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アプリのアイコンが新しい商標に:強力なデザインと保護のための10カ条

2021年3月

Zeeger Vink* MF Brands Group IP ディレクター(スイス) 

* Zeeger Vink氏はMF Brands Group (Lacoste)のIP ディレクターであり、「THE GREAT CATAPULT: How Integrated IP Management Will Shoot Your Brand to Success」の著者でもあります。この記事は元々The Trademark Lawyerに掲載されたもので、Sciences Po School of Management & Innovation Master’s course in IP & Communication の修士コースの成果です。筆者は、2018年度クラスの研究に謝意を表します。なお、本記事で述べられる意見は全て筆者の意見です。

スマートフォンは、消費者とブランドとの関係に革命をもたらしました。アプリのアイコンは今や極めて重要な役割を果たし、大量のライバルのアプリと頻繁かつ迅速に区別する役割を果たしています。アイコンは新しい商標であり、商標と同様の扱いが必要です。以下のガイドラインは、スタートアップ企業から多国籍企業まで、アプリのデザインと保護を最適化するためのもので、強力なブランドの前提条件となっています。

著書「The Great Catapult」について

IPは急速に最も貴重なビジネス資産になりつつあります。独自のブランド、デザインとコンテンツが企業の成功と寿命を左右します。これが世界的な現実であることを「THE GREAT CATAPULT」で示しています。本書では、ブランドを基盤とする企業にとってなぜIPが重要かを平易なビジネス用語でまとめ、企業内部でIPをどのように活用すべきかについて実践的なアドバイスを提供しています。

本書では、世界的有名ブランドを擁する企業で働いた経験をもとに、「統一したIP管理」アプローチを提唱しています。このアプローチでは、IPが法的な殻から抜け出して全ての業務機能を統合し、持続的な競争優位性のために「カタパルト(投石器)」を創り出します。

本書は、スタートアップ企業から上場している多国籍企業まで、全ての経営者が有利なスタートを切ることができるような情報を提供し、マーケティング担当者や、投資家、経営コンサルタント等、ブランド価値の創造に携わる全ての人に活力を与えるものとなるでしょう。

  1. 識別可能なデザインにする

    有効な商標は、商業上の識別子として、識別機能を備えていなければなりません。従って、過度に単純化されたり抽象的な図形では商標としてふさわしくありません。その平凡さや装飾的または機能的な特徴を理由に、商標としての登録を知財庁から拒絶されるかもしれません。

    図 1: 固有の識別性に乏しいアイコンのデザイン
  2. アイコンでサービスを表現しない:オリジナリティあるアイコンにすること

    企業の活動を表現する要素で構成されたアイコンや視覚的に一般的なアイコンは、同じカテゴリーの競合他社と区別することができません。従って、商標として機能するには不適当であるか、防御するのが困難で弱いものとなります。

    apps
    図 2: 視覚的な記述性の例

    この記述はやや直感に反するものかもしれません。なぜなら、マーケティングに携わる人の多くは記述的要素が消費者を導くための論理的な入り口であると考えているからです。識別性の問題とは別に、このような要素を商標として登録しない理由は、登録することで一社に不当な独占的地位を与えてしまうためです。ただ、WhatsAppのアイコンをほとんどの人が認識していることからも分かるように、記述的なアイコンが商標として全く機能しないというわけではありません。しかし、それは世界的な規模で集中的に利用されているからこそ成し得たことであり、このような幸運に恵まれている企業はほんの一握りだと言えるでしょう。このような状況で、なぜ最初からハンディキャップをつくるのでしょうか。最も強力な商標はオリジナルのロゴであり、それは提供するサービスとは無関係のものです。

    図3: 固有性の強い識別性の例
  3. 特徴的な色を使うこと
    図 4: 特徴的な色を使うこと

    色は、識別子として強力なものであり、商標の力に大きく貢献します。他社よりも目立ち、オリジナルな色を1つ以上使いましょう。

    例えば、コミュニケーションのアプリは緑、タクシーのアプリは黄色というように、特定の色が特定のカテゴリーを示す共通の識別子になっています。他社との差別化を図ることで、識別力を高め、ひいては商標力も強化できるでしょう。

    図 5: カテゴリーの色で商標力は弱まる:コミュニケーションサービスやタクシーサービスの例
  4. 「イニシャル・トラップ」に陥らないように

    アイコンのデザインに使えるスペースは限られており、ブランド名が長すぎてアイコンに納まりきらないことがあります。その解決策としてよく見られるのが、ブランド名の最初の文字を特定のフォントやスタイルで表現するというものです。これは、既にブランド認知度が高いブランドにとっては理にかなった解決策かもしれませんが、法的保護の点からは悪い戦略です。登録されたブランド名はその名前の頭文字のみに対する保護を与えません。多くの国の知財庁は、一文字だけの商標を拒絶します。仮にあなたの「イニシャルマーク」が認められても、他のアプリが同じ文字を使うことは避けられませんし、何百万個もあるアプリの中には貴社よりも先に貴社と同じイニシャルを使っているアプリもあるでしょう。

