急速に変化する環境におけるドメイン名の悪意ある登録に対する取り組み
著作 John McElwaine 、パートナー、Christopher D. Casavale 、アソシエイト、Nelson Mullins 、チャールストン、サウスカロライナ州、アメリカ合衆国
1990年代後期の「ドットコム」ブームは、インターネットの商業化の先駆けとなり、ドメイン名制度の拡大を引き起こしました。しかし、これらの前向きな発展は、転売して利益を得ることを目的としてドメイン名、特に有名な商標を悪意で登録するというサイバースクワッティングの問題を引き起こしました。
サイバースクワッティングに対する取り組みで高い成功を収めている統一ドメイン名紛争解決方針(Uniform Domain Name Dispute Resolution Policy 、UDRP)の導入20周年を迎え、方針の起源、その効果、今後どのように発展していくのかについて検討していきます。
UDRPの展開
サイバースクワッティングが消費者の信頼、インターネットの安全、セキュリティ、安定性に対して示した脅威を認識し、1990年代後期、アメリカ政府は世界知的所有権機関(WIPO)にドメイン名および商標問題に関するコンサルティング研究 を実施し、関連するオンラインの悪用に有効な提案書を作成するよう依頼しました。WIPO は結論としてUDRPを提案し、それはブランドオーナーの権利を保護し、世界的なeコマースに対する消費者の信頼を構築することに大成功を収めた効果的なオンラインツールとして証明されてきました。
1999年4月、WIPOは当時新しく設立されたアイキャン(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers、ICANN )に、サイバースクワッティングに対処する迅速で、効率的で、費用効果の高い、統一された手順を提案する報告書を発表しました。また、WIPO報告書は、登録者の連絡先情報に関する先見性のある提案を提供しました。それは、EU一般データ保護規則(European Union’s General Data Protection Regulation、GDPR)の導入後の現在、ICANNがやっと取り組んでいるトピックです。WIPO報告書の出版から6ヶ月後、ICANNコミュニティはマルチステークホルダー方針の作成過程を通じて、WIPOの提案した方針にいくつかの小さな変更を追加しました。
UDRPの開梱
UDRPには3つの要素を確立する申立人が必要です。つまりそれは、:
- ドメイン名が申立人の商標と紛らわしいほど似ている。
- 登録者がドメイン名に対する権利または正当な利益を有さない。
- ドメイン名が登録済みで、「悪意」で使用されている。
条件を満たしたUDRPの申立人は、争点となっているドメイン名をその管理下に移すか、それを取り消すか、どちらか選択できます。UDRPは、1999年10月にICANN理事会によって法的拘束力のある「合意方針」(「.com」のようなICANNが管理するドメイン全てに対してレジストリおよびレジストラがUDRPを実装する必要があったことを意味する)として採用されました。1ヶ月後、WIPO 仲裁・調停センター(以下「WIPOセンター」)は正式な認可を受けた最初のUDRP紛争解決サービスプロバイダーとなり、1999年12月には最初のドメイン紛争がWIPOセンターに提出されました。
最初の20年:傾向と課題
最初のドメイン紛争は、World Wrestling Federationによって持ち込まれた<worldwrestlingfederation.com>のための紛争です。その後12ヶ月にわたり、WIPOセンターは1,857件のドメイン名紛争に対応しました。10年後の2010年には、2,696件のUDRP紛争を処理しました。2013年の取扱件数がわずかに減少したという例外はありましたが、WIPOセンターは提出されたドメイン名紛争の数が毎年増加し続けていることを確認しています。2019年、WIPOセンターでは約3,600件の紛争処理を予測しています。これは1999年にUDRPが発足して以来、最大の年間件数になります。
UDRPの成功および世界的な受容に疑問の余地はありません。これまで、世界中のブランドオーナーがUDRPを利用し、45,000件の紛争がWIPOセンターに提出されてきました。開始時より、UDRPを利用している申立人の大多数が米国に住んでおり、それに続いてフランス、英国、スイス、ドイツが上位5位を占めています。
