紛争処理パネル裁定
株式会社アパマンショップネットワーク 対 圓井研創株式会社
事件番号D2006-0288
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1. 紛争当事者
申立人:
株式会社アパマンショップネットワーク 〒104-0031 東京都中央区京橋1-1-5 セントラルビル12F 申立人代理人:佐藤明夫、佐藤貴太、糸井千晴、高 木彰臣、田中達也、若松俊樹(以上、佐藤総合法律事務所・弁護士)
被申立人:
圓井研創株式会社
〒812-0012 福岡県福岡市博多区博多駅中央街8番36号博多ビル6F
被申立人代理人:佐脇浩(銀座プライム法律事務所・弁護士)、杉浦幸彦(さい法律特許事務所・弁護士)
2. ドメイン名および登録機関
本件ドメイン名:<apamanshop.com> 登録機関:GMOインターネット株式会社
〒150-8512 東京都渋谷区桜丘町26-1セルリアンタワー11F
3. 手続の経過
申立人による申立書は、2006年3月7日(以下、日付は別段の記載をしない限り、2006年である。)にハードコピーの形で、3月8日にe-mailで、 それ ぞれWIPO仲裁調停センター(以下、「センター」という。)に提出された。センターは、e-mailにより、3月8日に、手数料の納付を 確認の上、申立 人に対し て形式上適式な申立書をセンターが受理した旨の通知をし、3月9日に、GMOインターネット株式会社(以下、「GMO」という。)に対して本件ドメイン名についての登録状況等の確認のための通知をした。GMOは、3月9日、e-mailにより 、本件ドメイン名がGMOを登録機関として被申立人名義で登録されていること、本件ドメイン名については統一ドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」という。)が適用されること、登録合意書は日本語で作成されていること等をセンターに回答した。
3月17日、センターは被申立人に対して、申立書を添付して、本件ドメイン名について申立人が被申立人に対してした本件申立てを受理したこと、被申立人とGMOとの間の登録合意書に含まれている処理方針に従い、本件ドメイン名の登録について被申立人は、処理方針、処理方針のための手続規則(以下、「手続規則」という。)及びWIPOドメイン名紛争統一処理方針補則(以下、「補則」という。)に従って行われる本件仲裁手続に服することになること、被申立人からの答弁書の締切は4月6日であること等を通知した。これに対して、被申立人は、3月31日にe-mailで、4月5日にハードコピー の形 で答弁 書を提出 した。センターは、4月3日に被申立人に対して形式上適式な答弁書をセンターが受理した旨の通知をした。
パネリストについて、申立人は申立書において道垣内正人、北川善太郎及び土井輝生の3名を選択し、被申立人も答弁書において同じ3名を選択した。センターからの問い合わせに対し、この3名は、受諾声明並びに公平及び独立に関する宣言をセンターに提出したので、センターは、道垣内正人を首席パネリストとし、北川善太郎及び土井輝生をパネリストとして指名した。センターは、4月18日、手続規則第6条(f)により、両当事者に対して、首席パネリスト及びパネリストの指名結果とともに、パネルは例外的な状況が生じない限り、5月2日までに裁定を下す旨を通知した。
本件ドメイン名の登録合意書は日本語で作成されており、日本語以外の言語を用いる旨の当事者間の合意も登録合意書の定めはなく、パネルも別段の決定をする必要ないと判断するので、手続規則第11条(a)により、本件手続及び裁定は日本語により行われる。
パネルは上記の手続がすべて適法に行われたことを認める。
4. 背景となる事実
申立人及び被申立人は日本に本店を有する日本法人である。
被申立人は、1997年11月17日、本件ドメイン名をGMOを通じて登録し、最新のアップデイトは2005年12月5日であり、当面の存続期間は2007年11月16日までである。