    図 6: イニシャルのアルファベットを用いたアイコンの例

    短いブランド名が複数の文字の略語を持つブランドは、幸いにも、安心してそれをロゴとして使うことができます。また、フォントや字体が特徴的であればさらに商標に強みが出ます。

    図 7: 特徴的な文字の組み合わせ
  5. 会社の既存のロゴを使う (それが適切な場合)

    最近では多くの企業が「デジタル」分野への進出を強調するために、eコマース専用のブランドを開発しています。もちろん、このアプローチはブランドの一貫性を保つ上で理想的とは言えず、オンラインとオフラインを融合させて統一された顧客体験を提供するオムニチャネル戦略ではすでに使い古された戦略かもしれません。そこで、会社のロゴをアプリのアイコンとして使うのは如何でしょうか。これまでの知名度を活かしてグローバルに既存の権利をグローバルに集約し、新たな商標登録手続きを回避することができます。

    図 8: 既に確立された商標をデジタルの世界へ拡大
  6. 先行商標に注意しましょう

    新しいロゴを商標として採用する前に、先行商標が存在していないことを確かめることが不可欠です。先行商標が存在すると登録や使用の際に障害になる可能性があるためです。先行商標調査を行えば、第三者の商標の存在が明らかになり、後に法的にリスクとなったり高額な支払いが発生するのを避けることができます。しかし、他の潜在的なIPの問題についても確認しましょう。公式のサイン(国旗、赤十字のロゴ等)はしばしば規制されています。また、一般的なシンボルもかつて誰かがデザインしてその権利がまだその人に帰属している可能性があります。複雑だと思われるかもしれませんが、このように考えましょう。「独占権が欲しい場合は最初に登録する」。それがIPの仕組みです。

    図9:権利についての警告
  7. 意匠権を所有する

    6番目で述べた点と同様に、自社のロゴの権利を所有していると確認する必要があります。多くの場合、企業のロゴはデザイン業者や従業員または友人によってデザインされていますが、将来、紛争が発生するのを避けるために関連する著作権や意匠権を正式に譲渡してもらう必要があります。また、エンジェル投資家やその他の投資家へのアドバイスとして、アプリの創設者がその創作権を会社に譲渡したかを確認しましょう。

  8. 登録する!

    アプリのアイコンを登録しているアプリのオーナーは意外にも少ないものです。無知なのか、見落としているのか、企業名だけで充分だと思い込んでいるのかはわかりませんが、アイコンの登録をするだけで独占権と保護が保証されます。もちろん、登録には費用がかかります。また、特にスタートアップ企業は予算の制約があるでしょう。しかし、デジタル経済において、商標権などの知的財産権は企業の主な資産である場合がよくあり、知的財産権の保護には投資に見合った価値が十分あります。

  9. デザインを守る

    商標は登録された通りに使用されれば有効です。そのため、登録されているアイコンのデザインを変更すると権利が失われる可能性があります。従って、企業がブランドのロゴに忠実であるのと同じように、アプリのアイコンも同じデザインのものを使い続けることが賢明です(アイコンが滅多に変わらない理由がこれで明らかになりましたね!)。色を時々変更する自由を維持したい場合は、登録する際にアイコンを白黒で出願すれば、殆どの国において自動的に全ての色がカバーされます。注:この場合、特徴的なアプリの色は使えなくなります(上記3.参照)。アプリのデザインを変更した場合は、新たに商標を登録する出願を行い、確実に保護することを忘れないでください。

    図 10:商標の変更:Uberの進化
  10. 技術の変化を予測する

    現在のアプリの典型的な形は、正方形の角を丸くしたもので、それを踏襲したアプリマークを申請するのは論理的に見えます。しかし、忘れてはならないのは、この形はiOSやAndroidやその他のプラットフォームのグラフィックチャートの結果であるということです。ある日突然、プラットフォームが変わったらどうなるでしょうか。その場合、アイコンの使用方法が変更され、商標の有効性に影響が出る可能性もあります(上記参照)。同様の影響は、他の種類のインターフェースが普及した場合にも想定されます。アイコンが時間の経過を経ても変わらずに済むよう、例えば、標準的な正方形の形状にし、用途を「スマートフォンアプリ」と限定して記載しないなど、技術的に中立な方法で出願することが賢明です。

独占権が欲しい場合は最初に登録する。それがIPの仕組みです。

最後に、近い将来、動くアイコンが予想以上に早く登場するかもしれません。そうなると、正しいIP戦略をもつ重要性がより増してくるでしょう。

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