国際商標登録の道程

最終チェックポイント

WIPOではマドリッド制度を通じて毎年数万件の国際商標登録出願を受理します。

マドリッド制度のメリットの1つは「柔軟性」です。ユーザーは自身の事業や市場のニーズに適合するように国際商標出願をカスタマイズすることができます。1つの出願を通じて、ユーザは、

  • マドリッド制度がカバーする国 (現在131カ国) の中から、希望する国 (数は問いません) において保護を求めることができます。
  • 国際商標登録でカバーしたい商品・役務を選択することができます。
  • 保護を求める国・地域のうち幾つかについてだけ、特定の商品・役務に保護を限定することができます。
    先の商標出願について優先権を主張することができます。
  • その他さまざまな手続が可能です。
ただし、当然ですが、権利付与に至るまでに、国際商標出願は厳正な審査手続を経なければなりません。

“We start by doing a very basic, preliminary check of the international trademark registrations in which we (Chile) are designated. We then publish the information in our own Gazette. This opens a 30-day public opposition period, at the end of which we perform substantive examination."

Alejandra Zalazar, National Institute of Industrial Property, Chile

“We start by doing a very basic, preliminary check of the international trademark registrations in which we (Chile) are designated. We then publish the information in our own Gazette. This opens a 30-day public opposition period, at the end of which we perform substantive examination."  Alejandra Zalazar, National Institute of Industrial Property, Chile

最終チェックポイント: 実体審査

We help companies of all sizes protect their brands worldwide

国際商標登録の「旅」の最終チェックポイントにあたるのが実体審査です。

商標の保護を求める国・地域の知財庁ごとに、国際商標登録がその国の法的要件を満たすかどうかについて審査
されます。

ご存知でしたか? 国際商標出願の手続はマドリッド協定議定書 (マドリッド制度を規定する条約) に定められた要件や手順に従って行うものの、国際商標登録の保護の範囲は、マドリッド制度の各指定締約国の国内法令に従って定められます。

拒絶理由

知財庁は、絶対的理由相対的理由により―例えば、商標の識別性や記述性に問題がある場合 (絶対的理由) や、同一の商品・役務について同一または類似の商標が既に登録されている場合 (相対的理由) に―その領域内における商標の保護を拒絶することができます。
マドリッド制度の締約国の知財庁は、国際商標登録が国内要件を全て満たさない場合に、その領域内における保護を暫定的に (または決定的に) 拒絶することができます。

【朗報】たとえ1つの知財庁で拒絶されても、それが他の国・地域における保護に影響を与えることはありません。
また、全ての知財庁が、ニース分類 (標章の登録のための商品・役務の国際分類) で使用されている大まかな用語や類見出しを認めているわけではありません。

実体審査 (知財庁) にフォーカス

4つの知財庁の商標専門家に話を聞きました。インタビューを通じて、各国における実体審査の実務・手続に関する理解を深めるとともに、マドリッド制度を通じてターゲット市場において高確率で迅速に商標の保護を受けることができるように、事前に (国際商標出願を行う前を含め) どのように準備したらよいかについて知見を得ることができました。

4人の商標専門家全員からの基本的なアドバイス

「ブランドの国際保護の出願をする前に、各ターゲット市場の法的要件を確認しましょう。きちんと準備をすればするほど、保護を確保できる可能性が高まります。」専門家からのアドバイスの一例: 「登録商標の記号 (®) を国際商標の表示に含まないようにしましょう。多くの官庁で拒絶されます。」

(なお、これらのコメントは、WIPOの見解を反映するものではありません。)
ヒント: このような情報を含む各種情報はeMadridのMember Profiles (締約国情報データベース) で調べることができます。

Alejandra Zalazar氏 (チリ) の話

(Phtoto:  Alejandra Zalazar)

「暫定的拒絶通報が最も多く行われるのは、商標・役務の記述や翻訳に関連するケースと、チリで既に登録されている商標と類似するケースです。」

Alejandra Zalazar氏 (チリ国立産業財産機関 (INAPI) )

豆知識: チリは2022年7月にマドリッド制度に加入しました。

チリでは国際商標登録の実体審査はどのように行われますか?

「まず、我が国 (チリ) を指定する国際商標登録について、ごく基礎的な予備チェックを行って、情報が全て正しいかどうかを念のため確認します。その後、我が国の官報において公告を行います。ここから30日間の異議申立期間が開始し、その期間の経過後に実体審査を行います。

チリ国立産業財産機関 (INAPI) では4名の職員が国際商標登録を処理しています。異議があれば (絶対的理由であるか相対的理由であるか) 内容を確認し、異議の内容に基づいて保護を拒絶すべき理由があるかどうかを検討します。『理由あり』と判断した場合、まずその登録について我々が審査を行い、それから異議部に移管してそこで更に処理が進められます。『理由なし』の場合、我々が実体審査を進め、保護を付与するか、絶対的または相対的拒絶理由があれば暫定的拒絶通報を送付します。」

