名称等: インター・イケア・システムズ・ビー・ヴィ(Inter IKEA Systems B.V.)、オランダ国デルフト
代理人: 青和特許法律事務所 弁護士 永井紀明、弁護士 山口健司、弁護士 石神恒太郎、弁理士 外川奈美(以下、「本件申立人代理人」という。)
氏名等: 鹿島真由美、日本国大阪府
代理人: ふじ総合法律会計事務所 弁護士 池田生大
(1). 紛争の対象であるドメイン名:ikea-webshop.com
(2). 本件ドメイン名の登録機関:GMOインターネット株式会社
本件申立書は、2010年12月1日にメールによりWIPO仲裁調停センター(以下、「センター」という。)へ提出された。なお、当初紛争の対象とされていたドメイン名は、ikea-webshop.com (以下、「本件ドメイン名」という。) 1件であった。
センターは、2010年12月1日にメールにより本件ドメイン名の登録確認を登録機関GMOインターネット株式会社に要請した。同登録機関は、2010年12月2日にメールにてセンターへ登録確認の返答をし、申立書に記載された被申立人及び連絡先細目と一致する情報を当該ドメイン名の登録者として公開した。
また、本件ドメイン名登録合意の言語は日本語であったことから、統一ドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」)第11条より本紛争処理手続の言語は日本語とされた。本件申立書は日本語(英語翻訳文も添付)により提出され、答弁書も日本語により提出されている。
センターは、申立書が処理方針、統一ドメイン名紛争処理方針手続規則(以下、「手続規則」)及びWIPO統一ドメイン名紛争処理方針補則における方式要件を充足していることを確認した。そこで、センターは、手続規則第2条(a)項及び第4条(a)項に基づき本件申立てを被申立人に通知し、2010年12月6日に紛争処理手続が開始された。手続規則第5条(a)項に従い、答弁書の提出期限は2010年12月26日とされたところ、被申立人は、2010年12月22日に答弁書を提出した。
センターは、2010年12月28日に、Haig Oghigianを本件における単独のパネリストとして指名した(以下、「紛争処理パネル」という。)。紛争処理パネルは、同パネルが正当に構成されたことを確認し、手続規則第7条の要請に基づき、センターへ承諾書及び公平と独立に関する宣言を提出した。
申立人は、世界的に著名な家具、調度品その他室内装飾品の小売フランチャイズシステムのフランチャイザーであり、2009年度末時点で25カ国に267店舗を展開しているオランダ法人である(附属書類5)。
なお、日本のフランチャイジーは公式ウェブサイトを開設しているが、通信販売は行っていない。
また、申立人は日本のみならず、世界各国で「IKEA」の語について、複数の商標を所有しており、この中には以下の商標も含まれている(附属書類4の1ないし4の5)。
(1). IKEAの商標で、登録番号が0926155、2007年4月24日に国際商標登録第16類、第20類、第35類及び第43類と複数の国内の類に登録しているもの
(2). IKEAの商標で、日本国内の商標登録番号が3297312、3329629、5197726、5197727のもの
申立人の主張は以下のとおりである。
第一に、被申立人の登録にかかる本件ドメイン名は、申立人の商標「IKEA」と同一である(「処理方針」第4条(a)項(i)、「手続規則」第3条(b)項(viii)、(b)項(ix)(1))。
第二に、「IKEA」という商標は、日本国内のみならず、世界中に周知著名なものであり、被申立人が「IKEA」という語を知らずに偶然にドメイン名として採用したとは到底考えることはできない。実際に、申立人が被申立人のウェブサイトの運営を中止することを求める通知を送付する以前から、被申立人のドメイン名「ikea-webshop.com」をURLとするウェブサイトのトップページに「イケア」、「IKEA」等ウェブサイトに掲載しているブランド名が申立人の商標であることを記載していた(申立書附属書類14)ことに鑑みれば、被申立人が「IKEA」商標が申立人の商標であることを認識していたのは明らかである。