WIPO Arbitration and Mediation Center

行政パネル決定文

Inter IKEA Systems B.V.対 Blomma and Co,Tsutomu Ikeda

事件番号:D2011-0573

1. 当事者

申立人:インター・イケア・システムズ・ビー・ヴィ(Inter IKEA Systems B.V.)

所在地:オランダ国 デルフト(Delft, the Netherlands)

申立人の代理人:青和特許法律事務所(日本国 Seiwa Patent & Law)

被申立人:株式会社Blomma及び池田努(blomma and co,Tsutomu Ikeda)

所在地及び居住地:日本国神奈川県横浜市(Yokohama-shi,Kanagawa-ken, Japan)

被申立人の代理人:原口総合法律事務所(日本国 Haraguchi Law Firm)

2. ドメイン名及び登録機関

争われるドメイン名は「ikealuv.com」であり(以下、「紛争ドメイン名」という。)、紛争ドメイン名はGMO Internet, Inc. d/b/a Discount-Domain.com and Onamae.comに登録されている。

3. 行政手続概要

申立人は、紛争解決申立書を2011年3月30日付にて世界知的財産権機構(WIPO)仲裁調停センター(以下、「センター」という。)に提出し、センターは、2011年3月30日付にてGMO Internet, Inc. d/b/a Discount-Domain.com and Onamae.comに紛争ドメイン名に係わっている登録機関の確認を要請する電子メールを発送した。2011年3月31日付にて、GMO Internet, Inc. d/b/a Discount-Domain.com and Onamae.comは、センターに電子メールで送付した答弁を通じて紛争ドメイン名の登録人と登録人の連絡先を提供したが、これは申立書に記載されたものとは異なっていた。また、登録機関は、登録約款上の言語が日本語であることを確認した。登録機関が確認した紛争ドメイン名の登録人と申立書に記載された紛争ドメイン名の登録人の記載が一致しないため、手続上に欠点があるというセンターの通知により、申立人は、2011年4月4日付にて申立書の補正書を提出した。

センターは、紛争解決申立書の補正書が統一ドメイン名紛争解決規定(以下、「規定」という。)に対する手続規則(以下、「手続規則」という。)及び規定に対するWIPO補充規則(以下、「補充規則」という。)による形式的要件を満たしていることを確認した。

センターは、手続規則第2条(a)項及び第4条(a)項に従って、2011年4月5日付にて紛争解決申立書が受け付けられた事実を被申立人に公式的に通知し、行政手続を開始した。また、手続規則第5条(a)項に従って、被申立人が答弁書を提出することができる締切日は2011年4月25日であった。被申立人は、2011年4月25日付にて答弁書を提出した。

申立人の単独パネル指名意思に従って、センターは、本件の紛争解決のための行政パネルのパネル委員としてナム・ホヒョン(Mr.Ho-Hyun Nahm)を委嘱して、パネル委員としての受諾声明書及び公平性と独立性の宣言書を受け付け、手続規則第7条に従って2011年5月3日付にてパネルを適法に構成した。

4. 事実関係

申立人は、スウェーデンで1943年にIKEA商標の登録をし、日本のみならず、世界各国でも「IKEA」の語に対する商標登録を保有しながら、家具、調度品その他室内装飾品の小売フランチャイズシステムのフランチャイザーとして事業を営む者である。

申立人が保有している登録商標の代表的なものは、以下のとおりである。

商標:IKEA+図形

国際登録番号:926155号

国際登録日:2007年4月24日

優先日:2006年10月24日

日本国指定通知日:2007年7月12日

指定商品及び役務: 16類;印刷物、定期刊行物、紙など

20類;家具、鏡など

35類;家具などの小売及び卸売業、広告業など

43類;食物及び飲料提供業、臨時宿泊業など

役務商標:IKEA

登録番号:3297312

指定サービス:35類商品の販売に関する情報の提供

登録日:1997年4月25日

国家:日本

被申立人は、日本国法人とその代表者であり、紛争ドメイン名のウェブサイト・これと連結したウェブサイトで申立人の製品をオンラインで販売し、販売した製品に対してA/Sを提供する者である。

