申立人は、サイボウズ株式会社(Cybozu,Inc.)であり、その住所地は日本国東京である。申立人代理人は、渥美坂井法律事務所であり、その住所地は日本国東京である。
被申立人は、Host Master, Transure Enterprice Ltdであり、その住所地はWilmington, Delaware, United States of Americaである。
紛争の対象であるドメイン名:<cybouz.com>(以下「本件ドメイン名」という
本件ドメイン名の登録機関:Above.com PTY LTD.
本件日本語での申立書は、2017年11月10日にWIPO仲裁調停センター(以下「センター」という)へ提出された。センターは2017年11月10日にメールにより本件ドメイン名の登録確認を登録機関に要請した。2017年11月13日に登録機関はメールによりセンターへ登録確認の返答をし、申立書に記載された被申立人および連絡先細目と異なる情報を当該ドメイン名の登録者として公開した。センターは申立人へ2017年11月17日に登録機関により公開されたドメイン名登録者および連絡先細目を通知した。それに伴い、申立人は申立書を訂正することができると案内された。センターは同日に、英語と日本語で、紛争処理手続の言語に関して、電子メールを当事者に送った。申立人は2017年11月20日に日本語が手続の言語であることを要求した。被申立人は紛争処理手続の言語に関して要求を提出しなかった。申立人は申立書の補正書を2017年11月22日にセンターへ提出した。
センターは申立書および補正書が統一ドメイン名紛争処理方針(以下「処理方針」という)、統一ドメイン名紛争処理方針手続規則(以下「手続規則」という)およびWIPO統一ドメイン名紛争処理方針補則(以下「補則」という)における方式要件を充足していることを確認した。
手続規則第2条および第4条に従い、センターは英語と日本語で本件申立を被申立人に通知し、2017年11月24日に紛争処理手続が開始された。手続規則第5条に従い、答弁書の提出期限は2017年12月14日であった。被申立人は答弁書を提出しなかった。したがって、センターは被申立人の懈怠を2017年12月15日に通知した。
センターは、Haig Oghigianを単独のパネリストとして本件について2017年12月27日に指名した。紛争処理パネルは、同パネルが正当に構成されたことを確認した。手続規則第7条の要請に従い、紛争処理パネルはセンターへ承諾書および公平と独立に関する宣言を提出した。
本件ドメイン名登録合意書の言語は英語であるが、申立人は、被申立人が日本語に習熟していることが明らかであるので、日本語により行われるべきであるとする。申立人が証拠として提出した文書によれば、被申立人は本件ドメイン名を使用して日本語を記載したウエブサイトを運営していることが明らかである。かつ、被申立人はセンターからの説明にもかかわらず、言語に関しての要求を提出せず、紛争処理手続が日本語によって行われることに異議がないものとみなされる。以上の事情に鑑み、職権により本紛争手続の使用言語は日本語とするのが相当である。
被申立人が答弁書を提出しなかったため、背景となる事実は、原則として、本件申立書に基づいて認定する。
申立人は、クラウドサービス等の開発・販売等を日本国内及び国際的に展開している会社であり、日本においてサイボウズ(商標登録番号5237099、登録日2009年6月5日)及びCYBOZU(商標登録番号5237100、登録日登録日2009年6月5日及び商標登録番号4647986、登録日2003年2月28日)の商標を登録している。また、海外においてもCYBOZUの商標登録を保有している。
本件ドメイン名は、2016年8月31日に登録され、当該ウエブサイトに並んでいるソフトウエアやクラウド等の言葉をクリックすると他社の広告が表示される。
申立人は、本件ドメイン名の移転を求めている。
申立人は、本件ドメイン名が申立人が商標権を有する登録商標サイボウズ及びCYBOZUに混同を引き起こすほど類似していると主張する。すなわち、本件ドメイン名<cybouz.com>の要部である “cybouz”は、申立人の登録商標である CYBOZUの末尾の二文字である “u”と “z”を入れ換えただけで、タイポ・スクワッティングに該当するなどと主張する。
また、申立人は、被申立人が本件ドメイン名について権利又は正当な利益を有しないと主張する。すなわち、申立人が、サイボウズ及びCYBOZUの商標を実際に使用しており、被申立人は申立人より当該商標を使用するライセンスを取得したことも、本件ドメイン名の登録の許諾を求めたこともなく、申立人が被申立人に対して本件ドメイン名の登録を許諾した事実もないなどと主張する。
さらに、申立人は、本件ドメイン名の登録が悪意により行われ、悪意により使用されていると主張する。すなわち、被申立人は、申立人商標の存在を知りながら本件ドメイン名を登録し、商業的利益を得るために本件ドメイン名を使用しているなどと主張する。
被申立人は答弁書を提出しなかった。
処理方針第4条(a) (i)項に従い、申立人は、被申立人のドメイン名が、申立人が権利を有する商標又はサービス・マークと同一であるか、又は混同を引き起こすほど類似すること、を証明しなければならない。