また、被申立人は「IKEA」という語を含む本件ドメイン名を使用し、そのドメイン名をURLとするウェブサイトのトップページの上部に大きく「IKEA Webshop」と表示しており、利用者において申立人又は申立人の日本のグループ会社が開設したサイトであるかのような誤認を生じさせやすい外見を作出している(附属書類14)。このような消費者の誤認に乗じて申立人の商品を高額で転売し、利益を得ていることは明らかであり、その使用を正当な使用ということはできない。なお、申立人は、被申立人に対して、「ikea-webshop.com」とのドメイン名や「IKEA」という語を含んだドメイン名の使用を許諾したことはなく、被申立人は申立人の「IKEA」商標又は役務商標に関する権利は取得していない。したがって、被申立人は、本件ドメイン名についての権利又は正当な利益を有していない(「処理方針」第4条(a)項(ii)、「手続規則」第3条(b)項(ix)(2))。
第三に、①申立人の「IKEA」の表示が著名であり、被申立人は申立人の「IKEA」商標を知っていたと考えられること、並びに、本件ドメイン名が、申立人の有する「IKEA」商標と混同させる程度に類似していること、及び②被申立人が本件ドメイン名をURLとするウェブサイトに掲載する「IKEA」という表示は申立人の公式ホームページ上(申立書附属書類16)の「IKEA」の表示と同様のものであり、被申立人はウェブサイトに申立人がカタログ等で用いていたものと全く同じ商品の写真をアップロードしていることから、被申立人は本件ドメイン名の使用によって、商業的利益を得るために、そのウェブサイト、またはそこに登場する商品若しくはサービスの出所、スポンサーシップ、取引提携関係、推奨について申立人の標章との混同のおそれを生じさせて、インターネットの利用者を自身のウェブサイトに誘導しようとする意図があったといえる。また、被申立人が本件ドメイン名を用いる行為、ウェブサイト上で「IKEA Webshop」と表示する行為、申立人が作成した商品の写真をそのままウェブサイトにアップロードする行為は日本法下において商標法・不正競争防止法・著作権法違反を構成するものであり、これらの点においても本件ドメイン名を申立人に無断で取得・保有する被申立人の行為は不正な目的でなされていると評価することができる。申立人は、2010年2月23日付で、被申立人に対して、ウェブサイトの運営を中止することを求める通知を、被申立人に送付した(申立書附属書類17)が、上記通知に対して、被申立人は申立人に回答延長の希望を述べたり、「IKEA」商標の使用が認められるように交渉をしている等と述べたりするばかりで(申立書附属書類18ないし26)、従来どおり本件ウェブサイトの運営を続け、消費者の誤認を招くような文言やデザインを修正しようとするわけでもなければ、本件ウェブサイトの運営を中止しようとするわけでもない。なお、申立人はそのような交渉をしている事実はない。したがって、被申立人は本件ドメイン名を不正な目的で登録、使用している(処理方針第4条(a)項(iii)、第4条(b)項、手続規則第3条(b)項(ix)(3))。
以上の理由より、申立人は、処理方針第4条(i)項に基づき、紛争処理パネルに対し、本件ドメイン名を申立人に移転する裁定を求める。
申立書の陳述・主張内容に対する被申立人の答弁・反論等は以下のとおりである。
被申立人において、被申立人が開設した本件ウェブサイトやそこに登場する商品等につき、申立人の商標との混同のおそれを生じさせて、インターネットの利用者を本件ウェブサイトに誘導しようとする意図等なかったし、本件ウェブサイトを申立人が開設した、又は、申立人がその開設を許可したものと消費者に誤認させる意図はなかった。これは、被申立人が本件ウェブサイト開設時より、そのトップページにおいて、「イケア」や「IKEA」等の表示が申立人の商標であり、これを侵害する意思や目的はない旨の断り書きを入れていることからも明らかである。被申立人が、本件ウェブサイトを利用して展開する買物代行業によって多少の利益を得ていたことは否定しないが、被申立人が設定していた商品販売価格は高額とは到底言えない程度であって、ましてや正規の二倍もの価格で販売している商品等断じてない(答弁書添付資料6)。