紛争ドメイン名は、2007年9月14日に登録された。

5. 当事者の主張

A. 申立人の主張

第一、紛争ドメイン名は、申立人が1943年に最初に登録し、世界的に使用されてきた著名商標であるとともに、申立人の登録商標である「IKEA」と混同を生じさせる程度に類似している。

第二、被申立人は、紛争ドメイン名の登録に対する権利または正当な利益を有していない。

第三、被申立人は、紛争ドメイン名が申立人が有しているIKEA商標と混同を生じさせる程度に類似しているという点において、被申立人は、申立人の高い知名度に便乗するために紛争ドメイン名を登録したものであり、紛争ドメイン名からなるウェブサイトに目立つように「IKEA Luv」と表示し、申立人のカタログなどで用いられている商品の写真を同じようにアップロードしているという点などから、消費者が一層の誤認を容易に生じさせるようにした。現在、消費者から誤認・混同をするというクレームが寄せられているため、実際にも消費者における誤認・混同が発生している。被申立人は、このような消費者の誤認・混同に便乗して申立人の商品を高額で転売することによって商業的利益を得るために、インターネットのユーザーを自分のウェブサイトに誘導しようとする意図があったことは明らかである。

申立人は、被申立人に対して商標法・不正競争防止法・著作権法違反を理由として紛争ドメイン名からなるウェブサイトの運営中止を何度も要求したことがあり、この要求に対して被申立人は数回の答弁を通じてその運営中止の意思があることを明らかにしたにも係わらず、既存のウェブサイトを被申立人の「Blomma.Jp」に誘導するために存置している。このような目的で紛争ドメイン名を登録及び使用することは不正である。

したがって、紛争ドメイン名は、申立人に移転されなければならない。

B. 被申立人の主張

第一、紛争ドメイン名のうち「luv」は、「love」ないし「lover」を意味するものであり、紛争ドメイン名は全体的に「IKEAを愛する人のサイト」「IKEA愛好家サイト」「IKEAファンサイト」の意味に転化されたものであり、このような名称は事業者自身が使用するものではなく、その事業者の愛好家が使用するものであるため、紛争ドメイン名は申立人の商標と混同を生じさせる程度に類似していない。

第二、被申立人は、申立人が申立人の製品を店鋪でのみ販売しており、オンラインでは販売していないので、被申立人の知人・友達・地方に居住する者がわざわざIKEA店鋪まで来なくてもIKEA商品の購入が可能なように、その購入代行を行ったことが最初であった。さらに、被申立人は、申立人と提携契約を締結した関東建設事業協同組合への参加を勧められ、同組合のIKEA提携事業部会のメンバーとなった。

被申立人は、被申立人のウェブサイトを申立人のものとして混同することを防ぐために、次のように当該ウェブサイトに多様な表示と告知を行った。

「ショッピングを代行します」(申立人本人による代行はありえない)

「商品をピックアップします」(購入の上で転売する趣旨を明記している)

「セレクトショップ」との文言を使用して第三者性を強調している。

色彩も申立人のものとは異なるものを使用している。

ロゴも独自のロゴを用いている。

「IKEA社製家具」という文言を使用し、申立人のウェブサイトではないことを明確にしている。

「イケア」「IKEA」など「IKEA社通信販売セレクトショップ」に掲載しているブランド名、製品名などは、一般的にInter IKEA Systems B.V.社の登録商標であり、「IKEA通信販売セレクトショップ」では、説明の便宜のために、IKEA社の商品名、ブランド名を記載する場合があるが、これらの商標権を侵害する意図はなく、通販事業においてIKEA社とは一切関係もない」という趣旨を明記している。

このような表示から見ても、被申立人は、申立人の登録商標のイメージを毀損したり混同を生じさせる意図はなかった。申立人は、被申立人のウェブサイトで販売する製品の価格が高額であると指摘しているが、再販売価格は市場で決定されるものであり、これを定価で拘束しようとすることは、むしろ再販売価格拘束行為として違法性がある。インターネットでは高額で転売される場合も多くあるが、そのこと自体が非難されることはないはずである。

