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ナイジェリアの知的財産、中小企業および経済回復

2021年9月

By Oyinkansola Komolafe氏*、イバダン大学、ナイジェリア、イバダン

*2021年世界知的所有権の日を記念してWIPOナイジェリア事務所 (WIPO Office in Nigeria) が開催した小論文コンテストの受賞者 (WIPO全国知財小論文コンテスト2021についてはこちらから).

現在、各国では資源依存型経済から知識駆動型経済への移行がかつてないほど進んでいます。ナイジェリアはこの流れに乗っているように見えます。国のステークホルダーの間では、知的資本が持続可能な経済成長を促進するとの認識が広がりつつあります。コロナウイルスの世界的大流行や、原油価格が急落する中での知識主導型経済の継続的回復を背景に、この流れはより顕著になっています。知的資本が改めて必要とされているのは、主にイノベーションの主たる基盤となっている中小企業 (SME) セクターです。

小規模企業はナイジェリア経済の生命線であり、GDPの49パーセントを創出しています。(写真: Mile 91/Ben Langdon/Alamy Stock Photo)

中小企業は、数年にわたってナイジェリアの経済の生命線となってきました。事業コンサルタントであるプライスウォーターハウスクーパース (PwC) のMSME Survey 2020pdfによると、中小企業はナイジェリアのGDPの49パーセントに寄与し、ナイジェリアの企業の約99パーセントを占めています。

中小企業は適応能力とイノベーション創出能力が高いため、雇用創出と所得再配分を通じて、パンデミック後のナイジェリアの経済成長の切り札となる可能性があります。しかし、中小企業がその潜在能力を最大限に発揮するためには、自社の知的創造物を適切に保護して商品化する必要があります。そこでは知的財産 (知財) 権が重要な役割を果たします。

知財: ナイジェリアの経済繁栄に向けた中小企業の再考

ナイジェリアは、アフリカ大陸で最大級のイノベーションと創造の拠点です。ナイジェリアの市場に日々流入する発明の1つ1つには、その所有者にとって価値ある事業資産へと転化する可能性を秘めた特有のアイデアが存在します。知的財産権は、この変化を現実にする機会を中小企業にもたらします。

中小企業にとって、知的財産資産を利用することの最大のメリットの1つが、収益の創出です。中小企業は、知的財産権によって認められている独占権に基づいて、知的財産資産の使用を許諾することによりロイヤリティを稼得し、収入を得ることができます。実際に、欧州連合 pdfの調査では、知的財産権を有する中小企業は、知的財産権を有しない中小企業よりも最大68パーセント高い収益をあげていることが示されています。

アフリカ大陸自由貿易圏 (AfCFTA) 協定を考慮すると、知的財産資産の利用による収益創出のメリットは、さらに大きくなると思われます。AfCFTAの全面的な採択と同時に、ナイジェリアの中小企業は、自社ブランドの知名度を確立して自社の資産を適切に保護するための知的財産権を取得できるでしょう。その結果、新たな市場参加者が殺到しても競争優位性を保つことができるでしょう。

アフリカ大陸自由貿易圏 (AfCFTA) 協定を考慮すると、知的財産資産の利用による収益創出のメリットは、さらに大きくなると思われます。(写真: Modest Franco/iStock/Getty Images Plus)

また、知的財産権を取得した中小企業は、投資家に対しても存在感を高めることができます。企業が価値ある知的財産資産を保持していることを証明できた場合、投資家の信頼感は往々にして高まります。知的財産と企業の投資家を引きつける能力との間には、正の関連性があることがPwCの報告書「知的財産の侵害が企業とナイジェリアの経済に与える影響」 (Impact of Intellectual Property Infringement on Businesses and the Nigerian Economy) によって裏付けられています。この報告書では、商標および著作権の保護が1パーセント向上した場合、海外からの投資はそれぞれ、3.8パーセントと6.8パーセント増加する可能性があることが示されています。 今のナイジェリアにとって、そうした国際資本フローの予測はきわめて重要です。投資は雇用の創出を促し、ひいてはこの国が目下直面しているコロナ禍による失業率の上昇を抑えることができるかもしれないからです。

知財の活用が中小企業に多くのメリットをもたらすにもかかわらず、知財を保護しているナイジェリアの中小企業の割合は極端に低い水準にとどまっています。ナイジェリア中小企業開発局とナイジェリア国家統計局による2013年の共同調査 (2013 Small and Medium Enterprise Development Agency of Nigeria and the National Bureau of Statistics Collaborative Survey)pdfでは、ナイジェリアの中小企業4,100万社のうち、自社の知的創造物に何ら保護措置を講じていない企業の割合が驚くことに70パーセントにものぼることが示されました。 こうしたことの背景には、複数の阻害要因があります。

