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ビデオゲームと知的財産法との出会い

2021年6月

Anna Piechówka氏、CD PROJEKT RED社、知的財産顧問、ポーランド、ワルシャワ

長年にわたり、ビデオゲーム開発はエンターテインメント業界の中でも特に急成長している業界の1つで、新型コロナウイルス (COVID-19) のパンデミックによってもその成長は失速していないと言えるでしょう。それどころか、2020年10月のNewzoo社の評価によると、2020年の世界のゲーム市場における収益は1,749億米ドルと、前年比19.6%増加する見通しです。しかも、この2020年後半の予測は、パンデミックの初期段階にあたる3月時点の予測を150億米ドル上回っています。

2020年4月、1,200万人の視聴者が「フォートナイト・バトルロイヤル」に集まり、Travis Scottのゲーム内コンサートをライブで視聴しました。これはビデオゲーム内の社会的交流にとって画期的な出来事でした。(写真: Epic Games社提供)

世界のゲームプレーヤー人口も増加が続いており、Newzoo社の「グローバルゲームマーケットレポート2020 (Global Games Market Report for 2020)」は、2023年までに30億人を超えると予想しています。この1年間で、ビデオゲームは社会的交流のための極めて重要な場であることが明らかになりました。Newzoo社の調査によると、パンデミック中にゲームに費やす時間が増えた理由として2番目に多かったのは「他者との交流のため」でした。ゲーム・プラットフォームに集まる人が増えると、ゲーム自体がソーシャルメディアや実生活での出来事と同じような機能や経験を提供するようになり、ゲームがその座を奪うこともあります。こうした状況は2020年4月に見られ、1,200万人が「フォートナイト・バトルロイヤル」に集まり、Travis Scottのゲーム内コンサートをライブで視聴しました。これはビデオゲーム内の社会的交流にとって画期的な出来事でした。

テクノロジーの進展のおかげで、ビデオゲームの設計、複雑さ、多様性は急速に変化しています。プレーヤーは、様々な形式やジャンルの中から選択して参加できるようになり、AAAゲーム (莫大な開発費を投じて作られたゲーム) の場合、数十時間あるいは数百時間のストーリー・コンテンツを提供することも珍しくありません。グラフィックスの面でも、ビデオゲームはますますリアルになっています。主要キャラクターのイメージなど、細部まで表現することができ、有名なハリウッド俳優やインフルエンサーの使用も増えています。

テクノロジーの進展によって、オンラインゲームの設計、複雑さ、多様性は急速に変化しています。

他の芸術的な創作物にも当てはまることですが、ビデオゲームの中核となるのは知的財産 (IP) です。著作権で保護されている従来の著作物に比べて、一般にビデオゲームははるかに複雑です。ビデオゲームは、コンピューター・プログラム、映像音声コンテンツ、写真、デザイン、文学作品、ナレーション、音楽、芸術パフォーマンス、商標など、様々な要素の集合体です。知的財産の保護という点では、ビデオゲームの詳細を管理することは極めて困難です。

ビデオゲーム市場の急成長とビデオゲーム自体の変革によって、さらに困難な課題が生じています。通常ビデオゲームは世界中で販売される点にも注意が必要で、原則としてすべての関連法域の規制を考慮しなければなりません。しかし、知的財産法の観点からすると、ビデオゲームには不確実な側面が数多くあります。こうした側面は、ビデオゲームの開発会社やゲームソフトメーカーだけでなく、場合によってはプレーヤーにとっても問題となる可能性があります。これまでビデオゲーム業界で見られた知財関連の問題点の中で、特に興味深いものをいくつかご紹介します。

ゲームはますますリアルになり、主要キャラクターの細部まで表現することができます。(写真: Electronic Arts社提供)

ビデオゲーム内での商標の使用

ビデオゲームではリアリズムを追求する傾向が強まっており、この傾向を支えているのが、細部までリアルに描写する技術力です。ですから、実在する物やブランド、景色といった現実世界の要素を開発会社がゲームに取り入れようとするのは自然なことです。例えば戦争をテーマにしたゲームでは、プレーヤーが夢中になれる体験を作り出すために、開発会社が歴史的な出来事に基づいてゲームを製作し、実際の兵器、軍用車両、航空機、制服、装備の複製を使用することがよくあります。そうした物の多くは商標付きでゲームに取り入れられ、商標によって製品名やロゴなどを保護することができます。ここで、ビデオゲームの芸術的な創作物は商標の使用が正当化されるか、という一般的な疑問が生じます。