したがって、被申立人は、紛争ドメイン名を正当な目的で登録して使用ているため、紛争ドメイン名に対して正当な利益を有している。

第三、被申立人は、紛争ドメイン名の使用において、申立人と混同を生じさせて商業的利得を得ようとしたり、インターネットのユーザーを誘導しようと意図的に企てたものではない。被申立人は、適法かつ正当に、購入代行業を行ってきた。被申立人は、申立人から紛争ドメイン名の使用中止の要請を受けた後、それを中止するべく、現行のblomma.jpへの誘導措置を実施していたが、これは被申立人にも既存の登録顧客があるため、一定の移行措置・移行期間は必要であり、これは適法な経済行為に該当する。したがって、被申立人は、紛争ドメイン名を不正な目的で登録して使用したものではない。

6. 検討及び判断

規定第4条(a)項によれば、申立人は、次の3つをすべて立証しなければならない。

(i) 申立人が権利を有している商標またはサービス標と紛争ドメイン名が同一あるいは混同を生じさせる程度に類似しているということ;

(ii) 被申立人が紛争ドメイン名の登録に対する権利または正当な利益を有していないということ;

(iii) 紛争ドメイン名が不正な目的で登録及び使用されているということ。

A. 商標とドメイン名の同一・類似性

申立人の登録商標「IKEA」と紛争ドメイン名を比較すれば、紛争ドメイン名のうちの「.com」は一般最上位ドメイン名に該当するため商標としての識別力がなく、英文字「luv」も日本において「大好きだ」、「LOVE」、または「LOVER」を意味するため商標としての識別力が弱く、たとえ識別力があるとしても、「IKEA」部分が分離可能な要部に該当して、紛争ドメイン名は申立人の登録商標と要部が同一であるため、全体的に混同を生じさせる程度に類似している。

B. 被申立人の権利または正当な利益

被申立人は、申立人の商標の使用権者でもなく、申立人とは何らの関係もない。被申立人は、申立人の公式代理店でもなく、許諾されたフランチャイジーでもない。被申立人は、申立人と契約を結んだ関東建設事業協同組合のIKEA提携事業部会の所属組合員であると主張しているが、申立人と関東建設事業協同組合の関係を疎明する資料の提出がないだけでなく、たとえこのような疎明資料があったとしても、被申立人が関東建設事業協同組合のIKEA提携事業部会の所属組合員であるという地位が、申立人の登録商標と混同を生じさせる程度に類似している紛争ドメイン名までも登録して使用する正当な利益や権利があるとはいえない。

その他にも、被申立人は、紛争ドメイン名を使用したウェブサイトにおいて、被申立人と申立人との関係や出所に関して誤認・混同を防ぐことができる多様な表示をしたという点においても、被申立人は紛争ドメイン名を正当に使用しており、したがって、紛争ドメイン名に対して正当な利益や権利を有しているという趣旨で主張しているが、誤認・混同はウェブサイトを訪問する前に紛争ドメイン名を見ただけでも、申立人が運営するウェブサイトであると勘違いして該当するウェブサイトを訪問する場合も多くあり得るため(いわゆる、最初の混同)、被申立人の抗弁は妥当ではない。

また、被申立人は、紛争ドメイン名からなるウェブサイトが申立人商品の愛好家やファンサイトに該当するため、被申立人は紛争ドメイン名に関して権利や正当な利益を有しているように主張しているが、愛好家やファンサイトであるからといって権利や正当な利益が認められないだけでなく、紛争ドメイン名からなるウェブサイトは、申立人の商品を高額で販売しているという点において、単純な愛好家サイトやファンサイトとは性格が相違する。

さらに、被申立人は、被申立人が行う申立人商品の購入代行業は正当なものであるため、紛争ドメイン名に関して権利や正当な利益を有しているという趣旨で主張しているが、事実上、被申立人のオンライン販売業は小売業とその性格が異ならず、申立人は「家具の卸・小売業」に関しても登録商標を保有しているという点においても、申立人の許諾なく申立人の登録商標と類似する標識を営業標識として使用して「家具の小売業」をすることは正当ではない。

