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エアバス社:青空をグリーンにする取り組み

2020年3月

著者 James Nurton、フリーランスライター

世界最大の航空機製造会社であるエアバス社は気候変動に取り組むための様々な試みを展開しています。その成果は航空業界だけでなく、その他のセクターにも役立つでしょう。

2020年2月、エアバス社はMAVERIC(”堅牢で革新的な制御の検証と実験のためのモデル航空機“の略)を発表しました。「翼と胴体が一体」となった小型試作機です。その破壊的な設計により、現在の単通路機と比べて、炭素排出量を20パーセント削減する可能性を秘めています。(写真:エアバス社提供)

気候変動への取り組みは、世界中の航空業界の優先事項となってきました。現在、航空業界は二酸化炭素排出量の最大3パーセントを占めていると推定されていますが、航空旅行が15〜20年ごとに2倍になると予想されており、将来の航空旅行をより環境に優しいものにするために今すぐ行動を起こす必要があります。

航空業界は複雑で、民間航空会社、プライベートジェット事業者、政府機関に加え、航空機・エンジン・部品・関連インフラの製造業者や供給業者など、多くの民間および公共セクターが参加しています。

知的財産制度はイノベーションと新しいテクノロジーの開発を次の2点を通じて促進しています。第一に、例えば、発明者に独占的な権利を与える特許を通じて、環境に優しいイノベーションへの投資を保護すること。第二に、ライセンス供与、特許公開、共同研究開発、その他の形態のコラボレーションを通じて、テクノロジー資産の普及を可能にすること。

エアバス シニア・リーガル・カウンセル Carsten Sprenger

これは、気候変動に取り組むためのイノベーションの利益が業界全体で共有されるようにするために、ライセンス供与と技術移転が重要な役割を果たすことを意味します。これらのイノベーションの多くは、航空業界を超えて応用されており、知的所有権を効果的に使用することで、まったく異なる分野の他の企業にライセンスを供与できます。

羽ばたくことなく数百キロも飛行できる伝説的なアホウドリからインスピレーションを受けたエアバス社のAlbatrossOne試作機は、自由に羽ばたく翼端を飛行中に試用した最初の航空機です。これにより、抗力を低減し、乱気流や突風の影響に対抗でき、将来的にはより軽い航空機を作ることができます。(写真:エアバス社提供)

エアバス社は、 民間機と軍用機の両方を生産している世界最大の航空機製造会社として、業界の環境目標をサポートする新しいテクノロジーの開発と商品化を支援するよう業界を牽引しています。同社のウェブサイトにも掲載されているように、「飛行の未来は電気、自律飛行、排出量ゼロです。エアバス社では、イノベーションがより持続可能な世界に貢献できると信じています。今日の課題に従来とは異なるアプローチを行うことで、明日の持続可能な航空業界を構築できます。」

同社はすでに、最新機種が発生する騒音と排出量の削減に貢献してきました。例えば、A350 XWBは、旧型と比較して、燃料燃焼と二酸化炭素排出量を25パーセント削減します。同様に、A330neoは、同じクラスの旧型と比較して、座席あたりの燃料燃焼が25パーセント改善されています。

エアバスは、新技術を活用して飛行の未来を開拓しています。破壊的な航空機の構造を試作することにより、エアバスは実現可能な将来の製品として、その可能性を評価することができます。

エアバス エンジニアリング部エグゼクティブ・バイス・プレジデント Jean-Brice Dumont

エアバス社は今後を見据え、より環境にやさしいテクノロジー(電力を含む)、材料、ソリューションなどの様々な分野の研究開発に投資しています。その成果は、航空業界に大きな影響をもたらす可能性があります。2020年2月に開催されたシンガポール・エアショーで、同社はMAVERIC(Model Aircraft for Validation and Experimentation of Robust Innovative Controls(堅牢で革新的な制御の検証と実験のためのモデル航空機)の略)と呼ばれる曲線的な形状をした小型試作機(長さ2メートル、幅3.2メートル)を発表しました。翼と胴体が一体となった設計により、現在の単通路機と比較して、炭素排出量の20パーセント削減が可能になります。MAVERICの発表にあたり、同社のエンジニアリング部を担当するエグゼクティブ・バイスプレジデントのJean-Brice Dumont氏は次のように述べました。「エアバス社は、新技術を活用して飛行の未来を開拓しています。これまでとは大きく異なる新しい航空機の構造を試作することにより、当社は実現可能な将来の製品として、その可能性を評価することができます。」また、加えて次のように述べました。「環境問題に対処するには、このような破壊的テクノロジーが必要です。これは次世代の航空機です。私たちは、オプションを検討しています」。Dumont氏によれば、MAVERICは「航空業界の環境的に持続可能な未来のための航空機設計に変化をもたらす手段」となる可能性を秘めています。

ご存知でしたか?