2000年1月11日、申立人と被申立人との間で、被申立人のフランチャイズ加盟店である「アパマンショップ」のうち10店舗(井尻店、博多店、天神店、高宮店、南福岡店、赤坂店、香椎店、吉塚店、新宿東口店、西新店)に関わる営業圏及び商標権を申立人に譲渡することを内容とする営業譲渡基本契約書(申立書付録12) (以下、「本件基本契約書」という。)契 約が締結さ れた(履 行日は2000年2月1日)。また、本件基本契約書に基づき、その詳細を定めるため、両者の間で、2000年2月14日、「株式会社アパマンショップネットワークと圓井研創株式会社とのフランチャイズに関わる営業権譲渡の覚書」(申立書付録13) (以下、「本件覚書」という。)が締結され、譲渡する権利 、対価 等が定められた(以下、基本契約書及び覚書による営業譲渡の契約を「本件営業譲渡契約」という。)。
日本法上、次の商標が登録されている(以下、これらは「商標①」等として引用する。)。
(1) 商標:apamanshop
登録番号:第4690405号
指定商品:新聞、雑誌、その他の印刷物(第16類)
指定役務:建物の管理、建物の貸借の代理又は媒介、土地の
管理、土地の貸借の代理又は媒介、建物又は土地の情報の提供等(第36類)
登録年月日:2003年7月11日
商標権者:株式会社アパマンショップネットワーク
(2) 商標:APAMANSHOP
登録番号:第4690419号
指定商品・役務:①と同じ
登録年月日:2003年7月11日
商標権者:株式会社アパマンショップネットワーク
(3) 商標:アパマンショップ
登録番号:第4169389号
指定商品:雑誌、その他の印刷物(第16類)
登録年月日:被申立人が1998年7月24日登録、2000年4月28日に申
立人に移転
商標権者:株式会社アパマンショップネットワーク
(4) 商標:アパマンショップ
登録番号:第4274859号
指定役務:建物の管理、建物の貸借の代理又は媒介、土地
(5) 管理、土地の貸借の代理又は媒介、建物又は土地の情報の提供等(第36類)
登録年月日:被申立人が1999年5月21日登録、2000年4月28日
に申立人に移転
商標権者:株式会社アパマンショップネットワーク
(6) 商標:アパマンショップ
登録番号:第4323801号
指定役務:アパート経営・ビル経営・駐車場経営その他の経営の診断及び指導等(第35類)
登録年月日:被申立人が1999年10月8日登録、2000年4月28日に申立人に移転
商標権者:株式会社アパマンショップネットワーク
(7) 商標:アパマンショップ
登録番号:第4601910号
指定役務:宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ等(第42類)
登録年月日:被申立人が1999年10月8日登録、2000年4月28日に申立人に移転
登録年月日:2002年9月6日
商標権者:株式会社アパマンショップネットワーク
(8) 商標:アパマンショップス
登録番号:第4321538号
指定役務:建物の管理、建物の貸借の代理又は媒介、土地の管理、土地の貸借の代理又は媒介、建物又は土地の情報の提供等(第36類)
登録年月日:被申立人が1999年10月1日登録、2002年8月21日に申立人に移転 商標権者:株式会社アパマンショップネットワーク
(9) 商標:アパマンショップネットワーク
登録番号:第4403047号
指定商品:雑誌、その他の印刷物(第16類)
指定役務:アパート経営・ビル経営・駐車場経営その他の経営の診断及び指導等(第35類)、損害保険契約の締結の代理、保険に関する助言、建物の管理、建物の貸借の代理又は媒介、土地の管理、土地の貸借の代理又は媒介、建物又は土地の情報の提供等(第36類)、宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ等(第42類)
登録年月日:被申立人が2000年7月21日登録、2001年12月13日に申立
人に移転
商標権者:株式会社アパマンショップネットワーク
(10) 商標:アパマンショップネットワーク
登録番号:第4639599号
指定役務:広告、建築物における来訪者の受付及び案内等
