ベラルーシがイノベーションおよび経済成長促進のために知的財産制度を強化
著者 Uladzimir Rabavolau、ベラルーシ共和国国立知的財産センター ディレクタージェネラル
ベラルーシは中央・東ヨーロッパの他の国々と同様、過去20年間に渡り、知識型経済への移行に注力してきました。この目的に向けて、政府はビジネスの発展および国家の長期的な経済的持続可能性を支援するイノベーションエコシステムの開発を支援してきました。国家の知的財産制度の強化が、この取り組みの中心にあります。
国家知的財産政策の実施:主な当事者
国家の知的財産政策を開発するという任務は国立科学・技術委員会(State Committee on Science and Technology 、SCST)の担当です。戦略の実用的な実践と産業財産権および著作権に対する知的財産サービスの提供は、国立知的財産センター(National Center of Intellectual Property 、NCIP)に委ねられています。SCSTの監督下にあるNCIPは、知的財産が公共部門およびクリエイティブ産業を含む産業界で科学、テクノロジー、イノベーションの発展をサポートするよう努めます。その取り組みは、経済を近代化し、国際的な競争力を高める努力を後押しします。ベラルーシ共和国最高裁判所知的財産訴訟司法委員会、科学・技術に関する共和国図書館(RLST)、発明家・革新者のためのベラルーシ社会、弁理士、知的財産物鑑定官、その他の知的財産の専門家などその他関係者も、国家の知的財産政策が効果的に機能するよう努めています。知的財産法の強化に関する任務は、総務省および州税関委員会が担当しており、 知的財産侵害を阻止および防止するための偽造防止対策や刑事制裁のような効果的な措置を設置します。国家税関委員会は、知的財産物の国家関税登録を管理し、商品の真正性の検証や侵害商品の押収プロセスを円滑にします。
ベラルーシの知的財産制度の近代化は、国家知的財産戦略に基づき、WIPOとの協力によって開発されました。この戦略は、経済的実績の向上、ハイテク産業の発展、国家の輸出の可能性および競争力の強化、外国投資の誘致、そして国家の社会経済開発の全体的な促進という国家の重要な目標を支えています。それは、知的財産に関する国内法および規制の枠組み、国内の知的財産インフラおよび国内の知的財産管理制度の開発を含む様々な分野に及んでいます。例えば、NCIPは現在、特に商標出願における処理時間を短縮するなど、商標手続きの効率を改善するために、WIPOのカスタマイズ可能な知的財産自動化システム(Intellectual Property Automation System、IPAS)の統合を進めています。また、 NCIPは、150以上の市場を対象とする特許協力条約(Patent Cooperation Treaty、PCT)に基づいた国際出願を管理するためのWIPOのオンラインポータル、ePCTシステムを導入しています。これらのイニシアチブにより、NCIPは効率向上を実現し、サービスの質を改善できるようになります。知的財産戦略に概説されているその他の目標は、知的財産保護基準の改善、特許情報および知的財産教育、知的財産侵害に対抗するための手段に関するものです。効果的なイノベーションエコシステムを構築するうえで、これら全てが重要な要素となります。
ベラルーシの国際知的財産プロファイルを強化する
ベラルーシ政府は、国家の知的財産に関する法規制の枠組みが国際基準を満たし、国家の国際競争力の向上に役立つように積極的に取り組んでいます。
ベラルーシは現在、2016年に加盟した特許法条約を含め、WIPOが管理する17つの条約の締約国です。政府は、近い将来、さらに2つのWIPOの条約に加盟することを検討しています。1つ目の条約は、盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約です。これにより、視力障害のある人や目の見えない人が、必要な形式で、必要な公開作品にアクセスすることができるようになります。2つ目の条約は、意匠の国際登録に関するハーグ協定で、これによりベラルーシ人デザイナーは国際市場で自身の作品をより簡単に保護できるようになります。
「ベラルーシの最優先事項は、効率的で安定した費用効率の高い知的財産制度によって支えられた優秀な国家イノベーションエコシステムの開発支援を通じて、ベラルーシ人発明者の能力を活用し、最先端のイノベーションを開発することです。」
