965年「パパと海」 (Moominpappa at Sea”)(「ムーミンパパと海」)、1970年「11月末に」(“Moominvalley in November”)(ムーミン谷の11月))が出版された。

 これらの作品は、今日まで31の言語に翻訳され、ほとんどの翻訳本は、数十年前に出版済みであり、小説に登場うするキャラクター達は、世界的に周知である。とくに、日本においては、1969年10月5日からl970年12月27日まで全65回アニメシリーズが放映され、その後も繰り返し再放送されていることもあり、子供のみならず大人を含めた幅広い世代で人気がある。また、登場キヤラクターがぬいぐるみ、フィギュア等の玩具のみならず文具、生活用品等のさまざまな商品化されていることからも、本作品及び登場するキャラクターたちの人気の高さは明白である。本作品、キャラクター、名前、歴史等については、申立人のウエブサイトに記載されている。

http://www.moomin.fi/englanti/infor_full_e.htm

 被申立人は、2003年9月14日本件ドメイン名を登録した。申立人は、代理人を通じて、2004年7月8日付けの内容証明郵便で、被申立人に対して、本件ドメイン名を申立人に移転するように申し入れたが、被申立人は、2004年7月21日付けの回答文書によってこの申入れを拒絶した。申立人は、2004年9月24日電子メールで、同年9月29日に文書で本件申立てをした。

 

5. 当事者の主張

A. 申立人

申立人は,処理方針第4条(i)項に従い、当紛争処理パネルに対して本件ドメイン名「moomin.com」を申立人に移転することを命じる裁定を求め、その理由として、次のように主張する:

1.本件ドメイン名は、申立人が保有する商標および役務商標(サービスマーク)と同一であるか、または混同させるような類似性を有している。(処理方針第4条(a)項(i),、手続規則第3条(b)項(viii)、 (b)項 (ix) (1))

(1) 本件ドメイン名は、申立人が保有する日本登録商標第4616787号の商標「MOOMIN/ムーミン」と同一であるか、または混同させるような類似性を有する。本件ドメイン名「moomin.com」の第1レベル「com」は、当該ドメイン名が国や地域概念のない世界中を対象としたドメイン名gTLDであることを示すものにすぎないから、商品や役務の出所を表示する機能はなく、本件ドメイン名の要部は第2レベル「moomin」の部分である。したがって、本件ドメイン名の第2レベル「moomin」の部分を申立人の登録商標と対比すると、前者が後者と同一または類似であることが明らかである。

(2)申立人が保有する本件登録商標「moomin/ムーミン」は、本件ドメイン名が登録された2003年9月14日よりもずっと以前から日本を含めた全世界で著名である。本件登録商標「MOOMIN/ムーミン」は、フィンランドの作家トーベ・ヤンソン氏の小説の主人公である架空の生物「moomintroll」の略称・通称であるが、「moomin」および「moomintroll」の語は、当該小説の主人公の略称・通称として世界的に著名である。インターネット検索ページの「Yahoo JAPAN」において「ムーミン/MOOMIN」を検索すると 4,788件ヒットし、また、「moomin」という語は、インターネット上で辞書検索サービスを提供している「英辞朗」においても登録されている。[申立書付録番号4および5]

2. 被申立人は本件ドメイン名について権利または正当な利益を有しない。

(処理方針第4条(a)項(ii)、 手続規則第3条(b)項(ix)(2))

(1) 被申立人は、申立人とは一切の資本関係、取引関係、業務提携関係等にたたず、申立人が被申立人に対して、前記商標の使用を許諾した事実もない。

(2)「moomin」という語は、ヤンソン氏が小説に登場する架空の生物につけたまったく独自の名前であり、造語であるから、特定の意味を有するものではなく、日本語、英語のみならず他の言語において一般的に知られているような意味を有しない。したがって、申立人以外の者に独占させることを正当化する理由はない。

(1)日本において本件商標「MOOMIN/ムーミン」が非常に長期間かつ広範囲にわたって使用されていることを考慮すると,本件ドメイン名が実際に使用された場合に、申立人との関係及び申立人の業務上の信用にかんして一般需要者および取引者を誤認させ、また商標権侵害にいたる蓋然性が強い。

