2024/09/11
2024年9月4日、バンコク (タイ) において、上記プログラムの開始に先立ち、WIPOシンガポール事務所 (WSO) とWIPOの知財ビジネス部門が主催するワークショップが開催されました。開催に際しては、日本国特許庁 (JPO) から貴重な支援をいただきました。また、タイ商務省知的財産部 (DIP) およびタイ工業連盟が、このワークショップに協力しています。ワークショップは成功裡に終了し、翌9月5日から11日にかけて開催された知的財産管理クリニック (IP Management Clinic) の幕開けとなりました。同クリニックでは、50社を超える企業に対して支援が行われました。
市場の変化が加速し、競争の激化とグローバル化が進展する中で、知的財産や無形資産を十分かつ適切に管理する必要性は、これまで以上に増しています。企業は、事業発展のために、自社のイノベーションを保護し、その可能性を最大限に引き出す必要があります。タイの企業は、バンコクで催行された大規模な「知的財産管理クリニック (IP Management Clinic、IPMC) 」プログラムを通じて、知的財産制度に関する理解を深めるとともに、知財制度を有効に利用・活用していくための指導を無料で受けることができます。それによって、自社の知財戦略をより適切に策定し、その方向性を定めて、国内外のマーケットで、事業展望と事業目標に対応できるようになります。
今回タイで開催されたIPMCでは、重点産業として、食品・飲料産業とウェルネス産業が選ばれました。食品・飲料産業は成長の回復力が強く、2029年には477億9,000万米ドルの規模に達するとみられています。また、ウェルネスは、タイ経済の10%近くを占めています。このように、同国の発展と経済成長において、両産業部門が果たす役割は大きく、極めて重要性が高いのです。
今回開催されたIPMCには、70社に迫る企業から100名以上が参加し、圧倒的な反響を呼びました。食品・飲料産業やウェルネス産業のみならず、IoT業界や、バイオテクノロジー、エンジニアリング産業をはじめ、幅広い産業部門からも関係者が参加しました。
開会にあたり、タイ商務省知的財産部通商担当官のBonggotmas Hongthong氏、タイ工業連盟の役員で役員会メンバーかつ同連盟事務局次長を務め、同連盟法務委員会委員でもあるNumchai Ekpatanaparnich氏、日本国特許庁国際協力課長の吉野幸代氏、およびWIPOシンガポール事務所部長のThitapha Wattanapruttipaisan氏から、挨拶がありました。開会挨拶で強調されたのは、事業の確実な成長のために、企業は自社の知財を有効活用する必要があるということでした。これは、強力な知的財産管理戦略を策定することで容易に実現できます。戦略を策定することで、競争力を維持するとともに、知財の価値を高めることができ、商業化の実効性の向上や投資の誘致につながります。
続いて、いくつかの魅力的なパネルディスカッションが行われました。その1つは、WIPOシンガポール事務所のEsther Loh参事官がモデレーターを務めたものでした。このセッションには、WIPOジュネーブ本部知財ビジネス部門 (IPBD) および知財イノベーション・エコシステム部門参事官のSilvija Trpkovska氏、IPOSインターナショナル (シンガポール) の理事兼シニアIPストラテジストのFu Zhikang氏、CHP Law LLC (シンガポール) の理事兼知的財産・無形資産プラクティス責任者のDixon Soh氏が参加し、食品・飲料産業とウェルネス産業を中心に、知的財産を巡る共通課題にどのように対処すべきかについて議論が行われました。民間部門、公共部門と欧州市場の関係者から、さまざまな視点が共有されました。パネルディスカッションでの議論から得られたメッセージは、市場からの評価が重要だという事実でした。消費者は、信頼できる新しいブランドを求めています。登録された知的財産を通じて、得られた評価を脅威に晒すことなく維持することができます。
続くパネルの冒頭では、Clarivate社のStone Wang氏から、知財インテリジェンスと特許データの活用について、深い見識に根差したプレゼンテーションが行われ、新たに生み出されるチャンスの追跡、投資分野の明確化、改善すべき分野の特定、およびリスクの事前把握に、どのように役立てられるかについて参加者と共有しました。続いて行われたパネルディスカッションでは、知財を管理する方法を確立できなかったために、どのような形で、マーケットでの地位を確保し収益を上げる機会を逃す結果につながったかについて、個人的な経験が共有されました。
パネルディスカッションのほかに、Dixon Soh氏、Raj Mannar氏、Trai Sasatavadhana氏から、知財を巡る具体的なテーマに関するプレゼンテーションも行われました。このプレゼンテーションでは、投資家向けの簡潔な説明 (ピッチ) を組み立てる手法や、企業として考慮すべき法的な事項について取り上げられ、参加者にとって興味深いものでした。
イベントの最後には、知財分野の第一人者であるDixon Soh氏から、知財とビジネスとの相互作用や、知財戦略を構築する方法をテーマとして、魅力的なプレゼンテーションが行われました。
続く5日間、参加者と知財専門家が1対1で行うメンタリングセッションが設定されました。このセッションを通じて、参加者は、知財資産によってビジネスの価値を高める方法や、事業戦略に沿った強固な知財戦略を構築することがいかに重要であるかについて学び、理解することができました。
知財登録に関する企業の疑問に対して、タイ知的財産部 (DIP) の現地スタッフから、知財手続きや知財登録についてのアドバイスも行われました。
参加した企業は、専門家とともに、企業のさまざまな段階やニーズに応じて、また、企業のビジネスモデル、問題点、長・短期的な目標に応じて、包括的なアドバイスを受けることができました。
今後4か月間、これらの企業は、知財専門家の監督の下で、オンラインでのメンターシップを継続して受けることができます。WIPOは、このような企業に対して、知財プロセスの順調な進展を支援すべく、支援環境の整備に継続して取り組んでいく予定です。