WIPO

WIPO Arbitration and Mediation Center

 

世界知的所有権機関仲裁・調停センター

紛争処理パネル裁定

トリンプ・インターナショナル・ジャパン株式会社 対 泉 大介

事件番号: D2001-0203

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1. 当事者

申立人

トリンプ・インターナショナル・ジャパン株式会社

〒143-6555 日本国東京都大田区平和島6-1-1

東京流通センタービル10F

被申立人

泉 大介

〒655-0893 日本国兵庫県神戸市鶴見区日向1-5-1

 

2 ドメイン名および登録機関

紛争の対象であるドメイン名:<トリンプ.com> (bq--gdeov46x.com)

本件ドメイン名が登録されている機関:

グローバルメディアオンライン株式会社(旧インターキュウ株式会社)

〒150-8512 日本国東京都渋谷区桜ヶ丘26-1 セルリアンタワー11階

 

3. 手続経過

本件申立書(英語版)は、2001年2月8日に電子メールおよび文書で、世界知的所有権機関仲裁・調停センター(本センター)に提出された。本件申立書は、ドメイン名とIPアドレスの割当に関するインターネット法人

(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers ICANN)

が1999年8月26日に採択した統一ドメイン名紛争処理方針(以下「処理方針」という。)、ICANNが1999年10月24日に承認した統一ドメイン名紛争処理規則(以下「規則」という。)、およびWIPO統一ドメイン名紛争処理方針補則(以下「補則」という。)に従って裁定を求めるものである。

本センターは、2001年2月12日、本件申立書の受領書を申立人に送付した。

2001年2月27日、本センターは、グローバルメディアオンライン株式会社に対して登録機関に確認を要求し、2001年2月28日その確認を得た。

2001年3月26日、規則第11条(a)に従って、本センターは、申立人に対し、日本語による申立書の提出を要求し、2001年5月21日、申立人は日本語による申立書を提出した。

本センターは、2001年5月29日、申立書・紛争処理手続の開始を通知した。

本センターは、2001年6月15日に被申立人から(答弁書を代りと称する)電子メールを受領し、同年6月18日にそれを受領した旨を通知した。

本センターは、2001年6月25日、本件について紛争処理パネルの指名および裁定予定期日を通知した。

 

4. 事実の概要

本件申立書(日本語版)を、その英語版とあわせて読むと、次の事実が述べられている:

申立人トリンプ・インターナショナル・ジャパン株式会社は、「トリンプ」の名称について商標を保有してる。その英語訳は、"Triumph"である。被申立人のドメイン名は、この「トリンプ」の名称と同一である。

Triumphは、女性の下着について世界のリーダーであり、日本では2番目に大きい規模を持っている。"Triumph"はロゴで表示し、広告宣伝にもこれを広く使用している。日本語ではこれを「トリンプ」と書き、その文字通りに発音している。日本において、「トリンプ」は、よく知られた名前であって、街中やデパートで良く見られるブランドである。これは、申立人の親会社であるトリウムフ・インターナチオナール・アクチェンゲゼルシャフト(住所:ドイツ連邦共和国ミュンヘン2マルスストラーセ40)が所有する「被服、布製身回品、寝具類」を指定商品とする登録商標(登録番号第1666343号、登録日昭和59年(1984年)3月22日、更新登録日平成7年(1995年)1月30日)である。(添付の登録資料: TRADE MARK REGISTRATION CERTIFICATE (TRIUMPH IN JAPANESE)参照。)

 

5.当事者の主張

A 申立人

申立人は、本件申立書(日本語)のV「事実及び法的な背景」において、「日本語のドメイン名はまだ使用されていないため、本ドメイン名がどのように使用されるかはわからないが、このように広く知られている名前をあえて登録するという行為は、すなわちそれによって高額な値段を請求するため、と理解せざるを得ない。『トリンプ』は女性アパレル業界では有名であり、本ドメイン名を他の業務で使用することで顧客の混乱や誤解を招く恐れがある。」と主張する。

申立人は、また、申立書英語版のV. "Factual and Legal Grounds" において、つぎのように主張する:

「申立人は、"Triumph"と『トリンプ』(Torinpu)の両方について商標を保有しており、被申立人は、いかなる種類の商品または役務の提供についてもこのドメイン名を使用する権利を有しない。日本語のドメイン名はまだ試験的段階にあるが、このドメイン名がどのように使用されるかは想像することがきる。申立人が被申立人と通信をした過程において、被申立人は、なんらかの個人営業のためにこのドメイン名を使用する意向であると述べた。しかし、『トリンプ』は、日本においては広く認識された(well known) 名称であって、このサイトにアクセスする者はだれでも、正規のTriumphウェブサイトを見ようとしていると考えられる。まえに述べたように、このサイトがどのような目的のために使用されるかはわからないが、いずれにしろ、これが申立人の営業と文化面での地位に対して不利な効果をもたらすことははっきりしている。申立人は被申立人にこのことを伝えようとしたが、被申立人はこの件について実質的な金銭的利得を期待しているようである。『トリンプ』は日本において広く認識されたブランド名であるから、申立人には、この登録が、悪意で、かつ、故意に申立人の営業を妨害する目的で、また、金銭的利得をはかる明白な意図をもって、なされたと判断する正当な理由がある。 」

