Isabella Springmuhl氏がインクルーシブなグアテマラのデザインをファッションの世界に紹介
著者: Manuela Ramos Cacciatore氏、WIPO情報・デジタルアウトリーチ部 (Information and Digital Outreach Division)
Isabella Springmuhl氏は、その創造性と情熱でDown to Xjabelleというブランドを立ち上げ、ファッション業界でニッチ分野を開拓しました。25歳のSpringmuhl氏は、世界有数のファッション・イベントであるロンドン・ファッションウィークに参加した最初のダウン症のデザイナーです。彼女はファッションの力を利用して、自身の健康状態に対して経験した固定観念と社会的差別に挑んでいます。最近WIPOマガジンが行ったインタビューで、この若きデザイナーに自身のブランドDown to Xjabelleと、このブランドが象徴する団結のメッセージ、彼女のビジネスにとっての知的財産 (IP) の重要性について聞きました。
ご自身について教えてください。
私は見ての通りの人間です。デザイナーで、歌を歌い、娘であり、妹です。おしゃべりで社交的で、楽しいことが好きです。自分の仕事が大好きなダウン症の若い女性です。私は常々、X染色体は愛の染色体だと言っています。私は障がいによって強くなりました。今の自分を手に入れるためには努力しなければならなかったからです。今は多くのプロジェクトに取り組んでいて、私のブランドについても、個人的なことでも、やりたいことがたくさんあります。個人的な夢は、社会のお手本となって、グアテマラの素晴らしさを伝えることです。グアテマラは世界でも特に織物が豊富な国です。
ファッションへの情熱はどこから来ているのでしょうか。
幼い頃からファッション・デザイナーになりたいと思っていました。母によると、私は小さい頃ファッション雑誌を何時間も眺め、ドレスを紙にスケッチして、ぬいぐるみのドレスを作っていたそうです。色や形、手触りを楽しんでいました。これが私のデザインの土台となりました。母方の祖母もデザイナーだったので、私にはデザイナーの血が流れています。小さい頃に遊びで始めたことで、起業することになりました。
Down to Xjabelleで、障がいを持つすべての人々は大切な人で、その気になれば何でも成し遂げられる、ということを示したいと思っています。
あなたのキャリアで克服しなければならなかった障害は何ですか。
最大の挫折は大学への入学を認められなかったことです。憤りを感じましたが、あきらめませんでした。健康状態を理由に正式な教育を受けることを拒否され、その時初めて、自分の夢を実現できないかもしれないと感じました。しかし今では、私の身に降りかかったことの中で最も良いことだったと思っています。結局、私は服飾学校で勉強し、そこでミシンの使い方から、縫製、パターン・メーキングまで学び、友だちもできました。このとき、やりたいことを成し遂げる方法は1つではないことに気づきました。
自分の健康状態が夢の妨げとなるかもしれないという不安をどう克服しましたか。
健康状態を理由に差別または拒絶されるという不安から、身動きが取れなくなったことは一度もありません。それは、私の家族、Down to Xjabelleのチーム、そして自分に対する自信が支えになったからです。結局、私はずっと夢見てきたことをかなえることができました。私のデザインに満足していますし、ファッションの世界は私に向いていると思います。しかし、時には人に怖がられることもあります。学校では、クラスメートは私の状態を病気だと思っていたので、私のことを怖がりました。そこで母と一緒に本を作り、私はみんなと同じで、学ぶのに少し時間がかかるだけだ、ということを説明しました。卒業するとき、私は別れの挨拶をする生徒に選ばれました。想像してみてください! そのとき、ようやく学校に受け入れられたと感じました。
障がいのある人にどのようなアドバイスをしますか。
