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日本の大手化粧品メーカー資生堂が大学の若手イノベーターを支援

2022/09/14

地元で調達された原料を使って新しい保湿ハンドセラムを生産するという意欲的なプロジェクトに、東京の東洋大学の学生グループが乗り出しました。WIPO GREENデータベースに掲載されている資生堂の環境技術 (グリーンテクノロジー) を活用し、東洋大学のイノベーションに生かすためにライセンス契約を許諾したことが、成功の一因となりました。

「仕事は多勢」

新型コロナウイルス感染拡大を抑えるため、日本では、他の国と同様、手洗いの徹底や消毒薬の使用が以前にも増して行われるようになりました。「このため手荒れに悩む人が多くなっています」と、東洋大学大学院生命科学研究科前期課程1年生の中村聡太氏 (23) は語ります。

中村氏は、国連2030持続可能な開発目標 (SDGs) の一環として、大学生・大学院生10名で取り組んでいる「TOYO SDGs Students Project」の代表を務めています。このチームは、アルコール消毒などの感染予防策による手指の乾燥の悩みに着目しました。

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TOYO SDGs Students Projectの教授と学生がBOISENの試作品を披露。写真: 東洋大学

「2020年、2021年に、外出を控え、自宅のパソコンの前で過ごす時間が長くなると、徐々に美容に関する意識が高くなり、「巣ごもりエステ」という言葉も流行しました」と、中村氏は説明します。

TOYO SDGs Students Projectは、リモートワークの普及とともに、主に自宅で、ビデオ会議によって、新たなコンセプトのハンドセラムの開発に向けて議論を行いました。

BOISENは、サステナブルで環境にやさしいプレミアムハンドセラムです。この製品には地元で調達された原料が使われており、東洋大学板倉キャンパス近くの群馬県館林市の名産品であるボイセンベリーから抽出したエキスが配合されています。「BOISEN」という製品名は、この重要な地域産の原料の名前にちなんでつけられました。

「単なるハンドクリームではなく、高品質の製品を作りたいと思っていました。他のハンドクリームよりも栄養成分に富んでいて贅沢な製品であると胸を張って言えます」と、国際学部3年生の古川桃子氏 (20) は説明します。

WIPO GREENでは、同チームの学生の中から大学院生と学部生の2人に話を聞きました。TOYO SDGs Students Projectは、環境に配慮した持続可能なものづくり検討したいと考えていました。

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(BOISENの製品と包装。写真: 東洋大学)

化粧品やスキンケア商品を製造販売するグローバル企業である資生堂とのコラボレーションにより、TOYO SDGs Students Projectは、資生堂の「乳化化粧品の低エネルギー製造技術」を活用して、環境負担を最小限に抑えながら目標を達成することができました。

マッチング事例

ニーズ

  • 地元で調達された原料を用いたプレミアム製品を製造するための環境に配慮したサステナブルな先進的乳化化粧品製造技術
  • 国連SDGsに関心がありプロジェクトやイニシアティブの一環として気候に優しい技術を活用する大学とのコラボレーション

マッチング

  • 技術希望者: TOYO SDGs Students Projectは、10名の大学生・大学院生 (平均年齢22歳) からなる東洋大学のグループであり、様々な活動を通じて国連SDGsの推進・支援に取り組んでいる。気候変動に配慮するハンドセラムの開発を目指していた。
  • 技術提供者: 株式会社資生堂は、東京に本社を置く、スキンケア商品などの化粧品・医薬部外品を製造販売するグローバル企業。資生堂は、環境技術に関する特許を保有しており、そのうちのいくつかはWIPO GREENデータベースに掲載されている。

成果

  • 資生堂が東洋大学とライセンス契約を締結し、学生たちが環境に優しい新しいハンドクリーム、BOISENを製造できるよう、「乳化化粧品の低エネルギー製造技術」をTOYO SDGs Students Projectに許諾
  • 資生堂と東洋大学との間で関係を構築
  • BOISENは、これまでに100本以上生産されており、将来的には生産量を増やし、小売販売も予定

