申立人: 株式会社ドワンゴ 〒104-東京都中央区日本橋浜町二丁目31番1号
申立人代理人:江幡奈歩、網野精一、中村閑 (以上、阿部・井窪・片山法律事務所・弁護士)
被申立人ネームマーケット株式会社 〒150-0031 東京都渋谷 区桜ヶ丘町20-1
本件ドメイン名: <dowango.com>, <dowango.net>, 登録機関: GMO インタ ーネット株式会社 〒150- 8512 東京都渋谷区桜 丘町26番1 号 セル リアン タワー
本件申立書は、2007年1月19日にE-mailで、同年1月22日に文書で、それぞれ世界知的所有権機関(“WIPO”)仲裁調停センター(“センター”)に提出された。この申立ては、ドメイン名とIPアドレスの割当てに関するインターネット法人(ICANN)が1999年8月26日に採択した統一ドメイン名処理方針(以下「処理方針」)、ICANNが1999年10月24日に承認した統一ドメイン名紛争処理方針手続規則(以下「手続規則」)およびWIPO統一ドメイン名紛争処理方針補則(以下「補則」)に従って裁定を求めるものである。センターは、この申立書が手続規則4条(a)項および補則5条に定められた方式要件をみたしていること、および、申立人が所定の金額の手数料をセンターに支払ったことを確認した。
センターは、2007年1月22日、本件ドメイン名登録者に対し登録の確認を要請し、同日その確認をえた。2007年1月26日、センターは、本件申立を被申立人に通知し、手続規則4条(c)項に従い、紛争処理手続を開始した。
手続規則5条(a)項にもとづき、被申立人の答弁書提出期限は2007年2月15日とされたが、被申立人は答弁書を提出しなかった。センターは、2007年2月21日、被申立人の懈怠(default)を当事者に通知した。申立人は、単独のパネリストによる本件紛争処理を求めた。センターは、2007年3月2日、手続規則6条(b)項にもとづき、土井輝生を単独パネリストに指名し、かつ紛争処理パネルによる裁定予定日を2007年3月16日と定めて、当事者にその旨を通知した。
申立人は、申立書のV において次のような事実を述べている:
(1) 申立人は、日本において、ネットワークエンターテインメン トコンテンツおよびシステムの企画、開発、運用、サポートおよびコンサルティングを主要事業として、1997年に設立され、東京証券取引所市場第一部にその株式を上場している株式会社である。 (証拠7~9)
申立人は、その設立いらい、「DWANGO」 および「ドワンゴ」のブランドネームのもとに、携帯端末向けコンテンツ事業やネットワークゲーム事業を中心に様々なコンテンツ事業を展開してきた。とくに、携帯電話向けコンテンツ配信サービスの分野においては、高品質の着信メロディを強みにした総合着信メロディサイト「いろメロミックス」の配信を2001年に開始し、2005年には利用者数4,000,000人という規模にまで成長している。(証拠8)
このように、申立人は、日本のモバイルコンテンツ事業分野における代表的な事業者である。
(2) 申立人は、つぎの登録商標を所有している。(証拠10~12)
A. 商標:ドワンゴ 登録番号: 4822657; 登録日: 2004年12月3日; 出願日:2004年3月30日
指定商品: 第9、38、41、42 類
B. 商標: DWANGO 登録番号: 4822658; 登録日:2004年12月3日; 出願日:2004年3月30日
指定商品: 第9、38、41、42 類
C. 商標: dwango 登録番号:4822659;登録日: 2004年12月3日;出願日: 2004年3月30日
指定商品:第9、38、41、42類 申立人は、上記の登録 商標のほかにも、「ドワンゴ」、「DWANGO」, 「dwango」 の文字列を含む商標について多数の登録商標を所有している(登録4457291号;登録4471152号、登録4579410号、登録4653691号。(証拠13~16)
(3) 申立人は、1997年に会社を設立して以来、「ドワンゴ」、 「DWANGO」、 「dwango」の標章を申立人の商号および営業 表示とし て継続して使用してきた。
すなわち、申立人は、「DWANGO」および「ドワンゴ」の標章を用いて、主要なコンテンツ事業として、着うた(R), ニュース等のコン テンツや 便利情報、SNS機能を使用してのコミュニケーションなどの携帯電話端末向けエンタテインメントを提供する「dwango.jp」関連のコンテンツ提供事業を15種、ゲームその他のコンテンツ提供事業を12種、計27種の事業の企画、開発、配信を行っており、利用者数約4,000,000人という数字に端的に表れているとおり、日本全国のきわめて多数の需要者にサービスを提供している。