(第35類)、骨董品
(11) 評価等(第36類)、内装仕上工事、電気工事、錠前の取付け又は修理、 畳類の修理、窓の清掃等(第37類)、一般廃棄物の収集及び分別、雑草の防除、家具の貸与等(第42類)
登録年月日:2003年1月24日
商標権者:株式会社アパマンショップネットワーク
被申立人は本件ドメイン名が上記の商標と類似性を有していることは認めている。
5. 当事者の主張
A. 申立人
(1) ドメイン名は、申立人が有する商標および役務商標 (サービスマーク)に同一または混同させるような類似性を有しているか否か
本件ドメイン名は、申立人が有する商標①に<.com>付けただけであり、商標①を中核部分とするものである。また、商標②は、中核部分のアルファベットを大文字で表記したものであって、視覚的にもイメージ的にも類似する上、呼称上、同じである。商標③から⑨は、それ自体の呼称又はその主たる部分の呼称が本件ドメイン名の中核部分と同じある。よって、本件ドメイン名は申立人が有する商標①から⑨と同一または混同させるような類似性を有している。
(2) 被申立人は、当該ドメイン名について権利または正当な利益を 有するのか否か
申立人は、本件営業譲渡契約により、商標③から⑤、⑦及び⑧を被申立人から譲り受け、その対価も支払った。本件ドメイン名については覚書に明示されてはいないものの、本件営業譲渡契約の対象となっている店舗の「現運営に関わる下記以外の一切の権利等」は申立人に移転する旨合意しており(覚書第2項)、本件ドメイン名もかかる権利に含まれる。というのは、上記の商標権を譲り受けていることからも明らかなように、「アパマンショップ」の名称を維持したまま営業を継続することが本件営業譲渡契約の前提となっており、インターネットで賃貸住宅情報の検索を行う顧客のために、「アパマンショップ」の名称から最も想定されやすいドメイン名である本件ドメイン名は、当然上記営業譲渡の対象に含める必要があり、これを対象から除外する理由は何もないからである。
被申立人は、上記の商標の移転後は、”apamanshop”、「アパマンショップ」又はこれらに類似する商標権を一切保有していない。
このように、本件ドメイン名の使用に係る一切の権利は被申立人から申立人に移転しており、被申立人は本件ドメイン名の使用に係る一切の権利を喪失している。そのため、申立人は、本件ドメイン名の登録料を申立人の名義及び負担において支払っている。WIPO仲裁調停センターの2000年4月2日付け「barneysnewyork.com」事件裁定(Case No.D2000-0059)においても、ドメイン名を登録していることそれ自体では、ドメイン名に関する権利又は正当な利益を証明するのに十分ではないと述べている。
以上のことから、被申立人は、当該ドメイン名について権利または正当な利益を有していない。
(3) 当該ドメイン名は、不正の目的で登録かつ使用されているのか否か
被申立人は本件営業譲渡契約により本件ドメイン名の使用に係る一切の権利を申立人に譲渡したにもかかわらず、2005年7月以降、申立人の数度にわたる本件ドメイン名の移転手続要請に対して、何ら理由を示すことすらしないまま拒否又は無視している。
このように、権利を喪失しながらあえて登録を保持する行為は、不正の目的で登録する行為に等しく、いつでも自ら使用できる状態にしている点において、他人のドメイン名を無断で使用するのに匹敵する行為である。日本知的財産仲裁センターで争われた「WALMART.JP」事件裁定(Case No.JP2005-0001) 及び 「SONYBANK.CO.JP」事件裁定(Case No.JP2001-0002)においても、 登録者が 本件ドメイン名を使用しないで登録を保有し続けること自体、申立人のインターネットでの使用妨害となり、不正の目的での登録・使用であると認めている。