B 被申立人

被申立人は、2001年6月15日付の事件管理者宛の電子メールにおいて、被申立人がドメイン名 <トリンプ.com>(bq--gdeov46x.com) ドメインの登録者であることを認めた後、このドメイン名を登録した背景について、大要つぎのように述べている:

(1) 被申立人は、最近本業(サラリーマン)以外に飲食店をオープンしているが、パソコンはまったくの趣味であって、これを営利目的に使用する気はない。

(2) 去年、今日から日本語ドメインの募集があると聞いた。以前から自分のホームページに挑戦したかった時でしたので、家に帰って、和英辞典で勝利という文字を見つけ、友人にスペルをいって読みを教えてもらい、気に入ったので、日本語.comを登録した。

(3) その後、突然、トリンプジャパンという会社からそのドメインは当社のものなので、勝手に使えないので、US$1000で譲りなさいというメールがきた。こんな勝手な言い分は納得がいかない。書類を見たら、被申立人が高額な値段を請求するために登録したと書いてあったが、1円も請求したことはない。

 

6. 審理および認定

処理方針第4条(a)は、申立人が次の要件について立証することを求めている:

(1) 被申立人が登録したドメイン名は、申立人が権利を有する商標またはサービス・マークと同一(identical)であること、または混同を生じさせるほど類似している(confusingly similar ) こと;

(2) 被申立人は当該ドメイン名についていかなる権利(rights)または適法な利益 (legitimate interests)も有しないこと;そして

(3) 当該ドメイン名は悪意によって (in bad faith) 登録され、かつ使用されて   いること。

当パネルは、本件ドメイン名<トリンプ.com> (bq-- gdeov46x.com) が、申立人が主張するように、上記の要件を満たしているか否かについて審理する。

(1)  処理方針第4条(a)(i) について

「トリンプ」の語は、申立人の商号「トリンプ・インターナショナル・ジャパン株式会社」の要部であり、かつ、申立人によってその営業活動および商品の出所を表示する商標として使用され、需要者の間でも広く認識されるに至っている。「トリンプ」は、日本語の辞書にも外来語のグロサリにも記載されていない。従って「トリンプ」は、申立人が英語のトレード・ネームおよびトレード・マークとして使用している"Triunph"に対応するカタカナ名として採用した造語であると認定することができる。「トリンプ」は、申立人の親会社トリウムフ・インターナチオナルAGが権利者である登録商標(第1666343号)であり、申立人は、その子会社として、親会社から許諾を受けて、この語を自社の商号の要部とし、かつ、これを女性用下着の販売において商標として使用している。本件ドメイン名は、外観、称呼及び観念のいずれにおいても、申立人の親会社が所有し、申立人が使用する権利を有する登録商標と同一 (identical)である。

(2) 処理方針第4条(a)(ii) について

被申立人は、本件ドメイン名を登録するまで、「トリンプ」の語を、いかなる目的のためにも、使用し、またはそのための準備をしたことはなかった。被申立人は、本件ドメイン名の登録にあたって、はじめて「トリンプ」の語を採用した。このことは、被申立人が本件事件管理者に宛た2001年6月15日付電子メールの内容からも明らかである。従って、被申立人は、本件ドメイン名についていかなる権利 (rights)も適法な利益 (legitimate interests)も有しないと認定することができる。

(3) 処理方針第4条(a)(iii) について

「トリンプ」は、申立人の親会社が商標として登録し、申立人にその使用を許諾した造語であり、申立人が使用を開始するまでは日本において知られていなかった。被申立人が本件ドメイン名として「トリンプ」の語を登録し使用したのは、申立人が自分の商品の出所を表示するため使用して著名となっている商標「トリンプ」を認識していたからに他ならない。このような事情を考慮すれば、被申立人は本件ドメイン名を悪意 (in bad faith) によって登録しかつ使用したと認定せざるを得ない。

 

7. 裁定

上記の認定に基づき、当パネルは、処理方針第4条(i)により、本件ドメイン名<トリンプ.com> (bq--gdeov46x.com) の登録を申立人トリンプ・インターナショナル・ジャパン株式会社に移転することを命じる。

 


 

土井輝生
パネリスト

2001年7月25日