WIPO Arbitration and Mediation Center

紛争処理パネル裁定

ソシエテ エール フランス 対

ツルマキ マサト

事件番号 D2016-0179

1. 紛争当事者

申立人: フランス共和国パリ ソシエテ エール フランス

申立人代理人: フランス共和国 MEYER & Partenaires

被申立人:日本国千葉県松戸市 ツルマキ マサト

2. ドメイン名および登録機関

紛争の対象であるドメイン名:<airfranceklm-procurement.com>

本件ドメイン名の登録機関:Discount-Domain.com及びOnamae.comのデータベース管理者であるGMO Internet, Inc(GMOインターネット株式会社。以下、「登録機関」)

3. 手続の経過

本件申立書は、2016年1月28日にWIPO仲裁調停センター(以下、「センター」)へ提出された。センターは2016年1月28日にメールにより本件ドメイン名の登録確認を登録機関に要請した。2016年1月29日に登録機関はメールによりセンターへ登録確認の返答をし、申立書に記載された被申立人および連絡先細目と異なる情報を当該ドメイン名の登録者として公開した。センターは申立人へ2016年2月1日に登録機関により公開されたドメイン名登録者および連絡先細目を通知した。それに伴い、申立人は申立書を訂正することができると案内された。申立人は申立書の補正書を2016年2月4日にセンターへ提出した。センターは申立書および補正書が統一ドメイン名紛争処理方針(以下、「処理方針」)、統一ドメイン名紛争処理方針手続規則(以下、「手続規則」)およびWIPO統一ドメイン名紛争処理方針補則(以下、「補則」)における方式要件を充足していることを確認した。

手続規則第2条(a)項および第4条(a)項に従い、センターは本件申立を被申立人に通知し、2016年2月10日に紛争処理手続が開始された。手続規則第5条(a)項に従い、答弁書の提出期限は2016年3月1日であった。被申立人は答弁書を提出しなかった。したがって、センターは被申立人の義務の不履行を2016年3月2日に通知した。

センターは、Haig Oghigianを単独のパネリストとして本件について2016年3月17日に指名した。紛争処理パネルは、同パネルが正当に構成されたことを確認した。手続規則第7条の要請に従い、紛争処理パネルはセンターへ承諾書および公平と独立に関する宣言を提出した。

4. 背景となる事実

申立人ソシエテ エール フランスは、フランス共和国のMEYER & Partenairesを代理人として指名している、フランス共和国の会社で、パリに本社を有する。同社はフランス共和国の航空旅客および貨物輸送会社である。

申立人は、国際商標「AIR FRANCE」(第828334号)および日本を含むその他の国々における国内商標を含む、「AIR FRANCE」の登録商標(以下、あわせて「本商標」という)を保有している(付録F1)。また、これに関連して、申立人は、www.airfrance.comを含む、AIR FRANCE商標をそのドメイン名に含む百を超えるドメイン名を保有し、かつ、当該商標とKLM(以下に定義する)とを組み合わせた「airfranceklm」の用語を含む15のドメイン名を保有している(付録C、G)。

申立人およびオランダに拠点を置く国際旅客および貨物輸送会社であるKLM Royal Dutch Airlines(以下、「KLM」)は、2003年以来提携しており、併せて、ヨーロッパおよび世界大手の航空輸送グループの1つを結成している。

被申立人は、登録機関に本ドメイン名を登録している。

5. 当事者の主張

A. 申立人

申立人は、以下の理由によって、本ドメイン名を申立人へ移転することを求めた。

申立人は、本ドメイン名は、本商標と同一であるか、または混同を引き起こす類似性を有していると主張する。本ドメイン名は、申立人の商標であるAIR FRANCEを含んでおり、また、一般的かつ記述的な単語である「procurement」を追加したのみである。申立人は、仮にドメイン名が、申立人の商標全体のような特徴的な単語を含んでいる場合には、他の単語を追加したとしても、当該商標に混合を引き起こすほど類似していることになると主張する。

第二に、申立人は、本ドメイン名について被申立人が権利または正当な利益を有しないと主張し、その理由として、被申立人は、申立人、その関連会社、またはAIR FRANCE商標の下で申立人が提供する活動との関係が一切ない、また、被申立人はAIR FRANCE商標を使用する明示的・黙示的なライセンス、権限または同意を受けていない、と主張する。

第三に、申立人は、被申立人が、本ドメイン名を悪意で登録し、使用していると主張し、その理由として、AIR FRANCE商標の知名度に鑑みると、被申立人が申立人の権利を知らずにそのドメイン名を登録したとは考えられない、また、被申立人は、侵害している本ドメイン名を用いて様々な商業サービスを宣伝するウェブページを運営しており、本ドメイン名を悪意で使用している、と主張する。

B. 被申立人

被申立人は、申立人の主張に対して、答弁書の提出その他の反論を行わなかった。

6. 審理および事実認定

A. 同一または混合を引き起こすほどの類似性

処理方針第4条(a)(i)項は、申立人に対して、ドメイン名が商標と同一または混合を引き起こすほど類似していることの立証を求めている。

UDRPの過去の裁定において、被申立人がドメイン名に他のマークを使用しても混合を避けることはできないと判断されている(Research In Motion Limited 対 One Star Global LLC, WIPO事件番号 D2008-1752)。特色のない一般的な単語の追加は、混合を判断する際の防御とはならない(Research In Motion Limited 対 Louis Espinoza, WIPO事件番号 D2008-0759, Research In Motion Limited 対 Jumpine.com, WIPO事件番号 D2008-0758, Research Quitxtar Investments, Inc. 対 Dennis Hoffma, WIPO事件番号 D2000-0253)。