WIPO Overview of WIPO Panel Views on Selected UDRP Questions, Third Edition (“WIPO Overview 3.0”)の1.9項によると、商標の一般的な、顕著な、もしくは意図的なミススぺリングからできているドメイン名は、混同を引き起こすほどに類似性があるとされる。本件では、申立人の登録商標である CYBOZUと本件ドメイン名の “cybouz”とは、使用している文字は同じであり、末尾の二文字の順が入れ換わっている点を除き同一であるため、両者の外観は酷似している。加えて、本件ドメイン名を日本語の表音文字カタカナで表記すると、申立人の登録商標である「サイボウズ」と同一になる。
したがって、本件ドメイン名は、申立人のCYBOZU及びサイボウズの商標に混同を引き起こすほど類似している。よって、申立人は、処理方針第4条(a)(i)の要件を満たした。
処理方針第4条(a)(ii)に従い、申立人は、被申立人が本件ドメイン名について権利又は正当な利益を有しないこと、を証明しなければならない。同4条(c)は、被申立人がかかる権利又は利益を有することになる例示的な事情を提供する。かかる事情は以下のとおりである。
(i) 被申立人が、この紛争について何らかの通知を受ける以前に、善意による商品または役務の提供を行うために、当該ドメイン名を使用していた、又は、使用のために明白な準備をしていたこと;
(ii) 被申立人が、商標権を取得していなくても、そのドメイン名の名称で一般に知られていたこと; 又は
(iii) 被申立人がドメイン名を、正当にして非商業的に又は公正に使用しており、その際に、消費者をそらす、又は、当該商標を毀損する意図を有していないこと。
申立人が、被申立人が当該ドメイン名について権利又は正当な利益を有しないことを疎明した場合、立証責任が転換し、被申立人は、自己の権利又は正当な利益を示す適切な主張及び証拠を提出しなければならない。被申立人がそのような適切な主張及び証拠の提出に失敗した場合、申立人は、処理方針第4条(a)(ii)の要件を満たしたものとみなされる。例えばCroatia Airlines d.d. 対Modern Empire Internet Ltd.、WIPO事件番号D2003-0455及びBanco Itau S.A. 対 Laercio Teixeira、 WIPO 事件番号D2007-0912参照。
本件申立書によると、CYBOZUが申立人により世界各国で保有される商標であり、本件ドメイン名はそのCYBOZUの末尾の二文字を入れ換えてジェネリックトップレベルドメイン(“gTLD”)である(“.com”)を付加したにすぎない。また、本件ドメイン名は、CYBOZUとは無関係のウエブサイトに使われ、そこに並んでいるソフトウエアやクラウド等の言葉をクリックすると他社の広告が表示される。しかも、被申立人は、センターからの通知にかかわらず、言語に関する主張も本件紛争処理手続に関する答弁書の提出も行っていない。
したがって、紛争処理パネルに提出された主張及び証拠を前提とする限り、被申立人が、善意による商品又は役務の提供を行うために、本件ドメイン名を使用していた又は使用のための明白な準備をしていたとは認められず、また、被申立人が本件ドメイン名を正当にして非商業的に又は公正に使用していたとも認められない。
さらに、本件紛争処理手続において、被申立人が本件ドメイン名の名称で一般に知られていたことを基礎付ける証拠は一切提出されておらず、申立人が、被申立人による本件ドメイン名の使用を承認又は許可していた事実を示す証拠も提出されていない。
以上からすると、申立人は、被申立人が本件ドメイン名について権利又は正当な利益を有しないことを疎明したといえる。そして、前記のとおり、被申立人は、本件紛争処理手続に関して一切応答を行っておらず、自己の権利又は正当な利益を示す主張又は証拠を全く提出していない。
したがって、被申立人は本件ドメイン名について権利又は正当な利益を有しないと認められる。よって、申立人は、処理方針第4条(a)(ii)の要件を満たした。
処理方針第4条(a)(iii)に従い、申立人は、本件ドメイン名が、悪意で、登録かつ使用されていることを証明しなければならない。
前記のとおり、CYBOZUは申立人により世界各国で保有される商標であり、本件ドメイン名はそのCYBOZUの末尾の二文字を入れ替えてgTLDである(“.com”)を付加したにすぎない。そして、本件ドメイン名は、CYBOZUとは無関係のウエブサイトに使われ、そこに並んでいるソフトウエアやクラウド等の言葉をクリックすると他社の広告が表示される。しかも、被申立人は、センターからの通知にかかわらず、言語に関する主張も本件紛争処理手続に関する答弁書の提出も行っていない。
また、甲15号証によれば、被申立人はドメインの管理者を通じて本件ドメインを1,300ドル以上であれば売却することを申し出ており、商業的利益を得るために本件ドメインを保有していることがうかがえる。この点も被申立人の悪意を基礎づける。
以上からすると、処理方針第4条(b)(iv)に従い、当該ドメイン名は、悪意で、登録かつ使用されていると認められる。したがって、申立人は、処理方針第4条(a)(iii)の要件を満たした。
以上の理由により、処理方針第4条(i)項および手続規則第15条に従い、紛争処理パネルは当該ドメイン名<cybouz.com>を申立人へ移転することを命じる。
Haig Oghigian
パネリスト
日付: 2018年1月11日