オマーンのクリーンエア技術

オマーンのマスカットにある技術高等大学(Higher College of Technology)出身のエンジニアグループが、空気から二酸化炭素(CO2)を取り出し、化学処理や化学反応により有用な鉱物やナノスケールカーボンに変換する新たな技術を開発しました。

Muthana Abdulmajed Jamel博士率いるこの研究チームには、Buthaina Mohammed AL.Saidi氏、Zainab Salim AL.Hamdi氏、Basma Abdullah AL.Mawali氏、Sana Ameen AL.Ghafri氏が在籍しています。チームが開発した技術は、気候変動に取り組みながら、経済的かつ環境に優しい方法で有用な材料を作る道を開きました。

CO2量(単位:PPM)を示すCO2センサーモデル(写真提供:技術高等大学)

チームの空気浄化装置は、室内など密閉空間のCO2濃度を下げ、ウイルスや微生物、埃など有害な浮遊粒子状物質を減らします。また、湿度を若干高め、室内をクリーンで爽やかな空気で満たします。

本技術について

大気中のCO2を吸収し、空気を浄化するこの装置及び方法には、海水を入れたガラス容器(9)を使用します。

この容器の角は柔らかいアルミニウム(4)製で、蓋(3)に小さな穴(2)と上部(1)に取っ手がついています。

また、穴(2)付きの瓶(7)には容器(9)外部のエアポンプ(6)が取り付けられており、瓶とポンプが管(5)で接続されています。

空気から二酸化炭素を吸収する空気浄化装置モデル(写真提供:技術高等大学)

仕組み

二酸化炭素を取り出す仕組みを説明します:

  • ガラスの容器に海水または蒸留水と塩を混ぜた塩水を入れます
  • この時点で室温と容器に入れた水のpH値を測定します
  • その後、装置内蔵のCO2センサーで室内のCO2濃度を測定します。CO2濃度が600PPM(百万分率)以上になると、エアポンプが自動的に作動し、室内の空気を容器内の瓶に吸引していきます
  • 室内の空気中にあるCO2が海水及び海水中の塩と反応することにより、炭酸が発生します
  • この反応が起きた後、炭酸が発生したことを確認するため、pH値が測定されます
  • CO2は吸収しなくとも、素材を封じ込める役割を果たす天然石を瓶に置き、瓶から放出される泡を小さくします。上述の反応は泡の表面で起きることから、反応速度を高めるために泡を小さくすることが重要なためです
  • これらのプロセスを経て、1メートルあたりのCO2濃度が大幅に低減された空気が装置から放出されます

先行技術との相違点

先に特許を取得している技術(先行技術)は、次の点において、本技術と異なっています:

  • 空気中のCO2と水との化学反応による酸の発生の問題を解決できず、これにより酸化した水は海洋生物に有害であることが実証されている
  • 効果的に運用するためには、特定の環境条件(空圧及び気温など)を作り出すようエネルギーを投入する必要があり、却ってCO2が発生する
  • CO2ガスが溶け、環境条件が変化した場合に大気中に再放出される場合がある

装置内蔵のCO2センサーはHC-12無線トランシーバーモジュールと、それに信号を送る取り外し可能モジュールという2つの部品で構成されています。HC-12はエアポンプと接続されており、CO2濃度が600PPM以上になると自動的に作動し、 600PPM未満になると動きを停止します。

二酸化炭素(CO2)とエコ

大気中のCO2は、地球上の生命にとって主要な炭素源です。先カンブリア時代後期以降、産業革命以前の地球の大気中のCO2濃度は、光合成生物と地質現象により調節されてきました。

植物や藻類、藍色細菌は光エネルギーを使い、二酸化炭素や水中の炭水化物の光合成を行うことで、酸素を排出します。光合成は太陽光がないと行うことができません。従って、植物が細胞呼吸により二酸化炭素を発生させる夜間には、光合成によりCO2を吸収したり変換したりするメカニズムがないため、CO2濃度が上昇します。

これは、植物が多い地方や農村地帯で、夜間のCO2濃度が高くなることを意味しています。夜間、植物の光合成によるCO2吸収能力が低下する一方、人間の活動によりCO2濃度が上がるため、これらの地域の住人に頭痛や不眠、吐き気などの悪影響が及ぶことがあります。

チームが開発したこの技術は、これらの地域の住宅におけるCO2濃度を下げることにより、住人の健康を改善します。内蔵のセンサーがCO2濃度を監視し、濃度が600PPM以上になると装置(及び二酸化炭素削減処理)が自動的に作動する上、600PPM未満に下がると停止するため、省エネで排出量を削減します。

知的財産権

チームの研究結果を保護する重要性を認識したオマーンのマスカットにある技術高等大学(Higher College of Technology)はチームに代わり、2018年7月に特許を出願しました(OM/P/2018/002)。また、2019年7月には、「大気中のCO2を吸収し、空気を浄化する装置及び方法」に対して、特許協力条約(PCT)に基づく国際登録の出願も行いました(PCT/OM2019/050007)。

開発したこの装置で事業を立ち上げることが可能であるため、これに対する特許の取得及び技術の保護はチームにとって重要です。

地球温暖化の原因である温室効果ガスは年々増加の一途をたどっており、地球温暖化の影響を軽減するのに役立つアイデア及び技術を支援することが極めて重要となります。