過去50年間で、航空業界は以下を実現しました。:

  • 座席/キロメーターごとの燃料燃焼および二酸化炭素排出を80パーセント以上削減
  • 窒素酸化物排出を90パーセント削減
  • 騒音レベルを75パーセント削減

2036年までに、航空交通量は年間4.4パーセント増加すると予想されており、航空旅行の需要の増加に対応するために35,000機の新しい航空機を生産する必要があります。(Airbus Global Market Forecast)。

エアバス社は、2010年より電気およびハイブリッド電気システムを開発しており、2017年11月に、ロールスロイス社とのパートナーシップによりハイブリッド電気の試作機であるE-Fan Xを発表しました。(写真:エアバス社提供)

航空業界を持続可能にする

2015年の国連気候変動会議(パリ協定)で概説されている公約に従って、持続可能な成長を促進する業界全体に及ぶ独立機関である航空輸送アクショングループ(Air Transport Action Group 、ATAG)は、3つの環境目標を設定しています。1つ目は、2009年から2020年までの全世界の機体の燃料効率を年間1.5パーセント改善することです。この期間を通じて2パーセント以上の二酸化炭素を削減したため、この目標はすでに達成されています。2つ目は、2020年以降にカーボンオフセット対策を通じて実質二酸化炭素排出量を制限することです。3つ目は、2050年の二酸化炭素排出量を2005年の排出量の半分にすることです。

これらの目標は、気候変動対策の5つの柱である、技術的イノベーション、業務改善、インフラ効率、持続可能な航空燃料、二酸化炭素の増加を相殺するための市場に基づいた対策によって支えられています。

知的財産権は、特に航空機をより効率的にするための新たなテクノロジーの開発を促進し、代替燃料の使用を探究するという目標達成に関して、重要な役割を担っています。エアバス社のシニア・リーガル・カウンセルであるCarsten Sprenger氏は、次のように述べています。「知的財産制度はイノベーションと新しいテクノロジーの開発を次の2点を通じて促進しています。第一に、例えば、発明者に独占的な権利を与える特許を通じて、環境に優しいイノベーションへの投資を保護すること。第二に、ライセンス供与、特許公開、共同研究開発、その他の形態のコラボレーションを通じて、テクノロジー資産の普及を可能にすること。」

「エアバスは、既存の知的財産制度は環境に優しいイノベーションを奨励する準備が十分にできていると考えています。既存の知的財産制度の下で、知的財産戦略を環境保護や環境に優しい目標を支援するためにうまく適応させることができます。」とSprenger氏は述べています。 また、知的財産権は、様々な業界に渡ってイノベーションの利用が可能となるようにするためにも重要であると述べています。「特に、持続可能なテクノロジーに関しては、知的財産権は世界中の様々なセクターや産業でこのようなテクノロジーへのアクセスを可能にします。」

イノベーションの分野

エアバス社は非常に革新的な企業で、年間20億ユーロの研究開発予算を組み、2019年には合計34億ユーロの自己資金による研究開発投資を行い、世界中に1,000人以上の科学者や研究者を抱えています。同社は、様々なテクノロジー分野で合計約37,000件の特許を取得しています。「環境に優しいイノベーションの分野におけるエアバスの技術開発の多くは、特許を通じて保護されています。」とSprenger氏は述べます。

同社の現在の重点分野は次のとおりです:

持続可能な航空燃料(SAF):エアバス社は、再生可能エネルギーを使用する合成燃料が灯油の代わりになる方法を研究しています。この燃料は、使用済みの食用油、農業廃棄物、一般廃棄物などの再生材料から作ることができ、二酸化炭素排出量を80パーセント削減することができます。同社は、2016年からトゥールーズ(フランス)、モービル(米国)、ハンブルク(ドイツ)でSAFを使用した航空配達便を提供しています。2018年9月、エアバス社は業界で初の水素協議会メンバーになりました。2019年12月には、SAFを導入し、産業輸送のニーズに対応し始めました。

電気およびハイブリッド電気:エアバス社は2010年より、これらのシステムを開発しており、2017年11月には、ロールスロイス社とのパートナーシップによりハイブリッド電気の試作機であるE-Fan Xを発表しました。2021年に初飛行を予定しています。また、同社は、これまでに80回以上の試験飛行を行った全電気式の単一座席かつティルトウィングの航空機であるVahanaと、2019年5月に最初の離陸を実施した全電気式の4人乗りマルチコプターであるCityAirbusという2つの垂直離着陸試作機を開発しました。未来の自律飛行タクシーでしょうか? 2018年、Zephyrと呼ばれる太陽電池式の高度疑似衛星は、航空機の最長飛行時間を記録しました。これにより、世界中の防衛的、人道的、環境的ミッションに革命が起きることになりそうです。