また、実質的にも、かかる行為の目的は、同業者である申立人が本件商標に対応するドメイ ン名を営業に使用することを妨げ、自己の営業上の地位 を有利にすること、また、自己の営業に本件ドメイン名を使用することにより、自己を申立人のフランチャイズ加盟店又は直営店であると顧客を誤認させ、あるいは自己の提供する商品やサービスを申立人のものであると顧客を誤認させ、購入に誘導することであると推測される。なぜなら、申立人による商標周知の努力(申立人は、平成13(2001)年3月にヘラクレス市場に上場し、上記営業譲渡時点では100店舗に満たなかったフランチャイズ加盟店を平成17(2005)年6月には800店舗以上に増やし、最近では人気タレントを起用してテレビCMを行っている。)により、本件商標が申立人のものであることも、全国的によく知られるところとなっており、本件ドメイン名を使用したウェブサイトについても、Yahoo!、Google等の大手検索エンジンでの「賃貸」のキーワードによる検索結果で上位に位置し(申立書付録17・18)、アクセス数もトップクラスとなっているため、被申立人が本件ドメイン名を使用すれば、こうした営業上有利な状況にただ乗りすることができるからである。被申立人のこのような不正な目的に基づく登録保持・使用により、申立人が多大な投資によって確立した顧客吸引力を阻害され、顧客を奪われるほか、被申立人の顧客対応いかんにより申立人の信用が毀損される等、回復しがたい損害が生じるおそれがある。さらに、両者が同種の事業を行っていることをも併せ考慮すれば、両者間に経済的・組織的な関連性があるかのごとく消費者に誤認混同を生じさせ、市場に混乱を惹き起こすことは必至である。
以上により、本件ドメイン名は、不正の目的で登録かつ使用されている。
B. 被申立人
(1) 申立人の特定
申立書冒頭の申立人の表記は「株式会社アパマンネットワーク」であるところ、申立人が提出している関連商標の商標権者は「株式会社アパマンショップネットワーク」である。また、社名の英語表記も、センターからの通知書等では”Apamanshop Co. Ltd.”とされており、「株式会社
アパマンショッ プネットワーク」の定款(答弁書付録1)第1条に
おける社名の英語表記”Apamanshop Network Co. Ltd.”とは不一致がある。 よって、「株式会社アパマンショップネットワーク」が申立人であるとは認めがたい。
ただし、パネルが申立人を「株式会社アパマンショップネットワーク」であると認定する場合に備えて、以下、答弁する。
(2) ドメイン名は、申立人が有する商標および役務商標(サービスマーク )に同一または混同させるような類似性を有しているか否か
本件ドメイン名が商標①から⑨と類似性を有していることは認める。
(3) 被申立人は、当該ドメイン名について権利または正当な利益を 有するのか否か
申立人は、本件営業譲渡契約当時、株式上場を企図しており、経営状態をよく見せるため、被申立人から譲り受ける資産をできるだけ圧縮して出費を抑える必要があったため、「アパマンショップ」の営業のために出願済みの商標がほかにもあることを認識しつつ、その一部の商標のみを譲渡対象とした。そのことは、覚書第2項は、譲渡対象とする5つの商標(申立人の挙げている5つの商標の譲渡を被申立人はそのまま認めるわけではなく、これらの一部については争っている。)を挙げた上で、「但し、下記は譲渡対象外とする。」とし、「上記以外の「アパマンショップ」の商標権」を挙げている。したがって、譲渡対象は限定されたものである。
被申立人は、本件営業譲渡契約後も、引き続き、「アパマンショップ」という標章を使用して「アパマンショップ大橋店」や「アパマンショップ久留米店」として不動産仲介業を営んでいた。
被申立人は、申立人の請求に応じて、 2004年11月8日頃、本件ドメ イン名に関し「ドメイン名使用許諾書」(答弁書付録6)を交付して、その使用を許可した。その結果、申立人は本件ドメイン名を自己のために使用してきた経緯がある(答弁書付録7)。仮に、申立人と被申立人との間で、本件ドメイン名を譲渡対象とすることに合意していたとすれば、申立人としては、使用許諾を得るという手続を踏むことはなかったはずである。