2019年には、米国はWIPOセンターに紛争を提出したブランドオーナー(「申立人」)の32パーセントを占めました。同様に、これらの紛争に対する被申立人(例えば、紛争の対象となるドメイン名を登録した個人または団体など)の大多数も米国に住んでおり、それに中国、英国、スペイン、フランス、オーストラリアが続きます。2019年、米国はUDRP関連の紛争に対するWIPO被申立人の26パーセントを占めました。
UDRPが、悪意のある人物が商標権をオンラインで悪用する様々な新しい方法に対抗することを目的として、ブランドオーナーのために用意された柔軟で価値あるツールであることが証明されています。まさに、過去20年間でブランドオーナーが取り組まなければならなかった特別な課題の一部は、1990年代後半にUDRPが適用された時点では存在しませんでした。20年後も、UDRPはドメイン名のオーナーに対しこれらの悪用に対抗する公正な手続きを引き続き提供しています。
重要なのは、UDRPの広範な公式文書は十分に包括的であり、発展を続ける新しい悪用のシナリオに対応する判例法典の開発を可能にするということです。例えば、再販業者による潜在的な「おとり販売」のスキームは、影響力の大きいOki Data紛争(WIPO 紛争番号D2001-0903)で取り上げられました。この紛争では、販売業者のドメイン名のマークの使用が善意の公正な使用として特徴付けることができるかを判断するための審査が実施されました。
もう一つの注目すべき現象は、ドメイン名に使用されているブランドの信用により価値を持つが、登録者がその権利を保有しておらず、なおかつ、有効なウェブサイトにも使用されておらず、単に「保持」されている状態のドメイン名を収益化し、再販する試みが増加していることです。このような「消極的保持」は影響力の大きいTelstra対 Nuclear Marshmallows紛争(WIPO 紛争番号 D2000-0003)で提示されました。この紛争では、悪意を確定するために状況の全体性(つまり、商標の名義人が標的にされていたことが明確だったか)が考慮されました。
UDPRはまた、安定した言論の自由の保護を提供しています。これはもちろん、例えば、<walmartcanadasucks.com> (WIPO 紛争番号 D2000-0477)の紛争のように、 主張された言論の自由を伴う紛争によって バランスが取られていますが、実際には商業的利益のための口実です。
新興のドメイン名問題
今日、ブランドオーナーおよびインターネットユーザーは、偽造品の販売に絡むドメイン名の悪用、フィッシングスキームや詐欺のような問題に取り組んでいます。2019年、WIPOセンターに提出されたドメイン名紛争の16パーセントをフィッシングスキームの事例が占めており、それに続き、紛争の8パーセントを詐欺の申し立て、紛争の約6パーセントを偽造品または偽サービスの販売が占めていました。偽装品に関する紛争の3分の2はファッション、小売業および高級品産業が関連していました。金融業界は詐欺およびフィッシングスキームの主要な標的となっており、2019年にWIPOセンターによって処理された紛争のそれぞれ21パーセントおよび34パーセントを占めました。
さらに、明確な利点がある一方で、ドメイン名登録のためのプライバシーおよびプロキシサービス(ドメイン名登録者の連絡先情報を非公開にするサービス)の開発および実装が、悪意のある人物にとってインターネット上で悪用活動しやすい環境を作り出してしまいました。2004年、プライバシープロキシサービスに関する紛争は、WIPOセンターによって処理されたドメイン名紛争の5パーセント以下でした。2011年までに、WIPOセンターに提出されたドメイン名紛争の約30パーセントがプライバシープロキシサービスに関するものでした。そして、2018年には、EU一般データ保護規則(European Union’s General Data Protection Regulation、GDPR)に関連するプライバシー規則の実装により、WIPOセンターではこれらのサービスに関わる紛争の約45パーセントの増加が観察されました。
急速に変化するオンライン環境で、UDRPはそのレジリエンス、適応性、ブランドオーナーが直面している新興のオンラインの課題を提示する能力を証明しました。UDRPは今後も、消費者の信頼を維持し、オンライン上の悪意のある人物から彼らを守り、インターネットの安全性、セキュリティおよび安定性を維持する非常に貴重なツールであり続けるでしょう。