経済的に効率の良い新しい材料:エアバス社は、炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fibre Reinforced Plastic 、CFRP)などの軽量で機能的な複合材料を含む様々な材料を検討しています。CFRPは耐疲労性と耐食性に優れているため、従来の金属材料よりも耐久年数が長く、重量と燃料を削減するという特性を持っています。また、航空宇宙の設計に革命をもたらすと期待されているクモの糸(鋼よりも強く、ケブラーよりも強く、驚くほど軽量)などの生物由来の材料も検討しています。また、最新の表面とコーティング、超高温素材とセラミックの実験も行っています。炭化タングステンコーティングや新しい金属合金などの新しい表面と材料は、圧縮フラップパッドやタービンブレードなどの航空機の主要部品に使用して、効率を高め、環境に有害な材料と置き換えることができます。

パートナーとの取り組み

エアバス社は、相当な規模の自社研究開発と共に、イノベーションを加速し、普及させる方法として、研究と技術のパートナーシップを結ぶことで様々な組織と協働しています。 パートナーシップの例:

The Clean Sky Program、航空研究とイノベーションを推進して、航空輸送の環境効率を高め、ヨーロッパにおける航空宇宙産業の競争力を強化するヨーロッパの取り組み。このプログラムは、騒音を抑え、二酸化炭素を低減し、ガス排出量を削減する技術開発の促進を目的としています。このプログラムの主要なプレーヤーであるエアバス社は、設定された環境目標を達成するために数々の最先端技術の開発を牽引しています。取り組みの例:

UltraFan、ロールスロイス社とのコラボレーション。 UltraFanは、第1世代のロールスロイスのトレントエンジンと比べ、燃費を25パーセント向上しています。エアバス社とロールスロイス社は、エンジンを将来の航空機に統合する目的で、飛行試験用のUltraFan試作機(Clean Skyが共同出資したプロジェクト)の統合に取り組んでいます。

BLADE (ヨーロッパにおける画期的な層流航空機の試作機)。エアバス社は、このプロジェクトで20を超えるパートナーで構成されるチームを率いています。 BLADEは、翼の形状、素材、表面を改造して、抗力を最大50パーセント削減することで、民間航空を変革します。このプロジェクトはClean Skyプログラムの一環でもあります。

Wing of Tomorrow:エアバス社の世界最大の研究プログラムは、炭素翼のための革新的な新しい構造とシステムアーキテクチャの作成を目的とした業界全体のパートナーシップによる成果です。このプロジェクトでは、他の鳥とは異なり、羽ばたくことなく数百キロも飛行できる伝説的なアホウドリの飛行技術を模倣し 、より軽量で燃費の良い航空機を設計することを目指しています。

MOZAIC :エアバス社は、6つの航空会社(ルフトハンザ、チャイナエアライン、エールフランス、イベリア航空、キャセイパシフィック、エアナミビア)と共に、 7台のワイドボディ機にオゾン、水蒸気、一酸化炭素の濃度などのデータを収集する測定装置を装備することにより、「飛行中のエアバスの機体によるオゾン測定(Measurement of Ozone by Airbus in-service Aircraft、MOZAIC)」に参加しています。

エアバス社は、アルミニウムより軽量で、鉄より強く、これら両方の金属よりも耐食性に優れている炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fibre Reinforced Plastic 、CFRP)などの様々な新しい複合材料を検討しています。航空機の部品は、炭素繊維を所定の位置にまとめるハイテク織機を通じて供給されます 。 (写真:エアバス社提供)

Carsten Sprenger氏は、エアバス社はパートナーと協力して、特許やその他の知的財産権を活用できると述べています。「電気推進の分野において、エアバスは研究開発パートナーとの取引に知的財産権を使用して、エアバスに航空輸送用の使用権利、パートナーには地上輸送用の使用権利を与えるなど、補完的な使用分野を創造しています。そうすることで、これらのテクノロジーの一部で必要となる莫大な投資をサポートし、成果の普及を広範囲で促進します。」

知的財産権はまた、他の産業にライセンス供与して、イノベーションの可能性を完全に活用することができます、と同氏はさらに付け加えます。「私たちは、エアバスで最初に航空宇宙アプリケーション向けに開発されたテクノロジーを、風力エネルギーセクターなどの環境に優しい産業で利用できるようにするために、ライセンス契約を使用してきました。」

進化する知的財産戦略

知的財産権を使用する様々な方法は、知的財産権がもたらす利点は何かという問いに対してシンプルな答えがないことを意味するとSpringer氏は述べています。「企業がどのように知的財産権を使用できるかを示す、文字通り何百もの状況に応じた使用事例があります。利益は、常に知的財産権の名義人の目的によります。」さらに同氏は次のように付け加えています。「環境に優しい未来のためのイノベーションを背景に、地球温暖化と環境問題が、環境に優しいテクノロジー分野における当事者の技術的、環境的、政治的目的をサポートするように調整された知的財産戦略の発展を誘発するだろうと私たちは予想しています。」

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