顧みられない熱帯病(NTDs)の根絶に向けて:WIPO Re:Searchの創設メンバーであるエーザイの取り組み
2021/01/29
WIPO Re:Searchのメンバーであり、日本に本社を置く研究開発(R&D)型グローバル製薬企業であるエーザイ株式会社(以下エーザイ)による世界で最も脆弱な人々が感染リスクにある病気の根絶に向けた献身的な取り組みを紹介します。
顧みられない熱帯病(NTDs)は、ウイルス性、寄生虫性、細菌性の多様な疾患群であり、主にアフリカ、アジア、南北アメリカの開発途上地域の最低所得者層に影響を与えています。これらの病気は、17億人以上の人々を失明、外見や身体機能を損なう様々な障害の危険にさらし、健康、教育、経済的安定、社会的支援を危うくしています。
WIPO Re:Searchの支援を受けた、NTDsに関する共同研究の一つにおいて、エーザイは、動脈硬化症の治療薬候補として開発した新規化合物(新規スクアレン合成酵素阻害剤「E5700」)を米国カリフォルニア大学サンディエゴ校に提供しました。同大学の研究者であるMcKerrow博士は、この化合物がシャーガス病やリーシュマニア症に対する新規治療研究の候補になる可能性があると仮説を立てました。本共同研究では、化合物のスクリーニングやリパーパシング(他疾患への適用)に必要な専門知識と新しい医薬品研究成果へのアクセスを組み合わせることで、世界中で約2,200万人が感染し、年間約6万人が死亡している2つの疾患の代替治療法としての可能性を評価しました。
エーザイのサステナビリティ部副部長である飛弾隆之博士は「WIPO Re:Searchは、研究コミュニティと製薬会社をはじめとするバイオテクノロジー産業間の連携を仲介し、NTDsの特定分野における基礎研究段階の活動を加速するための優れた仕組みです。WIPO Re:Searchの支援を受けて、エーザイは、この支援がなければ結び付かないような世界中の大学と連携し、低中所得国の研究者の能力の向上に役立つ活動を行っています。このコンソーシアムは、エーザイおよび研究者に研究開発資源へのアクセスを提供し、新しい研究開発資金の確保や、世界の関係者の中での認知度と評価を向上させる機会を提供してきました」と述べています。
戦略的取り組み
2011年にWIPO Re:Searchに創設メンバーとして参加したエーザイは、現在、世界の15の共同研究に参加し、NTDs、マラリア、結核の研究を推進しています。飛弾氏は「我々の初期段階からのコミットメントは、世界の医薬品アクセス向上とNTDs根絶に向けて取り組む当社の積極的な姿勢を示すものです。さらに、WIPO Re:Searchは、世界の志を共にする人々と力を合わせ、これらの病気の制圧に向けて取り組む私たちのグローバル活動に役立っています。」と述べています。
エーザイは、世界銀行、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、米国国際開発庁(USAID)などとともに、2012年にNTDsに関する共同声明「ロンドン宣言」に最初に参画した製薬企業13社のうちの1社です。「ロンドン宣言に参画することで、エーザイは、医薬品の供給、流通、開発、実施計画に関連する問題に取り組む上で、官民協働の積極的な力があることを再確認しました。エーザイは、ヒューマン・ヘルスケア企業として、低中所得国の健康と福祉の向上に貢献することは将来の成長に向けた長期的投資と考えています。世界の医薬品アクセス向上に向けた当社の戦略は、新薬創出、戦略的ソリューション、能力開発、品質革新、および長期投資という5つの主要な要素から成り立っています。WIPO Re:Searchによって研究機関との交流が促進され、特に能力開発活動に関して将来につながる対策となることを期待しています。」と飛弾氏は述べています。
共同研究の例
能力開発:エーザイとカメルーン・ヤウンデ第一大学
2019年より、エーザイはカメルーンのヤウンデ第一大学と共同研究を行っており、Fabrice Boyom教授を中心とする研究チームは、寄生虫の重要な代謝経路を標的として、ヒトアフリカトリパノソーマ症、リーシュマニア症、マラリアの治療薬開発を推進しています。このWIPO Re:Searchとの連携による共同研究で、Boyom教授はMedicines for Malaria Venture (MMV)とアフリカ科学アカデミーのGrand Challenges Africaプログラムからの資金援助を受けました。それ以来、Boyom教授は世界各地の研究者や現地の研究者と協力し、研究開始以来、有望な結果を創出しています。
「Boyom教授がMMV賞とGrand Challenges Africa賞の両方を受賞したことは、私たちのパートナーシップにとって大きな成果となりました。これは、低中所得国の研究室にも利点があることを示すものです。能力開発に焦点を当てたプログラムは、グローバルな疾病の苦しみに対処するためのエーザイの戦略の重要な一部です」とエーザイ株式会社サステナビリティ部の飛弾隆之氏は述べています。
世界NTDデー2021
「エーザイは、NTDコミュニティの様々なメンバーと協力し、WHOのNTDロードマップを支援できることを嬉しく思っています。特に、WIPO Re:Searchを通じたNTDs蔓延国の科学者の能力強化など、NTDs制圧に向けた蔓延国の主体的な取り組みを支援できるような連携に期待しています。コンソーシアムおよびパートナーが、優れた研究プロジェクトだけではなく、能力開発活動を通じても価値をもたらし続けると考えています。エーザイは、このコンソーシアムがNTD蔓延国の明るい未来の構築に大きく貢献できると信じています」と飛弾氏は述べています。
WIPO Re:Searchについて
WIPO Re:Searchは、WIPOとBIO Ventures for Global Health(BVGH)の間の世界的な官民パートナーシップであり、非営利団体であるBVGHは、世界的な健康問題を解決するために、営利部門と非営利部門を結びつけています。WIPO Re:Searchは、顧みられない熱帯病(NTDs)、マラリア、結核との闘いにおける初期段階の研究開発(R&D)を支援しています。対象を絞った相互に有益なメンバー間の研究開発協力を通じて、化合物、データ、臨床サンプル、技術、専門知識を含む知的財産のロイヤリティフリーの共有を促進し、国連の持続可能な開発目標に向けた進展を促進しています。