したがって、被申立人は、紛争ドメイン名に対して正当な権利や利益を有していない。

C. 被申立人の不正な目的

申立人の商標は、家具、調度品その他の室内装飾品などに関し、1943年スウェーデンで最初に登録されて以来、日本をはじめとし、世界各国に登録されているだけでなく、2009年末現在、25ヶ国で267店鋪を展開しており、2009年度には5億9千万人の客の来店があり、申立人の2009年度の総売上高が215億ユーロを記録したことは、申立人が提出した証拠によって確認することができる。2009年度に申立人のカタログが27ヵ国語で52版発行され、総発行部数は2億万部を上回った。さらに、日本で最初のIKEAストアは1974年にオープンし、現在5ヶ店鋪を有しており、年間売上高が57億円を上回るという点なども、申立人が提出した証拠によって確認することができる。

このような事実に照らし、申立人の商標は、日本を含む世界各国において、少なくとも紛争ドメイン名の登録日以前に広く知られていることが認められる。このような点において、被申立人が申立人の商標が広く知られていることを認識して紛争ドメイン名を登録したことを知ることができる。

さらに、被申立人も自認しているように、紛争ドメイン名からなるウェブサイトには被申立人と申立人の登録商標との関係に対して記載されているため、このような事実からも、被申立人が紛争ドメイン名を登録した当時、申立人の商標が登録商標であることを知っていたものと推定することができる。

被申立人は、紛争ドメイン名からなるウェブサイトで多様な表示をして申立人との関係を明らかに区別したため、被申立人は申立人の登録商標のイメージを毀損したり混同を生じさせる意図がなく、さらに、再販売価格は市場で決定されるものであり、製品を高額で転売すること自体が非難の対象ではないため、紛争ドメイン名を使用することにおいて、申立人と混同を生じさせて商業的利得を得ようとしたり、インターネットのユーザーを誘導しようと意図的に企てたことはないという趣旨で主張している。

しかし、誤認・混同は、インターネットのユーザーがウェブサイトを訪問する前に紛争ドメイン名を見ただけでも、申立人が運営するウェブサイトであると勘違いして該当するウェブサイトを訪問する場合も多くあり得るため(いわゆる、最初の混同)、紛争ドメイン名からなるウェブサイトが申立人が運営するウェブサイトイであるものと誤認して誘引されて訪問したインターネットのユーザーが、該当するウェブサイトで表示した混同防止表示、ディスクレームなどを見て申立人の運営するウェブサイトではないことを立ち遅れて悟ったとしても、その場所で販売されている商品を購入することもでき、被申立人はこのようなインターネット訪問者が購入する商品の売上げで商業的利得を得ることができるということは否認することができない。実際に、申立人は、誤認・混同が多数発生したという申立人の公式代理店などからの問い合わせまたは抗議の手紙内容を証拠として提出した。

また、被申立人は、再販売価格は市場で決定されるものであるため、インターネットで申立人の商品価格よりも高額で販売することが違法であるとか非難の対象になるものではないと抗弁しているが、申立人の主張によれば、その価格が申立人の商品の正常価格の2倍に至るものもあるとしているが、これは被申立人が知人や友達または地方にいる者の便宜のために購入代行をしたという善意を疑うようにする事実であり、被申立人がこのような高額の再販売から商業的利得を得たことを容易に推定することができる。

さらに、被申立人は、紛争ドメイン名からなるウェブサイトを中止しようと現行のblomma.jpへの誘導措置を実施しているが、これは被申立人が既存の登録顧客がいるため、一定の移行措置・移行期間は必要であり、その誘導措置は適法な経済行為に該当すると主張しているが、既存の紛争ドメイン名登録・使用自体が不当なものである限り、その登録顧客のための移行措置・移行期間は正当化されることがないという点において、紛争ドメイン名を被申立人の他のウェブサイトに連結するようにしたことも、不正な目的で紛争ドメイン名を使用することに該当する。

したがって、本パネルは、被申立人が紛争ドメイン名を不正な目的で登録して使用したことに該当すると判断する。

7. 裁定

以上で検討したように、本行政パネルは、規定第4条(i)項及び手続規則第15条に従って、ドメイン名<ikealuv.com>を申立人に移転することを裁定する。

ナム・ホヒョン(Ho Hyun Nahm)
単独パネル委員
日時:2011年5月16日