提出された証拠によれば、本ドメイン名は、AIR FRANCEと、KLMと、特色のない一般的な単語である「-procurement」の組合せであることが明らかである。さらに、申立人の行う事業、および、申立人が大手航空会社として世界的に周知であることに鑑みれば、本ドメイン名に「-procurement」の文言が追加されることによって混合はさらに生じることとなり、本ドメイン名は申立人により運営されている、または申立人と関連しているウェブサイトにつながるとの誤解を生じさせることになる。

UDRPの過去の裁定および上記の理由により、紛争処理パネルは、本ドメイン名が、AIR FRANCEと混合を引き起こすほど類似していると判断する。従って、処理方針第4条(a)(i)項で求められる要件は満たされる。

B. 権利または正当な利益

処理方針第4条(a)(ii)項は、申立人に対して、ドメイン名について被申立人に権利および正当な利益がないことの立証を求めている。処理方針第4条(c)項は、ドメイン名に関する権利または正当な利益を証明するために被申立人が主張することのできる状況について、以下のものを非包括的に列挙している。

(i) 紛争以前の、商品またはサービスの真正な提供に関連してなされるドメイン名の使用(4条(c)(i)項)、

(ii) 被申立人が、商標を登録していない場合であっても、ドメイン名によって一般的に認知されていることが示されること(4条(c)(ii)項)、または

(iii) 消費者を誤解させ、またはその商標のイメージを悪化させる意図のない、ドメイン名の正当な、非商業的使用またはフェアーユーズ(4条(c)(iii)項)。

本件において、申立人は、被申立人が本ドメイン名について権利または正当な利益を欠いていることの一応の証拠を提出した。提出された証拠により、本ドメイン名が申立人がAIR FRANCEの商標を使用し始めてから相当後に登録されたことは明らかである。従って、被申立人の本ドメイン名の権利または正当な利益を証明する証拠の提出義務は、被申立人側にある(PepsiCo, Inc. 対 Amilicar Perez Lista d/b/a Cyberson, WIPO事件番号 D2003-0174)。しかし、被申立人からは、この点に関し、いかなる証拠も提出されていない。

また、被申立人が本ドメイン名によって一般的に認知されているまたは認知されてきたことを示す証拠は提出されていない。さらに、被申立人が、ドメイン名またはその他の目的のために、本ドメイン名またはその他のこれと混合するほど類似した商標を保有し、使用することのできるライセンス、権限または同意を与えられているという申立人と被申立人間の関係を示す証拠も提出されていない。

さらに、被申立人は、キャッシングサービスを比較・宣伝するウェブページとして本ドメイン名を使用しているが、被申立人が当該ウェブサイトにより消費者を誤解させる意図を有していないこと、または商標イメージを悪化させる意図を有していないことを示す証拠も提出されていない。

従って、紛争処理パネルは、申立人が被申立人が本ドメイン名について何らの権利も正当な利益も有していないことを証明したと判断する。従って、処理方針第4条(a)(ii)項で求められる要件は満たされる。

C. 悪意による登録および使用

処理方針第4条(a)(iii)項は、申立人に対して、ドメイン名が悪意により登録され、使用されていることの立証を求めている。さらに、処理方針第4(c)条は、ドメイン名の悪意による登録および使用を証明するために申立人が主張することのできる状況について、非包括的に列挙している。当該状況とは以下のものを含む。

(i) ドメイン名登録を、主に商標登録者である申立人に対して売却する目的で登録したこと(4条(b)(i)項)、

(ii) 商標の登録者が商標と合致したマークを登録することができなくなるようにするために登録したこと(4条(b)(ii)項)、または

(iii) ドメイン名の使用により、ウェブサイトまたはその他の場所もしくはウェブサイトその他の場所における商品やサービスの情報源、スポンサーシップ、所属、または推薦について、申立人のマークと混乱させ、商業上の利益を得るためにインターネットの利用者をウェブサイトまたはその他のオンライン上の場所に故意に呼び込もうとしたこと(4条(b)(iv)項)。

AIR FRANCE商標は有名であり、特徴的であるため、被申立人が、本ドメイン名を登録した際には、AIR FRANCE商標を知っていたはずである。被申立人が、本ドメイン名の登録当時に申立人の商標権を認識していたことは、被申立人の悪意による登録を推認させる(BellSouth Intellectual Property Corporation 対 Serena, Axel, WIPO事件番号D2006-0007)。また、本ドメイン名が申立人と何らの関係もないウェブサイトにつながっており、キャッシングサービスを比較・宣伝するウェブページとして情報を提供していることは、悪意による使用と考えられる。さらに、被申立人は、キャッシングサービスの情報を提供することによって、AIR FRANCE商標を利用して、その情報源や所属について誤解をしたインターネットの利用者から故意に利益を得ようとしていたとも考えられる。

従って、処理方針第4条(a)(iii)項で求められる要件は満たされる。

7. 裁定

以上の理由により、処理方針第4条(i)項および手続規則第15条に従い、紛争処理パネルは当該ドメイン名<airfranceklm-procurement.com>を申立人へ移転することを命じる。

Haig Oghigian
パネリスト
日付: 2016年3月31日