また、申立人は、「DWANGO」および「ドワンゴ」の名称について、日本のテレビ朝日系全国ネットで毎週放映される音楽番組「ミュージックステーション」といったゴールデンタイムのTV番組におけるコマーシャルを含め、日本全国の放送局をつうじて毎月約200本のTVコマーシャルを放映している。
申立人は、「倖田来未」や「安室奈美恵」などの日本の著名なアーティストとのタイアップ事業を積極的に推進しており、これらのアーティストの新曲発表と申立人による配信事業を融合した広告宣伝、つまりアーティストの肖像や楽曲のプロモーション・ビデオなどを組み入れた形で申立人の事業の広告宣伝活動を展開している。(証拠18) 申立人の「DWANGO」「ドワンゴ」「DWANGOいろメロミックス」「ドワンゴいろメロミックス」などの名称は、このような積極的な広告宣伝手法によって需要者間に強い著名性を獲得するに至っている。
さらに、申立人は、スポーツイベントやコンサート等の主催・協賛をつうじた広告宣伝活動を広く行っている。(証拠19の1~3) また、多数の著名アーティストを擁する音楽ソフト会社エイベックス社が毎年開催する大型コンサートの協賛スポンサーとなっている。(証拠20)
申立人は、ウエブサイト、ラジオ等の各種広告宣伝活動をおこなっており(証拠21~23)、「DWANGO」および「ドワンゴ」の表示が申立人の商号およびその営業表示として若年層や青年層を中核とする需要者の間できわめて著名な商標ないし営業表示である。この事実は、インターネット検索エンジンにおいて「ドワンゴ」および「DWANGO」の語を含むウエブサイトを検索した結果からも裏付けられる(証拠24~27)
(4)申立人は、本件申立書のV 「事実に関する根拠及び法的根拠」の冒頭で、センターに本件申立てをするまでの経緯について、次のように述べている: 本件ドメイン名と要部を同じくする「DOWANGO.JP」 (以下「本件JPドメイン名」)が、高野大を名乗る人物によって、2006年8月24日に取得されていた(証拠1)。また、それと同一年月日に、本件ドメイン名である“dowango.com”および”dowango.net”も何者かによって取得されていた(証拠2の1、2)(以下「旧登録者」)。旧登録者は、登録者情報を開示していなかったため、その登録者名や連絡先は不明であった。これらの登録機関は、いずれも本件ドメイン名の登録機関と同一である。申立人は、2006年9月22日、本件JPドメイン名について、日本知的財産仲裁センター(Japan Intellectual Property Arbitration Center)に対し、ドメイン 名紛争処理手続の申立てをした(証拠3)(以下「類似事件」)。本件JPドメイン名の登録者は、指定の期日までに答弁書を提出しなかった(証拠4)。2006年11月29日、同センターの紛争処理パネルは、本件JPドメイン名の登録を申立人に移転する旨の裁定を下した(証拠5)。この本件JPドメイン名についての裁定結果をうけ、申立人は、本件ドメイン名について、世界知的所有権機関仲裁調停センターに対する申立てを行う準備を進めていた。しかしながら、同年12月、旧登録者が本件ドメイン名の登録廃止の手続きを行っていることが判明した。そこで、申立人は、本件ドメイン名についての申立て中止し、登録代行業者を通じて本件ドメイン名の廃止手続が終了して登録可能になった時点で直ちに取得することとして状況を見守っていた。ところが、2007年1月4日付けで、本件ドメイン名は被申立人に取得されてしまった。以上の次第で、申立人は、再度、本件ドメイン名について、申立てを行うことにした。
申立人は、処理方針4条(i)項に従い、当紛争処理パネルに対し、 本件ドメイン名<dowango.com>および<dowango.net>を申立人に移転することを命じる裁定を求め、その理由として、次のように主張する:
1. 被申立人のドメイン名は、申立人が権利または正当な利益を 有する「商標その他の表示と同一または混同を引き起こすほどに類似している: 本件ドメイン名<dowango.com>および<dowango.net>は、トップレベル・ドメイン部分(“com”, “net”) を除くと、その 要部は”dowango”であるところ、申立人の登録商標である”dwango”とは、“o”の一文字が”d“と”w“の間に付加されている点をのぞき同一であり、両者は酷似している (証拠5)。また、本件ドメイン名の称呼は、申立人の商標”dwango”の日本における呼称ないしカタカナ表記が「ドワンゴ」であることは需要者の間で周知である。さらに、申立人の商標および本件ドメイン名の要部は、いずれも特定の意味を有するものではなく、両者が観念によって区別されるということもない(証拠5)。
