WIPOグローバル・アワード2024
健康、気候テック、先端技術で世界を変革するイノベーションを称える
107か国から応募のあった660社を超える中小企業やスタートアップ企業の中から、8名の審査員からなる国際審査委員会によって2024年の受賞者が選ばれました。
今年のコンペティションの受賞者は、アルゼンチン、中国、ケニア、韓国、クウェート、シンガポール、スイス、タイ、トルコの企業です。これらの企業による健康、農業、量子技術におけるイノベーションによって、様々な分野で進歩を促し生活の質を向上させる知財の幅広い可能性が証明されています。
授賞式はWIPO加盟国総会の期間中の7月12日に行われ、ダレン・タン事務局長が9社の受賞企業の代表者にトロフィーを授与しました。授賞式では、知的財産を商業化する仕組みを最適化し、企業がイノベーションを市場で展開するのに何が必要なのかを意思決定者に共有するために、各受賞者から意見が表明されました。
受賞した各企業の皆様、おめでとうございます。受賞者には、以下の機会が提供されます。
- 資金調達やビジネスパートナーシップの機会を含む、知財資産の商業化戦略に関する1対1の個別のメンタリング。
- 国際的なプロモーションや様々なターゲットオーディエンスにおけるビジビリティの向上。
- ジュネーブで開催される授賞式やネットワーキングイベントへの招待 (旅費支給)。
- 知財管理に関する助言を受けるためのWIPOのネットワークやリソースへのアクセス。
2024年WIPOグローバル・アワードの受賞者
3Dプリントによる人工骨や廃棄物分別ロボットからAIを活用した脳損傷スキャナーに至るまで、世界中で様々な製品を提供している中小企業・スタートアップ企業9社が、今年のWIPOグローバル・アワードを受賞しました。
AETECH社 – 韓国
廃棄物の処理や分別のための優れたシステムがある国はほとんどないため、プラスチック、紙、アルミニウム、電子廃棄物、ガラスなどの何百万トンもの再利用可能な廃棄物が、埋め立て地や自然環境に捨てられています。AETECH社のロボットは、AI深層学習技術を用いて、リサイクル可能な廃棄物を分別し、学習によって、廃棄物を精確に識別し、46のサブカテゴリに分類することができるようになります。この効率的なソリューションでは人が処理可能な量の2倍の資材を分別できるため、自治体やリサイクル業者は、手作業による分別に比べ最大2.8倍のコスト削減が可能になります。AETECH社は、豊富な知財ポートフォリオを活用して、韓国だけでなく、ヨーロッパ、中東、オーストラリア、東南アジアへと事業を拡大する予定です。
Farmer Lifeline Technologies社 – ケニア
Farmer Lifeline社は、AIと機械学習に対応したカメラを用いて作物の害虫や病気を早期に検出する独自の太陽光発電デバイスを開発しました。このデバイスは、農家がどのソリューションを使用すべきなのかをテキストメッセージで農家にタイムリーに通知します。これにより、農家の収穫を最大40%増加させ、作物の損失を最大30%削減できます。Farmer Lifeline社は、気候に配慮した通知を農家に提供することによって小規模農家の気候レジリエンスを高めるだけでなく、各農家が気候変動によりよく適応し、気候変動による影響を緩和できるようにすることで、農家全体の持続可能性と生産性を向上させています。Farmer Lifeline社のデバイスは現在、ケニアの5,100以上の農場で使用されており、この技術の利用者の60%が女性です。
Healinno Tech社 – 中国
前立腺肥大症 (BPH) は、前立腺が正常よりも大きくなり、排尿障害や不快感を引き起こす症状です。今後10年間に、世界中で9,400万人の前立腺肥大症患者が手術を受ける必要があると予想されていますが、現在50万件しか手術が行われておらず、需要が十分に満たされているとは言えません。Healinno Tech社の自動ウォータージェット切除術ロボットは、多次元超音波画像によるプラニング、精確なウォータージェット制御、自動手術により、治療を容易にします。知財管理において高いスキルを持つ同社は、現在、製品の価値を容易に評価できるようにするため、個々の製品を様々なグループ子会社において登録するグループ戦略を構想しています。
Laboratorios Química Luar社 – アルゼンチン
肺炎は、世界中で小児の感染症における最大の死因となっています (出典: 世界保健機関)。Laboratorios Química Luar社は、呼吸器疾患の治療を目的として、霧を肺に吸入するよう噴霧できるイブプロフェンベースの処方など、イノベーティブな医薬品の開発を専門としており、新型コロナウイルス感染症や嚢胞性線維症のような十分な治療が受けられない複雑な症状において、特に注目されています。Laboratorios Química Luar社の知財戦略は、発明の強固な保護に重点を置いており、国際基準 (ISO 56005) に基づく包括的な知財管理を重要視しています。