しかしながら、本件ドメイン名の移転時期については、申立人により、既に期限の利益が付与されており、現在は移転猶予期間中であって、少なくとも現段階において本件ドメインが移転される根拠はなく、本件申立てに理由はない。
本件申立書の対象である本件ドメイン名が登録されるに際して適用された登録合意書には、「処理方針」が組み込まれているので、本件紛争は「処理方針」の対象となる。よって、紛争処理パネルは本件申立を「処理方針」に従って裁定する権限を有する。
申立人は、「処理方針」第4条(a)項所定の三要件、すなわち、(1)本件ドメイン名は、申立人が権利を有する商品商標又は役務商標と同一又は混同させるような類似性を有するものであること、(2)被申立人は、本件ドメイン名の権利又は正当な所有権を有していないこと、及び(3)本件ドメイン名は不誠実に登録、使用されていること、を主張している。そこで、以下、かかる三要件が充足されているかを個別に検討する。
申立人は、被申立人の登録にかかる本件ドメイン名ikea-webshop.comは、申立人の商標「IKEA」と同一である(「処理方針」第4条(a)項(i)、「手続規則」第 3条(b)項(viii)、(b)項(ix)(1))と主張する。
上記ドメイン名の「webshop」の部分は、インターネット上で商品を販売するウェブサイトを意味する普通名称にすぎないものであること、大文字小文字の区別は商標の同一性の判断において考慮しなくてもよいこと、及び「.com」の表示はドメイン名の種類を示すもので特別の識別力がないことに鑑みれば、被申立人が保有するドメイン名で識別力を有する要部は、「ikea」の部分である。そして、「ikea」の表示は申立人の保有する著名商標と同一である。したがって、本件ドメイン名と申立人が権利を有する商標は、少なくとも混同させるような類似性があることは明らかである。
よって、申立人は処理方針第4条(a)項の第一要件を充足している。
申立人は、被申立人は当該ドメイン名について権利又は正当な利益を有さない(処理方針第4条(a)項(ii)、手続規則第3条(b)項(ix)(2))と主張する。
この点、処理方針第4条(c)項(i)は、被申立人がこの紛争についての通知を受ける前に、商品又はサービスの提供を善意で行うにあたり、そのドメイン名又はこれに対応する名称を使用していたとき、又はその使用準備をしていたことを立証可能なときは被申立人はドメイン名についての権利又は正当な利益を有していることが立証されたものとする旨定めている。そして、ここでいう「善意」に該当するための要件の一つとして、当該ウェブサイトに被申立人と商標を有する者との関係が正確に開示されていなければならないと解される(Philip Morris Incorporated v. Alex Tsypkin, WIPO Case No. D2002-0946, Oki Data Americas, Inc. v. ASD, Inc., WIPO Case No. D2001-0903及びHoughton Mifflin Co. v. The Weathermen, Inc., WIPO Case No. D2001-0211等)。
被申立人は、「IKEA」若しくはこれに類似する商標権又は商号権を取得しておらず、申立人よりかかる商標権のライセンスを取得したこともない。また、被申立人は、「IKEA」という語を含む本件ドメイン名を使用し、そのドメイン名をURLとするウェブサイトのトップページの上部に大きく「IKEA Webshop」と表示することにより、利用者において申立人又は申立人の日本のグループ会社が開設したサイトであるかのような誤認を生じさせやすい外見を作出している。さらに、本件ウェブサイトに申立人の商標を侵害する意思や目的はない旨の断り書きを記載していることは証拠上認められるが、かかる記載はウェブページの最下部に小さな文字で記載されているにすぎず、商標権者である申立人と被申立人との関係について正確に言及していない。これらの事情に加えて、申立人が作成した商品の写真がそのまま被申立人のウェブサイトにアップロードされていること等を考慮すると、ウェブページ全体としては申立人又は申立人の日本のグループ会社が開設したサイトであるとの誤認混同を招くおそれがあるといわざるを得ず、少なくともこれにより、被申立人が商業的利益を得ていることは確かである。してみれば、被申立人は、処理方針第4条(c)項(i)でいう「善意」に該当せず、本件ドメイン名の権利又は正当な利益を有していない。