また、ベラルーシは、ユーラシア経済連合(Eurasian Economic Union 、EAEU)の著作権および関連する権利の共同管理協定に加盟しました。この協定は2019年5月に発効し、クリエイターが彼ら自身に起因する使用料を受け取るために必要な制度的構造およびメカニズムが整っていることを保証するのに役立ちます。この開発はクリエイティブ経済を強化し、著者の知的所有権を保護および強化する政府主導の推進力の一部です。
共同管理サービスをアップグレードする取り組みの一環として、NCIPは最近、使用料の支払いがクリエイターに再分配されるよう、現地のオペレーションを合理化し、地域的ネットワークおよび国際的ネットワーク間の繋がりを管理するWIPO Connectを導入し始めました。NCIPの共同管理サービスは、40カ国100万人以上の著者の利益を代表しています。2018年、共同管理サービスは著者の代理として使用料290万米ドルを回収しました。
国家知的財産法の最近の進展
ベラルーシには知的所有権を規制する6つの法律があります。これらの法律は、技術的進歩の速さに対応し、知的財産の国際基準に準拠していることを確認するため、定期的に見直され、改善されています。最近、立法者が特許、実用新案、意匠、商標およびサービスマーク、集積回路の地形の保護に関する国内法を改正および更新しました。国会は現在、地理的表示に関する改正法案を検討しており、著作権および関連する権利に関する新しい法律がまもなく発効されます。多くの知的財産関連規則もまた、定期的な見直しと改善の対象になります。2018年だけでそのような規則が50件更新されました。
企業による知的財産制度の使用増加を促すために、NCIPは引き続きサービスをよりユーザーフレンドリーで手頃な価格にするための新しい手段を考察しています。特許料は定期的に更新されています。2019年1月以降、認定科学機関は特許料の75パーセント割引の恩恵を受けています。ここでの目的は、研究ベースの当事者が彼らの成果を積極的に保護および商品化することを促し、大学のスピンオフおよびスタートアップを通じたビジネスの発展を奨励することにあります。
知的財産の出願率および登録率の増加
過去2年のベラルーシにおける知的財産の出願率および登録率の増加は、知的財産分野における政府の野心的かつ集中的な立法改革プログラムが実を結んでいることを示しています。ベラルーシの知的財産活動において圧倒的に最もダイナミックな分野である商標出願は、2017年の8,248件から2018年には8,338件まで増加しました。また、商標登録は同期間に、3%増加し、6,813件から7,051件になりました。特許および意匠の出願活動も増加しました。
知的財産取引もまた、増加しています。2018年、NCIPは688件の知的財産契約を登録し、そのうちの半分以上(合計354件)は期間限定のライセンス契約でした。さらに、NCIPは知的財産保護商品に関連する権利の永久移籍に関する契約数の年間増加も記録しました。フランチャイズ契約もまた、増加しています。これらの契約(そのうち93件が2018年に登録されている)が国内のグローバルブランドの存在感を示し、また外国投資の国内への流れを誘致する政府の取り組みが成功している指標にもなっています。
同様に、国家統計では、知的財産サービス関連の輸出のレベルおよび収益の増加が確認されています。2015年から2018年の間、知的財産サービス関連の輸出は3倍になり、国家経済において約6,600万米ドルを創出しています。
テクノパーク
学界および経済界のつながりを強化し、研究成果の商品化を促し、ビジネスの発展を奨励するという目的で、政府は、ベラルーシ国内の都市に10件のテクノパークを建設しました。例えば、その技術的専門知識により現在では世界中で知られるようになったミンスクのハイテクパーク(HTP)は、国家のデジタル経済発展のために創設されました。4億6,000万人以上の登録ユーザーを抱える有名なViberアプリの製作者であるViber Mediaのような企業を含む560社以上の企業がパークを拠点に活動しています。他にも、HTPを拠点に活動する受賞歴のあるスタートアップには、ユーザーとデジタル世界の間に現実的なインターフェースとより没入型のバーチャルおよび拡張現実体験を作り出すフルボディ触覚スーツを開発したTeslasuitが名を連ねています。Teslasuitは今年始めに、名誉あるレッドドットアワードでベストレボリューショナリーデザインを受賞しました。
