WIPO標準ST.26の適用開始

2022年7月1日

実務分野: バイオテクノロジー
WIPO標準ST.26準拠の準備はよろしいですか?

DNA、RNAまたはアミノ酸の配列を含む特許出願をされたことのある皆様は、新たに策定された WIPO標準ST.26 (英語版) PDFについて既にご存知でしょうか。WIPO標準ST.26は、従前のWIPO標準ST.25に代わり、特許出願における塩基配列やアミノ酸配列の記載・提出に関する要件を規定しています。新たな標準は、2022年7月1日以降に行われる国際出願に適用されます。また本標準は、同日より、各加盟国の国内・広域特許出願にも適用されます。

新たな標準を策定した理由

ST.26の目的は、バイオテクノロジーの技術進展を反映しつつ、配列表に関する実務を全ての官庁で統一するとともに、国際的な配列データベースの要件を満たすことにあります。例えば、ST.25 (最終改正: 2009年) では、近年出現した配列型 (分岐配列、D-アミノ酸やヌクレオチド類似体など) を表現できません。また、ST.25は、現行の公共配列データベースの要件を満たしていないことから、ST.25形式の場合、配列データベースへ移行する際にデータが失われてしまう可能性があります。一方、ST.26形式では、データが階層構造化されるため、検索性の改善と自動検証が可能になり、官庁・出願人双方にメリットがあります。

変更点は?

ST.25とST.26との最大の相違点は、ファイル形式です。ST.25ではTXT形式またはPDF形式でしたが、ST.26では配列表はXML形式に限られます。 (ST.26形式の配列表の見本)

配列データがXMLタグに埋もれて読みにくくなるのではないかとご心配の皆様のために、WIPO Sequenceソフトウェアを提供しています (詳細は下記ご参照) 。本ソフトウェアでは、XML形式で配列表をインポートしたり、配列や関連情報をユーザに読みやすい形式で表示したりすることができます。また、WIPOでは、PATENTSCOPEに配列表リーダーを組み込む予定です。これにより、公開公報において配列表が「人間が読める形式」で表示されるようになります。

そのほかの主な変更点としては、上述した追加の配列型 (具体的には、D-アミノ酸、分岐配列の線形部分およびヌクレオチド類似体) の記載が要件とされる点が挙げられます。また、ST.26では、短い配列 (すなわち、10個未満の具体的に定義されたヌクレオチドおよび4個未満の具体的に定義されたアミノ酸) の記載が禁止されます。ST.26では、アミノ酸配列は、3文字表記ではなく、1つの大文字で表記されます。また、RNA配列ではウラシルは「u」ではなく「t」と表記されます。変更点の詳細については、下記「関連情報」からST.26に関するウェビナー研修の情報をご参照ください。

ST.26準拠の配列表の作成方法は?

WIPOは、各国内・広域官庁と緊密に連携して、「WIPO Sequence」を開発・リリースしました。このソフトウェアは、ST.26準拠の配列表の作成および要件検証を支援する無料のデスクトップツールです。また、WIPO Sequenceは、配列表をST.25形式からST.26形式に変換する機能や、ST.26で要求される追加情報が必要なときに通知する機能も搭載しています。WIPO Sequenceは直感的に操作可能ですが、もしサポートが必要でしたら、本ソフトウェアの使用方法に関する速習ウェビナー研修の動画もご参照ください (下記リンク) 。また、メーリングリストに登録することで、WIPO Sequenceソフトウェアの最新情報を入手できます。WIPO Sequenceによる配列表の作成に関してご不明な点がありましたら、WIPOウェブサイト掲載のユーザマニュアル (日本語) をご覧いただくか、WIPO SequenceおよびST.26についての「Knowledge Base」(英語) をご参照ください。

配列表を含むPCT出願を提出するには?

PCT出願の提出には ePCT。ePCTを利用すれば、参加している79の受理官庁 (RO/IBを含む) に対してPCT出願を作成・提出することができます。また、リアルタイムの検証機能を備えているので、エラーを回避することができます。2022年7月1日より、ePCTでは、ST.26に準拠したXML形式の配列表のみアップロード可能となります。

また、各官庁独自の出願システムを通じて出願をする必要のある受理官庁 (例. RO/CA、RO/IL、RO/US) の場合、あらかじめePCTを利用して願書様式 (様式PCT/RO/101) を作成することで、ePCTの検証機能を利用できます。その後、ePCTから出願パッケージをダウンロードして、当該受理官庁の出願システムへアップロードできます。

管轄の受理官庁がePCTによる国際出願を受け付けていない場合には、当該受理官庁が提供する出願ソフトウェアを利用してST.26に準拠した配列表を提出することが推奨されます。

優先権主張の基礎出願に対する新標準の適否

上述のとおり、ST.26は、出願日が2022年7月1日以後である全ての特許出願 (国内出願、広域出願、PCT出願) に適用されます。一方、2022年6月30日以前に出願されたPCT出願については、国内段階・広域段階を通して、引き続きST.25に準拠する必要があります。なお、ST.26が適用される出願は、優先日ではなく、出願日に基づいて判断される点にご注意ください。

2022年6月30日以前に出願された基礎出願についても、引き続きST.25に準拠する必要があります。なお、ST.25準拠の出願に基づく優先権を主張する際に、ST.26で意図せず新規事項を追加してしまうのではないかとご心配の方は、ST.26の附属書VIIをご覧ください。新規事項を追加せずにST.25の配列表をST.26に変換する推奨方法が記載されています。

何から始めればよいか分からない場合は?

はじめに、ST.26に関するウェビナー (入門編) をご覧ください。また、その他の研修動画や参考資料については、下記をご参照ください。