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世界で活躍する女性からのメッセージ 3~Lily MedTech代表取締役 東志保~

2023/10/02

「より多くの女性に乳がん検診を受けてもらいたい」という思いで、女性がより気軽に検診を受けることができるように、女性の身体や心に配慮した乳房用超音波画像診断装置「COCOLY」を開発されたLily MedTech代表取締役の東志保氏にインタビューを行いました。女性経営者としてご活躍されているご自身の経験をお話しいただき、若い世代や日本の女性に向けたメッセージをいただきました。

(出所:Lily MedTech提供)

株式会社Lily MedTech 代表取締役CEO 東志保氏(左)同社代表取締役CTO 東隆氏(右)(東京大学アントレプレナーラボにて)

乳房用超音波画像診断装置「COCOLY」の特長や市場の反応を教えてください。

「COCOLY」は、乳がん検診受診率の低さやマンモグラフィーの癌発見率の低さという社会課題に着目して開発されました。乳房は脂肪と乳腺で構成されており、従来のマンモグラフィーによるX線撮像では、乳腺も癌も白く映るため、乳腺の豊富な65歳未満の女性の乳房では癌が乳腺に埋もれて発見されにくい問題があるところ、超音波技術は乳腺を白く、癌を黒く映すので、乳腺量によらず精度良く撮像できる特性を利用しています。ベッド型の画像診断装置で、受診者は伏臥位になって乳房を片側ずつ開口部にいれるだけで簡単に撮像できるのが特長です。放射線技術と異なり超音波は安全で、「COCOLY」は乳房を圧迫せず自然下垂させた状態での撮像のため、マンモグラフィーの課題である痛みや被曝のリスクがなく、女性に優しい設計となっています。

2021年に医療機器の認証を取得して製品として1年間テスト販売を行い、現在ではAI技術を駆使した撮像の実現に向けて、臨床試験で収集した画像データに診断結果を紐づける技術をコアとして、「COCOLY」を用いたAIによる画像診断技術の開発を行っています。

起業するに際し、投資家との関係を構築する上で心がけたことやご苦労なさったことをお聞かせください。

資金調達には起業時も現在も苦戦しています。診断機器を開発するにはすごくお金がかかる一方で、モノづくりをする女性起業家は世界を見てもかなり少ないため、起業時の資金調達はとても大変でした。さらに、男性の投資家が多い中で、「女性医療」のテーマは直接的な馴染みがなく、まずは乳がんをめぐる課題への共感を得られるようにピッチを行いました

資金調達が成功した理由としては、日本政府が女性の活躍を支援しており、女性起業家を育てようという機運が経済界にあったことが一番大きいと考えています。また、ちょうど起業の時期に、乳腺量の多い高濃度乳房(デンスブレスト)でのマンモグラフィによる乳がんの低精度の課題が顕在化したことで、一般の方にも乳がんをめぐる課題が知られるようになったことも大きかったです。それに加えて、様々なアワードに挑戦することでメディアへの露出を徐々に増やしていきました。投資家に対しては、医療機器メーカー出身者が多い弊社は、医師との連携を持ちながら起業、更に商品の研究開発をしていることが信頼を獲得することに繋がったのではないかと考えています。

スタートアップ企業が成功するためのノウハウがありましたら、お知らせください。

一般に、スタートアップというと華やかなイメージを持たれる傾向にあると思いますが、事業を進める上では中小企業等の他の企業と変わらないと考えています。データを根拠として論理的に事業計画を立てること、合理的に物事を進めることが非常に重要と感じています。また、外部の協力者と良好な関係を築くことで、収集したデータの信頼性を保つようにしており、事業を進める上で外部の協力者にどのような点を頼るかを見極めることが、ビジネスとして成立するためのポイントだと考えています。

経営者になる上でのご自身の強みとは何だと思いますか。

経営に限らず、物事を進める際には、自分が理解できないままに判断すると絶対に失敗すると考えており、自分が理解できないことはしないようにしています。一方、事業立ち上げ時の難しい課題を乗り越えたら、自分が分からないこともどんどん挑戦するようにしています。そのときの状況に応じて、取るリスクの種類を変えることを意識しており、どのようなリスクを取るかに関する判断の正しさについては、自分自身を信頼しています。

現在、役員2名のみの会社となっておりますが、以前は50名ほどの社員がおりました。社員に対しては、マネジメントする上でマイクロマネジメントにならないように気を付けており、リベラルかつオープンに、基本的な戦略や理念は社員に共有して、社員の出した成果については重要な点のみを確認するようにしています。男性社会において当たり前のことは、女性である自分にとっては当たり前でないこともあり、互いにそれぞれの良いところが尊重されるような環境作りが大切です。さらに、部署ごとの横のつながりによって、化学反応が自然に起きるような雰囲気づくりにも努めていました。社員個人それぞれの強みを活かしてもらうことで、自然と生まれる良い意見からアイデアが育てられるのではないでしょうか。

(出所:Lily MedTech提供)

株式会社Lily MedTech代表取締役CTO 東隆氏(左)同社代表取締役CEO 東志保氏(中)WIPO日本事務所 所長 澤井智毅(右)(東京大学アントレプレナーラボ前にて)

日本の若い女性に伝えたいメッセージと日本やアジアの女性の強みをお聞かせください。

日本社会は、女性活躍を支援する機運が上がってきました。そのような機運の中で、自身の長所や短所を理解し、自分にしかない価値を探して失わない様に気を付けて、社会で人の役に立つことが証明されるまで諦めない姿勢が、本当の意味での女性活躍を推進することになり、良い人生を送ることにつながるのではないかと考えます。日本人女性の強みは、「日本人女性とは、何者なのか」がまだ分かっていない点だと思います。先進国の中でも、社会で活躍している女性の経営層はまだ少なく、表舞台に出たことがない日本人女性の本来持っているポテンシャルは、今後いかようにでも証明できるのではないでしょうか。また、アジア人女性の良いところとして、社会との距離を自然体で上手く取れることかと思います。女性のソフトなアプローチや、優しい性格は、周囲の応援を得ることにも繋がると思います。