その他のHTP利用者は、最新の人工知能ベースソリューションに関連するアプリケーションの開発に集中的に取り組んでいます。例えば、Banuba Developmentは、人工知能、コンピューター・ビジョン、その他の機械学習技術を使用して、コアコンピューター・ビジョン技術に関連したカメラベースのアプリを製作しているコンピューター・ビジョン中心のスタートアップです。大成功を収めているもう一つの利用者、Synesisは、公共の安全性のための知的画像監視システム開発やゲームのアプリケーションなど人工知能ベースの技術ソリューション開発における世界のリーダーです。世界中で1億人以上の人々が彼らの技術ソリューションを毎日使用しています。
HTPで製作されたソフトウェアアプリケーションは、世界中で10億人以上の人々に使用されています。これにより、国家にとって莫大な額の輸出収益をあげています。
知的財産教育および知的財産に関する国民の認識を向上する
知的財産教育は、NCIPの取り組みの中でも重要な焦点の一つです。イノベーションエコシステムの成功に対する知的財産教育の中心的な重要性を認識し、NCIPは2004年に、知的財産トレーニングセンターを創設しました。センターは、以上に記載したテクノパークの利用者を含めた法律の専門家、企業家、研究者などに専門能力開発の機会を提供しています。毎年、100人以上の専門家が、知的所有権管理から知的財産出願の書き方および申請方法に到るまで幅広いトピックを取り扱っているセンターのトレーニングプログラムの恩恵を受けています。また、センターでは弁理士および審査官の研修生専用に作られたトレーニングプログラムを提供しています。
雇用、ビジネスの発展、経済的パフォーマンスの観点において、知的所有権の戦略的な使用により生み出される利益に関する幅広い認識を育成することは、効果的な国家知的財産制度を構築するうえで、もう一つの重要な要素となります。年次世界知的財産の日キャンペーン活動を組織するなど、国家の知的財産当局のおかげで、社会経済発展を支援する知的財産の可能性に関する国民の認識は高まっています。ビジネスに対する知的財産の関連性に関する理解を深める動きの中で、NCIPは最近、オンライン知的財産取引所を公開しました。発明家が彼らの発明品を展示し、企業家が関連する知的財産ライセンスの機会について学ぶプラットホームで、取引所はベラルーシの知的財産資産の売り込みを促進するサポートをします。2018年末までに、取引所には670件以上の発明品が登録されました。
WIPOとの協力体制
ベラルーシは、WIPOの1970年の創立以来、WIPOの締約国で、その取り組みに積極的に参加してきました。過去50年間で、WIPOとベラルーシは国家知的財産制度の開発および国家の経済発展を目的とした知的財産の戦略的な使用を奨励するための強固な協力体制の基盤を築いてきました。この長期的で有益な関係は、今年6月、政府がWIPOとの広範な協力合意に署名したことで、新しい機動力を得ました。合意では、以下様々な活動が対象となっています。:
- 2030年までの国家知的財産戦略の開発
- 大学による知的財産戦略採用の推進
- ベラルーシのテクノロジーイノベーションサポートセンター(TISCs)のネットワークを拡大し、現地の発明家が知的所有権を作成、保護、管理し、イノベーションの経済的な可能性を実現するための支援
- 特許の質の改善
- 知的財産資産の商品化の促進
- 知的財産関連の紛争に対して費用効率が良く、迅速な解決策を支援するための仲裁および調停サービスの開発
ベラルーシの最優先事項は、効率的で安定した費用効率の高い知的財産制度によって支えられた優秀な国家イノベーションエコシステムの開発支援を通じて、ベラルーシ人発明者の能力を活用し、最先端のイノベーションを開発することです。政府の最高レベルからの支援、 知的財産およびイノベーションの奨励に対する国家知的財産当局のコミットメント、国内の革新的でクリエイティブな才能の豊富なタレントプールを誇るベラルーシのイノベーションの未来は非常に明るいと言えるでしょう。
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