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サウジアラビアにおける知的財産の促進

2020年9月

Yasser Al-Debassi, (サウジアラビア知的財産総局(SAIP)知的財産権部エグゼクティブ・ディレクター、サウジアラビア、リヤド)

イノベーションと創造性、そして、そのような人間の取り組みを奨励するインセンティブを提供する知的財産制度は、人類の進歩の中心的役割を担っています。 知的財産は、サウジアラビア経済の将来的な発展にとって重要な要素です。国民経済の多様化と石油への依存を減らすことを目指す改革プログラム、「サウジビジョン2030」では、いくつかの目標が掲げられていますが、その中には知的財産によって直接実現可能なものもあります。

サウジアラビアでは、知的財産権に関する法律の制定は1939年からであり、特徴的な標章に関する知的財産法が国内で最初に採択されたことから始まります。それ以来、サウジアラビアの政策立案者は国の知財制度の拡大と強化に取り組んできました。1982年、サウジアラビアは世界知的所有権機関(WIPO)に加盟し、それ以降、WIPOが管理する多数の国際条約に署名してきました。

サウジアラビア政府は、国の大望を達成できるようにするための知的財産の戦略的重要性や、知的財産権が企業成長、競争力、国家の経済的パフォーマンスを促進する上で果たす中心的な役割を認識しており、近年、サウジアラビアで唯一の知的財産権管轄機関としてサウジアラビア知的財産総局(SAIP)を設立しました。

この重要な動きは、サウジアラビアにおけるイノベーション文化の構築の進展を後押ししています。SAIPおよびその他の政府当局による良好な投資環境と、より多様で競争力のある国民経済を生み出すための取り組みは、知的財産に対する認識を高め、企業成長を促進しています。

統一された知的財産機関

2018年に設立されたSAIPは、サウジアラビアの知的財産権の保護、規制、施行に関連する全ての事項について「ワンストップショップ」として機能しています。SAIPの任務は、知的財産の戦略的使用によって現地企業を支援することにより、地域のイノベーションを促進し、国民経済の競争力を向上させることです。

SAIPはまた、グローバルな視点を持つ独立した知的財産機関として、中東および北アフリカ(MENA)地域の主要な知的財産の中枢としての地位を確立するために取り組んでいます。 SAIPは、サウジアラビアの知的財産政策と行政に関連する全ての事項の管轄当局として、国の知財戦略を策定し、あらゆる管轄当局と協力してその実施を調整するという責任を負っています。また、知的財産権に関連する新しい規則や規制を提案し、急速に進化する世界的な技術的展望に国内法が対応できるようにすることもSAIPの任務です。

2018年、サウジアラビア政府は、サウジアラビアの知的財産に関する唯一の管轄当局としてサウジアラビア知的財産総局(SAIP)を設立しました。サウジアラビアの知的財産権の保護、規制、施行に関連する全ての事項について「ワンストップショップ」として機能します。 (写真:SAIP提供)

知的財産の文化を構築する

サウジアラビアは、知的財産の文化を構築し、国内の知的財産権の行使を強化することに取り組んでいます。 SAIPは、知的財産の認識(効果的な知的財産制度の利点について広く理解してもらう)、知的財産の有効化(知的財産制度のより効果的な利用を奨励する)、知的財産権の行使(知的財産権の侵害および知的財産権の乱用と戦う)に焦点を当てたさまざまなプログラムを通じて、知的財産権に対する関心を高めるために積極的に取り組んでいます。

この目的のために、多くの実践的な取り組みが始まっています。たとえば、イノベーションベースのプロジェクトを効果的に管理、保護、活用するための知的財産戦略を開発するために必要な実践的なアドバイスとガイダンスを中小企業に提供するために、IP Clinicと呼ばれる機関が設立されました。SAIPはまた、知的財産アカデミーと協力して、知的財産サマースクール、共同知的財産マスタープログラム、知的財産トレーナープログラムなど、多数の知的財産教育プログラムを立ち上げています。

SAIPは、グローバルな視点を持つ独立した知的財産機関として、中東および北アフリカ(MENA)地域の主要な知的財産の中枢としての地位を確立するため取り組んでいます。

SAIPは、知的財産に対する一般の理解と認識を高めるために、知的財産関連のテーマのもと、放送局およびソーシャルメディアチャネル全体にさまざまなメディアキャンペーンを展開しています。たとえば、最近では、コンピュータソフトウェア、衛星放送、印刷物、視聴覚資料に関する著作権侵害の社会的・経済的悪影響についての認識を高めることを目的とした「著作権の行使」キャンペーンを全国のさまざまな地域の関連パートナーと協力して実施しました。SAIPはまた、知的財産に関するさまざまな実践的ワークショップを開催し、その活動を宣伝するために展示会や会議に定期的に参加しています。これらの取り組みに対し、多様なコミュニティが参加を続けています。