Meticuly社 – タイ
平均寿命の延びに応じて、人工骨の利用数が今後数十年で劇的に増加することが予想されますが、現在、寸法があらかじめ決められた既製のインプラントを外科医が使用することがよくあり、こうしたインプラントは、患者個人の解剖学的構造に完全には一致しないことがあります。Meticuly社は、3Dプリントによる人工骨を開発し、AIを活用したCTスキャンを用いて、それぞれの患者に合わせてチタン製インプラントを設計しています。これにより、従来の方法に比べ、患者の生活の質が大幅に向上し、医師の時間と労力を節約できます。同社は、10か国で36件の特許、18件の商標、15件を超える営業秘密、2件の著作権を取得し、知的財産権を確保しており、グローバルな事業展開を行っています。
PONS Technology社 – トルコ
多くの農村地域では、適切な治療を受けるのに必要な画像診断を十分な早さで受けることができず、米国だけでも、慢性疾患の70%は簡単な超音波検査により予防できる可能性があります。PONS社の技術を用いることにより、医療従事者は超音波画像を病院外でも解析することができます。どのデバイスにも搭載でき、高価な新しいハードウェアや画像診断の専門家を病院内に必要としません。ナイジェリアの村では、この技術により妊娠合併症がわずか1か月で45%から25%に減少しました。特許取得済みのこのシステムは、大手製薬会社からサポートを受けており、PONS社の国際的な事業拡大に役立っています。
Qnami社 – スイス
効率的な社会を実現するために、電話、コンピュータ、プロセッサの電子部品の小型化が進んでいます。初期の0.35ミクロンのマイクロチップから今日の3ナノメートルのマイクロチップにかけて、チップは縮小を続けており、製造の難易度が増しています。Qnami社は、量子センシングを用いて精確に超小型のものを計測できる合成ダイヤモンド製の顕微鏡を初めて開発しました。このイノベーションにより、製造業者は、単一電子の状態の物質とその磁気特性を視覚化できます。Qnami社の知財戦略は、多額の資金を確保するために主要な特許を取得することに重点を置いており、これまでに合計800万スイスフランのDilutiveな資金と400万スイスフランのNon-Dilutiveな資金を確保しています。
ScansX社 – クウェート
2021年時点で、世界中で30億人を超える人々が神経疾患を抱えて生活しており、この数字は1990年から18%増加しています。「幼少期から晩年に至るまで、脳の健康のためには、よりよい理解、重要視、保護がこれまで以上に重要になっています」と、2024年3月、世界保健機関 (WHO) 事務局長は述べています (出典: 世界保健機関)。ScansX社は、ポータブルで非侵襲的な脳スキャナーを、MRIの代わりに、または補完的に用いることで、脳損傷の診断に革命をもたらしています。このスキャナーは、人工知能により、脳出血や腫瘍の初期兆候を検出します。ScansX社は、世界中の特許実施医許諾契約を通じて特許と商標を活用しています。
Vivo Surgical社 – シンガポール
自然災害や世界的な紛争により、何千人もの人が負傷したり住むところを失ったりしています。野外病院は、テントやシェルターに設置されますが、外科治療などの高度な介入に必要な電力の供給が頻繁に遮断されたり、まったくなくなったりします。Vivo Surgical社は、外科医の臨床的成果を向上させる医療機器を開発することで、この問題に対処しています。Vivo Surgical社は、バッテリー駆動の外科用照明器具から、既存の内視鏡に追加して高精度の手術器具に転用させる装置まで、複雑な手術を外科医がより簡単かつ迅速に行うことができるようにする製品を提供しています。Vivo Surgical社は、知財の強力な基盤によって、世界20か国以上でビジネスを展開しています。
2024年WIPOグローバル・アワードで最終選考に進んだ企業
最終選考に進んだ25社の中から、9社の企業が受賞しました。受賞は逃したものの、知財を活用して各業界で先進的なソリューションを推進している模範的な企業として、残る16社をご紹介します。
BreastScreening AI社
ポルトガル
スタートアップ企業 – 情報通信技術
BreastScreeningAIは、マンモグラフィー、MRI検査、超音波検査の画像分析による乳がんの早期発見に焦点を当てた、AIを活用した高度なシステムです。簡単かつ効率的な早期発見を可能にすることにより、精確な診断を支援することを目指しています。病変特定のための計算方法とアサーティブネスに基づくコミュニケーションシステムで特許を取得しており、これらを中心にイノベーションと市場参入を行い、ユーザー中心の独自の診断ソリューションを実現しています。
CMBlu Energy社
ドイツ
中小企業 – グリーンエネルギー技術
