WIPO

WIPO 仲裁調停センター

紛争処理パネル裁定

Cath Kidston Limited 対 小林ノリオ

事件番号 D2010-0040

1. 紛争当事者

(1) 申立人, 名称等: Cath Kidston Limited、ロンドン、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国 代理人: Hammonds LLP

(2) 被申立人, 氏名等: 小林ノリオ、静岡県、日本国

2. ドメイン名及び登録機関

(1) 紛争の対象であるドメイン名:cathkidston.biz

(2) 本件ドメイン名の登録機関:GMOインターネット株式会社

3. 手続の経過

本件申立書は、2010年1月11日にメールによりWIPO仲裁調停センター(以下、「センター」という。)へ提出された。なお、当初紛争の対象とされていたドメイン名は、cathkidston.biz(以下、「本件ドメイン名」という。)及びcath-kidston.netの2件であった。

センターは、2010年1月12日にメールにより本件ドメイン名の登録確認を登録機関GMOインターネット株式会社に要請した。同登録機関は、2010年1月15日にメールによりセンターへ登録確認の返答をし、申立書に記載された被申立人及び連絡先細目と異なる情報を当該ドメイン名の登録者として公開した。そこで、センターは、2010年1月25日に申立人に対し登録機関により公開されたドメイン名登録者、連絡先細目を通知し、申立書を訂正できることを連絡した。

また、本件ドメイン名登録合意の言語は日本語であったことから、統一ドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」)第11条より本紛争処理手続の言語は日本語とされた。しかし、本件申立書は英語により提出されていたので、センターは、2010年1月25日に手続言語について申立人に通知を行い、2010年1月28日までの対応を求めた。これに対し、申立人は、本件申立書の翻訳を提出することとし、その提出期限の延長を求めたところ、センターは当該期限を2010年2月4日に延長した。

申立人は、2010年1月29日にドメイン名cath-kidston.netにかかる申立てを取り下げた上で、2010年2月2日に申立書の日本語翻訳を提出し、この際に、被申立人の名称等(氏名等)を登録機関により公開されたドメイン名登録者に訂正した。

センターは、申立書が処理方針、統一ドメイン名紛争処理方針手続規則(以下、「手続規則」)及びWIPO統一ドメイン名紛争処理方針補則における方式要件を充足していることを確認した。そこで、センターは、手続規則第2条(a)項及び第4条(a)項に基づき本件申立てを被申立人に通知し、2010年2月8日に紛争処理手続が開始された。手続規則第5条(a)項に従い、答弁書の提出期限は2010年2月28日とされたところ、被申立人は、2010年2月27日に答弁書を提出した。

センターは、2010年3月12日に、Haig Oghigianを本件における単独のパネリストとして指名した(以下、「紛争処理パネル」という。)。紛争処理パネルは、同パネルが正当に構成されたことを確認し、手続規則第7条の要請に基づきセンターへ承諾書及び公平と独立に関する宣言を提出した。

4. 背景となる事実

申立人は、1993年にCath Kidston氏が設立したライフスタイル及びデザインに関する会社であり、現在イングランド及びウェールズの会社登記所にて会社登記を具備している(附属書類3)。

申立人は、www.cathkidston.co.uk を主たるウェブサイトとしてインターネット上も事業を展開している(付属書類4)。そして、利用者がwww.cathkidston.comというURLを入力した場合、利用者は自動的にwww.cathkidston.co.ukに移動するよう設定がなされている。

また、申立人は複数の商標を所有しており、この中には以下の日本の商標も含まれている。

(1) Cath Kidstonの日本語版の商標で、登録番号は5219676、2009年4月3日に国際商標登録第35類(広告及びビジネスサービス)と複数の国内の類に登録しているもの

(2) Cath Kidstonの日本語版の商標で、登録番号は4742839、2004年1月23日に国際商標登録第3類(化粧品及び洗浄剤)、第14類(宝節品及び貴金属)、第18類(皮革製品)、第24類(生地)、 第25類(衣類)及び複数の国内の類に登録しているもの

5. 当事者の主張

(1) 申立人

申立人の主張は以下のとおりである。

第一に、被申立人の登録にかかる本件ドメイン名は、申立人の商標「Cath Kidston」と同一である(「処理方針」第4条(a)項(i)、「手続規則」第 3条(b)項(viii)、(b)項(ix)(1))。

第二に、「Cath Kidston」という語句は、申立人のブランド名であり、かつ、申立人の創立者の名前でもあることから、被申立人が独自に考案した語句とは考え難く、本件ドメイン名は申立人を連想して付したと思われる。また、被申立人が本件ドメイン名を使用することは、申立人が日本及び海外で正当な目的でドメイン名を使用することを妨げることから、申立人の事業を妨害することは明らかである。そして、被申立人が本件ドメイン名を使用する状況は、申立人が、登録、運用、権限の付与、その他の方法により被申立人とつながっていると一般に信じさせ、混乱を生じさせるものであるが、「Cath Kidston」という商標につき、被申立人に対し使用の許可又は認諾をしたことはない。したがって、被申立人は、本件ドメイン名についての権利又は正当な利益を有していない(「処理方針」第4条(a)項(ii)、「手続規則」第3条(b)項(ix)(2))。