ナイジェリアの中小企業による知財保護の阻害要因

中小企業の知財活用を阻害している主な要因の1つに、知財意識の度合いの低さがあります。中小企業は、往々にして自社の創造物を保護する方法または保護すべき対象を理解していません。ナイジェリアでは、未だに数多くの中小企業が非公式経済のもとで活動しています。そうした経済では、知財リテラシーは特に低く、往々にして知財の保護に関する認知は文化的な動機によって形成されます。

もう1つの主な阻害要因は、費用です。知的財産権が自社の事業にもたらすメリットに十分気付いている中小企業の間でさえ、知財の保護に高額の費用がかかることが、大きな阻害要因となっています。例えば、ナイジェリアの特許出願費用は、通常は弁護士報酬を含めて約1,500米ドル (約619,000ナイラ) です。この金額は、一部のナイジェリアの中小企業の資本金全額に相当します。中小企業の多くが資金繰りに問題を抱えているため、そうした高額な費用は知財の保護を妨げる大きな要因となっています。

ナイジェリアのクリエイティブ業界はアフリカ最大級の規模を誇りますが、著作権侵害が横行しているため、音楽ロイヤリティ徴収額はアフリカ全体のほんのわずかでしかありません。(写真: ManuelVelasco/iStock/Getty Images Plus)

ナイジェリアが知的財産権の権利行使に消極的であることも、中小企業がイノベーションと知財の保護に二の足を踏む要因となっています。この国で著作権侵害が跋扈していることが、その典型的な例です。ナイジェリアは、毎年著作権侵害によって約30億米ドルの損害を被っています。著作権侵害の横行は、ナイジェリアのクリエイティブ業界が実際にはアフリカ最大級の規模であるにもかかわらず、この国の年間のロイヤリティ徴収額はアフリカ全体のほんのわずかでしかないことに見て取れます。CISACの2020年の世界徴収レポート (Global Collections Report 2020) では、2020年に、アフリカ大陸全体のロイヤリティ徴収額の70パーセント超をアルジェリア、モロッコおよび南アフリカが占めたことが示されました。 通常であれば創作者に生ずるはずの収益の大部分が海外の著作権侵害者によって奪われているため、中小企業には、イノベーションを起こし、創造し、あるいは自社の創造物を保護するために投資し続ける動機付けがほとんどありません。知的財産権の侵害が長年にわたり横行しているため、中小企業は知財の保護に無関心になっています。

将来を見据えた政策の選択肢

知財を活用して中小企業の競争力を高められるようになるには、ナイジェリアは、3本の柱 (知財の意識向上および費用の軽減、知財の権利行使の強化、ならびに知財の商品化支援) から成る戦略を採用する必要があります。

知財の意識向上および費用の軽減

あまりにも多くの中小企業が、知財の性質や保護について無知である状況に対応するために、現地で啓発活動を実施し、知的財産資産の重要性と、それらの資産が企業の競争力を高める仕組みを理解してもらう必要があります。現地での啓発活動は、アナンブラ (Anambra) のオニチャ市場 (Onitsha market) 、ラゴス (Lagos) のヤバ市場 (Yaba market) およびカノ (Kano) のクーミ市場 (Kurmi market) など、具体的な中小企業クラスターを対象に実施すると良いでしょう。

その後、中小企業向けに特別な法的支援策を整備する必要があります。WIPOナイジェリア事務所は、中小企業に対し、特許や商標の出願に関する無料相談サービスを提供する用意のある法律事務所とパートナーシップを結ぶことにより、この戦略を支援することができるでしょう。知的財産権の出願プロセスで生ずる費用の大半は、往々にして法務サービスの費用であるため、こうした戦略は中小企業の財務負担を大幅に軽減し、それによって知財の保護が促進されるでしょう。米国では、pdf が効果をあげることが証明されており、経済的に余裕のない米国の中小企業数百社が、自社の発明を保護するためにそうした支援を利用しています。

知財の権利行使の強化

知的財産権侵害を取り締まるための特別な知財権利行使チームを整備するのが良いのではないでしょうか。このチームは、ナイジェリア著作権委員会 (NCC) 、ナイジェリア標準化機構 (SON) 、ナイジェリア税関などの関連機関と横断的かつ緊密に協力することになるでしょう。そうすることにより、国内市場で横行している知的財産権侵害を抑制し、他方で海外からの海賊版製品の流入も阻止できるでしょう。こうした施策を講ずることにより、ナイジェリアの知的財産権の権利行使制度に対する一般の信頼が回復し、それにより、企業は自社の創造物を保護する動機付けを得るでしょう。

