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再生可能エネルギーに関する特許の傾向

2020年3月

著者James Nurton、フリーランスライター

気候変動への取り組みには、再生エネルギー源(太陽光、風力、潮力など)の開発が不可欠です。これらに関して特許データから何を学ぶことができるでしょうか?

この10年間で、再生可能エネルギーに対するかつてないほどの投資と新しい技術の大きな発展が見られました。その証拠として、各地に点在する太陽電池と風力タービンの急増が確認できます。しかし、この発展は公開された特許出願数の傾向を観察することによっても測定できます。

特許は、イノベーションがどの程度、どこで、どの分野で起こっているかを示す指標として広く使用されています。したがって、データをより詳細に観察することで、再生可能エネルギー分野のイノベーションに関する様々な洞察を得ることができます。

再生可能エネルギー分野でイノベーションが促進された2002年から2012年までの10年間で、特許協力条約に基づいて公開された再生可能エネルギー関連の特許出願数は547パーセント増加しました。この数字は減少していきましたが、それでも2019年の件数は2002年の3.5倍でした。(写真:chinaface / E+ / Getty Images)

全体像

国連環境計画とブルームバーグNEFが発行している「再生可能エネルギー投資のグローバル・トレンド・レポート2019年版 pdf」によれば、2014年から2018年までの期間、再生可能エネルギー能力への投資は毎年2,500億米ドルを超えていました。報告書は、この10年を総体的に見て、世界で2.6兆米ドルが投資されたと推定しています。2019年までに、再生可能エネルギーの合計(大規模な水力発電を含む)は、世界で生産される総電力の26.3パーセントを占めます。

しかし、投資の状況は年ごとに異なります。2018年には多くの投資が行われましたが、実際には、その額は2017年よりも少なく、これについてグローバル・トレンド・レポート著者は次のように説明しています。「確かに2018年の世界の投資額は前年比12パーセント減でしたが、これは後退を意味するものではありません。再生可能エネルギー、特に太陽光発電は安くなってきているのです。」

2002年以降の最も注目すべき傾向は、太陽光発電テクノロジーの発展です。2002年、太陽光発電は公開された再生可能エネルギー関連のPCT出願の4分の1強を占め、2019年には半分以上を占めるようになりました。 (写真: alexs / iStock / Getty Images Plus)

Yongping Zhai氏とYoonah Lee氏が世界経済フォーラムの記事で解説しているように、再生可能エネルギーへの投資は減速していますが、これは必ずしも悪いニュースではありません。「再生可能エネルギー投資の成長の鈍化は、主に世界中で太陽光発電と風力発電の費用が低下していること、そして、多くの国で助成金が削減されているという市況の変化に起因する可能性があります。つまり、同じレベルの太陽光発電または風力発電の容量に必要な投資額が低くなっているということです。」と著者は述べています。

再生可能エネルギー部門での特許取得の傾向を観察する際に、これらの要素を念頭に置く必要があります。

特許と再生可能エネルギー

WIPOが管理する特許協力条約(Patent Cooperation Treaty, PCT)は、国際的な特許を求める発明者たちによって広く使用されています。単一のPCT出願を申請することにより、出願人は協定に署名した150か国以上の国で発明に対する特許保護を依頼できます。ただし、特許の付与は、国または地域の特許庁の管理に基づきます。

再生可能エネルギーの利用の増加は、地球温暖化を1.5℃に抑えるための鍵となります。

特許出願人は、PCT制度に基づいて国際出願を申請でき、これにより、複数の管轄区域で権利を取得しようとするプロセスが開始されます。重要なことに、出願は通常、最初の出願日から18か月後に公開されるため、発明もその時点で公開されることになります。この後、特許が審査され、(関連する特許性の基準を満たしている場合は)保護が指定されている国または地域の特許庁ごとに特許が付与されます。付与された場合、特許は通常、出願日から最大20年間有効であり、維持費の支払いの対象となります。特許権が失効すると、該当のテクノロジーはパブリックドメインとなり、一般の人は訴訟のリスクなしにそれを自由に使用できます。

PCTに基づいて公開された国際出願数の傾向を研究することで、いくつかの制約を念頭に置いておく限り、世界中のテクノロジー動向について貴重な洞察を得ることができます。第一に、PCTの数値が世界中における全ての発明活動を表しているわけではありません。PCT制度を使用する代わりに、国内または地域内で個々の特許出願を行うことを選択する発明者、または、全く特許を提出しないことを選択する発明者もいます。第二に、公開データは、通常、公開時における傾向の概略を提供しており、それは特許が申請されてから18か月後のもので、特許の有効期限が切れる何年も前のものもあります。そのため、このデータからは、特許の有効期限の期間や、市場における特許の商品化やライセンス供与の状況は分かりません。