加えて、申立人の商標である「ドワンゴ」をローマ字表記すると本件ドメイン名の要部とおなじ”dowango”となることから、実際にも需要者において誤認、混同がきわめて生じやすく、この誤認混同は現実に多数生じている(証拠28, 29、30の1~15)。
2. 被申立人は、当該ドメイン名について権利または正当な利益 を有さない(処理方針4条(a)項(ii),手続規則3条(b)項(ix)(2)): “dwango”や「ドワンゴ」について申立人が有している商標権や過去から現在にわたる活動、これらの商標の日本における著名性(どくにインターネット分野における高度の著名性)から考えて、インターネットビジネスを主たる目的として設立された被申立人が、本件ドメイン名を取得しようとしたときに申立人の上記商標を知らなかったということは経験則上ありえない(証拠5)。
申立人の商標“dwango”は、”Dial-up Wide Area Network Gaming Operation”の各頭文字を並べた造語であって、辞書等に記載された単語ではない(証拠31)。申立人と資本、取引、業務提携などについて関係のある個人または団体が本件ドメイン名を取得した事実はない。申立人が調査した限り、日本において”dowango”もしくはこれに類する商標登録または商標登録出願が行われた事実はない(証拠32)。申立人の知る限り、過去および現在において、“dowanngo”またはこれに類似する名称を用いて営業活動または私的活動を行っている個人または団体はない。
被申立人は、2006年9月4日に設立されたばかりの会社であり、“dowango”またはこれに類する名称を用いて営業活動をしているとは認められず、そのように認識されている事実もない。被申立人は、本件ドメイン名にてウエブサイトを開設してはいるが (証拠33の1,2)、一般的な項目を立てて単純にリンクを張った簡易なものであって、”dowanngo” またはこれに類する名称が営業活動に用いられ ている形跡はなく、ウエブサイト開設の形式的外見を整えたものに過ぎない。加えて、同ウエブサイトは、登録ネームサーバー名の要部“name-hosting.net”によって示されるウエブサイト と同一ない しきわめて類似しており(証拠33の3)、本件ドメイン名の著名性にただ乗りするものに他ならない。
3. 当該ドメイン名は、不正の目的で登録かつ使用されてい る(処理方針4条(a)項(iii), (b)項、手続規則3条(b)項(ix)(3)):
(1) 申立人の商標の日本における著名性や、当該商標が「あり ふれた名称」ではなく、相当程度の特異性、独自性を有することからすれば、被申立人が申立人の商標を知らず、これと無関係に本件ドメイン名を偶然に登録したということは考えられない。むしろ、本件ドメイン名が被申立人によって登録されるにいたった経緯にかんがみると、被申立人は、本件ドメイン名について廃止手続が行われていたことを熟知して、計画的に本件ドメイン名を取得したと推測するのが相当である。また、被申立人が本件ドメイン名について正当な権利ないし利益を有していないと解されることは前述のとおりである。こうしたことを客観的に見た場合、被申立人の意図ないし目的は、申立人の商号や商標と類似する本件ドメイン名を登録することによりなんらかの経済的利益をうることにあると考えざるを得ない(証拠5)。このことは、たとえば、被申立人が商標登録もしていない「N.M. K.K.」なる名称で登録を行うという「 匿名性」にもあら われている(証拠34の1,2)。
(2)さらに、被申立人は、「インターネットにおけるドメイン名の取得、保有管理及び販売に関する業務」を目的として設立された株式会社である(証拠35)。この事実のみからして、被申立人が、取得費用を超える対価で、本件ドメイン名を申立人または第三者に対して貸与または譲渡することによって経済的利益を得る目的を有していることは明白であり、本件ドメイン名が不正の目的で登録されたことは明らかである。
(3)申立人の商号・商標の著名性、本件ドメイン名における“DOWANGO” と申立人の商号・商標との間の誤認混同の 事実(単な る恐れではなく、現に生じている)からすれば、登録者が本件ドメイン名を使用してウエブサイトを開設すること自体が申立人のインターネット上での使用妨害となるから、本件ドメイン名は不正の目的での登録と認められるべきである。
以上のとおり、本件における登録者は、申立人の著名な商標やドメイン名と酷似することを認識した上で、これを模倣し、申立人の業務上の信用および顧客吸引力にフリーライドするか、または申立人から対価を得るという不正な目的で登録を行ったと認められ、本件ドメイン名は不正の目的で登録・使用されているものである。
