判例: オーストラリアの裁判所が人工知能システム (AI) は「発明者」になり得ると判断
Rebecca Currey氏およびJane Owen氏、Bird & Bird法律事務所、オーストラリア、シドニー
オーストラリア連邦裁判所が世界で初めて、人工知能 (AI) はオーストラリアの特許制度上、「発明者」になり得るとの判断を示しました。
この判断により、イノベーション環境の変化を認識して特許法と特許政策を適応させるべきか、という世界的な議論がさらに加速するでしょう。今回の判決は、AI「発明者」が一部の管轄地域における特許法の現状に及ぼす影響について、世界で行われている一連のテストケースの1つです。
オーストラリアでは、 (控訴審判決に従い) 現行の制度下で、AIは「発明者」になり得ることが確認されました。これは、発明者は自然人でなければならないとする英国、欧州特許庁 (EPO) 、米国の立場に反するものです。
背景
特許協力条約に基づきオーストラリアを指定してStephen Thaler博士が出願した国際出願書類に、発明者としてDABUS (Device for the Autonomous Bootstrapping of Unified Sentience) と呼ばれるAIシステムが記載されていました。この発明は、改良されたフラクタル形状容器向けの、DABUSの各種製品と方法が生み出したもので、「食品用の改良された食品容器」であるとクレームされています。
発明者としてDABUSが記載されていましたが、これは特許規則により、PCT出願に関連して、出願人は「出願に関連する発明の発明者」の名前を記載しなければならないためです。
特許副局長 (Deputy Commissioner of Patents、以下「局長」) は、人間の発明者が記載されていなかったことから、この出願を却下しました。局長は、「発明者」(特許法で定義されていない) の通常の意味は「本来的に人間」であり、AIを発明者として記載することは特許法第15条に矛盾する、との見解を示しました。特許法第15条は、発明の特許は以下のいずれかの者に対してのみ付与されると規定しています。
- 発明者
- 発明に係わる特許が付与された場合に、その特許を自己に譲渡させる権限を有する者
- 発明者または (b) に記載した者から、その発明に対する権限を取得する者
- (a)、(b) または (c) に記載した者が死亡している場合は、その法定代理人
さらに、局長は次のように述べました。
- · 第15(1)(b)条に関連して、「法律が現在、人工知能マシンに財産を譲渡する能力があると認識していないことは、議論の余地のない見解である。」
- · 第15(1)(c)条に関連して、人工知能は財産の受益権を持つことができず、発明者から別の者に移る権限が必要であるが、実際はその権限は存在しない。
Thaler博士は、局長の決定について、司法審査を求めました。
オーストラリア連邦裁判所が世界で初めて、人工知能 (AI) はオーストラリアの特許制度上、「発明者」になり得るとの判断を示しました。
判決
Beach裁判官は、「人工知能システムが発明者になり得るという主張を明示的に否定する[特許法の]規定はなく」、そのような状況では、AIは発明者になることができる、と判断しました。
局長は、 (「発明者」が特許法に定義されていないことから) 「発明者」の辞書的な意味を強調しようとしましたが、Beach裁判官は納得しませんでした。同裁判官は、特許性のある発明とその創作者の進化を考慮し、次のように述べました。「その言葉の古い用法を用いるのではなく、 … その基礎をなすアイデアに対処し、特許性のある発明とその創作者の進化を認識する必要があります。私たちは創造され、創造します。私たちの創造物もまた、創造することができるでしょう。」
そこで、Beach裁判官は、AIの創意に富む技術的な貢献の一例として、医薬研究でAIが果たす広範な役割を認め、「発明者」に対して狭い考えをするべきではないと指摘しました。「computer」 (計算者、コンピューター) と同じように、発明者は動作主名詞 (agent noun) であり (人も物も、動作主になり得ます) 、人間のみが発明を行うことができた時代には、発明者は人間のみを指す言葉として使用されていたかもしれないが、現在は、同じ機能を実行するマシンを指す傾向がある、と同裁判官は述べています。
こうした状況では、特許法の意味での「発明者」からAIを除外する根拠はありません。また、「特許法の明示的な文言から明らかでないものを除外することを理由に、本来であれば特許性がある発明の区分を、特許性がないと判断する根拠もありません。実際、これはイノベーション推進のアンチテーゼとなるでしょう。
特許を付与される対象を規定している特許法第15条に関する局長の議論については、Beach裁判官は、特局長の同条項への依拠を「興味深い (curious) 」としました。この出願は「発明者」の記載のみが求められる方式審査の段階に過ぎず、付与の段階には到底至っていないためです。
Beach裁判官はしかしながら同法第15条を考慮しました。同裁判官は、少なくとも第15(1)(c)条、および可能性としては第15(1)(b)条に基づいて、Thaler博士は原則として、DABUSのようなAIが行った発明について、特許を受ける権利を有することが可能であると述べています。
この判断により、イノベーション環境の変化に特許法や特許政策を適応させるべきか、という世界的な議論がさらに加速するでしょう。
第15(1)(b)条については、Beach裁判官はThaler博士が第15(1)(b)条に該当する可能性があると述べました。同条は未来の仮定を取り扱うものであって発明者の存在を必要とするものではなく、必要とされるのは、特許付与があった場合にその特許の譲渡を受ける権利を有していることだけだ、と指摘しました。
第15(1)(c)条に話を戻すと、同裁判官は、最初の印象では、Thaler博士はDABUSから発明に対する権限を取得しているので、この条項に該当すると感じたと述べました。DABUSは法人格 (legal person) を有しないため発明を法的に譲渡することができないという事実にもかかわらず、Tahler博士がDABUSを占有していること、DABUSのソースコードの著作権を所有していること、DABUSが搭載されたコンピューターを所有・占有していることを理由に、DABUSから権限を得ることが可能であるとしました。
この問題の世界的な重要性と、諸外国の裁判所と相反するオーストラリア連邦裁判所の見解を考えると、2021年8月30日のオーストラリア特許局長による上訴の結果が注目されます。
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