2022/07/21
WIPOの加盟国は今日、国境を越えた貿易を容易にするための意匠の保護に関する協定と、知的財産(IP)や遺伝資源および遺伝資源に関連する伝統的知識に関する協定の2つの国際協定案の外交会議の開催を承認しました。
WIPO総会はこの2つのテーマに関する数年にわたる交渉を経て、それぞれの協定案について、遅くとも2024年までに外交会議(協定を締結するための専用の交渉の場)に移行することを決定しました。
WIPOのダレン・タン事務局長は、決定後の代表団に対する発言で、交渉担当者は新しい条約の重要な問題に関してまだ大きなギャップを埋める必要があるとしながらも、代表団の決定を「ブレイクスルー」であるとし、交渉担当者が次の重要な段階に進めるよう事務局が支援することを約束すると述べました。
タン氏は「今日は、世界中の人々のために変化をもたらすべく共に動く私たち総会というコミュニティがおさめた、多国間主義の勝利です。」とし、「もちろん、意見の相違はあるし、意見が乖離することもあるでしょう。しかし、これは重要な一歩であり、私と事務局の同僚を代表して、この旅において皆様を全面的に支援することを誓います。」と述べました。
「私がお願いしたいのは、これに十分な注意を払い、気を配ることです。最終的には、これらの条約は単なる紙切れではなく、世界中の人々に影響を与える可能性があるからです。」とも述べました。
参加者の拍手の中で合意された議題が告げられた後、WIPO総会の議長であるジュネーブの国連事務所およびその他の国際機関のモルドバ共和国代表団のTatiana Molcean大使は、次のように述べました。「今日、いくつかの難しい決定がなされ、加盟国は互いの立場に対して大きな理解と敬意を示しました。総会の議長として、加盟国が一丸となって最終的な解決に向けて交渉を進めている姿を見ることができ、誇りに思います。」
2022年7月14日から22日にかけて開催された第63回WIPO加盟国総会には、193ヶ国のWIPO加盟国から約900名の代表者が参加し、2020年のCOVID-19パンデミック発生以降、WIPO総会への登録者数としては最大となりました。
条約の締結や改正を行うにあたっては、そのために特別に招集された全権大使による外交会議を開催することが伝統的な方法です。外交会議は、多国間条約を交渉し、採択または改定するために開催されます。
提案されている意匠法条約(DLT)は、 デザイナーが自国市場でも海外でも、より簡単、迅速かつ安価にデザインの保護を受けられるようにすることを目的としています。
この条約は、多くのブランドにとって不可欠な存在である意匠を保護するためのグローバルなシステムを、形式的な手続きを排除し、保護手続きを迅速化することによって合理化するものです。もし承認されれば、これらの変更はデザイナーのコミュニティに利益をもたらし、特に意匠登録のための法的支援へのアクセスが少ない小規模デザイナーに影響を与えることになります。そして特に、中低所得国の中小企業にとって、意匠法条約(DLT)は海外での意匠保護取得を著しく容易にするものになることが予想されます。
デザイン産業は、データの存在するヨーロッパでは雇用の約18%、GDPの13%を占めています。 国内の意匠出願数で表されるデザイン活動を考えると、これは多くの発展途上の経済圏において重要な可能性を示唆しています。 活気あるデザイン部門の恩恵は、GDPよりもはるかに広い範囲に及びます。 意匠は、教育や持続可能性への取り組みを支援し、コミュニティの構築を支援することができるのです。
工業デザインの保護手続きの簡素化に関する取り組みについては、すでに2006 年にWIPO商標・工業デザイン及び地理的表示の法律に関する常設委員会(SCT)で開始され、条約に向けた条文案と規則案へと徐々に成熟しています。 特許(2000年の特許法条約)、商標(1994年の商標法条約、2006年の商標法に関するシンガポール条約)の分野では、類似の条約が既に存在しています。
2010 年以来、知的財産、遺伝資源及び関連する伝統的知識(TK)に関する国際的な法制度、並びにそのような伝統的知識(TK )及び伝統的文化表現/伝承の表現の保護に関するテキストベースの交渉が、遺伝資源等政府間委員会(IGC)で進行しています。
植物、動物、微生物などの遺伝資源は生命科学における貴重なインプットであり、それらに関連する伝統的知識(TK)は科学的に価値があり、世界中の先住民のコミュニティや地域コミュニティの経済的・文化的福祉に不可欠です。
WIPO 内で作成される新しい国際的な法的文書は、これらの資源や知識体系へのアクセス、利用、利益配分に関連する特定の知的財産の問題を扱うものです。例えば、多くの国が支持している主要な考え方の一つに、遺伝資源と関連する伝統的知識(TK)を利用する発明の特許出願人は、その事実とその他の関連情報を特許出願時に開示すべきであるとするものがあります。
これは、新しい「特許開示要件」案と呼ばれています。その他のアイデアとしては、特許審査官が誤った特許を付与することを避けるために役立つ遺伝資源や伝統的知識(TK)に関する情報のデータベースをより広く利用することがなどが挙げられています。
新たな国際的な法的文書の提案者たちは、これが多様な国の制度を調和させ、先住民のコミュニティや地域コミュニティの持続可能な発展を培い、事業に法的確実性と予測可能性を提供し、特許制度の質、有効性、透明性を向上させると主張しています。
世界知的所有権機関(WIPO)は、は知的財産政策、サービス、情報、協力のための世界的なフォーラムです。国連の専門機関であるWIPOは、193の加盟国が社会の進化するニーズに対応するために、バランスのとれた国際的な知的財産の法的枠組みを開発することを支援しています。そして、複数の国で知的財産権を取得し、紛争を解決するためのビジネスサービスを提供しています。また、発展途上国が知的財産権から利益を得られるよう、能力開発プログラムを提供するとともに、無料でIP情報へのアクセスを提供しています。
詳細については、WIPOのニュースおよびメディア部門にお問い合わせください。