2024/08/19
ブラジルのアマゾン熱帯雨林の中心部に位置するアマゾン川及びその支流沿いに住んでいる小規模農家のコミュニティが、自分たちの生計を脅かす可能性のある問題に取り組んでいます。これらの農家は、高価な換金作物であるガラナ (学名: Paullinea cupana) の栽培に依存しています。しかし、収穫したガラナの果実を洗浄するための水の確保という、早急な対応を要する課題に直面しています。収入を左右する果実の品質を維持するために、水の確保は不可欠なステップです。WIPO GREENは、農家を適切なテクノロジー提供者につなぎ、農業用水問題解決支援を行っています。この取組みにより、農作物の洗浄や日常利用のための水が確保され、作物の品質向上と生計の確保が実現しています。
カフェインを豊富に含むガラナベリーが木から市場に行くまでの道のりは長く厳しいものです。ガラナベリーは収穫後、3日間発酵されます。その後、さらなる加工のために果実の洗浄が行われます。しかし、大半の小規模ガラナ生産者が住んでいるアマゾン奥地のマウエス地方では、きれいな水をガラナベリーの洗浄に必要な量使うことは贅沢です。農家の多くは、井戸から飲料水を汲み上げるのに必要な電力を安定して利用することができません。そのため、川の水を使用しているのですが、これによって、ガラナベリーは化学物質汚染や生物学的汚染を受ける危険性があります。
ガラナベリーの種子は、その滋養強壮効果と薬効のため需要が高く、栄養ドリンク、化粧品、薬など、様々な製品に用いられています。ブラジル最大の飲料会社であるAMBEV社は、この地域のガラナの主要バイヤーであり、年間購入額は約1,000万米ドルに達します。しかし、水質汚染が種子の品質に悪影響を及ぼし、市場価値を下げ、農家の安定した収益力を損なう可能性があります。汚染は、ローカルバリューチェーン及びグローバルバリューチェーン全体に波及効果を及ぼす可能性もあります。また、汚染水の取扱いに関連する健康被害によって農業従事者が病気に罹患しやすくなり、経済的困難及び社会的困難に拍車がかかる可能性があります。
例えば、小規模な金採掘に関連する活動で河川流域全体の生態系に大量の水銀が放出されていることが調査によって示されています。水銀が金粒子の結合に役立つため、この元素を使用することが採鉱法の標準的技法だからです。水銀には強い毒性があります。金採掘作業は河川等の水域近くで行われるため、放出された水銀が河川の水を汚染する可能性があります。
2019年10月にアルゼンチン、ブラジル及びチリで開始されて以来、WIPOの中南米促進プロジェクトは、FIT/日本知的財産グローバルファンド (FIT/Japan IP Global) の資金提供を受け、様々なニーズを特定し、ソリューションを求める人々をプロバイダーにつなぐことに重点を置いてきました。ブラジルでは国立産業財産庁と共同で行われたプロジェクトによって、1,000人を超える地元のガラナベリー生産者が直面している問題が特定されました。土壌関連のコンサルタント会社であるAgrosuisse社は、農家及びAMBEV社と協力して問題を評価し、環境に優しいオフグリッド型の揚水ソリューションが必要であると認識しました。日中の電力供給が不安定であることが勘案され、太陽光発電ポンプが最適な選択肢として浮上しました。太陽光発電ポンプは、農作物のための灌漑、家庭用水の供給、信頼性の高い電源の確保など、複数の目的に役立ちます。このニーズが特定されると、チームは、農業の生産性を環境に配慮した方法で向上させることを目指して、全国で高品質なサプライヤーを探し始めました。
また、川岸の隣に伝統的なアマゾナス州のモデル井戸を掘ることは、ろ過や降水による重金属や病原性生物剤による汚染を最小限に抑えることができるため、技術ソリューションパッケージの補完的な手段として推奨されました。「これは常に保証されるものではありませんが、平地河川を家庭用及び食品加工用の水源として使用することと比べれば、よい慣行と考えられます。」と、WIPOのプロジェクト技術コーディネーター (Project Technical Coordinator) であるRichard Charity氏は言います。
該当する企業として、ブラジルのIRRIGASOL社とAMBIENTE-SE社が選ばれました。両社は、ガラナのサプライヤーのニーズを満たす専門知識を提供しています。太陽光発電ポンプの実現に向けて、2つの大きな問題を解決する必要があります。第一に、ガラナ農場が奥地にあるため、ポンプの修理やメンテナンスを適時に行うことが困難であるということです。WIPO GREENは、潜在的ベンダーと協力して、効果的なトラブルシューティング支援を行うためのソリューションを模索しています。第二に、これらの不可欠なポンプステーションの設置に必要な初期投資について資金的なハードルがあるということです。WIPO GREENは、農家がシステムを設置できるようにするために、資金面での様々なソリューションを検討しています。これらの問題が解決され、システムが稼働すれば、ガラナベリー農家が水を農業用水及び生活用水として利用できるようになるでしょう。
このプロジェクトで見つかった太陽光発電による揚水ソリューションは、水質汚染の問題には対応していません。IPCCによると、鉱業や農業など、水に大きく依存する産業では、水ストレスを軽減して効率を向上させる戦略を採用する必要があります。また、気候変動の進行に伴い、洪水、水温の上昇、海面上昇などの要因によって誘発される水質汚染の問題の悪化が懸念されています。このような背景から、河川沿いのコミュニティの具体的なニーズを適切なソリューションに結びつける際に、技術イノベーションの重要性がさらに高まっています。WIPO GREENでは、129,000件のテクノロジー (水質汚染を具体的に扱う563件のテクノロジーを含む) を包含する広範なデータベースによって、気候変動を受けている実世界の課題を解決するためのイノベーション活用法を説明しています。
マウエスのAMBEV農場のマネージャーであるRoosevelt Marhl氏は、「このプロジェクトがもたらしたのは、かけがえない結果と、ソリューションの発見です」と述べ、「発見されたソリューションを直接実行することで、人々の生活の質と、彼らが生産する貴重な製品であるガラナにとってよい効果が見込まれます。」と言及しています。
上述のブラジルのアマゾンにおけるガラナのサプライヤーのストーリーは、相互に関連する持続可能性、気候変動、生計、イノベーションの問題に対して、これを解決するソリューションを発見する可能性があることを例示しています。ニーズを特定して、適切なテクノロジーを探し出し、ステークホルダーたちと協力することで、環境、小規模農家、及び産業にとってWin-Winのシナリオを作成できます。マウエス地方での太陽光発電ポンプシステムの導入が成功すれば、持続可能な未来を確保するための協力、イノベーション、責任ある実践行動によってもたらされる力の証となることでしょう。