全体的な傾向

図1が示すように、PCTに基づいて提出および公開された再生可能テクノロジー関連の国際出願の総数は、2002年から2012年まで毎年増加し、ピーク時には4,541件を記録にしました。それ以来、出願の数は2013年から2018年まで毎年減少しましたが、2019年にわずかに増加しました。

これらのデータを文脈の中で捉えると、WIPOは2018年 pdfにテクノロジー全体で237,378件のPCT出願を公開しました。つまり、再生可能エネルギー関連特許の割合は全体の11パーセントをわずかに超えたにすぎませんでした。コンピュータ技術、デジタル通信、医療技術、医薬品などそれぞれが国際出願の少なくとも6パーセントを占める分野に比べると、その少なさが分かります。

しかし、再生可能エネルギーの成長率は見事です。2002年から2012年にかけて、 公開された再生可能エネルギー関連のPCT特許出願数は547パーセント増加しました。 これは、ほとんどの投資が再生可能エネルギー分野で行われ、イノベーションが促進されていた10年であったことを示します。また、PCT国際公開の総数は2012年のピーク以降減少しましたが、それでも2019年の総数は2002年の3.5倍でした。

傾向を測定するもう1つの方法は、パテントファミリーを調べることです。パテントファミリーには、同じ優先日の全ての国内および地域特許が含まれます。言い換えれば、イノベーションの数と特許が出願されている市場の数の両方を測定するのに役立ちます。この方法を使用すると、最初にリストに記載された出願の出願年に基づく再生可能エネルギー関連の特許出願総数が2002年の10,463件からピークとなった2011年の27,089件に増加したことが分かります。2017年(データが入手可能な最新の年)の総数は24,027件でした。

これら全ての数字から何を推測できるでしょうか? 特許が長期的な投資であることを覚えておくことが重要です。例えば、2012年に申請された特許は2032年にも有効である可能性があります。特許出願人は、特許技術を組み込んだ製品やサービスの開発を通じて、または他者にライセンス供与することによって、その期間中いつでも発明を商品化できます。

したがって、2002年から2012年までのブームの間に特許を取得していた再生可能エネルギー関連の発明は、今日、そして今後10年間で、市販の製品やサービスとして出現する可能性があります。これら統計によって示された証拠が、2002年以降、再生可能エネルギー分野で多くのイノベーションが起こっており、現在、これらの発明的な取り組みによる成果が表れ始めていることを示しています。さらに、統計をテクノロジーの種類で分類することにより、再生可能エネルギー分野の傾向を特定できます。

図 1

公開年 再生可能エネルギー合計
2002 831
2003 1,084
2004 1,123
2005 1,464
2006 1,701
2007 2,048
2008 2,575
2009 3,090
2010 3,662
2011 4,272
2012 4,541
2013 4,308
2014 3,556
2015 2,752
2016 2,477
2017 2,606
2018 2,689
2019 2,863

出典:WIPO 経済統計部

テクノロジーの詳細

公開されている再生可能エネルギー関連のPCT出願の総数は、太陽光発電、燃料電池(化学反応による発電)、風力エネルギー、地熱(地中の熱を利用)の4つの主要セクターに分類できます。2002年以降の最も注目すべき傾向は、太陽光発電テクノロジーの発展です(図2参照)。2002年に、公開された再生可能エネルギー関連のPCT出願の4分の1強を占め、さらに2019年には半分以上を占めるようになりました。

過去17年間で、公開された太陽光発電関連のPCT出願数は678パーセント増加しました。2009年以降、太陽光発電は、毎年主要なテクノロジーとなってきました。ピークを迎えた2012年には、2,691件の国際特許出願が公開されました。イノベーションに対するこの投資は、世界中の太陽光発電の発展を反映しています。前述のグローバル・トレンド・レポートよれば、2009年末の太陽光発電容量は、わずか25ギガワット(GW)でした。 2010年から2019年の期間に638GWが追加的に利用可能になりました。

太陽光発電のデータは、2008年の初めにピークを迎え、主要テクノロジーのカテゴリーにあった燃料電池テクノロジーのデータと対照的でした。それ以来、公開された特許出願数は約半分に減少しました。2019年、燃料電池テクノロジーの国際特許出願は、再生可能エネルギーのわずか19パーセントを占めただけでした。