「チリが指定されている国際商標登録を毎週150件程度処理します。そのうち、およそ50件について暫定的拒絶通報を行います」とAlejandra氏は説明します。

「INAPIから暫定的拒絶通報を受け取った場合、もしチリに居住していなければ、チリの現地代理人を通じてスペイン語で当方に応答する必要があります。」

Alejandra Zalazar

チリで暫定的拒絶通報がなされる主な理由

「暫定的拒絶通報が最も多く行われるのは、商品・役務の記述や翻訳に関連するケースと、チリで既に登録されている商標と類似するケースです」とAlejandra氏は話します。

「商品・役務の記述について、例えば、第43類の「仮想パン屋 (virtual bakery) 」という用語を見てみましょう。第43類に含まれるサービスとしては「喫食用の飲食物の提供または支度」があります。これには、パン屋で提供されるサービスが含まれると解することができるでしょう。しかし、「仮想 (virtual) 」という用語を使った場合、 (INAPIの観点からすると) 話が変わってきます。そのようなサービスは、「仮想現実を通じた娯楽 (entertainment through virtual reality) 」に関連する第41類に含まれるような別のサービスに類似する可能性があります。」
WIPOからのアドバイス: 主要な商品・役務を記述する際に (国際商標出願において) 使用する用語が、保護を求める現地の知財庁で認められていることを確認しておきましょう。確認がなされていない場合、管轄区域によっては、用語が不明確 (あいまい) であると判断されて、補正や削除が必要になる場合があります。

Alejandra氏からのアドバイス

「早い段階から準備しましょう。チリは、eMadridからアクセスできるWIPOのGoods and Services Manager (「MGS」) にまだ参加していませんが、INAPIが提供する商品・役務名検索データベースを利用することで、INAPIで認められない可能性のある用語を調べて、事前に解決策を模索することで暫定的拒絶通報を回避できます。」ヒント: 本データベースには「方言 (localism) 」も含まれます。

「さらに、INAPIの商標データベースを利用して、チリにおける類似商標を検索することもできます。もちろん、WIPOのGlobal Brand Databaseでもチリの商標データセットの大部分を検索することができます!」

次の目的地は…インド – Roopa Bhasker氏

(Photo: Roopa Bhasker)

「インドにおける大きな課題の1つが、優先権主張の取扱い、すなわち先に登録された国内商標の日付の確保です。インドの国内法令では、複数の優先日は認められず、国際商標登録に含まれる全ての商品・役務に関して単一の優先日しか認めることができません。」

Roopa Bhasker氏 (インド特許意匠商標総局 (CGPDTM) )

豆知識: インドは2023年、国際商標登録において10番目に多く指定された知財庁でした。
「12名からなる少人数のチームで国際商標登録に関連するあらゆる事項を処理しています。4名が実際に実体審査を行っており、毎月およそ1000件の登録を審査します。チームの他のメンバーは、例えば異議や保護の付与といったその他の手続を処理しています。」

インドで暫定的拒絶通報がなされる主な理由

Roopa氏によると、インドでは、商品・役務の区分が最大の課題ではなく、優先権主張の取扱い、すなわち最先の国内商標登録の日付の確保が問題になることが多いそうです。「インドの国内法令では、複数の優先日は認められません。名義人が複数の優先日について国際商標登録の保護を求めている場合、全ての商品・役務に関して単一の優先日しか認めることはできません。」

「インドを指定する国際商標登録のうち概ね70%に対して保護を付与することができています」とRoopa氏は説明します。「残りの30%については、絶対的または相対的事由に基づく拒絶理由が通知されるか、優先権主張に関して不備が指摘されています。」

Roopa Bhasker

さらにRoopa氏は、暫定的拒絶通報を受領した際に名義人が必ずしも適切に対応しないことも問題であると指摘します。「暫定的拒絶通報を受け取った名義人は、必ずインドの現地代理人を選任する必要があります」とRoopa氏は話します。「名義人が庁に対して直接応答しようとする場合があります。しかし、これは認められません。名義人には、登録の手続が更に遅れることがないように、現地代理人を選任するよう再度通知することになります。」

「さらに立体商標に関連する問題もあります。どのような立体商標であっても、5通りの図が必要になりますのでご注意ください。5つの図が全て提出されない場合は、暫定的拒絶通報を送付します。足りない図面とあわせて、通報への応答をお送りください。」

Roopa氏からのアドバイス

「先を見越して準備してください。インドにおける手続を調べて、必要であれば、直接当方に問い合わせるか、インドの商標制度に詳しい現地商標代理人の助力を求めてください。そうすることで、よくある不備を回避して、インドでブランド保護を確保できる可能性を高めることができます。」

次の訪問先はタイ – Nutcha Sookchayee氏

(Photo: Nutcha Sookchayee)

「タイで発せられる暫定的拒絶通報のほとんどが、商品・役務の分類の際に使用される用語に直接関連するものです。」

Nutcha Sookchayee氏 (タイ商務省知的財産部 (DIP) )

豆知識: タイは2017年にマドリッド制度に加入しました。
「タイ知財庁 (DIP) では、17名の職員が国際商標登録の実体審査を行っています。絶対的拒絶理由 (識別力、商標の不登録事由など) と、相対的拒絶理由 (類似商標) の両方について審査します。