「できない」と言わず「私はできる」と言うようにすると良いと思います。誰でも学習曲線があり、ダウン症の人は目標達成に必要なスキルを学ぶのに少し多くの時間が必要です。完璧な人はいませんし、間違いもしますが、私たちは人間で、前に進み続けなければなりません。私たちはスキルを身につけるのに時間がかかりますが、大人になるための適切なサポートを受け、きちんと準備をすれば、目標を達成できます。例えば、私のデザインには独自のプロセスがあります。デザインをスケッチし、写真を使って私のアイデアをワークショップの人たちに伝え、彼らが私のデザインしたものを作ります。
ファッション・デザイナーとしてのキャリアの中で、どのような教訓を学びましたか。
私が学んだ最も大切なことは、常に物事の良い面を見ることと、心の奥に不安があれば、泣いたり、いらいらしたり、怒ったりしてもいいということです。皆さんにも、夢を追い、心を解き放ってほしいと思います。
ファッションの世界がうわべだけでなくなりつつあることを喜ばしいことだと感じています。私のデザインを目にする人は、私をダウン症の人間としてではなく、1人のデザイナーとして見ています。そうした共感によって、私も彼らと同じだと感じることができ、デザインを通じて心を開くことができることを嬉しく思います。
Guatextraordinariaについて教えてください。このプロジェクトをどうやってスタートしましたか。
Guatextraordinariaのプロジェクトは、私のおばであるMaruが、グアテマラシティにあるイクシェル博物館で開催されるファッションショーに参加するよう誘ってくれたことがきっかけです。そのショーで私は、グアテマラの織物、タッセル (飾り房) 、ポンポン (玉房) 、カラフルなアクセサリーを使ったバッグを発表しました。ファッションショーに参加したのはこのときが初めてで、2016年のロンドン・ファッションウィークで新人のファッション・アーティストとして作品を発表するきっかけとなりました。同じ年に、BBCの世界に最も影響を与えた100人の女性に選ばれました。
Guatextraordinariaの後、Down to Xjabelleブランドを立ち上げました。なぜ自分のブランドを立ち上げることが重要だったのでしょうか。
Down to Xjabelleブランドは、ファッションの世界で私が作るデザインのアイデアと創造性を発信するための方法です。Downは私の健康状態から来ていて、Xjabelleは母方の祖母が29年前に働いていたワークショップの名前です。当初、このブランドはダウン症の少年少女を対象としていたので、この名前をつけました。ダウン症の人は手足と胴が短く、他の人たちと違います。そこで私たちのための服を作るブランドを立ち上げました。今は、女性、若い女性、女の子向けの洋服をデザインしていて、男の子や男性向けの洋服も少しあります。皆さんに喜んでもらえるからです。
Down to Xjabelleはどのような価値観に基づいていますか。
私のブランドが大切にしているのは、故郷のグアテマラ、その歴史、グアテマラ織物という文化遺産への愛です。伝統的なグアテマラ・スタイルは、私が作るウィピル (刺繍入りのドレス) に表現されています。私のブランド名にも先住民の言葉が入っています。Down to XjabelleのXjaは、グアテマラ北西部で話されているマヤ語のMamから来ています。これは「衣服」という意味です。ファッションの世界におけるダイバーシティもブランドを通じて表現されています。
私は誰でも受け入れるインクルーシブな人間で、ブランドを通じてそれを表現したいと思っています。私のファッションショーでは、身体または精神に障がいを持つモデルが登場します。ファッションの世界はインクルーシブでなければならないと考えているからです。キャットウォークをインクルージョンへの愛とグアテマラに対する誇りで満たし、そのことを非常に嬉しく思っています。
知的財産はお客様に対するシグナルです。Down to Xjabelleのデザインを購入するお客様は、自分がユニークなアイテムを手に入れようとしていることを知ります。
ブランドを知的財産権で保護することはなぜ重要だったのでしょうか。
Down to Xjabelleを登録することにしたのは、私のブランドを通じて、グアテマラのカラフルな布地を使ってデザインを作り、売るからです。このようにして私は、職人の皆さんと、私の会社で仕立て、裁縫、刺繍を行う人たちの素晴らしい仕事を支え、各アイテムの信頼性を確保しています。Down to Xjabelleのおかげで、私のデザインは世界中に知られるようになりました。