(2)商標「MOOMIN」の周知著名性を考慮すると、被申立人自身による本件ドメイン名の使用によって被申立人が一般的に認知されるようになっているとは考えられない。

したがって、被申立人は,本件ドメイン名について権利または正当な利益を有しない。

3. 本件ドメイン名は、不正の目的で登録かつ使用されている。(処理方針第4条(a)項(iii), (b)項,手続規則第3条(b)項(ix)(3))

被申立人は、以下の事情から不正の目的をもって本件ドメイン名を取得したことがおきらかである:

(1)被申立人が本件ドメイン名を登録した2003年9月14日の時点において本件商標「MOOMIN/ムーミン」を知らなかったとは考えられない。

(2)本件ドメイン名www.moomin.comは、現在、月額5千円から1万円で貸し出し中であるが、ドメイン名登録費用は2年で5千円から1万円であることを考慮すると法外である。本件ドメイン名によって表示されるウェブページを付録として提出する。[申立書付録番号6および7]

(3)既述のとおり、「moomin」は造語であり、特定の意味を有しないものであるところ、被申立人があえて本件ドメイン名を取得したのは、被申立人が、商標 「moomin」の著名性に便乗して、本件ドメイン名の取得を希望する者に対して本件ドメイン名の取得に要した費用を超える対価を要求して不当な利益を得ようとしているからに他ならない。

(4)被申立人によって提供された本件ドメイン名の登録者の連絡先詳細が不明であるが、これは登録者の正確な身元を秘匿することによって登録者への連絡を妨げるためであると思われる。UDRPにおいては、登録者に関する情報を秘匿する行為は不正な目的を有しているものと推認されるものであることは、過去の裁定事例WIPO D2000-1121 (Nintendo of America, Inc. v. Berric Lipson) から明らかである。

 したがって、被申立人は、不正の目的をもって本件ドメイン名を取得したことは疑いない。

(5)申立人は代理人を通じて、2004年7月8日付の内容証明郵便で被申立人に対して本件ドメイン名を申立人に移転するように申し入れる旨を連絡したが、2004年7月21日の回答文書において、本件ドメイン名によって表示されるウェブページには本件商標と誤認混同を生じるような表示がないこと等を理由に申し入れを経絶している。当該内容証明郵便写しおよび回答文書写しを付録として提出する。[申立書付録番号8および9]

申立人は、処理方針第4条(i)項に従い、本件紛争処理手続において指名される紛争処理パネルに対して、ドメイン名 「moomin.com」を申立人に移転する裁定を下すことを求める。

B.  被申立人

 被申立人は、答弁書において、申立人の主張に対して次のように反論した:

 1. 本件ドメイン名が、申立人が有する商標および役務商標(サービスマーク)と同一であるか、または混同させるような類似性を有するか:(処理方針第4条(a)項(i))

(1) 申立人が保有する登録商標との類似性について:本件ドメイン名「moomin.com」は、申立人が保有する登録商標「MOOMIN/ムーミン」と類似性が認められるが、申立人以外の第三者であるユニ・チャーム株式会社が保有する登録商標「ムーミン/MOOMIN」等とも類似しており、申立人のみが本件ドメイン名の所有権を主張する根拠はない。申立人以外の第三者が保有している類似した登録商標の情報を付録として提出する。[答弁書付録番号1,2,3および4] これらの付録に掲げる登録商標の情報は、独立行政法人工業所有権情報・研修館のウェブサイトから検索・参照できる。”http://www.ipdl.jpo.go.jp//Syouhyou/shouhyou.htm”

(2) 申立人の主張する登録商標の著名性について:申立人は、申立人が保有する「MOOMIN/ムーミン」のインターネット検索サイト「Yahoo!JAPAN」での検索結果等を付録として提出しているが、それらは本件ドメイン名との類似性を示すものではない。また、申立人は、本件でもっとも重要視すべき「moomin」という文字列を「Yahoo!JAPAN」で検索した結果を提出していない。その検索結果によると、最上位に表示され、かつ表示件数が最も多い情報は、申立人の登録商標ではなく、音楽アーテイスト「MOOMIN」の情報である。また、現在世界でもっとも広く使用されているインターネット検索エンジン「Google」を用いて検索した場合でも、「Yahoo!JAPAN」での検索結果と同様。最上位に表示され、かつ、表示件数が最も多い情報は、音楽アーテイスト「MOOMIN」の情報である。これらの検索結果を付録として提出する。[答弁書付録番号5および6]