CMBlu Energy社は、再生可能エネルギー用の、安全かつ持続可能で安価なエネルギー貯蔵ソリューションのパイオニアです。同社の成功の鍵を握っているのは独自の非リチウム電池システムの開発であり、エネルギー革命を加速させる可能性を秘めています。この破壊的な技術には、エネルギー貯蔵、送電、配電、ピークシェービング、エネルギー取引など、様々な用途があります。知的財産の観点からすれば、CMBlu社は、電解質、電極など、電池技術の主要な機械部品を初期の段階で保護しており、創業時からイノベーションを確実に保護しています。
Craif社
日本
中小企業 – 健康
Craif社は、独自の機械学習システムにより尿中マイクロRNAを解析してがんを早期発見することを専門としています。同社のイノベーティブなアプローチにより、自社で開発した技術を活用して様々な種類のがんに関連する遺伝子マーカーを特定することができ、早期診断を可能にし、患者のアウトカムを向上させることができます。Craif社の技術は世界的に抜きん出たものであり、ヘルスケアとバイオテクノロジーにおける競争力を維持するために特許取得とその活用に重点を置いています。同社は、非侵襲的な尿検体を用いたイノベーティブな技術により、がんの早期発見に革命をもたらしています。高度な尿中マイクロRNA測定技術と包括的なデータベースを活用することで、精確で痛みのないがんの早期発見が可能になり、より健康でいられる社会が実現されます。
EdukSine Production Corporation社
フィリピン
スタートアップ企業 – クリエイティブ産業
EdukSine社は、フィリピンの独立系映画製作者やプロデューサーを国内外の視聴者とつなぐことに特化した先駆的なストリーミングプラットフォームを運営する社会的企業です。EdukSine社は、技術的な専門知識を活用することで、エンターテインメント業界における雇用創出と経済成長を促進しているだけでなく、映画館のない地域における文化の評価や社会的結束を促進し、教育、文化的認識、批判的思考のための強力なツールとして映画を利用することによりフィリピンの文化遺産や価値観を保護ししています。EdukSine社は、商標、ロゴ、著作権の保護を通じて知的財産を守っています。
ELICO社
インド
中小企業 – 環境
ELICO社は、水質や土壌の質を現地で継続的に監視するためのイノベーティブな技術を開発しました。この技術により、農村で安全な飲料水が利用できるようになり、農業において収穫を増やし肥料の使用量を減らすために不可欠な土壌と水の分析が可能になります。60年以上にわたって事業を営んでいるELICO社は、インドから26か国に輸出を行っており、強固な知財保護戦略に基づいて事業を展開してきました。こうした取り組みを通じて、ELICO社は、水資源や土壌資源を保護し、持続可能な環境を実現する慣行を促進する上で重要な役割を果たしています。
Francois Ier社
ブルキナファソ
中小企業 – クリエイティブ産業
François Ier社は、ブルキナファソの豊かな織物の伝統を体現し、持続可能なファッションへの取り組みを進めています。2018年に繊維工場を開設した同社は、ブルキナファソ初のオーガニック繊維ラインを導入し、伝統的な「ファソ・ダン・ファニ」生地を生産しています。François Ier社は、職人技と環境に配慮した慣行を通じて、地元の雇用と文化の保護を促進しています。ブルキナファソの伝統からインスピレーションを得たこのブランドは、高品質で現代的なデザインの商品を提供しています。「ファソ・ダン・ファニ」ブランドのようなイニシアチブによって、ブルキナファソの繊維の伝統が守られ、持続可能なファッションが国内外で促進されています。
Hangzhou Hyperchain Technology社
中国
スタートアップ企業 – グリーンエネルギー
Hyperchain社は、金融、政府、サプライチェーン管理、エネルギーなどの様々な分野でデータセキュリティ、相互運用性、効率を強化するための包括的なブロックチェーン・ソリューションを提供しています。Hyperchain社の強固な知財ポートフォリオには、コンソーシアム・ブロックチェーン・プラットフォーム、安全なデータコラボレーションのためのBitXMesh、ブロックチェーン間取引用のBitxHub、BaaS (Blockchain-as-a-Service) 向けのBlocFaceが含まれます。
Ked Liphi社
ボツワナ
中小企業 – グリーンエネルギー技術
Ked-Liphi社のChedzaソーラー・バックパックは、ソーラーパネル、電池、ランプを用いて、信頼性が高いクリーンな光源を提供し、子供たちが夜間でも勉強できるようにします。同社は、多様なエネルギーニーズに対応可能なこのバックパックに備えられた独自の太陽エネルギー貯蔵、デザイン、機能性、適応性に対して知的所有権を保有しています。このことが米国陸軍との協力を含むパートナーシップにつながっており、同社の知的財産の価値は世界的に認められています。
