申立人:エスセウア ドゥ シャトウ カロン セギュ,
フランス国セントーエステフェ33180 ドメーヌ ドゥ カロン セギュ
代理人:小田治親
小田・齊藤特許事務所 東京都港区虎ノ門1-1-24オカモトヤビル5F
被申立人:植木正徳
福岡県西区姪浜4-14-25、4F
ドメイン名:<calon-segur.com> (以下「本件ドメイン名」)
登録機関:GMO Internet, Inc. d/b/a Discount-Domain.com and Onamae.com. (以下「本件登録機関」)
本件申立書は、2015年8月31日にWIPO仲裁調停センター(以下「センター」)へ提出された。センターは9月1日にメールにより本件ドメイン名の登録確認を本件登録機関に要請した。9月2日に本件登録機関はメールによりセンターへ登録確認の返答をし、被申立人がドメイン名登録者であることを確認し、その連絡先細目を通知した。センターは申立人へ[日付]に登録機関により公開されたドメイン名登録者および連絡先細目を通知した。センターは申立書が統一ドメイン名紛争処理方針(以下「処理方針」)、統一ドメイン名紛争処理方針手続規則(以下、「手続規則」)およびWIPO統一ドメイン名紛争処理方針補則(以下,「補則」)における方式要件を充足していることを確認した。
手続規則第2条(a)項および第4条(a)項に従い、センターは本件申立を被申立人に電子メール、郵送及びファクシミリにより通知し、2015年9月22日に紛争処理手続が開始された。手続規則第5条(a)項に従い、答弁書の提出期限は10月12日であった。
被申立人は、2015年10月5日に答弁書を提出した。その「申立書の陳述・主張に対する答弁」の項目には、「申立書に対する反論等はございません。また、申立人が希望されている通り当該ドメインcalon-segur.comについては廃止させていただきます。」との記載がある。
センターは、2015年10月7日、処理方針第17条(a)に従い、両当事者に対して、もし申立人が和解交渉の方法を選択し、本件ドメインネーム仲裁手続の停止を希望するのであれば、10月14日までにその旨申し出ること、その申し出があれば、本件ドメインネーム仲裁手続は30日間停止すること等を通知した。これに対して、申立人は、10月15日のセンターへの電話で、本件ドメインネーム仲裁手続の続行を希望する旨伝えた。
センターは、道垣内正人を単独のパネリストとして本件について2015年11月3日に指名した。紛争処理パネルは、同パネルが正当に構成されたことを確認した。手続規則第7条の要請に従い、紛争処理パネルはセンターへ承諾書および公平と独立に関する宣言を提出した。
なお、規則第11条(a)により、本件の手続言語は、登録合意書の言語である日本語である。
申立人は、下記の2件の商標を有している。
(a) 商標登録4668983号:Château Calon Ségur
出願日:2002年9月3日
登録日:2003年5月2日
指定商品:第33種 ワイン、その他の果実酒、洋酒
(b) 商標登録5085314号:Calon Ségurを含む文字をハート形で囲み、その上半分が農場のような景色にかぶさるように配置した絵
出願日:2006年11月24日
登録日:2007年10月19日
指定商品:第33種 ワイン、その他の果実酒、洋酒
Calon Ségurは、申立人が製造販売しているフランス・ボルドー・メドック地方産のワインの名称である。
被申立人は、2013年2月18日に本件ドメイン名を登録した。そして、現在、本件ドメイン名により表示されるウェブ・サイトには、「和食・日本料理入門」及び”Japanese Cuisine”とのタイトルのもとに、日本語で、「和食とは」と題するコメントがあり、上部の「寿司」、「刺身」、「明太子」、「おせち料理」、「ふぐ料理」のタブをクリックするとそれぞれについてのコメントがあるとともに、それらのいずれのページにおいても最下部に、「とり市のご紹介」というタブがあり、「尚、日本料理とり市では、季節の食材を取り入れた和食メニューを取り揃え普段のお食事から冠婚葬祭に至るまで訪れるお客様の特別な時間を演出致します。」というコメントともに、http://www.toriichi.jp/の記載があり、これをクリックすると、福岡市西区にある「とり市」という日本料理店のウェブ・サイトにとび、このサイトでは、その店の献立、部屋、料金、アクセス等の情報が掲載されている。
申立人は、上記4の商標(a)及び(b)を有しており、 これらの商標のうち識別力を有する要部であるCalon Ségurは、1855年にフランスで定められたボルドーワインの格付けで第3等級とされた14の銘柄のひとつであり、世界的に著名である。この語の由来は、18世紀にボルドー・メドック地区のサンエステフ村のワイナリーの所有者であったセギュール侯爵の氏名であるSégurと、サンエウテフ村がローマ時代に呼ばれていた地名であるCalonとを結合したものである。そして、本件ドメイン名は、このCalon Ségurに<.com>付けただけである。
したがって、申立人が有する商標と少なくとも混同させるような類似性を有している。
被申立人の氏名は本件ドメイン名と一致しない。特許庁の特許情報プラットフォームを検索する限り、被申立人は、Calon Segurについて商標を有していない。申立人は、上記4の商標(a)及び(b)の使用を被申立人に許諾していない。
したがって、被申立人は、本件当該ドメイン名について権利または正当な利益を有していない。
遅くとも被申立人が本件ドメイン名を登録した2013年2月18日には、申立人が有するCalon Ségurという名称は著名であり、上記のとおり、この語がワイナリーの所有者であった侯爵の氏名とそのワイナリーがある村のローマ時代の名称とを結合させた造語であることを考慮すると、被申立人は申立人の著名商標に依拠して本件ドメイン名を登録したことは明らかである。
そして、被申立人は、本件ドメイン名を使用してウェブ・サイトを運営しており、そのウェブ・サイトは、飲食物の需要者をそのウェブ・サイトから特定の飲食店に呼び込む目的を有している。
したがって、被申立人は、本件ドメイン名を不正の目的で登録かつ使用されている。
申立人は、被申立人との間で和解により本件ドメイン名をめぐる紛争を解決することを拒否し、上記の主張を維持している。
被申立人は2015年10月5日に答弁書を提出したものの、「申立書に対する反論等はございません。また、申立人が希望されている通り当該ドメインcalon-segur.comについては廃止させていただきます。」と記している。
本件においては、被申立人は本件ドメイン名につき申立人の希望通りにする旨の回答をしているものの、申立人は被申立人との間で和解することを拒んでいる。このような場合の扱いについて、WIPO Overview of WIPO Panel Views on Selected UDRP Questions, Second Edition (以下、"WIPO Overview 2.0")のparagraph 4.13によれば、申立人の主張の当否を判断するまでもなく、被申立人の上記のような回答にのみ基づいて、申立人の求める請求を認容することができるとされている。もとより、WIPO Overview 2.0は拘束力があるルールではないが、本パネルも他の多くの先例と同様の結論を与えるべきであると考える。
なお、念のために付言すれば、手続規則第5条(e)が、「もし登録者が答弁書を提出しないときには、例外的な事情がない限り、パネルは申立書に基づいて裁定を下すものとする。」と定めていることに照らせば、手続規則は本件のような場合に申立人の主張通りに判断することを認めていると考えられ、上記4記載の背景となる事実に鑑みれば、そのように裁定を下すことを妨げる「例外的な事情」は認められない。
以上の理由により、処理方針第4条(i)項および手続規則第15条に従い、紛争処理パネルは本件ドメイン名<calon-segur.com>を申立人へ移転することを命じる。
道垣内 正人
パネリスト
2015年11月19日