2. 被申立人は、本件ドメイン名について権利または正当な利益を有するか否か:(処理方針第4条(a)項(ii))

(1) 申立人は、「moomin」という言葉が造語であり、特定の意味を有するものでなく、多くの言語において一般的に知られているような意味も有しないと主張するが、この認識は明らかな誤りである。なぜならば、すでに一般的な名称として用いられているからに他ならない。先に提出した付録(答弁書付録番号5および6)を見ると明らかなように、「moomin」という文字列で検索した場合、音楽アーテイスト「MOOMIN」の情報が最上位かつ最多数表示される。

(2) 日本においては、「ふーみん」や「ゆーみん」といった姓もしくは名の一文字に「-みん」をつけるニックネームが広く親しまれており、実際に「むーみん」という名称でウェブサイトを開設している個人や組織が非常に多く存在する。この「ムーミン」という言葉をインターネット検索サイト「Google」で検索した場合、その結果ヒット数は5,310件に上り、かつ、それらのほとんどは申立人の登録商標と無関係である。この検索結果は、付録として提出されている。[答弁書付録番号7]

(3) 本件ドメイン名と非常に類似したドメイン名の登録情報を見ると、「moomin.jp」、「moomin.net」「moomin.org」等、これらのドメイン名は申立人とは無関係の個人または組織が登録している。どくに「moomin.jp」というドメイン名においては、「夢眠工房/MOOMIN KOBO」という商業的ウェブサイトが運営されている。各ドメインの登録情報を付録として提出する。[答弁書付録番号8, 9 および10] また、「http://www.moomin.jp」にて表示されるウェブページの印刷物を付録として提出する。[答弁書付録番号11]

(4) 以上の事柄から、「moomin」という文字列は明らかに一般的な言葉であり、非申立人には本件ドメイン名を使用する権利がある。また、被申立人が一般語である「moomin」を用い、申立人の登録商標に関連したウェブサイトをあえて開設する理由はなく、その意図もない。よって、被申立人が本件ドメイン名を用いてウェブサイトを開設しても消費者が申立人の登録商標と誤認する可能性はない。

3. 本件ドメイン名は不正の目的で登録かつしようされているのか:(処理方針第4条(a)項(iii))

   被申立人は、本件ドメイン名を不正の目的で登録していない。その理由は、次のとおりである:

(1)申立人の登録商標「MOOMIN/ムーミン」との関連性はない:前述のとおり「moomin」という文字列は一般的な言葉であり、本件ドメイン名は申立人の主張する登録商標との関連性を直接的に示すものではない。また、被申立人には、申立人の登録商標を利用する意図はなく、本件ドメイン名にアクセスした際に表示されるウェブページにおいても申立人の登録商標との関連性を示す表記や申立人の競業者へのリンク等は存在しない。

(2) 費用および表示されるウェブページに不正はない:申立人は、本件ドメイン名は現在貸し出し中となっており、そこに表示される金額がドメイン登録の費用を超えて法外であると主張するが、その根拠は明確でない。そもそもドメインの登録料金は各サービス提供会社が決める千差万別なものであり、申立人が主張する相場とはあくまで申立人の主観的なものである。被申立人が本件ドメイン名の取得に直接要した費用は申立人の言う相場からはかけ離れた金額であり、申立人の言葉を借りれば法外な金額で取得したことになるが、被申立人はこれを法外とは感じていない。また、その取得費用を明らかにする必要があるのであれば、それを公開する用意がある。なお、申立人の主張する貸し出し中と表示されるウェブページは、本件ドメイン名に限らず、その他のドメイン名についても同様に表示される汎用的なパーキング目的のウェブページであり、本件ドメイン名に限定された情報を表示しているわけではない。さらに、日本語環境のないブラウザからこのウェブページを表示した場合、金額の表記はどこにもない。英語で表記されるこのウェブページの印刷物を付録として提出する。[答弁書付録番号12および13] この付録(番号12)は、申立人が被申立人に郵送したものの写しであり、これを申立て時に証拠として提出せず、あえて日本語表示部分のみを提出することについて、申立人の作為を感じる。このウェブページが申立人の知的所有権を侵害するとは到底考えられないが、仮にそう判断されるのであれば、本件ドメイン名からこのウェブページへの転送設定を直ちに取りやめる

