2024/07/08
農業はペルーの国民経済の主要な柱の1つです。しかし、この分野は現在、気候変動とエルニーニョによって悪化した大きな障害に直面しています。不規則な降雨パターンが、在来の昆虫、菌類、害虫の蔓延を招き、コーヒーやカカオなどの主要作物の栽培に深刻な問題が生じています。これらの気候変動は、土壌の質を損なうだけでなく、作物の収穫量に悪影響を及ぼし、農業コミュニティの生活に直接影響を与えます。WIPO GREENは、グリーンテクノロジープロバイダーとのつながりを促進することで、農業従事者がこうした問題に対応できるよう支援しています。
「WIPO GREEN Latin American Acceleration Program in Peru (ペルーにおけるWIPO Greenラテンアメリカアクセラレーションプロジェクト) 」は、FIT/日本知的財産グローバルファンド (FIT/Japan IP Global) の支援を受け、ペルーの公正競争・知的財産保護庁 (INDECOPI、National Institute for Defense of Competition and Protection of Intellectual Propertyとしても知られる) と提携し、現地のコンサルティング会社であるBioActiva社と協力して、気候変動の影響に対するペルーのアグリビジネスの適応性を強化することを目的としています。この取組みにより、プロジェクト開始から1年以内に2つの成功事例が生まれました。
Fundo Cristinaは、ワヌコ県プエルト・インカ郡にあるカカオ農場です。David H.氏によって設立されたこの農場は12ヘクタールに及び、様々な品種のカカオの栽培に特化し、極上のPachinkaoチョコレートを製造しています。また、この農場では、1ヘクタールあたり約1200本のカカオが天水栽培されています。
David H.氏のカカオ作物は、気候変動とエルニーニョ現象の悪影響を受けることが増えてきました。また彼が言うには、予測不可能な降雨によって水没や土壌浸食が引き起こされる激しい豪雨の期間があるかとおもえば、水分の損失や土壌のひび割れにつながる干ばつの時期もあるため、農場は深刻な問題に直面しているとのことです。この不規則な天候パターンは、通常の収穫スケジュールを混乱させました。「伝統的に、収穫は年間を通じて隔週行われていました。しかし、近年はこれが大きく変更され、収穫は9月までに2回だけに限られるようになりました。」とDavid H.氏は述べます。
ソリューションの必要性を認識したBioActivaチームは、カカオ農場を支援する適切な技術を探しました。彼らの調査は、いくつかのハイドロゲル製造業者につながりました。ハイドロゲルは、土壌の保水能力と排水性を向上させるように設計された高吸水性ポリマーであり、水があるときに水を吸収し、乾燥しているときにゆっくりと水を放出します。これにより、必要な水を最大85%節約でき、灌漑の必要性を減らすことができます。
一連の打合わせを通じて、農場の要件が綿密に検討されました。最終的に、Fundo Cristina農場は、パイロットプロジェクト中の技術サポートや、プロジェクトの進捗状況を記録・測定するための文書化ツールなど、総合的なサービスの提供があるという理由で、地元のサプライヤーであるPlantagel社を選びました。このパートナーシップは2023年9月中旬に正式に締結され、20本のカカオの木の土壌の保水力を向上させるために180m2のエリアにハイドロゲルを添加する2か月間の試験が始まりました。
一方、ペルーのアンデス山脈の東斜面に位置するクスコ県ラ・コンベンシオン郡サンタテレサ地区は別の課題に直面しています。Sara Gamarra Palomino氏とRonildo Sánchez Pérez氏が経営する3ヘクタールのコーヒー農場であるNogalpata農場は、2016年に有機コーヒー栽培に移行して以来、黄サビ病、キクイムシ、ミバエなどの病害虫の増加に直面しています。
WIPO GREENの現地コンサルタントは、有機コーヒー農家の支援で知られるCiclos Café社に連絡を取りました。これによって、Ciclos Café社のFelipe Aliga氏とSara Gamarra Palomino氏が会うこととなり、Sara Gamarra Palomino氏は付近の果樹園からのミバエが彼女のコーヒー作物に蔓延している現状を説明しました。技術プロバイダー候補との話し合いの結果、バイエル社のGF-120がソリューション候補として特定されました。GF-120は、土壌細菌であるSaccaropolyspora spinosa (サッカロポリスポラ・スピノサ) から産生される有機殺虫剤であり、有効成分スピノサドと、標的害虫を誘引するためのタンパク質餌が含まれています。この殺虫剤は選択性が高く、有機農業での使用が認定されています。
Sara Gamarra Palomino氏にとって、この製品は、そのコストパフォーマンスとバックパック式噴霧器 (農場が既に所有している) による散布の容易さがNogalpata農場の要件に合っているという点で秀でていました。他のソリューション候補は農場の当面のリソースを超える専門の機器と技術担当者を使う必要があったため、この選択が戦略的でした。
当初、Sara Gamarra Palomino氏は、3ヘクタールの自分の農場のためにこの製品を購入する選択を行いました。この地域の多くの農業従事者が同様の問題に苦労していることが明らかになると、Sara Gamarra Palomino氏は、WIPO GREENを通じて、自身も会員であるコーヒー生産者協同組合に、自身が実行可能なソリューションを見つけるまでの経緯を共有しました。このコーヒー生産者協同組合には、最大9ヘクタールの農場をそれぞれ監督する300名超の会員がいます。農業部門に広範囲に影響を与える環境問題に対する意識を向上させることのみならず、地元のステークホルダーたちを実行可能な解決策に向けて動員したという点で、この一連の行動は取組みの成功を明確に示しています。
BioActivaチームは、この害虫発生の可能性につきNational Agricultural Health Service (国立農業保健サービス: SENASA) に報告しました。これに対し、SENASAからは、害虫の特定・報告検証のための地元の昆虫学研究所への紹介の申し出がありました。また、この地域の予防的害虫駆除活動実施を担当するクスコ地方政府との話し合いの場の提供が提案されました。
Fundo Cristina農場とNogalpata農場での経験が示すように、農業における気候変動問題への取組みは複雑です。ハイドロゲルや有機殺虫剤の使用など、これらの農場で採用された適応戦略は、新たな環境の不確実性に直面した際の柔軟な対応とイノベーションの必要性を映しています。Sara Gamarra Palomino氏の個人的な課題が、協同組合内の集団的関心事へと変化したことは、多様な条件に適応可能な、拡張適用の可能なソリューションの必要性も示しています。このような自治体レベルへの活動への拡大は、気候変動が農業に及ぼす影響への対応策を模索する際に強力な努力が必要なプロセスを表しています。
ハイドロゲル技術を用いたFundo Cristina農場のパイロットプロジェクトが展開されました。今後数か月のうちに具体的な土壌保水性の変化が測定され報告される予定です。WIPO GREENとそのパートナーが支援するこの展開は、意味のある環境問題への解決策を生み出す際に、協力が有効である可能性を示しています。将来に向けて、Fundo Cristina農場とNogalpata農場での経験は、課題の変化に合わせてソリューションを適応させる準備をすることの重要性を気付かせてくれるものです。