被申立人は、本件申立てに対して、答弁書を提出しなかった。
処理方針4条(a)項は、申立人に対し、本件ドメイン名が次の要件を満たしていることの立証を求めている:
1) 被申立人が登録したドメイン名が、申立人が権利を有する商 標また は役務標章(サービスマーク)と同一(identical)であるか、または混同を生じさせるほど類似している(confusingly similar) こと;
(2) 被申立人が当該ドメイン名についていかなる権利または適法な利益(rights or legitimate interests)も有しないこと;および、
(3) 当該ドメイン名は不正に(悪意で(in bad faith)) 登録され、かつ使用 されていること。被申立人は、所定の期日までに答弁書を提出しなかったため、申立人が申立書において主張する事実を争わない。したがって、当パネルは、申立人が主張し立証する事実にもとづき、本件ドメイン名<dowango.com>および<dowango.net>が、上記の要件を満たしているか否かについて審理する。
本件ドメイン名<dowango.com>および<dowango.net>から、それぞれトップレベル・ドメインを表す接尾語“com”および”net”を除いたあとの要部である”dowango”は、申立人が権利を有する商標“dwango”と外観において酷似し、称呼において同一であり、かつ観念においても同一である。したがって、本件ドメイン名は、現実に申立人の営業活動と混同を生じさせていると認められる。
本件ドメイン名の要部である”dowango”を申立人の商標“dwango”とくらべると、本件ドメイン名には最初の文字”d”のあとに“o”の文字が加えられているだけが相違点である。そして、本件ドメイン名を日本語の表音文字カタカナで表すと、申立人の登録商標「ドワンゴ」と同一になる。申立人が正確に述べているように、申立人の登録商標“dwango” は、申立人会社が1997年に設立されたときに採用された造語であって、申立人の会社および営業活動を表示する以外のいかなる意味ももっていない。したがって、本件ドメイン名は、申立人の登録商標と観念において同一であると判断することができる。申立人のカタカナ商標をローマ字で表記すると、本件ドメイン名の要部と同じ”dowango”となる。そのため、本件ドメイン名は、現実に需要者間で混同を生じさせていると申立人は主張し、その証拠を提出している(証拠28、29、30の1~15)。
被申立人は、本件ドメイン名<dowango.com>および<dowango.net>についていかなる権利または適法な利益(legitimate interests)も有しない。 その理由は、次のとおりである:申立人は、1997年に「株式会社ドワンゴ」として設立されていらい、「DWANGO」および「ドワンゴ」の商標を用いてネットワークにおけるエンターテインメント・コンテンツを開発し配信する事業を拡張してきた(証拠8)。そして、その社名および商標は、著名な標章として公衆に認識されるようになった。 被申立人については、2006年9月4日に設立された、インターネットにおけるドメイン名の取得、保有、管理等を目的とする株式会社であること以外、具体的にいかなる営業活動をしているか明らかでない。このような事実にもとづき、当パネルは、被申立人が、本件ドメイン名についていかなる権利または適法な利益も有しないと認定せざるを得ない。
本件ドメイン名は、被申立人によって不正に(悪意で)登録され、使用されている。その理由は、次のとおりである: 先に認定したように、申立人が造語である”dwango”の商標を採用し、使用を開始したのは、1997年である。それいらい、申立人の商標は、そのエンターテインメント業界における事業活動の拡張とともに、著名(famous)になった。そして、”dwango”の商標は、所有者である申立人のエンターテインメント・ビジネスにおけるグッドウイル(顧客吸引力)を象徴するシンボルとなった。このような事情のもとで、被申立人が、申立人の許諾を受けることなく、申立人の商標”dwanngo”と実質的に同一の標章”dowanngo”をドメイン名として登録することは、申立人の”dwango”商標の存在とその著名度を熟知した被申立人の悪意(bad faith)にもとづくものと判断せざるを得ない。
以上述べた理由から、当紛争処理バネルは、処理方針4条(i)項および手続規則15条にもとづき、申立人の請求を認容し、本件ドメイン名<dowango.com> および<dowango.net> の登録を申立人株式会社ドワンゴに移転 することを命じる。
土井輝生
パネリスト
2007年3月22日