戦争ゲームの例を取り上げたのは、偶然ではありません。このジャンルには厳しい視線が注がれ、実在する物の描写をめぐって多くの紛争が生じています。例えば2020年の画期的な知財訴訟では、「コール・オブ・デューティー」シリーズにおける軍用車両ハンヴィーの使用が争点となりました。この訴訟は、2020年3月にニューヨーク連邦地方裁判所の第一審判決が言い渡されました。同裁判所は、ゲーム開発会社アクティビジョン・ブリザード (Activision Blizzard) によるAMゼネラル (AM General) 社のハンヴィー関連商標の使用は、合衆国憲法修正第1条が定める表現の自由で保護されるとの判決を下しました。同裁判所は分析にあたり、1989年のロジャース対グリマルディ事件で確立されたロジャース・テストを使用しました。ロジャース・テストは、商標が芸術目的で使用され、消費者の誤解を招くおそれがなければ、商標権侵害の主張を退けることを認めています。同連邦地方裁判所は「リアリズムを芸術的な目標とする場合、実際の軍隊が使用する車両が現代戦をテーマにするゲームに登場することは、間違いなくリアリズムを高める」と結論づけました。

2020年3月、ニューヨーク連邦地方裁判所は、開発会社アクティビジョン・ブリザードによるAMゼネラル社のハンヴィー関連の商標の使用は、合衆国憲法修正第1条が定める表現の自由で保護されるとの画期的な判決を下しました。しかし、世界の他の法域では、芸術目的での商標の使用を明示的に認める規定がありません。(写真: Rockfinder / iStock / Getty Images Plus)

ハンヴィーの判例がゲーム業界にとって画期的な出来事であることは間違いありませんが、その効力が及ぶのはロジャース・テストが適用される米国に限られます。世界の他の法域では、芸術目的での商標の使用を明示的に認める規定がありません。しかし、明示的な法的免責がないからといって、米国以外でビデオゲームでの商標の使用が商標権の侵害にあたるとは限りません。ビデオゲームで商標を使用するための法的手段は他にもありますが、その結果を予測することはより難しくなっています。例えば、2012年にパリの裁判所は、「グランド・セフト・オート」シリーズの車両モデルにおけるフェラーリのロゴの使用は、表現の自由および消費者の混乱を招くおそれがないことを理由に、許容されるとの判決を下しました。

イースター・エッグ

知的財産に関するもう1つの興味深い点が、イースター・エッグです。イースター・エッグは、ゲーム開発者がジョークや参照として、ビデオゲームの中に隠している秘密のコンテンツを指します。最も一般的なイースター・エッグは、他のビデオゲームを参照しますが、他の文化的著作物、実生活の出来事、人物、その開発者が以前に開発したゲームなど、まさに何でも参照できます。イースター・エッグには、ダイアログ中の概念参照、引用の言い換え、名称、直接引用、ゲーム中のアイテムや画像、秘密の機能の複製またはパロディーとしての改変など、様々な形態があります。例えば「ウィッチャー2 王の暗殺者」では、プレーヤーは白い服を着た死体を干し草の山のそばで発見することができます。これは、ビデオゲームの「アサシンクリード」シリーズをふざけて参照したものです。他の例としては、「ディアブロ3」にはマイリトルポニー (アメリカの女児向け玩具) を思わせる巨大なユニコーンと戦うオプションがあり、「コール・オブ・デューティー: ブラックオプス2」では、あるマップ上で一定の時間内に特定のアクションを完了した後、プレーヤーはアクティビジョン (Activision) 社のレトロゲームをAtari 2600でプレーすることができます。

イースター・エッグにはその性質上、著作権で保護された他の作品からのある程度の盗用が含まれることがほとんどです。多くの場合、イースター・エッグの法的評価 (および権利を侵害しているか否かの判断) は様々で、使用された部分の量と実質性に左右されます。一般に、盗用が概念上だけのものであれば、権利侵害のリスクは発生しないとされています。これは知的財産法が単なるアイデアを保護しないためです。反対に、他の作品の特定の部分が使用されるたびに、イースター・エッグはおそらく著作権所有者の排他的独占権に抵触するでしょう。そのような抵触が侵害になるかどうかは別の問題で、その答えは、著作権のある著作物の特定の使用を、著作権保護の既存の免責事項に分類できるかどうかに左右されます。

「ウィッチャー2: 王の暗殺者」の1シーン干し草のそばの白い衣服をまとった死体はいわゆるイースター・エッグで、「アサシンクリード」シリーズをふざけて参照したものです。このような著作権で保護された第三者の要素の使用に関する法的評価は、多くの場合、使用された部分の量と実質性に左右されます。(写真: CD PROJEKT RED社提供)

