2024/07/08
チリの牧歌的な風景の中で、2つの農業ベンチャーが、予測不可能な天候、水不足、及び気温の上昇など、続々と課題に直面しています。これは彼らのビジネスに負担をかけ、彼らの生活を脅かしています。WIPO GREENは、これらの農家のニーズに対応するグリーンテクノロジープロバイダーと結びつけることで、これらの農家が気候変動に適応できるよう支援しています。このプロセスを通じて、農家は再生不可能なエネルギーへの依存を減らし、収穫量を向上させ、気候変動の影響に対する適応力を高めることを望んでいます。しかし、この課題はチリに限ったことではありません。気候変動が深刻化する中、世界中の農業従事者は慣行を適応させる必要があります。
Cristian Hernández Carrillo氏は、チリのオソルノでチェリー園を管理しています。この地域は、予測不可能な雹、強風及び豪雨など、かなりの気候の逆境に直面しています。さらに北のチリのマロア・コミューンでは、果物輸出企業であるAgrícola Tamboが、気候変動が引き起こす独自の課題に取り組んでいます。農場の管理者であるCristóbal Valentín Morales氏によれば、年々降雨量が少なくなっているといいます。オソルノ及びマロアで起きていることは、地域社会以外にも波及しています。例えば、チリの多くの農場やブドウ園は、気候条件の変化に対応して、より多くの雨を求めて南下しています。しかし、農家は今、チリの南部でさえ気候変動の影響を免れないことに気づいています。
問題は異常気象だけにとどまりません。わずかな利益率で運営され、財政危機の一歩手前の業界で気候変動に適応することは困難です。Morales氏は、チェリーの木を育てるために10月から3月まで稼働する彼の農場の給水ポンプが、年間の電気代の大部分を占めていることを知っています。しかし、チェリーの品質を損なうことはできません。
オソルノの果樹園は、貴重なチェリーを保護するように設計された保護被覆システムが、ますます強くなる風によって引き裂かれるため、独自の財政難に直面しています。「チリ南部 (オソルノ) での晩生チェリーの生産は、生産者に良いリターンをもたらす魅力的な商業的代替品として始まりました。しかし、雨、風、及び日射などの気候条件によって、果物の品質と状態が影響を受け、生産者のリターンが低下してしまいます。その結果、収益性が低下しています」と、WIPO GREENのコンサルタントとチェリー園をつないだ農業協同組合であるCooprinsemの外部アドバイザーであるRamiro Poblete氏は述べています。
FIT/日本知的財産グローバルファンド (FIT/Japan IP Global) が資金提供し、チリのチリ産業財産庁 (INAPI) と共同で実施したWIPO GREENのラテンアメリカ促進プロジェクトの一環として、民間コンサルティング会社であるIALE Tecnologíaの現地コンサルタントチームが、Agrícola TamboとTesla Energyを結びつけました。Agrícola Tamboは、チェリーの品質を維持しながら、エネルギーコストを節約し、二酸化炭素排出量を削減する技術を導入したいと考えています。Tesla Energyは太陽エネルギーソリューションのノウハウを提供し、IALE Tecnologíaは技術エージェントとして、全ての関係者間のコミュニケーション及び各々の期待することの連絡及び調整役を果たします。提案されたソリューションは、電動灌漑ポンプを太陽光発電ポンプに置き換えるという効果的でシンプルなものです。
オソルノで、WIPO GREENは、上質な耐風性農業用被覆システムを専門とするドイツ企業であるVOENとのパートナーシップを促進しました。チェリー農園の主なニーズは、果物の裂け、花の損失、及び植物の病気など、生産物の品質の低下や生産量の低下につながる気候によって引き起こされる問題に対する防御です。VOENは、チリの現地商業事業を活用して、これらの気候関連の障害から果物の品質を守るためにキャノピー技術を制作しました。この技術によって、輸出に重点を置いた果樹農業の振興が可能となります。これらの被覆システムを設置することで、この地域に頻繁に悪影響を与える暴風や雹から果物が保護されます。
「VOENの被覆システムは、Cristian氏が現在チェリー果樹園で使用している構造に容易に適応します。自己換気型被覆システムにより、チェリーの作物において収穫量と品質の面で最大限の可能性を発揮できるようになります」と、オソルノのチェリー農園を訪れたVOENの代表であるRoberto Johow氏は言います。
ソリューションは有望ですが、テクノロジーが手の届くところにあるように見える一方で、実際の導入となると、財政面でハードルがあります。グリーンテクノロジーへの初期投資は、特に小規模事業者にとって、法外に高額になる可能性があります。また、このことは、既に複雑な問題、つまり、金融システムを環境上のニーズに合うように進歩させるにはどうすればいいか、という問題に対して、新たな複雑さを追加します。
チリは世界の果物輸出大国という立場にあるために、チリのこの国内問題の解決は、非常に必要であり重要なこととなっています。オソルノ及びマロアで行われている気候変動への適応の取組みは、チリの国境をはるかに超えた場所にすら影響を持ちます。チリのこれら企業は、持続可能な農業の世界的なモデルとなるための資本投下を待っていますが、彼らの苦境は、経済的及び環境上の転換点にある世界を象徴しています。彼らの闘いは、地域的な災厄の回避にとどまらず、言ってみれば、賢明で長期的な投資を実現するために、ルールブックを書き換えるような試みです。
IALE Tecnologíaは、INAPI及びWIPO GREENと共同で、両方の技術の資金調達メカニズムの確立に取り組んでいます。マロアに提供予定の技術に関しては、チリの国立農業基金に資金提供の申請が提出されました。Tesla Energyについては、複数の選択肢を検討した結果、現状の戦略としては、直接リースモデルでの導入を目指すこととなっています。これら協力の努力と戦略的な資金調達アプローチは、この地域の持続可能な農業とエネルギーのソリューションの推進を助けるでしょう。
Agrícola Tamboが太陽光発電を行い、オソルノがチェリーを保護できれば、ベトナムの農場の水不足が緩和され、ガーナのカカオ農家の気温上昇への適応が成功するかもしれません。WIPO GREENはその際の触媒として機能し、その仲介機能によって複製可能なモデルの青写真が作成されます。WIPO GREENは将来のためにプラットフォームとしての準備を進めています。このデータベースは継続的に更新され、世界中でアクセス可能であり、グリーンイノベーションのための、増強を続けるリソースとして機能しています。気候変動が深刻化する中、WIPOが促進するつながりは、技術と適応戦略の共有を加速させることができ、世界中の農場の順応性を高めることを可能にします。結局のところ、気候変動は国境に関係なく生じているので、気候変動との闘いも、国境に関係なく行われるべきものでしょう。
これらの果樹園の闘いは、多くの点で、世界全体の闘いであり、差し迫った経済的ニーズと、温暖化する地球での生命の長期的な生存可能性とのバランスをとることです。微妙なバランスですが、チリの農場の例が示すように、それは不可能なことではありません。彼らの体験は、利益のためだけではなく、生存のため、という、気候適応技術に投資することの本質を教えてくれています。不確かな要素の多い気候変動の元帳において、これは書き込む価値のある勘定科目といえるでしょう。