申立人は、本件ドメイン名の登録料を申立人の名義及び負担において支払っていると主張しているが、これが本件ドメイン名登録時から申立人が登録料を支払ってきたという趣旨であるとすれば、本件ドメイン名の登録が1997年11月17日であるのに対し、申立人の設立は1999年10月20日であるから、齟齬がある。
申立人が引用している過去の裁定例において問題となったドメイン名は、そこにおける申立人の商標が周知なものとなった後に登録されたものであり、本件とは事案を異にし、申立人の主張を裏付けるものではない。
以上により、被申立人が本件ドメイン名に対して、正当な利益を有することは明らかである。
(5) 当該ドメイン名は、不正の目的で登録かつ使用されているのか否か
上記の通り、申立人は被申立人の許諾を得て、現在本件ドメイン名を使用しており、被申立人は本件ドメイン名の登録者であって、使用者ではない。
なお、申立人と被申立人との間には、本件営業譲渡契約以来、様々な紛争があり、申立人は被申立人が申立人の無理難題を聞かないと見るや、被申立人の関連会社との契約を一方的に解除するとともに本件の申立てに及んだものである。
申立人は、被申立人が不正の目的で登録していること、かつ、不正の目的で使用されていることを立証しなければならないはずであるが、以上のことから、このいずれも立証できていない。
6. 審理および事実認定
本件における争点は、以下の4点である。
(1) 申立人の特定
(2) ドメイン名は、申立人が有する商標および役務商標 (サービスマーク)に同一または混同させるような類似性を有しているか否か(処理方針第4条(a)項(i))、
(3) 被申立人は、当該ドメイン名について権利または正当な 利益を有 するのか否か(処理方針第4条(a)項(ii))
(4) 当該ドメイン名は、不正の目的で登録かつ使用され ているのか否か (処理方針第4条(a)項(iii))
これらの争点の関係は、次の通りである。すなわち、(1)の争点が問題ないことが確認されることが、申立人と被申立人との争いについて決定を下す前提となる。その上で、処理方針第4条(a)項の(i)から(iii)に対応する(2)から(4)の争点は、同項によれば、すべて「かつ」で接続されている関係にあるので、これらの3要件のすべてが肯定された場合にのみ申立人の請求はこれを認めることができることになる。そこで以下、これらを順次検討する。
(1) 申立人の特定
申立書冒頭の申立人の表記は「株式会社アパマンネットワーク」であり、申立人代理人の委任状における当事者欄の申立人の表記も同様である。また、「株式会社アパマンショップネットワーク」の英文表示は、その定款(答弁書付録1)第1条によれば”Apamanshop Network Co. Ltd.”であ るところ、センター作成の文書における申立人の英語表記は”Apamanshop Co. Ltd.”であることから、申立人はセンターへの英語によ る通信に おいてこの表示を用いたことが窺われる。
しかし他方、申立書の当事者・申立人の欄では「株式会社アパマンショップネットワーク」と表示されており、代理人の委任状の発行者も同様である。また、申立書には、「株式会社アパマンショップネットワーク」の会社登記の履歴事項全部証明書が添付され、申立人が有していると主張している商標の名義、本件営業譲渡契約にかかる本件基本契約書及び本件覚書の当事者も同じく「株式会社アパマンショップネットワーク」である。
また、下記に述べるように、本決定の結論は請求棄却であって、「株式会社アパマンショップネットワーク」と利害を異にする「株式会社アパマンネットワーク」という主体が存在するとは窺われないことから、この点の被申立人の主張は認めず、本件の申立人は「株式会社アパマンショップネットワーク」であると判断し、以下、この前提で判断を進める。
(2) ドメイン名は、申立人が有する商標および役務商標(サービスマーク) に同一または混同させるような類似性を有しているか否か(処理方針第4条(a)項(i))
本件ドメイン名が商標①から⑨と同一または混同させるような類似性を有していることについては被申立人が認めているところであり、パネルとしてもこの点は議論の余地がないと判断する。