著作権の例外として広く認識されているのがフェア・ユースの 法理です。この法理は、米国の著作権制度で確立されたものですが、ここでは様々な法域における類似の法的制度を含む総称として使用しています。しかし、フェア・ユースの原則は、法制度や法域によって大きく異なります。英米法を採用している国では、一般にフェア・ユースの制限は1 、利用が実際に公正であるかどうかを判断する際に裁判所が考慮する状況など、一連の公的な規範によって定義されます。そのような状況には、利用の目的と性質、利用の範囲、著作権で保護された作品の性質、利用された部分の量と実質性が含まれます。一方、大陸法系の法制度はフェア・ユースの原則を取り入れておらず、狭義の具体的な例外規定を用いることが一般的です。例えば、説明、批判的分析、教育、パロディーなどの目的で他の作品のごく一部を引用することや、特定のジャンルで慣習的に正当化されている使用などです。

ごく一般的に言えば、「フェア・ユース」の法理のような排他的でない規範を使用している法域のほうが、典型的なビデオゲームのイースター・エッグを正当化する理由を見つけることは簡単です。このアプローチは柔軟性が高く新技術を受け入れやすいためです。しかし、この制度でも、すべてのイースター・エッグが侵害の訴えを回避できるわけではなく、ビデオゲームのクリエーターには一定のリスクがあります。

知的財産の保護という点では、ビデオゲームの詳細を管理することは極めて困難です。

ユーザー生成コンテンツ

ビデオゲーム内での交流は、プレーヤー同士のコミュニケーションやオンライン・イベントへの参加にとどまりません。ソーシャルメディアと同様に、多くのビデオゲームは、プレーヤーがいわゆるユーザー生成コンテンツ (UGC) を作成し、共有することを奨励しています。UGCには、ファンアート、ゲーム実況動画、MOD (ビデオゲームの機能を改変したもの) など様々な形態があり、新しいキャラクターやオブジェクト、構造物、ストーリーなどが含まれます。UGCは、ゲームの開発会社または第三者が所有しているゲーム関連プラットフォームや、ビデオゲーム内で共有されます。プレーヤーの参加を前提としているビデオゲームもあります。

ビデオゲームのクリエイティブな性質の保護は、従来の文化的著作物の場合と同様に重要であることを、立法者や裁判官が認識するようになれば、クリエーターが法的リスクをあらかじめ予測し、創造的な仕事をすることは容易になるでしょう。

一方でUGCはゲームを取り巻く強力なコミュニティの構築に役立ち、これがプレーヤーと開発会社に価値をもたらします。他方で、双方にとって法律の地雷原になることもあります。プレーヤーの立場からすると、ビデオゲームをもとにしたUGCを作成・共有すれば、必ず何らかの形でそのゲームの知的財産を使用することになります。プレーヤーは、「エンドユーザー使用許諾契約」またはサービス利用規約に記載されている、知的財産の使用に関する規則に従わなければなりません。こうした規則はゲームによって異なり、ほとんどの場合、何らかの疑念の余地があります。一方、開発会社は、違法な、または望ましくないコンテンツが自身のプラットフォーム上で共有されないよう、あらゆる規則に従って設計しなければなりません。また、自身の知的財産が望ましくないコンテンツと関連付けられるリスクも負います。自社の製品をUGCに開放することに関連する主なリスクは、他者の知的財産権を侵害する可能性があること、つまりプレーヤーが知的財産権で保護された他のビデオゲームのコンテンツを混入させてしまうことです。最近の事例では、2020年3月にソニーが、任天堂の有名なキャラクター「マリオ」をソニーが発売したビデオゲームDreamsから削除するよう任天堂から圧力を受けました。開発会社がすべてのUGCの使用を排除することは実質的に不可能と考えられるため、ゲーム業界では今後同じような事例が増えるでしょう。

サマリー

このように、ごく一部の問題だけを取り上げてみても、ビデオゲームの制作は知的財産に関する課題を伴い、ビデオゲームは知的財産法にとって難しい課題であることは明らかです。急成長している他の業界でも同じですが、技術の変化に合わせて法律の基準を変更することは困難なため、ある程度の法的不確実性は避けられません。しかし、ビデオゲームのクリエイティブな性質の保護は、従来の文化的著作物の場合と同様に重要であることを、立法者や裁判官が認識するようになれば、クリエーターが法的リスクをあらかじめ予測し、創造的な仕事をすることは容易になるでしょう。

脚注

1この2つの用語を同義とみなすことはできませんが、多くの法域で「フェア・ディーリング」という用語を用いています。

WIPO Magazineは知的財産権およびWIPOの活動への一般の理解を広めることを意図しているもので、WIPOの公的文書ではありません。本書で用いられている表記および記述は、国・領土・地域もしくは当局の法的地位、または国・地域の境界に関してWIPOの見解を示すものではありません。本書は、WIPO加盟国またはWIPO事務局の見解を反映するものではありません。特定の企業またはメーカーの製品に関する記述は、記述されていない類似企業または製品に優先して、WIPOがそれらを推奨していることを意図するものではありません。