WIPOダレン・タン事務局長による声明:世界顧みられない熱帯病の日(World Neglected Tropical Diseases Day)を迎えて
2021/01/30
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、国境をまたいで発生している病気に対処するために協力し合うことが急務であることを浮き彫りにし、過去数十年にわたって私たちの生活がいかに相互に関わってきたかを強調しています。河川盲目症、コレラ、デング熱などの顧みられない熱帯病(NTDs)は、毎日話題にはならないかもしれませんが、世界で10億人以上の人々が影響を受けており、新しい診断方法や治療方法、ワクチンの実現に向け、早急に目を向ける必要がある疾患です。
そのため、WIPOでは、毎年「世界顧みられない熱帯病(NTDs)の日」に際し、NTDsの影響を受けている人々の生活を改善するために活動しているグローバルコミュニティの各パートナーとの連帯を示しています。世界の貧しい地域で生活している人々のほとんどが、NTDsの影響を受けています。
2011年、WIPOと非政府組織であるBIO Ventures for Global Healthが共同で設立したWIPO Re:Searchは、NTDs、マラリア、結核を治療する医薬品やその関連技術を早期に発見するための研究開発(R&D)を促進する官民コンソーシアムです。これは、例えば専門知識、データ、分子、化合物など、知的財産に裏付けされる無形資産を生み出すターゲットを絞った共同研究を促進することを目的としているものであり、これらの無形資産の中には、他の用途のために開発されたものであるが、NTDs、マラリア、結核を対象とした研究に利用する科学者たちにはロイヤリティーフリーで利用できるものもあります。 そして、このWIPO Re:Searchは、8つの参加企業メンバー(エーザイ、GSK、ジョンソン・エンド・ジョンソン、メルク、MSD、ノバルティス、ファイザー、武田薬品)の寛大なご厚意により実現しているものです。
現在までに、WIPO Re:Searchは世界で166の共同研究を立ち上げていますが、そのうち53の共同研究が現在活発に行われており、11がR&Dプロセスの重要な局面を迎えているところです。学術機関や科学機関、NGOを含む151のメンバーは、6大陸46か国にまたがっています。
最近のWIPO Re:Searchの共同研究では、ナイジェリアのイバダン大学(University of Ibadan)の研究者が、マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology)とマサチューセッツ大学(University of Massachusetts)の発明品であるAmpli Blocksを使用して、熱帯・亜熱帯諸国の淡水の寄生虫が原因で発症する住血吸虫症というNTDのために、信頼性と柔軟性の高い診断方法を開発することに成功しました。カメルーンで現在進行中の別のWIPO Re:Searchの共同研究では、ヤウンデ第一大学(University of Yaoundé I)の科学者と日本の製薬会社であるエーザイの科学者が協力し、アフリカトリパノソーマ症、リーシュマニア症およびマラリアの新薬開発に向けた初期段階のR&Dを行っています。昨年の夏、WIPO Re:Searchは、リバプール熱帯医学学校(Liverpool School of Tropical Medicine : LSTM)の2人の科学者とジョンソン・エンド・ジョンソンを結びつけることで、蛇咬傷に関する初の共同研究(現在も進行中)を促進し、蛇毒に対する阻害活性をテストするために、2つの薬物ライブラリーの知的財産へのアクセスが提供されました。
2021年にWIPO Re:Searchは10周年を迎えます。過去10年にわたり、WIPOはNTDsと闘うことに加え、すべての人の利益のためにイノベーションと創造性を可能にするバランスの取れた効果的な国際知的財産システムの開発を主導するという幅広い任務への取り組みを示してきました。世界中の人々の生活向上のために、知的財産とグローバルな知的財産システムを確実に機能させるべくWIPOは懸命に取り組んでいくことを改めて表明する所存です。