第三に、被申立人は、2009年12月4日以降に第三者より本件ドメイン名の移転を受けているところ、これは申立人がかかる第三者に本件ドメイン名の移転を要求する書簡を同日付けで送付したことを受けて行われていることから、当該第三者と被申立人は共謀して本件申立てを妨害した可能性がある。また、申立人は、日本で相当の評判を獲得し、営業権を取得しているところ、被申立人はこのことを承知の上で本件ドメイン名を取得し、また、使用を継続している。さらに、申立人の潜在顧客は、被申立人のサイトにアクセスした際、申立人の公式サイトにアクセスしたか確信を持てない可能性がある。したがって、被申立人は本件ドメイン名を不誠実に登録、使用している(処理方針第4条(a)項(iii)、第4条(b)項、手続規則第3条(b)項(ix)(3))。

以上の理由より、申立人は、処理方針第4条(i)項に基づき、紛争処理パネルに対し、本件ドメイン名を申立人に移転する裁定を求める。

(2) 被申立人

被申立人は期日までに答弁書を提出した。しかし、当該答弁書は、申立人によって求められた救済措置を棄却することを紛争処理パネルに要求するのみであり、実質的な反論は全くなされなかった。

6. 審理及び事実認定

本件申立書の対象である本件ドメイン名が登録されるに際して適用された登録合意書には、「処理方針」が組み込まれているので、本件紛争は「処理方針」の対象となる。よって、紛争処理パネルは本件申立てを「処理方針」に従って裁定する権限を有する。

申立人は、「処理方針」第4条(a)項所定の三要件、すなわち、(1)本件ドメイン名は、申立人が権利を有する商品商標又は役務商標と同一又は混同させるような類似性を有するものであること、(2)被申立人は、本件ドメイン名の権利又は正当な所有権を有していないこと、及び(3)本件ドメイン名は不誠実に登録、使用されていること、を主張している。そこで、以下、かかる三要件が充足されているかを個別に検討する。

(1) 申立人が権利を有する商品商標又は役務商標と同一又は混同させるような類似性

申立人は、被申立人の登録にかかる本件ドメイン名cathkidston.bizは、申立人の商標「Cath Kidston」と同一である(「処理方針」第4条(a)項(i)、「手続規則」第 3条(b)項(viii)、(b)項(ix)(1))と主張する。

大文字小文字の区別及びトップレベルドメインの「.biz」は、商標との同一性の判断において考慮しなくてよいことに鑑みれば、ドメイン名cathkidston.bizと商標「Cath Kidston」とは「Cath」と「Kidston」の間に一文字空白がある点においてのみ異なることになる。しかし、「Cath」と「Kidston」という語句の間に一文字空白があることにより、異なる意義を有する語句が連想されるわけではなく、かかる相違は意味がある相違ではない。してみれば、本件ドメイン名と申立人が権利を有する商標は、少なくとも混同させるような類似性があることは明らかである。

よって、申立人は処理方針第4条(a)項の第一要件を充足している。

(2) 権利又は正当な利益の欠如

申立人は、被申立人が本件ドメイン名についての権利又は正当な利益を有していない(処理方針第4条(a)項(ii)、手続規則第3条(b)項(ix)(2))と主張する。

被申立人は、「Cath Kidston」若しくはこれに類似する商標権又は商号権を取得しておらず、また、申立人よりかかる商標権のライセンスを取得したこともない。してみれば、被申立人は、本件ドメイン名の権利又は正当な所有権を有していない。

よって、申立人は処理方針第4条(a)項の第二要件を充足している。

(3) 不誠実な登録、使用

申立人は、被申立人が本件ドメイン名を不誠実に登録、使用している(処理方針第4条(a)項(iii)、第4条(b)項、手続規則第3条(b)項(ix)(3))と主張する。

申立人は、日本においてもその商品を販売しており、相当程度の知名度を有していることが認められる(附属書類7参照)。そして、被申立人は、かかる前提のもとで、少なくとも被告の商標と混同させるような類似性を有する本件ドメイン名を使用して、申立人の商品を販売している(附属書類7参照)。してみれば、被申立人は申立人の知名度に便乗すべく本件ドメイン名の登録申請を行ったことが推認される。そして、この点につき被申立人より実質的な反論がなされていないことから、被申立人は本件ドメイン名を不誠実に登録、使用していることが認められる。

よって、申立人は処理方針第4条(a)項の第三要件を充足している。

(4) 小括

以上認定のとおりであるので、本件ドメイン名の紛争処理については、被申立人が取得した本件ドメイン名を、申立人に移転するのが相当である。

7. 裁定

以上の理由により、処理方針第4条(i)項及び手続規則第15条に従い、紛争処理パネルは本件ドメイン名<cathkidston.biz>を申立人へ移転することを命じる。


Haig Oghigian
パネリスト

日付: 2010年4月2日