SAIPは、エンフォースメントの活動を実施するにあたり、民間セクターのパートナーと緊密に協力しており、知的財産の活動において不可欠な役割を果たしています。この活動へのビジネスコミュニティの参加を形式化および強化するために、SAIPは最近、知的財産尊重評議会を設立しました。評議会では、民間部門と公共部門の関係者を集めて、知的財産所有者が直面する課題、協力の機会、新たなエンフォースメントへの取り組み、パブリックコメントを必要とする政策立案など、さまざまな知的財産関連の問題について話し合い、意見を交換しています。2020年1月の初会合で、評議会は海外および国内の医薬品業界、さらには生物製剤業界の主要企業を集め、この分野が直面している課題をマッピングし、その課題にふさわしい解決策を特定しました。

知的財産侵害の対応

現在までに、SAIPは、あらゆる種類の知的財産侵害に関する460件以上の訴状を受けています。訴状は、問題が訴訟なしで解決できるかどうか、または裁定のために専門の知的財産裁判所に移送する必要があるかどうかを判断するために審査されます。

SAIPは公開ウェブページまたは電子メールにて問い合わせを受け付けています。SAIPは、サウジアラビアの知的財産法に基づくすべての知的財産問題に対応することを約束しており、具体的で実用的な情報と証拠を提供することにより、すべての企業がこれらの取り組みを支援することを奨励しています。

この活動へのビジネスコミュニティの参加を形式化および強化するために、SAIPは最近、知的財産尊重評議会(上記)を設立しました。(写真:SAIP提供)

サウジアラビアと国際的な知的財産の枠組み

SAIPは、国家の知的財産制度を強化し、イノベーション文化を育み、MENA地域内での知的財産のリーダーになるという大望を実現するという使命に従い、国際的な知的財産コミュニティ内でサウジアラビアの知名度を高めるよう努めています。SAIPは、この目的のために、WIPOが管理するさまざまな国際条約にサウジアラビアを参加させるための基盤を準備しています。たとえば、サウジアラビアは最近、標章の図形要素の国際分類を設定するウィーン協定および意匠の国際分類を定めるロカルノ協定それぞれに加盟証書を提出しました。さらに将来的には、標章の登録のため商品及びサービスの国際分類に関するニース協定特許手続上の微生物の寄託の国際承認に関するブダペスト条約国際特許分類に関するストラスブール協定への正式加盟も予定しています。マドリッド協定議定書ハーグ協定への加盟もそれぞれ検討中です。これらの発展により、サウジアラビア国内の知的財産制度がさらに強化され、国際的なベストプラクティスに沿ったものになります。

サウジアラビアは、知的財産の文化を構築し、国内の知的財産権の行使を強化することに取り組んでいます。

同様に、SAIPは、さまざまな国際機関との協力を拡大し、中国国家知識産権局(China National Intellectual Property Administration 、CNIPA)、欧州特許庁(European Patent Office 、EPO)、日本特許庁(Japan Patent Office 、JPO)、韓国特許庁(Korean Intellectual Property Office 、KIPO)、米国特許商標庁(USPTO)、WIPOと正式な協力協定を締結しました。これらの協定は、知的財産に関する専門知識の交換を促進し、国家の知的財産制度のさらなる発展を支援することを目的としています。これらの極めて重要な貢献は、最先端の知的財産機関になるというSAIPの目標を前進させるために不可欠です。

また、SAIPは、USPTO、JPO、KIPOと特許審査ハイウェイ(Patent Prosecution Highway 、PPH)協定を締結しました。この協定により、参加国の知財庁間で特許情報を共有することで特許手続きを迅速化することが可能となり、特許審査官の作業負荷が軽減され、特許の質が向上します。

今後の計画

今後数か月および数年にわたって、SAIPは知的財産に対する認識を高め、知的財産権にさらなる関心を集めるための投資を継続します。多くの取り組みが進行中です。これには、政府機関内での知的財産担当者(IP Respect Officers)の任命と配置が含まれます。これらの担当者は、機関全体で知的財産権を保護および促進するための取り組みの最前線に立つことになります。担当者はSAIPのトレーニングを受け、知的財産に関連する全ての事項に関してそれぞれの機関内での「相談役」となります。

政府全体におけるすべての知的財産権の行使を調整するための知的財産国家委員会を設立する計画も進行中です。SAIPが議長を務め、さまざまな政府執行機関の代表者で構成される委員会により、サウジアラビア全土の知的財産法および規制の幅広い遵守を確保します。

サウジアラビアは、大小を問わず、イノベーター、クリエイター、革新的な企業が無形資産の経済的価値を活用できるようにするために、知的財産権を保護することの重要性を認識しています。このように、イノベーション、創造性、企業成長を促進することにより、より多くの人々が、新しいテクノロジーや創造的な製品の一定の流れにアクセスできるようになるだけでなく、経済が繁栄していることの利点を享受するでしょう。サウジアラビアの知的財産環境の近年の進化は、大きな利益をもたらすことを約束しており、サウジビジョン2030で設定された目標を達成するための重要なステップです。

WIPO Magazineは知的財産権およびWIPOの活動への一般の理解を広めることを意図しているもので、WIPOの公的文書ではありません。本書で用いられている表記および記述は、国・領土・地域もしくは当局の法的地位、または国・地域の境界に関してWIPOの見解を示すものではありません。本書は、WIPO加盟国またはWIPO事務局の見解を反映するものではありません。特定の企業またはメーカーの製品に関する記述は、記述されていない類似企業または製品に優先して、WIPOがそれらを推奨していることを意図するものではありません。