(3) 本件ドメイン名の連絡先詳細は不明ではない:申立人は、本件ドメイン名について登録者の連絡先詳細が不明であると主張するが、これは明らかな誤りである。なぜならば、現にこうして被申立人に連絡が取れており、この申し立て以前にも相互に連絡をとった事実があるからである。これは、本件の申立書および答弁書に「その他の法的手続き」として明記されている。また、本件ドメイン名の登録者情報は、ドメイン名取得時にサービスの提供を受けたレジストラ「000Domains.com」から現在のレジストラである「OnlineNIC.Inc.」に本件ドメイン名の登録を移管した際に、被申立人とは関係のないシステム的な不具合によって一部の情報が失われたが、現在は「OnlineNIC.Inc.」担当者の手により復旧している。この不具合について、被申立人に責任はない。また、この不具合により申立人が被申立人に連絡できなかったという事実もない。本件ドメイン名の登録者情報はすべて被申立人個人の情報であり、被申立人以外の第三者の登録情報を秘匿した事実もない。

申立人または申立人の競業者に対しなんら要求を行っていない:被申立人が、申立人または申立人の競業者に対して売却・貸与等を要求した事実はないし、また、今後も要求する意図はない。被申立人は、申立人の知的所有権を侵害する意図は毛頭なく、正当な利用目的のためだけに本件ドメイン名を取得している。本件ドメイン名を保有する間、これを使用することも考えているが、申立人の登録商標または申立人の競業者に関連付けるようなウェブページを作成・表示することはまったく意図していない。第三者に本件ドメイン名を貸し出す場合であってもこれは同様である。被申立人は、過去から現在まで、本件ドメイン名からいかなる利益も得ていない。

 

6. 審理および事実認定

処理方針第4条(a)項は、被申立人登録者がこの強制紛争処理手続に応じる条件として、申立人に対し、本件ドメイン名が次の要件をみたしていることの立証を求めている:

(i)  被申立人の登録ドメイン名が、申立人が権利を有する商標または役務標章(サービスマーク)と同一であるか、または混同を生じさせるほど類似していること;

(ii)被申立人が、当該ドメイン名について何らの権利または正当な利益も有しないこと;および

(iii) 当該ドメイン名が、不正の目的で、すなわち悪意で(in bad faith)登録され、かつ使用されていること。

 申立人は、本件ドメイン名が処理方針第4兆(a)項に定める各要件を満たしている旨を主張し、被申立人はこれらの要件のすべてを欠くと反論するので、当パネルは、これら各要件について、両当事者の主張の当否を、申立書及び答弁書にそれぞれ付録として添付された証拠資料にもとづき、検討する。

(1) 申立人は、本件ドメイン名「moomin.com」の第1レベル「com」 を除いた「moomin」の部分は、申立人の登録商標「MOOMIN/ムーミン」と同一であるか、または混同を生じさせるほど類似すると主張する。被申立人は、両者が類似していることを認めた後、申立人以外にも類似の登録商標を保有する者がいるから、申立人だけが本件ドメイン名の所有権を主張する根拠はないと述べるにすぎない。この被申立人の主張は、認めることができない。本件ドメイン名が外観および称呼において申立人の登録商標と同一であるかまたは混同を生じさせるほど類似することについては争いがない。

