2024/08/19
2023年8月24日、WIPO GREENは「Financing Impact Solutions for Climate Smart Agriculture in Latin America (中南米の気候変動対応型スマート農業のためのインパクトソリューションへの投資)」というタイトルのウェビナーを開催しました。このイベントでは、アーリーステージファンド、農業技術 (アグリテック) 投資家、ベンチャーキャピタル企業、インパクト投資家、インパクト測定企業が集まり、WIPO GREENの中南米 (LATAM) のネットワークから技術を提供できる者と技術を必要としている者との間で協力できる分野を探りました。本ウェビナーの目的は、この地域のインパクト投資家のエコシステムを調査し、参加者に出資の機会について知らせることでした。
中南米全域の農業と食のためのテクノロジー活用ソリューションに投資するアーリーステージファンドであるSP Ventures社、ブラジルを拠点とするベンチャーキャピタルファンドであるKPTL社、インパクトスタートアップに焦点を合わせたグローバル企業であるVillage Capital社など、この地域で活動するアグリテック関連の主要なベンチャーキャピタルファンドの代表者を含む、アグリテック部門のインパクトファイナンスの専門家たちが議論を主導しました。また、インパクト投資の大手コンサルティング会社であるThird Way Partners社、インパクト測定会社である60 Decibel社も登壇しました。
Third Way Partners社が、ESG (環境・社会・ガバナンス) 投資とインパクト投資の違いを説明しました。どちらもサステナブルファイナンスに属しますが、それぞれ異なる目的を果たしています。世界全体で41兆米ドル規模の市場であるESG投資では、企業が特定の基準を遵守しているかどうかに基づいて投資が評価され、持続可能性とリスクプロファイルが財務上の決定に組み込まれます。世界全体で1兆2,000億米ドル規模と推定されるインパクト投資では、コンプライアンスを超えて、社会的に、環境的に及び財務上、目に見え、かつ測定可能なプラスのインパクトが創出されます。
パネリストたちによると、中南米地域では、最近の傾向として、莫大な資源、人口増加、持続可能性重視によるアグリテックへの投資増加など、インパクト投資が活況を呈しています。2022年に、プライベート・エクイティ・ファンドのファンドマネージャーたちは1,352件の取引に282億米ドルを投じ、インフラ、運輸及びエネルギー資産への投資が急増しました。電気通信部門と再生可能エネルギー部門には多額の資本流入があり、2021年と比較してそれぞれ3倍及び5倍の伸びを示しました。伝統的な銀行の融資基準が厳しくなっているために、オルタナティブ・デット・ファイナンスの需要が高まり、プライベートクレジット投資は過去5年間で6倍に増加しました。パネリストたちはまた、ファンドマネージャーや投資家たちが気候変動戦略に強い関心を示していると指摘しました。
提起された重要な問題の1つは、特に気候変動や増え続ける人口などの課題に直面して食料安全保障をどのように確保するかということでした。例えば、世界有数の農産物輸出国であるブラジルは、自国の増加する人口と消費国の人口の両方のニーズを満たしながら炭素排出量を削減するにはどうすればよいでしょうか。パネリストたちは、そのためには、起業家、イノベーション及びテクノロジーへの体系的な投資 (特にデジタル及びライフサイエンステクノロジーへの体系的な投資) による、業界の抜本的な変革が必要であると指摘しました。
パネリストたちは、中南米のアグリビジネスの発展に着目して、コスト削減と効率向上を促す触媒としての、技術の採用の重要性を強調しました。この部門は、補助金などの政府支援は減少したものの、金融投資家、多国籍組織及び企業の関心が高まっています。この地域の一部の国における熱帯農業の特殊性のために、包括的な技術の適用が制限され、地域に特化したソリューションが必要とされていました。この地域では、投資されたイノベーション資本の74%近くが、アグフィンテック (agfintech: 農業と金融とテクノロジーの融合) や生物学的入力といったカテゴリーへのものでした。全体的な傾向としては、金融投資家、多国籍組織及び企業が中南米のアグリビジネス部門に強い関心をもっていることがみてとれます。
講演者たちは、低炭素で気候変動に強い食糧システムを構築するには、ネットゼロテクノロジー、気候変動適応知能、カーボンネガティブ及びグリーンファイナンスに焦点を当てる必要がある点を強調しました。また、進捗を把握するための重要業績評価指標 (KPI) として国連の持続可能な開発目標 (SDGs) を活用する可能性など、取組みがコミュニティに与える、目に見えるインパクトを測定することの重要性が強調されました。透明性とガバナンスを備えた測定可能な指標を確立することは、インパクトについて意味のある説明を行う裏付けとなり得ます。
本ウェビナーでは、サステナブルファイナンスに関する意見交換が行われ、中南米におけるインパクト投資の動向がステークホルダーたちに示されました。このイベントで得られた重要な情報は、目に見えるインパクト、イノベーション、地域に特化したソリューションと調和しながらも、中南米における持続可能な農業の道筋を形作るのに役立つことでしょう。
このイベントは、WIPO GREEN第2期ファイナンス・プロジェクト (WIPO GREEN Finance Phase II project) の一環としてFIT/日本知的財産グローバルファンドの資金提供を受け、中南米におけるWIPO GREEN促進プロジェクトとの関連において開催されました。このファイナンス・プロジェクトの目的は、グリーンテクノロジー企業及びグリーンテクノロジー導入企業が、気候ファイナンスの機会についてより多くの知識をもち、気候投資関係者と起業家とをつなぐように、支援を行うことです。中南米促進プロジェクトは、2019年からアルゼンチン、ブラジル及びチリで、2022年からペルーで、気候変動対応型スマート農業ソリューションに積極的に取り組んでいます。
WIPO GREEN データベースは仲介プロセスの中心的なツールであり、プロジェクトで特定された全てのニーズとテクノロジーがこのデータベースにアップロードされます。WIPO GREENは、テクノロジー開発を支援できる投資家のネットワークの構築にも取り組んでいます。