私たちの海を守る:海洋汚染をなくすための課題と解決策
2021/06/25
私たちの地球の約70%は水で覆われており、その水の95%以上は海にあります。この特集では、WIPO GREENが世界の海洋汚染に対処する際に直面する課題を探り、世界が水をきれいにするために使用できるグリーンテクノロジーの例を紹介します。
見逃されてきた蓄積:1970年代のファーストフードチェーン店「KFC」のビニール袋が、およそ50年後の2019年に海で発見されました。国連環境計画(UNEP)の試算 によると、2050年までに海におけるプラスチック廃棄物の量が魚の量を超過する可能性があります。今日、海洋汚染の課題は一般に知られていますが、問題の範囲を把握し、そのために何ができ、何をすべきかを理解している人は多くありません。
ビニール袋だけではない
今日、海水には有害金属、プラスチック、製造された化学物質、石油、都市・産業廃棄物、農薬、肥料、医薬化学品、農業排水、下水などが含まれていますが、直接投棄されたものだけではなく、河川や大気中の雨からももたらされています。これらの物質のほとんどは、水中生物(800種以上の海洋生物 がごみによって傷つけられています)と人間の両方にとって危険であり、汚染物質の中には、乳児の脳の発達の問題を起こしたり、成人の心血管疾患、認知症、癌のリスク増加に関係しているものもあります。
注目のテクノロジー
2021年 PROvendis GmbH
ボン大学の科学者たちは、油で汚染された水面を洗浄する新たな方法を開発しました。特殊な表面特性を持つ布地は、水面から油を受動的にすくい取り、この目的のために用意されたフローティングコンテナに運びます。このテキスタイルの表面には、サルビニアという植物の表面に匹敵する超疎水性(水をはじく性質)の毛や格子があります。
注目のテクノロジー
2016年 The First Institute of Canadian Inventors
水面にある流出油を回収する全自動装置であり、事故の際には石油タンカーやヘリコプターから海に投下することができます。この装置は、軽量かつ持ち運びが可能で、人間が制御する必要は一切なく、昼夜を問わず同等の効率を発揮します。ナノフィルターを使用して油を水から分離し、その油を容器に集め、処理した水を海に放出します。
海洋汚染についての理解の仕方は必ずしも正確ではありません。例えば、メディアで取り上げられることが圧倒的に多いという理由から、大規模な流出油が汚染の主な原因の一つと考える人がいるかもしれません。しかし、実際には、海洋汚染の原因として流出油が占める割合はおよそ12%であり、残りは船舶の航行や排出・廃棄された汚水に由来するものです。
注目のテクノロジー
2018年 MAGECO OCEAN GmbH
MAGECO OCEANの技術は、電気を使わない廃水処理を組み合わせた生物学的プロセスに基づいています。三段階のろ過により、下水は環境にも人にも安全できれいな工業用水に変換されます。
注目のテクノロジー
2021年 ENVIGOR NATURAL PRODUCTS MANUFACTURING INC.
Vigorminは、自然に発生した有機鉱物の混合物で、廃水中の固有の好気性微生物の成長を大きく刺激し、有機汚染物質の除去率を高めます。また、Vigorminは、廃水に存在する水銀(Hg)やその他の浮遊物質などの重金属を吸着することもできます。
注目のテクノロジー
2018年 Green Technology Bank
この技術は、水中の原油または液体アルカンを、分散した小さなオイルビーズの形にして、急速に水面に浮上させるものです。その結果、装置の上部でスラッジが形成され、これを除去することで水の浄化が完了します。
影響が過小評価されている海洋汚染物質の例としては、他にも農業廃棄物や大気汚染があります。農業の場合、作物の成長を促すために使用される窒素などの栄養素は、水中でも同じように作用し、藻類の成長を促します。陸上ではプラスの効果がありますが、海では、大量の藻が分解時に周辺海域の酸素を消費し、海洋生物が生存できなくなる、いわゆるデッドゾーン(低酸素海域)を生み出します。UNEP によると、世界の海にあるデッドゾーンの数は2004年において146でしたが、4年以内で、その数は405に急増しました。さらに、2017年には、メキシコ湾で8,776平方マイルを超えるデッドゾーンが発見されました。これまでに計測された中で過去最大規模です。