知財の商品化支援

知財の商品化に向けた国の支援策は、特に重要です。中小企業を通じてどれだけ経済成長率を引き上げることができるかは、知的財産資産の商品化の成否に大きく依存するからです。知財担保融資を奨励する政府の制度があれば、中小企業による知的財産資産の商品化を支援するうえで大きな役割を果たすでしょう。そのような制度があれば、中小企業は、自身の知的財産資産を担保にして与信枠を利用できるようになるでしょう。この制度があれば、中小企業の資金調達の選択肢が広がり、ひいては市場における中小企業の競争力が高まるでしょう。一般に、知財を適切に評価することは困難なため、ナイジェリアの金融機関は知財の担保化に積極的ではありません。しかしこの課題は、商標、特許および意匠登録に基づく標準化された知財評価モデルを構築することにより回避することができます。

知財の商品化に向けた国の支援策は、特に重要です。中小企業を通じてどれだけ経済成長率を引き上げることができるかは、知的財産資産の商品化の成否に大きく依存するからです。

また、革新的な中小企業が自社の知的財産権を販売または使用許諾するためのデジタル知財市場を設立することも可能でしょう。ナイジェリアの知的財産資産への投資に関心がある投資家は、国内外を問わず、このプラットフォームを通じて平等に知的財産権の購入を申請することができます。この戦略によって、中小企業が自社の知的財産資産を商品化するために市場へアクセスすることがとても容易になるでしょう。デンマークは、2007年に同様の戦略を採用して目覚ましい成果をあげています。デンマークの知財市場が設立されて以来、中小企業数社がこのプラットフォームを通じて自社の知的財産権の使用を許諾しています。

新型コロナウイルス感染症の世界的大流行は、ナイジェリア経済に深刻な打撃を与えました。しかしナイジェリアには中小企業の知的財産資産があるため、より良い復興ができるでしょう。(写真: JohnnyGreig/E+/Getty Images)

最後に、コロナウイルスの世界的大流行は、ナイジェリア経済に深刻な打撃を与えました。しかし、ナイジェリアには中小企業の知的財産資産があるため、現下の困難を乗り越えて経済再生に向けた新しい道を切り開くことができるでしょう。したがって、中小企業が継続的にイノベーションを起こし、そのイノベーションを商品化することを奨励するような環境作りに向けて、ナイジェリアによる政策の調整が急がれます。それができれば、この国は、中小企業の潜在能力を最大限に活用し、かつてない水準の経済成長を達成することができるでしょう。

WIPO主催の2021年全国知財小論文コンテストについて

2021年4月、WIPOナイジェリア事務所は、2021年世界知的所有権の日のナイジェリアにおける祝賀の一環として、「知的財産 (IP) と中小企業: あなたのアイデアを市場に」というテーマで、第2回WIPO全国知財小論文コンテストを開催しました。このコンテストは、知的財産 (知財) のフィールドにおける研究と学びの促進を主な目的として、ナイジェリアの大学に通う全ての学生から応募を募りました。参加者は、「ナイジェリアの知的財産、中小企業および経済再生」というテーマを扱った1,500ワードの小論文の提出を求められました。コンテストには、29の大学の19の学問分野から合計143件の応募がありました。

応募作品を評価するために、WIPOナイジェリア事務所によって18名の審査員で構成される専門家パネルが任命されました。15名が最終選考に残り、3名の入賞者がそれぞれWIPOの入賞表彰状のほか、WIPOの遠隔教育コース (ディスタンスラーニングコース)、専門職の知財インターンシップまたはイノベーション・フェローシップの機会を活用するための奨学金、WIPOが出資するアブジャへの知財研修旅行への参加資格、ならびにWIPOのリソースおよび資料を受け取りました。また、最優秀賞に輝いたOyinkansola Komolafe氏に対しては知的財産資産管理 (AICC) の上級国際履修証明課程に参加するためにWIPOの奨学金を、共同準優勝者らに対しては南アフリカで開催されるWIPOのサマー・スクールへの奨学金が贈呈されました。

WIPO Magazineは知的財産権およびWIPOの活動への一般の理解を広めることを意図しているもので、WIPOの公的文書ではありません。本書で用いられている表記および記述は、国・領土・地域もしくは当局の法的地位、または国・地域の境界に関してWIPOの見解を示すものではありません。本書は、WIPO加盟国またはWIPO事務局の見解を反映するものではありません。特定の企業またはメーカーの製品に関する記述は、記述されていない類似企業または製品に優先して、WIPOがそれらを推奨していることを意図するものではありません。