助けの手を差し伸べる

「従来の乳化方法では、原料全体を加熱するため、多くのエネルギーを必要とし、熱が外気に奪われていました。それに加え、冷却のためのエネルギーも大量に必要です」と、資生堂技術知財部の山本也寸子氏は説明します。乳化とは、水と油のように通常は混ざり合わない2種類以上の液体が混ざり合う状態のことを指します。

「当社の環境技術では、原料の一部のみを加熱し、主成分である水相に流し込んで室温で冷却するため、加熱・冷却に要するエネルギーを削減できます」と、山本氏は述べています。これによって、製造工程におけるCO2排出量だけでなく、コストも削減することができます。

環境省のエコ・ファースト企業に認定されており、2020年よりWIPO GREENパートナーとなっている資生堂は、技術ライセンスを通じてSDGsに貢献することを目指しており、日本の複数の大学に対して働きかけてWIPO GREENデータベースに掲載されている環境技術の活用を提案しました。

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(東洋大学の学生リーダーたち。TOYO SDGs Students Project代表の中村聡太氏 (左の写真の中央) が、東洋大学の北脇秀敏教授 (右) と、資生堂みらい開発研究所技術知財部の木村友彦部長 (左) にBOISENを贈呈。右の写真は、同チームの古川桃子氏 (3年生)。写真: 東洋大学)

TOYO SDGs Students Projectのアイデアに感銘を受けた資生堂は、2021年9月に東洋大学とライセンス契約を締結し、「乳化化粧品の低エネルギー製造技術」を許諾しました。2022年3月には、BOISENの最初のボトルが、両パートナーの手に渡っています。「BOISENは、コロナ禍の産物でもありますが、資生堂のような大手企業のサステナブルな技術を利用できるライセンス契約を結ぶことが可能でなければ、完成しなかったでしょう」と、TOYO SDGs Students Projectの指導教官である北脇秀敏教授は述べています。

同大学では、今後も研究・教育活動の一環として、この技術を用いた化粧品の開発を継続する予定です。双方とも、今後もパートナーシップを継続する意向を表明しています。

「試作品を配布したところ、BOISENのベタつき感がないことや香りを気に入っているという声が多く聞かれました」と、中村氏は述べています。TOYO SDGs Students Projectによる2022年の今後の主な活動は、手荒れ対策を求める一般の人々に対するBOISENの販売に向けた市場調査です。

また、このプロジェクトは、学生たちがイノベーションの探究を通じて知的財産権 (IPR) 制度の基礎を学ぶことにも役立っています。「私たちは、本当の意味で社会に貢献していると実感しています。すべて知財のおかげです」と、古川氏は述べています。

さらに、「この経験を最大限に活用して、今後はプロとしてイノベーションを通じて人々の生活水準を向上させたいと考えています。このプロジェクトとコラボレーションによって、行動を起こすこと、困難に立ち向かうこと、そしてチームで働くことの楽しさに目を向けることができました」とも述べています。

WIPO GREENの青少年・若者向けのエンゲージメント・イニシアチブ「Young & Green」(2020年8月始動) は、サステナブルなイノベーションへの若者の参画を支援しています。WIPO GREENのガイドブック「Addressing climate challenges with innovation: WIPO GREEN guide for youth roundtables (イノベーションによる気候の課題への取組: 若者の意見交換のためのWIPO GREENガイド)」は、気候変動に対する取組においてイノベーションと知的財産 (IP) をどのように活用できるかを若者がよりよく理解できるようにするためのものです。

WIPO GREENについて

WIPO GREENは、持続可能な技術のためのグローバルなマーケットプレイスであり、気候変動に対処するための世界的な取組を支援しています。WIPO GREENは、オンラインデータベースや地域活動を通じて、環境に優しい技術の希望者と提供者とを結びつけ、グリーン・イノベーションを促進し、環境技術の移転と普及を加速しています。

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