さらに、空気中で排出される炭素は海に吸収され、水の酸性化が進みます。そして、二枚貝に始まり、同じ食物連鎖に属するあらゆる海洋生物の生存を脅かします。
注目のテクノロジー
2019年 サウスダコタ州立大学(大学技術マネージャー協会(AUTM)経由)
農業排水には栄養素が含まれていますが、場合によっては、除草剤や農薬も含まれているため、メキシコ湾などで「デッドゾーン」が発生する原因となっています。バイオ燃料生産の副産物であるバイオ炭を使用すると、液体または気体の流れから個々の化学物質や化学物質の混合物を吸着することができ、農業廃水が海に到達する前に浄化することができるという研究結果が出ています。
注目のテクノロジー
2020年 株式会社日立製作所
この脱窒プロセスでは、活性汚泥循環変法の槽内に高濃度の固定化された微生物を含む硝化ペレットを添加し、硝化反応を促進させます。
プラスチックとマイクロプラスチック
研究者は、年間1,000万トン以上のプラスチックが海に流入し、海洋ごみの80%以上がプラスチックであると主張しています。他の科学者は、海表面にあるプラスチックだけでも、2052年までに86万トンを超えると推定しています。
マイクロプラスチックは、5㎜未満の粒子であり、プラスチックの劣化や、合成繊維を洗濯する際にも発生します。洗濯機や飲料ボトルから発生するマイクロプラスチックは、人間の食物連鎖や空気中にも入り込みます。2021年1月に発表された研究では、現在、マイクロプラスチックは、人間の胎盤にも含まれるようになったとしています。最終的に、マイクロプラスチックが分解されると(最大400年かかる場合があります)、その分解プロセスで化学物質が放出され、さらに汚染が進みます。
注目のテクノロジー
2019年 Advance Water Treatment Technologies Limited、
AFMは、特定の種類のガラスから製造され、最適な粒子サイズと形状が得られるように加工された高度な工学製品です。三段階の活性化プロセスを経て、自己滅菌できるようになり、優れた機械的・静電的ろ過性能を獲得します。AFMは、重金属、有機物、マイクロプラスチックを吸着して除去します。
注目のテクノロジー
2021年 リコー株式会社
このシステムは、有害物質を排出することなく、廃水中の有機物を二酸化炭素に分解することができるため、浄化された水を河川に排出することができます。このシステムは、固形廃棄物(古紙、感熱紙あるいはプラスチックフィルム、プラスチックペレット、布、ゴム、木くずといった繊維や素材)を粉砕する粉砕機と、粉砕物と液体を混合して高濃度有機性スラリーを獲得する混合機で構成されています。
世界で最も喫緊のニーズ
UNEPによると、海洋ごみの70%が海底に沈んでおり、アクセスが非常に困難です。さらに、これらの海洋ごみを海から取り出すことは、ほんの第一歩にすぎません。どのようにリサイクルするかという問題が残っています。したがって、技術、政策、循環型経済によって、プラスチックやその他の汚染物質が世界の海に流入するのを防ぐことが、より期待できる方法となるでしょう。
さらに、海で発見されるプラスチックごみの90%は、世界の河川のうちわずか10本の河川 から発生したものと推定されています。これらの汚染源に対処し、ごみが発生するプロセスを阻止する革新的なアプローチを見つけることと同時に、これらの河川が守っている国際貿易の手段を維持することは、海をよりきれいにするための大きな一歩となるでしょう。
注目のテクノロジー
2021年 本田技研工業株式会社
ホンダは、海やビーチを汚染する廃棄物を減らすことを目的として、ビーチクリーナーに関連する特許のライセンスを取得しようとしています。
注目のテクノロジー
2019年 アリゾナ大学(大学技術マネージャー協会(AUTM)経由)
この発明は、プラスチックを水から分離するために特別も設計されたサイクロン分離機の一種である、液体サイクロンです。5㎜以下のプラスチックをろ過し、プランクトンなどの栄養素を海に戻すことができるように設計されています。
注目のテクノロジー
1994年 OIL STOP、INC. (PATENTSCOPE経由)
この技術は、炭化水素などの浮遊物質が液面上で浮遊するのを維持するための浮遊防材です。この浮遊防材は、通路を介して相互に接続された可変式の浮力室が個々に連続して配置されており、浮力室に膨張媒体が順次供給されるようになっています。
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