今後
今後について考察すると、最初の重要なマイルストーンは ICANNによるUDRPの次回の査定です。2020年、ICANNの作業グループは、ICANNが作成した他の権利保護の仕組みに関連して、UDRPが「作成された時の目的を達成しているか、または方針目標の明確化および統一を含め[改良]は必要か」を審査し始めます。
ブランド保護の面では、ICANNのUDRPの査定で以下依頼済みの変更の数々が検討されることになるでしょう。:
(i) 悪意のある登録を変更する「および」悪意ある登録の要素を使用する「または」古いドメイン名が新しいブランドを公に侵害する場合のシナリオを提示するために使用するかどうか
(ii) 「敗者支払い」の要素を採用するかどうか(欧州連合における商標反対および取り消し処理の実践に類似している)
(iii) WIPOが管理するUDRP異議申し立てプロセスを開発するかどうか。現行の制度では、管轄裁判所の前に異議申し立てを提出する必要があり、多くの時間と費用がかかる。
(iv) 再犯者のために今後のドメイン名には横線を採用するかどうか。
検討のために提案されたその他のトピックには、仲裁前に調停段階を含む制限法を追加すること(例えば、そうすることで、偶然の侵害リンクはドメイン名自体を差し戻すことなく削除できる)や侵害の申し立てに対応するための締め切りを延期することが含まれています。
UDRPに対する個人的な観点に関係なく、査定を任されたICANNの作業グループにとって、20年間の判例法の背後にある法的手段に対する偶発的およびその場の判断による調整を加えるリスクを認識することは非常に重要です。ポジティブな変化もあるかもしれません。しかし、インターネットに対する消費者の信頼が危機に面している現在、作業グループは十分な情報を得て、20年間の優秀な取り組みを無駄にしないようにしなければなりません。
効率向上に対する人工知能の可能性
これから数年後、人工知能に基づいたテクノロジーがこの仲裁のプロセスの効率を向上するために活用される可能性があります。例えば、共通の事例や侵害されるドメイン名の可能性を特定するためのアルゴリズムを開発するための基盤として、WIPO 概説3.0 (UDRPの判例法の概要)を利用できるかもしれません。例えば、同様のツールが商標検索を自動化するために他の分野で導入されています。また、人工知能を「悪意」の客観的なその他の指標を分析および測定するために使用できるかもしれません。例として、EURid、.EU 登録は、ドメイン名登録データを積極的に審査し、侵害目的または不道徳な意図により登録されている可能性のあるドメイン名を識別するツールを開発するために、人工知能をうまく利用しています。EURidの人工知能プログラムは、これまでに悪意のあるドメイン登録を92パーセントの正解率で特定してきたと報告しました。
より広範な出願の可能性
UDRPはインターネット上における商標の悪用に対する最初の襲撃となりました。今、重要な質問は、UDRPのもとで発展してきた知識、専門性、プロセスを他の同様な紛争に対応するために使用できるかどうかということです。
著作権侵害などの特定の法律またはプラットホームのサービス利用規範に違反する行為に対応するための通知や削除のプロセスは効果的ですが、これは無遠慮な手段です。さらに、このようなプロセスに関連する社内の意思決定が不透明なため、プラットホームの知的財産方針の適用における実際の予測可能性または認識されている予測可能性の欠如が生じます。
UDRPに類似した迅速で効率的な紛争解決のプロセスは、フェイクニュース、ソーシャルメディアのハンドル名侵害(例えば、Facebookの企業ページ名など)、 フィッシングまたは商標の偽装を含むその他の詐欺、またはオンラインプラットホームに投稿されたコンテンツに関する著作権、名誉毀損、その他のサービス侵害など、ソーシャルメディアの違反行為の対応に役立つかもしれません。
これらの種類の紛争を処理するために実績ある成功を収めてきたUDRP(WIPO概要3.0で規定されている判例法の本体を含む)のような調停ライトプロセスのモデルを使用することで、統一された一連の規則の適用を通じて、適正な手続きと透明性が確保されるでしょう。それゆえ、このようなモデルは当事者全員に予測可能性および安定性を提供するでしょう。インターネットユーザー、プラットホーム、オンラインビジネス、その全てが得をします。
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