(2) 申立人は、被申立人が本件ドメイン名について権利または正当な利益を有しないと主張する。被申立人は、「moomin」の語はすでに一般的な名称として用いられているから、この語が造語であって特定の意味を持たないし、多くの言語において一般的に知られているような意味も有しないという申立人の認識は誤りであると主張する。この被申立人の主張は、正当でない。被申立人は、申立人の登録商標「moomin/ムーミン」がフィンランドで創作された小説に登場するフィクショナル・キャラクターの名前であって、世界的に著名であることを認めた後、日本国内において申立人以外の第三者がこの名称を使っているから、被申立人には一般語である「moomin」を本件ドメイン名に使用する権利があるし、またこのドメイン名を用いてウェブサイトを開設しても消費者が申立人の登録商標と誤認する可能性はないと主張する。この主張は、商標保護の本質を十分に理解しない議論である。答弁書において、被申立人は、造語である「moomin」が希釈化して普通名称となっているとは主張していない。要するに、答弁書は、被申立人が本件ドメイン名について権利または正当な利益を有することを十分に主張していない。

(3)第三の要件は、本件ドメイン名が「不正の目的」(または「悪意で」(in bad faith)で登録され、かつ使用されていることである。申立人は、被申立人が本件ドメイン名を登録した2003年9月14日当時、本件登録商標「MOOMIN/ムーミン」が著名(famous)であったこと、現在本件ドメイン名は登録費用をはるかに越える金額で貸し出されていること、被申立人によって提供された本件ドメイン名の登録者の連絡先が不明であること、および、被申立人は、本件ドメイン名の申立人への移転の申し入れに対し、本件ドメイン名によって表示されるウェブページにおいては本件商標と誤認混同を生じる表示がないことを理由にこれを拒絶したことを根拠として、被申立人は本件ドメイン名を不正の目的を持って取得したと主張する。これに対して、被申立人は、本件ドメイン名は申立人の登録商標との関連を示すものではなく、またウェブページにおいてもそのような表示をしていない、被申立人が本件ドメイン名の貸し出しについて要求する金額は法外ではない、本件ドメイン名の連絡先詳細は不明ではない、被申立人は申立人またはその競業者に対してなんらの要求もしていない、と主張する。被申立人のこれらの主張は、被申立人が本件ドメイン名の登録を受けたとき「悪意であった」(in bad faith)、すなわち不正の目的をもっていたという認定を妨げるものではない。特に、本件申し立てがなされる直前、2004年7月21日、被申立人は、申立人の本件ドメイン名の登録移転の申入れを拒絶した。これは、処理方針第4条(b)項(iii)に該当する事実があったことを示すものである。

被申立人は、本件ドメイン名の登録を受けたとき、申立人の登録商標を構成する「moomin」が造語であり、かつ著名であることを知っており、これをドメイン名として登録を受けるについて、なんら正当な権利または利益を有しなかったからである。

本件登録商標「MOOMIN/ムーミン」を構成する「moomin」の語は、1945年いらいフィンランドの作家が連続して著作し出版された小説の主人公の名前の略称として世界的に著名であること、これは造語(coined word)であること、日本では著名であるためこの語またはこれと類似する名称が申立人とは関係のない音楽アーテイストその他の個人または団体によって使用されているとしても希釈化(dilution)が進んで識別力を失い普通名称(generic name)となってはいないこと、および被申立人による本件ドメイン名の取得が正当であることの主張・立証がなされていないことを考慮すると、当パネルは、本件登録商標は、著名商標として他人による直接の侵害および誤認・混同を生じさせる使用に対してばかりでなく、その識別力を希釈化するような使用に対して保護されなければならないと考える。

以上の理由から、当パネルは、本件ドメイン名は処理方針第4条(a)項に掲げる三つの要件のすべてをみたしていると認定し、被申立人から申立人に移転されすべきであると判断する。

 付言するに、申立人が保護を求める本件登録商標が所在し、かつ被申立人が住所を有する日本においては、他人の著名商標の無許諾使用は、誤認・混同を生じさせる恐れがなくても不正競争防止法(平成5年法律47号) 2条1項2号に該当する不正競争行為であり、これと同一または類似のドメイン名を使用する権利の取得は、同法2条1項12号に該当する不正競争行為である。

 

7. 裁定

 以上述べた理由から、当紛争処理パネルは、処理方針第4条(i)項および手続規則第15条にもとづき、申立人の請求を認容し、 本件ドメイン名<moomin.com>の登録は申立人 Moomin Ccharacters OY Ltd. に移転されるべきであると決定する。

 


 

土井輝生
パネリスト

2004年12月5日