職員はそれぞれ1営業日あたり少なくとも3件、1カ月あたり約55件の登録を処理します。」

よくある問題

「タイで発せられる暫定的拒絶通報のほとんどが、商品・役務の分類の際に使用される用語に直接関連するものです。

国際商標登録に含まれる商品・役務のリストが非常に広範な場合があり、国際商標登録によっては5,000語ほど含む場合があります。このようなケースは当方にとって障害になっています。

また、タイで認められない用語が含まれている場合もありますし (タイではニース分類の用語が全て認められるわけではありません) 、用語があいまい過ぎる場合もあります。また、ニース分類の類見出しも認められません。

ただし、多くの問題については回避策があります。例えば、より具体的な用語の使用を求めたり、1つの用語を2つの語に分けるよう名義人に求めることがあります」とNutcha氏は話します。

「暫定的拒絶通報を受け取った場合、応答期間は90日です。タイの現地代理人を通じてタイ語でDIPに応答する必要があります。」

アドバイス

DIPの商品・役務データベースを使って、タイで認められる用語について調べることができます。 (なお、タイはeMadrid内のWIPO Goods and Services Manager (「MGS」) にまだ参加していません。) 例えば、英語で用語検索を行って、その用語が使用される具体的な用例を全て、対応するタイ語表記とあわせて調べることができます。」

「また、タイで保護を求める前に、WIPOのGlobal Brands Databaseを使ってタイにおける類似商標の検索を行うことを強くお勧めします。例えば画像や国名で簡単に検索することができます!」

最後の訪問先はトリニダード・トバゴ – Anelia Baijoo氏

(Photo: Anelia Baijoo)

「当方のオンライン商標検索や、WIPOのGlobal Brand Databaseを利用することで、トリニダード・トバゴで存続中の商標を探すことができます。ターゲット市場で商標の保護を求める前に、誰でもアクセスできるこれらのツールを使うことで、手続をかなり合理化できます。」

Anelia Baijoo氏 (トリニダード・トバゴ知的財産庁 (TTIPO) )

豆知識: トリニダード・トバゴは、カリブ海地域で最初にMadrid e-Filing (マドリッド制度ユーザのためにWIPOが提供するオンライン出願サービス) に参加した国です。
「トリニダード・トバゴは、カリブ海地域だけでなく広く中南米地域における商取引の拠点として、国際商標登録における指定数が増えています。審査官は全員、国内および国際商標登録のどちらも初めから終わりまで、言わば「揺りかごから墓場まで」処理できるよう訓練されています。当方は「登録推進派 (pro-registration) 」です。ユーザーの皆様がトリニダード・トバゴでできるだけブランドの保護を確保できるよう努めています。」

トリニダード・トバゴ知的財産庁 (TTIPO) で見られる典型的な問題としては次のようなものがあります。
商品・役務の区分: 「トリニダード・トバゴはニース分類制度に準拠していますが、国際商標登録で使用されている区分の用語が広すぎる場合があります」とAnelia氏は説明します。「このような問題を避けるために、eMadridのWIPO Goods and Services Manager (「MGS」) を使うことを出願人に強くお勧めします。」
トリニダード・トバゴで既に商標登録されている存続中の先行の権利

特定の記号の使用: 「国際登録の表示において、特定の記号 (例えば登録商標を表す記号) の使用は認められません。」

Anelia氏からのアドバイス

「当方のオンライン商標検索を利用することで、トリニダード・トバゴで存続中の商標を調べることができます。また、WIPOのGlobal Brand Databaseでも当方のデータコレクションを検索することができます。ターゲット市場で商標の保護を求める前に、誰でもアクセスできるこれらのツールを使うことで、手続をかなり合理化できます。」

調査を優先事項に

このように、国際商標登録の要件は知財庁ごとに異なりますが、4人の商標専門家は皆、計画の早い段階から現地での要件をよく理解しておくことが重要であると説明します。

とはいえ、マドリッド制度の全ての締約国の知財庁におけるさまざまな手続や要件を調べることは非常に困難です。

でも心配ご無用、我々にお任せください。

eMadrid (国際商標保護のためのオンラインゲートウェイ) から利用可能なMember Profiles (締約国情報データベース) を使って検索することで、マドリッド制度の全ての締約国における法令や手続について学ぶことができるとともに、特定のターゲット市場に特有の要件を簡単に調べることができます。

WIPOが提供するその他の支援ツール

Goods and Services Manager (「MGS」)

何千もの用語から適切な語を選んで、国際商標登録でカバーしたい商品・役務のリストを作成・確認することができます。

Goods and Services Explorer (商品役務名検索)

MGSで特定の用語が見つからない場合は、Goods and Services Explorer (商品役務名検索) において用語検索をすることで、その用語が過去10年間にWIPOおよび主要な知財庁によって何回受け入れられたかを言語別に調べることができます。
 これらを含む各種ツールはeMadridからアクセスできます。

もっと詳しく知りたい場合