WIPO事務局長が知財とAIに関するWIPO対話を開催:第3回
2020/11/09
人工知能(AI)はイノベーションの未来をけん引しており、多国間かつ多分野にわたる政策アプローチは、AIがすべての国に利益をもたらし、能力のギャップを埋めるのに役立つよう努めるべきである、とWIPOのダレン・タン事務局長は知財とAI政策に関する会議のオープニングで述べました。
「知的財産(IP)と人工知能(AI)に関するWIPO対話:第3回」は、2020年11月4日(水)に開催され、133か国から1,573人の登録者が参加する仮想セッションの形で開催されました。
ビデオ:WIPOのダレン・タン事務局長は、第3回「知的財産(IP)と人工知能(AI)に関するWIPO会議」を開催しました。
参加者を歓迎するなかで、タン氏は、世界経済におけるAIの影響力について強調しました。
「イノベーションの未来は、AI、高度なロボット工学、量子コンピューティングなどの新技術によって推進されています」と述べたタン氏は、AIが1950年代に登場して以来、約34万件のAI関連特許が出願され、160万を超える科学出版物が公表されたことを示すWIPOテクノロジートレンドレポート2019を引用しました。
「AIとコンピューターが国境を越えて相互接続性を高めるにつれて、多国間かつ多分野にわたるアプローチを模索することがより重要になってきます」とタン氏は述べました。
タン氏は、AIは既存のIPシステムの根幹に関わるものであり、相互に関連した多くの問題を提起しており、水平的なアプローチが必要であると述べました。AIによって提起された問題は、個々の知的財産権を縦割りで見るのではなく、IPシステム全体にわたって全体的に検討されるべきであるとも述べました。
2019年9月の第1回目のセッションから始まった「IPとAIに関するWIPO対話」は、オープンで包括的なプロセスで幅広い聴衆と多様な意見を集めることを目的としています。この対話の目的は、AIプレーヤーと規制当局との間の既存の情報格差を埋め、動きの速い複雑な分野の問題に対する幅広い認識を構築するのに役立つことです、とタン氏は述べました。
「AI主導のイノベーションと創造は、AI技術を採用する最前線にいるかどうかに関わらず、すべての国に利益をもたらさなければなりません」とさらにタン氏は述べました。
対話の議長は、在ジュネーブ国際機関フランス政府代表部のFrançois Rivasseau大使に務めていただきました。
議題は、AIに関連する定義、AIが商標分野にどのような影響を与えるか、AIのキャパシティ・ギャップを埋めるために政策がどのように役立つか、知財管理におけるAIの利用が政策的にどのような意味をもつかという問題に焦点が当てられました。
基調講演は、英国の科学・研究・イノベーション担当大臣を務めるAmanda Solloway議員に行っていただきました。
「強力なAIセクターには強力なIPの枠組みが必要」、「我々は、それがその商業的、経済的、法的、社会的な意味合いを理解することにかかっていると認識しています。」と議員は述べました。
「我々は今日のように、国境を越えて国際的に答えを探す必要があります。我々全員が知っているように、我々はグローバルな世界に住んでいるからです。」とSolloway氏はさらに述べました。
また、「知的財産に関する国際的な議論の場として、知的財産権のみに焦点を当てた唯一の国際機関であるWIPOに勝るものはありません。WIPOは国際的な知財の番人であり、正しい答えを見つけるために必要なエネルギーと専門知識の宝庫です。ですから、WIPOがこの対話を前進させるために素晴らしい活動をしてくれていることを本当に嬉しく思います」と加えました。
背景:IPとAI
2019年9月に開催されたIPとAIに関するWIPO対話の最初のセッションでは、知的財産政策へのAlの影響について議論するために、加盟国やその他の利害関係者が公開フォーラムに集まりました。
WIPOはその後、知財政策へのAlの影響から知的財産政策立案者が直面する可能性の高い最も差し迫った質問をまとめたペーパーを公開協議のために作成しました。このペーパーには、世界中の幅広い聴衆から250を超える提出物とコメントが寄せられました。
これらのコメントを考慮して、2020年5月に改訂版の課題ペーパーが発表され、これを基礎として7月に開催された第2回対話が開催されました。
AIにより、テクノロジーとビジネスにおける重要な発展がますます進んでいます。電気通信から自動運転車まで、さまざまな業界で活用されています。
ビッグデータの蓄積量の増加と、手頃な価格のハイ・コンピューティングパワーの進歩が、AIの成長に拍車をかけています。AIは、経済的・文化的な財やサービスの創造、生産、流通に大きな影響を与えています。知的財産制度の主な目的の1つは、経済・文化システムにおけるイノベーションと創造性を刺激することであるため、AIは多くの点で知的財産と重なりあうものです。
2019年1月、WIPOはAIイノベーションの動向を調査した調査結果を発表しました。「WIPOテクノロジートレンド」報告書は、政府や企業の政策・意思決定者、及び、世界中の関係者に、AIに関する共通の情報基盤を提供しています。
その後、WIPOは、知的財産政策とAIの共通部分をよりよく理解するために、加盟国やその他の利害関係者との一連の協議を主導しました。