公開された風力エネルギー関連の国際特許出願数は大幅に変動していますが、全体的な傾向として成長を示しています。2019年には、再生可能エネルギー分野の出版物の28パーセントを占めました。しかし、地熱エネルギー関連の国際特許出願は、再生可能エネルギー分野で公開されたもののわずか1.4パーセントを占めるに留まりました。

図 2

公開年 太陽光 燃料電池 風力 地熱
2002 218 488 120 5
2003 239 640 194 11
2004 252 696 170 5
2005 403 902 148 11
2006 526 971 193 11
2007 722 1,045 263 18
2008 997 1,173 385 20
2009 1,536 976 530 48
2010 2,026 834 767 35
2011 2,522 854 848 48
2012 2,691 883 914 53
2013 2,465 921 875 47
2014 1,846 949 714 47
2015 1,290 819 608 35
2016 1,296 647 508 26
2017 1,374 577 619 36
2018 1,363 571 713 42
2019 1,479 537 807 40

出典:WIPO 経済統計部

地域の詳細

特許の傾向を分析するもう1つの方法は、特許の出所を調べることです。出願人の出身国を出願に記載する必要があります。複数の申請者がいる場合、データはリストに最初に記載されたものに基づいて作成されます。

この分析によれば2010年から2019年までの10年間で、再生可能エネルギー全般、太陽電池、燃料電池の技術に関する特許出願の総数において日本がリーダーボードの首位を占めていることが分かります。米国は地熱テクノロジーで首位となり(図3参照)、風力エネルギーではデンマークが1位で、ドイツがその後に続きます。

しかし、この10年間の後半を見ると、状況は多少異なります。日本の公開された再生可能エネルギー関連の国際特許出願の総数は3,114件で、依然として当該分野をリードしている一方、米国は2,247件で2位を維持し、中国が1,522件で3位でした。公開された中国からの出願総数のうち1,115件は太陽光発電テクノロジー分野で、中国はこの分野で近年大きな進歩を遂げています。2017年、中国は太陽光発電容量100 GWを突破した最初の国になりました。2050年までに1,330 GWを達成することを目標としています。

パテントファミリーを調べてみると、中国は大差をつけて1位にランクしています。例えば、2013年から2017年にかけて、パテントファミリー全体の数を数えると、中国からの特許45,472件 は2位にランクしている日本からの特許件数(21,386件)の2倍以上です。この傾向は、中国の出願人が日本と比較して3倍もの特許を所有している太陽光発電テクノロジーによって推進されています。

公開された特許とパテントファミリーに関するデータの対比では、中国の出願人が他の地域の出願人よりも多くの管轄区域で特許を出願していることを示しており、これは興味深いことです。これは同様に、特許を取得している発明が世界中で商業化される可能性の高さを示唆しています。

図 3

2010年-2019年
上位国名 再生可能エネルギー合計 太陽光 燃料電池 風力 地熱
日本 9,394 5,360 3,292 702 40
米国 6,300 3,876 1,391 927 106
ドイツ 3,684 1,534 813 1,309 28
韓国 2,695 1,803 506 360 26
中国 2,659 1,892 189 555 23
デンマーク 1,495 52 81 1,358 4
フランス 1,226 660 348 184 34
英国 709 208 271 218 12
スペイン 678 341 29 300 8
イタリア 509 316 57 123 13

出典:WIPO 経済統計部

テクノロジーの向上

再生可能エネルギーの利用の増加は、パリ協定で設定された目標の1つである地球温暖化を産業革命前のレベルから1.5℃に抑えるための鍵となります。国連気候変動政府間パネル(UN Intergovernmental Panel on Climate Change 、IPCC)による2018年の報告書では様々なシナリオを検討し、1.5˚C目標を達成するには、2050年までに再生可能エネルギーが70〜85パーセントの電力を供給する必要があると予測しました。「選択肢と国家の状況の課題と違いを認識する一方で、太陽光エネルギー、風力エネルギー、電力貯蔵テクノロジーの政治的、経済的、社会的、技術的実現可能性は、過去数年間で大幅に改善されました...これらの改善は、発電に関して潜在的な可能性を持つシステムの移行を示唆しています。 」

特許データの公開によって示された証拠は、この結果を裏付けており、2012年までの10年間で、再生可能エネルギー分野におけるイノベーション、特に太陽電池テクノロジーが発展したことを示しています。今後数年にわたって、これらのイノベーションが地球温暖化に対する実際の取り組みにどのように役立つか確認していきましょう。

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