Plant Origin社
タイ
スタートアップ企業 – 食品
Plant Origin社は、米ぬかから独自のタンパク質源を抽出することにより、ヴィーガン向けの植物由来の卵代替品を開発しました。この代替卵は、コメの副産物をアップサイクルすることで、従来の卵生産と比較して天然資源の使用量 (土地、水、エネルギーの使用量) を98%削減できます。タンパク質の抽出に使用される同社の精密加水分解技術と亜臨界水技術は、同社の特許と営業秘密の中核を成しています。同社は、植物ベースの食品業界で確固たる基盤を築くために、ライセンス供与の機会を模索しています。
Pluvi社
イタリア
スタートアップ企業 – 繊維、アパレル、皮革または履物
Pluvi社は、耐久性、耐風性、機能性を備えたイノベーティブな傘を、高度な素材と技術を用いて製造しています。同社の環境の持続可能性への取り組みは、同社の傘における再生材の使用比率が70%、再生可能な素材の使用比率が100%であることに表れています。Pluvi社は、特許取得済みの技術を通じてイノベーションを守り、市場浸透率やブランドに対する評価を高めています。知的財産は、傘業界において持続可能な成長を促進し、環境問題に取り組んでいるPluvi社の展開にとって不可欠なものです。
Preventix社
メキシコ
スタートアップ企業 – 健康
Preventix社は、子宮頸がん検診用のイノベーティブなヘルスケア・ソリューションに特化した企業です。同社は、市場で唯一の、子宮頸がんと前がん病変に関連するバイオマーカーを検出可能な血液検査を開発しました。この画期的な技術は、21か国で取得された7件の特許によって保護されており、特に遠隔地や十分に医療サービスが行き届いていない地域の女性に、より利用しやすく、侵襲性の低いスクリーニングオプションを提供することができます。何百万人もに及ぶ女性の健康への潜在的な影響が認められ、このイノベーションはメキシコで全国発明賞を受賞しました。
RoboCT社
中国
中小企業 – 健康
RoboCT社の下肢外骨格歩行リハビリテーション装置は、下肢に障害のある患者のモビリティを支援する高度なデバイスであり、インテリジェントな制御システムを使用して自然な歩行パターンを模倣し、リハビリテーションを強化します。6件の特許と戦略的なライセンス供与のアプローチにより、同社は数多くのリハビリセンターや病院から投資を受け、顧客を獲得することに成功しています。これにより、RoboCT社は臨床的に高い評価を得ており、大きな影響力がブランドにもたらされました。
Sensio Air社
イギリス
中小企業 – 健康
Sensio AIR社は、屋内の大気質の監視と管理を専門としており、屋内の大気汚染物質の検出と分析を行うイノベーティブなソリューションを提供しています。同社の技術によって、大気質を改善し、より健康的な屋内環境を確保するための情報をリアルタイムに得ることができます。Sensio Air社独自のセンサー技術を人工知能や機械学習と組み合わせることで、花粉、カビ、チリダニ、動物のふけなど、1ミクロンを超える様々な屋内アレルゲンを精確に識別し、消耗品なしで結果を即座に得ることができます。
SimpleEnergy社
インド
中小企業 – モビリティ
SimpleEnergy社の電動スクーターは、イノベーティブなモーター技術と最適化されたバッテリーシステムにより、より長い走行時間を実現します (認定航続距離212 km、バッテリー容量5 kWh)。同社の知的財産は、バッテリー技術に焦点を当てており、従来のリチウムイオン電池によく見られる「熱暴走」の問題に対処しています。
SYG Tech社
トルコ
中小企業 – グリーンエネルギー
SYG社は、IoT、太陽光発電技術、風力タービン、医療技術などの分野で事業展開しており、「ロボットめまい治療システム」などの特許技術を活用しています。このシステムは、成功率96.7%、平均20分で良性発作性頭位めまい症 (BPPV) を治療することができ、米国を拠点とするMedHealth Review誌の「2024年耳鼻咽喉科ソリューションプロバイダーのトップ10」に選ばれました。センサーに関しては、受賞歴のある同社の「構造ヘルスモニタリング」センサーを構造ヘルスモニタリングのためにすべての民間航空機に適用するよう世界最大の航空会社メーカーが推奨しています。
U-Tech Kitchen社
中国
中小企業 – ホスピタリティ/観光
U-Tech Kitchen社は、チェーンレストラン向けの高度な業務用キッチンロボットとインテリジェント調理ソフトウェアシステムを開発しました。同社の技術により、業務を効率的に自動化し、人件費、エネルギー消費、食品廃棄物を大幅に削減できます。U-Tech Kitchen社は、「商品化の前に特許」という国際的な知的財産戦略をしっかりと実施し、2013年以来、海外市場を拡大しています。