(3) 被申立人は、当該ドメイン名について権利または正当な利益を有す るのか否か(処理方針第4条(a)項(ii))
申立人が提出している本件覚書の第2項は、譲渡対象とする5つの商標を挙げた上で、「但し、下記は譲渡対象外とする。」とし、「上記以外の「アパマンショップ」の商標権」を挙げていることから、申立人と被申立人との間の本件営業譲渡契約において、申立人は被申立人から「アパマンショップ」という語に関連するすべての商標を譲り受けることを合意したわけではなく、その一部が被申立人に残ることを予定したと解するのが合理的である。また、被申立人は、本件営業譲渡契約後も、引き続き、「アパマンショップ大橋店」や「アパマンショップ久留米店」として不動産仲介業を営んでいたとの主張があり、これを裏付ける直接の証拠はないが、上記の覚書の条項をあわせ考えれば、本件営業譲渡契約当時、譲渡対象とされた10店舗以外に同様の名称の店舗があり、それが被申立人の支配下にあったことを否定することはできない。
他方、本件ドメイン名が本件営業譲渡契約により移転されるべき対象に入っていたか否かについては、申立人の主張するように、本件覚書第2項の上記の但書は商標について一部を除外する効力を有するに過ぎず、本件ドメイン名は「現運営に関わる下記以外の一切の権利等」という文言に含まれるとの解釈も成り立ち得ないわけではない。しかし、被申立人は、答弁書付録6の「ドメイン名使用許諾書」(日付を欠くが被申立人の主張によれば2004年11月8日頃作成されたものとされる)により、被申立人に本件ドメイン名の使用を許諾していると主張しており、答弁書付録7によれば、本件ドメイン名は申立人が使用していることが認められる。本件ドメイン名の登録者が被申立人であることは争いのない点であるので、上記のことは、被申立人の主張の通り、本件ドメイン名は被申立人が申立人に使用を許諾していると認定するのが合理的である。このことは、申立人は、被申立人が本件ドメイン名の正当な登録者であるとの前提で行動したことがあることを示唆しており、既述の通り、被申立人が「アパマンショップ」の語を含む店舗を本件営業譲渡契約後も維持していたとの認定とあわせて考えれば、本件ドメイン名は本件営業譲渡契約により移転されるべき対象には入っていなかったと解するのが相当である。
以上のことから、本件営業譲渡契約により本件ドメインが被申立人から申立人に移転したことを前提とする申立人の主張には理由がなく、本件ドメイン名の登録を維持しておくことに正当な利益があることを否定することはできない。
なお、申立人が引用している裁定例は本件とは事案を異にし、上記の判断を覆すものではない。
したがって、申立人の主張は処理方針第4条(a)項(ii)の要件を欠く。そうすると、次の(4)の点は判断するまでもないが、念のため、判断を続ける。
(4) 当該ドメイン名は、不正の目的で登録かつ使用されているのか 否か(処理方針第4条(a)項(iii))
(3)において認定したとおり、被申立人は、答弁書付録6の「ドメイン名使用許諾書」により、被申立人に本件ドメイン名の使用を許諾しており、答弁書付録7によれば、本件ドメイン名は申立人が使用していることが認められる。
そうすると、被申立人が「不正の目的で」本件ドメイン名を「登録」しているとは認められず、さらに、「使用」しているのは申立人であって、被申立人は「使用」してはいない。したがって、処理方針第4条(a)項(iii)の要件を欠くことは明らかである。
7. 裁定
以上により、本件ドメイン名を申立人に移転することを求める本件申立ては、処理方針第4条(a)項(ii)及び(iii)の要件を満たす証拠を欠いているので、同項及び手続規則第15条に従い、これを棄却する。
なお、当然のことながら、当事者間において本件紛争が裁判所で争われることがある場合には、それは手続及び実体に関して異なるルールに基づいて行われることになるのであり、この裁定は、その裁判に何ら影響を与えるものではない。
道垣内正人
首席パネリスト |
|
北川善太郎 パネリスト |
土井輝生 パネリスト |
日付: 2006年4月27日