WTOとWHOとのハイレベル対話 ―新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン製造の拡大による公平なアクセスの促進
WIPO事務局長の開会挨拶
2021年7月21日 ジュネーブ
テドロスWHO事務局長、
ンゴジWTO事務局長、
閣下、
同僚、友人、
皆様、
今回のWTOとWHOとのハイレベル対話に参加し、この重要なイベントでンゴジ事務局長ならびにテドロス事務局長とともにお話できることを嬉しく思います。
はじめに、WIPOは、皆様や皆様のチームが行っている重要な仕事に対して支援することを改めて表明するとともに、このパンデミックに立ち向かい続けるための継続的な支援を約束いたします。
昨年、私たちは史上最速でワクチンが開発・展開されるのを目の当たりにしてきました。この驚くべき成果は、人間の創意工夫と共通の目的から得られたものであり、知的財産に支えられたヘルス・イノベーションへの数十年にわたる投資や、イノベーション、健康、貿易の世界が一体となることで構築されたものです。
しかし、このような成果を認める一方で、ワクチンの配布は依然として不平等であることも認識しています。これは容認できるものではありません。ワクチンの公平性は、道徳的にも疫学的にも必須であるだけでなく、より良い復興(build back better)のための基盤でもあります。
そのため、ワクチンの公平性を実現するために重要な戦略である、世界規模でワクチン製造を強化する必要性について、本日の対話で取り上げられることを非常に嬉しく思います。世界が一丸となって、このパンデミックを克服し、各国の人々の命を守り、生活を回復させ、再び貿易やアイデア、人々が世界中を行き来できるようにするためには、すべての大陸でワクチン製造を行うことが必要です。
また、少し気が早いかもしれませんが、このようにワクチン製造を世界規模で拡大することは、歴史的に見ても再び起こるであろう将来のパンデミックに対処するためにも重要です。
しかしながら、私たちが直面している問題は多岐にわたり複雑です。そのため、産業界、国際機関、金融機関のハイレベルな代表者や、ワクチンと予防接種のための世界同盟(GAVI)、感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)、医薬品特許プール(MPP)の代表者など、さまざまな関係者が本日の対話に参加されているのは喜ばしいことです。今後の課題を明らかにし、解決するためには、皆様と協力していく必要がありますので、これは重要なことです。
昨年、ワクチン開発企業間で200件以上の技術移転契約が締結されましたが、ワクチン製造や重要な治療法・技術の流通を促進するためには、さらに多くのことが必要だと考えています。
このようなことから、WIPOは姉妹機関によるワクチン製造の拡大を支援する取り組みを強く支持しています。また、先月、テドロス事務局長とンゴジ事務局長と私の三者がこのような取り組みの支援に向けて一堂に会せたことを大変嬉しく思います。
それ以来、私たちのチームは懸命に取り組んでおり、現在のパンデミックに関連した開発や対応に関する情報の流れを強化するために、キャパシティビルディングのワークショップを開催することを決定しました。初回は9月27日に予定されており、技術移転とライセンス供与に焦点を当てます。
また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンや関連技術に対する依然として対処されていないニーズの評価、優先順位付け、対応について各国を支援するために、三機関共同で技術支援の策を講じることも決定しました。この取り組みは、公衆衛生、知的財産、貿易の分野における広範な協力関係とともに進められています。
この三機関による取り組みは、私たちの専門知識とリソースを結集し、直面する課題に全体的な解決策を提供する上で非常に重要です。
同時に、WIPOは先週、加盟国向けに新型コロナウイルス感染症関連の支援パッケージを発表しました。このパッケージは、政策と立法の支援(Policy and Legislative Assistance)、イノベーション支援と技術移転(Innovation Support and Technology Transfer)など、WIPOが専門性を発揮できる5つの分野で構成されています。
この取り組みについて少し知っていただくために、WIPOの技術・イノベーションサポートセンター(Technology and Innovation Support Centers, TISCs)のグローバルネットワークがパンデミック対策にどのように貢献しているかをご紹介したいと思います。新型コロナウイルス感染症関連の特許に関する中南米諸国の政府への助言、アフリカでの新たな治療法の開発支援、アジアでの研究提携の促進など、TISCsは知識を蓄積し、技術移転の能力と体制を支援することで、イノベーションを推進しています。
興味深いことに、世界にあるTISCsの10分の4以上が、健康と生命科学分野の技術を専門としています。そのため、世界中の国々に実践的なサポートを提供することが可能です。アフリカのある国では、TISCsが中心となって10の大学と研究機関を集め、新型コロナのパンデミック対策に貢献できる発明の評価を行いました。その結果、最も有望なアイデアの一つである「自動手洗い装置」の特許が迅速に申請されました。その後、この発明は地域全体の公衆衛生を守る役割を果たしたとして、賞を受賞しました。
新型コロナのパンデミックを克服するためには、パンデミックに関連した情報や知見が不可欠であり、この点に関するWTOの取り組みを歓迎いたします。
WIPOは現在、この分析結果を統合し、イノベーションが集中している分野を特定し、新型コロナウイルス感染症のワクチンの多くの背後にある複雑な特許環境を図示するためのパテント・ランドスケープ・レポートの作成を進めています。
親愛なる同僚、皆様
ここ数日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)との闘いが進展しているにもかかわらず、世界各地では感染者数が再び増加しています。
そのため、この重要な局面において、私たちはワクチンの公平性を実現し、パンデミックを克服し、復旧・復興に向けて各国を支援するために実践的かつ具体的な方策を特定するために一層の努力が必要です。
改めまして、WTOとWHOが、この重要なテーマについて様々な関係者が一堂に会して議論するために、適切なタイミングで本日のハイレベル対話を開催いただいたことに敬意を表するとともに、WIPOには、このような共通の目標の実現に向けて協力を惜しまないパートナーがいることを再確認いたします。
御清聴ありがとうございました。