2024/08/30
世界人口が増加する中、農業従事者は、食料生産を持続的に増やし、その経済的、社会的、環境的影響に対処するという二重の課題に直面しています。より安全で環境に優しい製品を求める消費者の需要に後押しされて、合成化学物質の自然代替品であるバイオ肥料やバイオ農薬などのバイオインプットへの移行が勢いを増しています。この市場が拡大するかどうかは、イノベーションの継続とこれらの製品の有効性の証明にかかっています。WIPO GREENは、ラテンアメリカにおける気候変動対応型農業プロジェクトを通じて、アルゼンチンのステークホルダーたちを、これらの革新的で持続可能なソリューションと結びつけています。
世界の人口が2050年までに97億人に達すると予測される中で、農業従事者は、より多くの人々のためにより多くの食料を生産しなければならないというプレッシャーにさらされています。生産する必要がある食料の量だけでなく、食料が生産される方法や食料生産が持続可能な開発に及ぼす影響についてもプレッシャーがあります。世界の人々が食料の経済的、社会的、環境的影響と安全性に対する懸念を強める中、農業部門は、食料の増加と持続可能な生産というダブルの課題に直面しています。
バイオインプットとは、合成化学物質ではなく天然素材に由来するバイオ肥料やバイオ農薬などの製品類の総称であり、ゲームチェンジャーの候補として浮上しています。複数筋の試算によると、ラテンアメリカでは、これらの持続可能な製品の市場が今後5年から10年で倍増すると予測されています。
全体として、ラテンアメリカでは、金融投資家、多国籍組織及び企業の農業部門に対する関心が高まっています。この地域の一部の国においては、特殊な営農条件のために、包括的な技術の適用が制限され、地域に特化したソリューションが必要とされていました。この地域では、投資されたイノベーション資本の74%近くが、農業フィンテック (アグフィンテック: agfintech) やバイオインプットといったカテゴリーへのものでした。全体的な傾向としては、金融投資家、多国籍組織及び企業が中南米のアグリビジネス部門に強い関心をもっていることがみてとれます。
しかし、市場が前向きな反応を示しても、依然として課題が存在しています。一部の農業従事者は、従来の化学物質と比較した場合のバイオインプットの効果について懐疑的です。これに加え、製品についてオーガニックで持続可能な本物に関する認証を求める需要が高まっています。バイオインプット業界の成長は、継続的なイノベーションと厳格な試験にかかっています。
アルゼンチンの緑豊かなワイン生産地であるメンドーサ州の桃生産者Tomás Gomez氏は、この進化する物語の岐路に立っています。Tomás Gomez氏は農業従事者であると同時に、メンドーサ州の著名な農業資材卸売業者Astié Diesel社の技術・商業責任者でもあります。
Tomás Gomez氏は、農業生産と商業の両方の最前線で二重の役割を果たすことで独自の洞察力を身につけています。「生物学的薬剤により、私は、自分が提供する製品を多様化することができます。」と彼は述べます。「これらの持続可能なソリューションに対して私のクライアントの需要は高まっています。」
創設国であるアルゼンチン、ブラジル、チリと協力して、日本特許庁の資金提供を受けて開催された「Latin America WIPO Green Acceleration Project in Argentina (アルゼンチンにおけるWIPO Greenラテンアメリカアクセラレーションプロジェクト) 」の一環として、WIPO GREENは、認証済みの有効なバイオインプット製品であること、最適な使用法についてガイダンスを提供する意欲があること、というTomás Gomez氏の要件とニーズを満たすことができるアルゼンチンのパートナーを探しました。調査の結果、ミシオネス州に拠点を置く国営企業であるAgro Sustentable社にたどり着きました。2015年の創立以来、同社は100%オーガニック認証製品を提唱し、研究を市場性のあるソリューションに変えてきました。
協力関係が生まれました。技術仕様と実用化を深堀する打合わせの後、計画が具体化しました。Agro Sustentable社は、BIOGERT GTG肥料とBIOINSECT殺虫剤をTomás Gomez氏に供給することになりました。試験は桃農場で行われますが、彼の主な顧客であるワイン生産者に広く採用される方向へ道が開ける可能性があります。
まだ始まったばかりですが、最初のフィードバックは有望です。「Agro Sustentable社から両製品の最初のバッチを受け取り、試験の開始を楽しみにしています。」とTomás Gomez氏は述べています。
この急速に発展している関係をさらに促進するために、2023年8月にメンドーサ州トゥヌヤンで説明会が開かれました。Agro Sustentable社の共同創立者であるMatias Imperiale氏の主導のもと、このイベントは、他の地元生産者にバイオインプットの利点を紹介する機会となりました。
反応は圧倒的に好評でした。「私たちは短期間で大きな進歩を遂げました。」とTomás Gomez氏は述べました。「これらの製品のオーガニック認証は特に魅力的です。また、この進捗に非常に満足しています。」
このTomás Gomez氏とAgro Sustentable社の提携は、持続可能な農業生産を推進することにこの地域が関心を持っていることを示す一例です。ラテンアメリカがバイオインプットのホットスポットとなる中、持続可能な農業への歩みが迅速で影響力の強いものであるためには、このような協力関係が極めて重要になります。
果物やブドウが生い茂る段々畑を背景にしてこのような変化の兆しがみてとれ、Tomás Gomez氏とAgro Sustentable社の新たなパートナーシップは、ラテンアメリカにおける持続可能な農業の推進が前途有望であることを裏付けるものです。この地域は持続可能な農業ソリューションの中心となる態勢が整っており、この種の提携が重要な役割を果たすことでしょう。これにより、新世代の生産者たちがより持続可能な方法を採用しようという気持ちを抱き、それにより、先祖伝来のメンドーサ州の農産物が環境保護に貢献し続けることが可能になります。
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