WIPO Arbitration and Mediation Center

紛争処理パネル裁定

パナソニック株式会社 対 河合信義(Nobuyoshi Kawai)

事件番号 D2016-0549

1. 紛争当事者

申立人:パナソニック株式会社, Japan

申立人代理人: 緑の森法律事務所 増井 賢(Midorinomori Law Office), Japan

被申立人:河合信義(Nobuyoshi Kawai), Tokyo, Japan, 代理人なし(self-represented)

2. ドメイン名および登録機関

紛争の対象であるドメイン名:<panasonic.tokyo>

本件ドメイン名の登録機関:GMO Internet, Inc. d/b/a Discount-Domain.com and Onamae.com.

3. 手続の経過

本件申立書は、2016年3月21日にWIPO仲裁調停センター(以下「センター」)へ提出された。センターは2016年3月21日にメールにより本件ドメイン名の登録確認を登録機関GMO Internet, Inc. d/b/a Discount-Domain.com and Onamae.comに要請した。2016年3月22日にGMO Internet, Inc. d/b/a Discount-Domain.com and Onamae.comはメールによりセンターへ登録確認の返答をし、河合信義がドメイン名登録者であることを確認し、その連絡先細目を通知した。センターは申立書が統一ドメイン名紛争処理方針(以下「処理方針」)、統一ドメイン名紛争処理方針手続規則(以下、「手続規則」)およびWIPO統一ドメイン名紛争処理方針補則 (以下,「補則」)における方式要件を充足していることを確認した。

手続規則第2条(a)項および第4条(a)項に従い、センターは本件申立を被申立人に通知し、2016年4月1日に紛争処理手続が開始された。手続規則第5条(a)項に従い、答弁書の提出期限は2016年4月21日であった。被申立人は2016年4月16日に答弁書を提出した。

センターは、近藤惠嗣を単独のパネリストとして本件について2016年5月10日に指名した。紛争処理パネルは、同パネルが正当に構成されたことを確認した。手続規則第7条の要請に従い、紛争処理パネルはセンターへ承諾書および公平と独立に関する宣言を提出した。

本件ドメイン名の登録契約は日本語で作成されている。

4. 背景となる事実

申立人は、日本国大阪市に本社を置く総合電機メーカーである。申立人の商号であるPanasonicは、日本国内のみならず、世界的にも知られている。申立人は、日本国特許庁において、Panasonicの文字商標について、商標登録第4082778号(出願日:1995年10月25日、登録日:1997年11月14日)ほかの商標登録を有している。

5. 当事者の主張

A. 申立人

(i)同一または混同させるような類似性

現在では、「Panasonic」という名称は日本国内では誰もが申立人の商標もしくはその商号を連想するほど著名である。申立人は、電気機器の製造および販売行っており、全国に相当のシェアを有している。

本ドメイン名は、「panasonic」及び「tokyo」の組合せであり、「tokyo」は地名を表すトップレベルドメインであるから、本ドメインの本質的部分は「panasonic」である。「panasonic」と申立人の商号及び前記登録商標は同一である。

(ii) 権利または正当な利益

申立人と被申立人の間に契約関係はなく、商標の使用を許諾した事実もない。被申立人は、「panasonic」という名称またはこれに関連する名称で知られている事実はない。被申立人において、「panasonic」を含むドメイン名を設定する必要は一切ない。

(iii) 不正の目的

被申立人が本ドメイン名を用いて展開しているウェブサイトにあるリンク先では、インターネット通信販売を用いてカワイ電機が取り扱う電気製品の購入ができるように設定されている。申立人はカワイ電機の代表取締役である。被申立人は、申立人の知名度を利用して閲覧者を信用させ、自身が経営する有限会社カワイ電機へ顧客の誘因を図る目的がある。被申立人において、消費者の誤認を惹き起こして商業的利益を得る目的があったから、被申立人は、本ドメイン名を不正な目的で登録して、かつ使用している。

B. 被申立人

被申立人の展開するウェブサイトは、閲覧した第三者が申立人自身又は関連会社が運営または関連したサイトと誤認することがないように、様々な配慮をしている。

「松下電器カタログ1958」は松下電器産業株式会社とその創業者である松下幸之助氏の偉業を称えるためである。有限会社カワイ電機へ顧客の誘因を図る目的ではない。

本ドメイン名を用いて展開しているウェブサイトから被申立人の運営するブースへリンクする部分を削除することにより、完全に非商業目的となる。

6. 審理および事実認定

(i)同一または混同させるような類似性

本ドメイン名から東京を表すトップレベルドメイン「tokyo」を除外した「panasonic」と申立人の商号及び前記登録商標は同一である。トップレベルドメイン「tokyo」の部分は同一性、類似性の判断に影響を及ぼさない。したがって、本ドメイン名は、処理方針4条a,(i)を充足する。

(ii) 権利または正当な利益

被申立人の主張を総合しても、被申立人が本ドメイン名を用いて正当な目的をもって商品又はサービスの提供を準備していたことは認められない。被申立人が代表取締役を務める有限会社カワイ電機は「panasonic」という名称とは無関係である。被申立人が言及する松下電器産業株式会社は申立人の旧商号であるから、「松下電器カタログ1958」が申立人の古いカタログであることは事実であるとしても、本ドメイン名を用いたウェブサイトからのリンク先がカワイ電機の通信販売サイトであったことに照らせば、松下電器産業株式会社とその創業者である松下幸之助氏を称えるために「panasonic.tokyo」というドメイン名を採用したという被申立人の主張は信用できない。したがって、「松下電器カタログ1958」をウェブサイトに掲載すること自体が許容されるとしても、それによって被申立人が本ドメイン名に関して正当な利益を有することにはならない。よって、本ドメイン名は、処理方針4条a,(ii)を充足する。

(iii) 不正の目的

上述のとおり、本ドメイン名を用いたウェブサイトからのリンク先がカワイ電機の通信販売サイトであった。本手続開始後にリンクを削除しても、その事実そのものを否定することはできない。本ドメイン名を用いたウェブサイトがどのようなものであろうと、本ドメイン名を見た一般市民が申立人を想起することは明白である。したがって、被申立人は、申立人の知名度を利用して自らのウェブサイトに閲覧者を導き、そこからのリンク先をカワイ電機の通信販売サイトとすることによって商業的利益を得る目的があったと認められる。よって、本ドメイン名は、処理方針4条a,(iii)を充足する。

7. 裁定

以上の理由により、処理方針第4条(i)項および手続規則第15条に従い、紛争処理パネルは本ドメイン名 <panasonic. tokyo>を申立人へ移転することを命じる。

近藤惠嗣パネリスト
日付: 2016年5月24日