よって、申立人は処理方針第4条(a)項の第二要件を充足している。
申立人は、被申立人が本件ドメイン名を不誠実に登録、使用している(処理方針第4条(a)項(iii)、第4条(b)項、手続規則第3条(b)項(ix)(3))と主張する。
申立人は、日本においても5店舗を構えて事業を展開し、精力的な広告宣伝活動を行っており、相当程度の知名度を有していることが認められる。そして、被申立人は、かかる前提のもとで、少なくとも被告の商標と混同させるような類似性を有する本件ドメイン名を使用して、申立人の商品を販売している(申立書附属書類14参照)。してみれば、被申立人は申立人の知名度に便乗すべく本件ドメイン名の登録申請を行ったことが推認される。
これに対し、被申立人は、被申立人が本件ウェブサイト開設時より、そのトップページにおいて、「イケア」や「IKEA」等の表示が申立人の商標であり、これを侵害する意思や目的はない旨の断り書きを入れている事実を挙げたうえで、被申立人において、被申立人が開設した本件ウェブサイトやそこに登場する商品等につき、申立人の商標との混同のおそれを生じさせて、インターネットの利用者を本件ウェブサイトに誘導しようとする意図等なかったし、本件ウェブサイトを申立人が開設した、又は、申立人がその開設を許可したものと消費者に誤認させる意図はなかったと反論している。さらに、本件ドメイン名の移転時期について、申立人により、既に期限の利益が付与されており、現在は移転猶予期間中であると主張している。
この点、被申立人が、本件ウェブサイトに申立人の商標を侵害する意思や目的はない旨の断り書きを記載していることは証拠上認められる。しかし、かかる記載はウェブページの最下部に小さな文字で記載されているにすぎず、加えて申立人が作成した商品の写真がそのままウェブサイトにアップロードされていること等を考慮すると、ページ全体としては申立人又は申立人の日本のグループ会社が開設したサイトであるとの誤認混同を招くおそれがあるといわざるを得ない。
また、被申立人は、申立人が被申立人に対し、期限の利益を付与しているとの主張を裏付ける証拠として、平成22年9月25日に被申立人がゾンデルホフ&アインゼル法律特許事務所の山崎和香子弁理士に送付した確約書(答弁書添付資料5の1)を提出しているが、申立人の提出した証拠(申立書附属書類18及び19)によれば、その5ヶ月余り前に交わされた平成22年3月8日付の被申立人の書状及びそれに対する平成22年4月1日付の申立人の回答書の一連のやりとりを通じて、申立人及び被申立人は、申立人を正当に代理しているのは本件申立人代理人であり、それ以降の本件に関する連絡は全て本件申立人代理人宛になされるよう確認していることが認められる。なお、他に、山崎和香子弁理士らゾンデルホフ&アインゼル法律特許事務所の弁護士・弁理士が申立人を正当に代理する者であることを関連づける証拠はない。したがって、かかる証拠は申立人が被申立人に対して、期限の利益を付与していることを裏付ける証拠として認定することはできない。また、被申立人は答弁書に一連の事実の経緯について述べているものの、他に申立人が被申立人に対して期限の利益を付与していることを裏付ける証拠を提出していない。なお、申立人は同様の案件で通常、変更作業開始後6ヶ月程度の猶予を与えている点について争いはないが、本件申立人代理人が平成22年2月23日に被申立人に本件ウェブサイトの運営を中止する要求をしてから既に8ヶ月余りの時間が経過していることからも、変更作業完了時期として申立人が想定しうる合理的な期間を大幅に超えていることが認められる。
よって、被申立人は本件ドメイン名を不誠実に登録、使用していることが認められる。
以上より、申立人は処理方針第4条(a)項の第三要件を充足している。
以上認定のとおりであるので、本件ドメイン名の紛争処理については、被申立人が取得した本件ドメイン名を、申立人に移転するのが相当である。
以上の理由により、処理方針第4条(i)項及び手続規則第15条に従い、紛争処理パネルは本件ドメイン名<ikea-webshop.com>を申立人へ移転することを命じる。
Haig Oghigian
パネリスト
日付: 2011年1月18日