また、サステナブルで環境に優しいファッションを作っているという事実を保護することも重要です。このことはブランドの重要な特徴の1つです。私のウィピルで使う素材に新品はなく、使用済みの布地を使っています。私のブランドは信頼できます。私のワークショップには、使い古しのスクラップや素材が詰まった段ボール箱があり、これを組み合わせて私のデザインを作ります。新しいものは使用せず、すべてリサイクルされたものです。
商標などの知的財産権は、会社の成長をどのように支えていますか。
知的財産権によって認知度が高まり、私が注ぎ込んできたすべての労力、私の創造性、グアテマラ織物の品質、私のチームの仕事、各アイテムの背後にあるフェアトレードを表現することができます。知的財産権はまた、職人の素晴らしい仕事を評価し、ほとんど知られていないグアテマラ織物の豊かさを擁護するためにDown to Xjabelleが主張する、団結と奉仕の価値観を支えています。このようにして、私のブランドに布地とウィピルを提供してくれる職人の仕事に適正な経済価値をつけることができ、その結果、職人の皆さんは家族を養い、生活の質を高めることができます。
あなたのブランドは先住民とそのコミュニティをどのように支援していますか。
グアテマラのサカテペケスに住む職人の皆さんと一緒に仕事をしています。彼らが作るタッセル、フリンジ、ビーズ、メッシュのバッグ、マクラメと呼ばれるレースを私のアイテムに取り入れています。また、精神または身体的な障がいを持つ職人の皆さんとも一緒に仕事をしています。私のデザインで使用するビーズ刺繍はすべて彼らが作っています。素晴らしい人たちです。私は彼らのことが大好きで、彼らの職人としての仕事を評価し、公正かつ公平な報酬を支払っています。私にとって最も大切なことは、彼らの素晴らしい仕事と、私のデザインで使用する織物を作るために必要な技を紹介し、使用されている素材の起源を認識することです。
ファッション・デザイナーにとって、デザインのインスピレーションの源を知ることは重要ですか。
私が使う布地はすべて以前使用されたことのあるものです。それでも、その由来を知り、自分が歴史と伝統あるユニークなアイテムを使用していることを知るのは、私にとって重要なことです。まったく同じものは2つとありません。私たちデザイナーがインスピレーションの源と、各アイテムの背後にある価値や仕事を認識することは重要です。ですから、私が使用する布地の起源を教えてくれるようにサプライヤーに頼んでいます。
デザイナーとして、私はグアテマラの織物とそれが物語る歴史をこよなく愛しています。これは尊重し大切にするべきです。
現在はどのようなプロジェクトに取り組んでいますか?
パンデミックの間にKeep onという最新のコレクションに取り組み、2021年10月にメキシコのサン・ミゲル・デ・アジェンデで開催されたFashion Daysで発表しました。この素晴らしいイベントのために町は美しく飾り付けされ、現地のブドウ園でランウェイ・ショーが開催されました。Keep onコレクションは、今回のパンデミックにインスパイアされたもので、何があっても前に進もうという意味が込められています。
将来の計画を教えてください。
ハンドバッグのブランドとコラボレーションし、グアテマラの先住民の女性が頭の上に乗せて運ぶ物にヒントを得たmashatates (グアテマラのハンドバッグ) をデザインする予定です。ですから、私の最初のコレクションとリンクしています。また、私自身を表現する、羽根とタッセル付きの帽子シリーズを作りたいと思っています。私の変わった趣味で、この帽子はまるで飛びたいと思っているようなデザインにするつもりです。他には、犬用の「ペットラバー」シリーズを作りたいと思っています。さらに、障がいのある人のインクルージョンを目指し、彼らが夢を追い続けることを応援するために、講演も続ける予定です。
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