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グリーン商標とグリーンウォッシング・リスク

2022年12月

著者: Kathryn Park、Strategic Trademark Initiativesプリンシパル、コネティカット州、米国

この10年間、「環境に配慮した」製品やサービスに対する消費者の需要が急速に高まっています。記録的な津波やハリケーン、制御不能の山火事、洪水や地滑り、干ばつ、酷暑など、気候変動とその影響は、持続可能な方法で生産され、環境に悪影響を及ぼすことなく使用できる製品に対する需要を押し上げています。

Dentsu International社とMicrosoft Advertisingが実施した最近の調査によると、消費者の90%超がサステナビリティを重視・実践しているブランドに関心を示しています。この調査はさらに、サステナビリティを戦略として実行しない企業は近い将来、消費者の反感を買うことになると指摘しています。また他の調査では、ミレニアル世代とZ世代の過半数をゆうに超える消費者が、多少価格が高くてもそうした製品を買うことが示されています。環境に配慮した製品を提供することは、ビジネスに非常に効果的と考えられます。

グリーンを標榜する企業が事実に基づいた根拠を明確に示すことができなければ、消費者はグリーン・マーケティングに懐疑的です。さらに、事実に反する、または裏付けのないグリーン・マーケティングは、規制当局や政治家の目に止まり、訴訟に発展する可能性もあります。(写真:  Brian Yurasits / Unsplash)

企業は、消費者を引き付ける可能性があるグリーン・マーケティングをさまざまな方法で利用しています。これには、環境への配慮を示唆するブランド名を採用することや、サステナブル、堆肥化可能、グリーン、オーガニック、エコ、ゼロインパクト、ナチュラルなどの言葉を使用すること、広告の背景として美しい山や海、森など見栄えのする写真を取り入れることなどが含まれます。また、広告のフォントやテキストにグリーンを基調とした色彩設計を用いたり、自社製品が環境にもたらすメリットを謳ったりする場合もあります。しかし、企業がグリーンを標榜する際に事実に基づいた根拠を示すことができない限り、消費者はそうしたマーケティングに懐疑的です。さらに、事実に反する、または裏付けのないグリーン・マーケティングは、規制当局や政治家の目に止まり、競合他社や消費者、監視機関などに提訴される可能性があることも重要です。

正しい方法で環境に配慮する

まず、グリーン・マーケティングに成功している企業は一般に、事業活動全体でサステナビリティを実践しています。例えば、環境への影響を低減するために、明確で測定可能な取り組みを行っており、こうした取り組みは公表し、外部の検証を受けることが可能です。透明性が鍵となります。主張には事実の裏付けが必要で、消費者にとって意味があるか、重要でなければなりません。

第2に、上記に加え、グリーン・マーケティングで成功する企業は、自社のサステナビリティがもたらすインパクトを誇張しません。個々の製品について具体的な主張をする企業は、意味が広すぎる言葉で表現せず、慎重に意味を限定し、確かなデータの裏付けがあれば、その主張が正当であると消費者を納得させやすくなります。

環境に配慮した製品を提供することは、ビジネスに非常に効果的と考えられます。

第3に、グリーン・マーケティングで成功する企業は、環境に関して、厳密には正しくても誤解を招くような主張を避けます。例えば、1つの精製所で炭素排出量を削減していると主張しても、その一方で事業の99%で汚染物質の排出を続けていれば、そのメリットはほんのわずかで、精製所が環境に及ぼす悪影響はほとんど変わりません。

消費者は、環境への取り組みを実践してきた実績あるブランドに忠実です。例えば、女性用衣料ブランドEileen Fisher®には熱心な消費者がいて、同社のサステナビリティへの取り組みを高く評価しています。しかも、同社は古着を回収して新しい製品にリサイクルしているため、その取り組みは非常に目立ちます。

見せかけの環境配慮に注意 – グリーンウォッシングの危険

米連邦取引委員会のグリーンガイド (Green Guides) および欧州連合の不公正な取引慣行 (Unfair Commercial Practices) に関する指令が公表しているガイドラインは、誤解を招く情報に関する明確な指針となっています。どちらも、「サステナブル」「グリーン」「エコ」などの曖昧な言葉は、事実に反する、または誤解を招く場合には認められません。さらに、事実に基づく明確な証拠によって主張を裏付け、メリットを誇張しないよう主張を限定する必要があります。また、環境へのメリットを主張する場合は、製造または使用される製品と直接関連していなければなりません。

規制当局は消費者保護法に違反する企業を追及しますが、非政府組織も主張を追跡します。誤った情報に踊らされた消費者だけでなく、競合企業も、消費者集団訴訟の一環として提訴する可能性があります。

最近イタリアで発生した先例のない判例で、裁判所はグリーンウォッシングに基づく虚偽の広告という競合企業による異議申立てを支持し、被告が曖昧で根拠のない「グリーン」主張を継続することを禁止する仮差止命令を認めました。原告のAlcantara社は、自動車に使用するマイクロファイバーのメーカーですが、競合企業のMiko社が自社のマイクロファイバーのグリーン特性について事実に反する主張を行っていると訴えました。裁判所は、Miko社の「グリーン」主張は検証不能で事実に反すると判断し、Miko社の広告およびウェブサイトでの使用を直ちに中止するよう命じました。さらに、Miko社のウェブサイトに判決文を60日間掲載することも命じました。

プラスチック製植物でできた「グリーン」の壁。真にグリーンな製品に対する需要が高まる中、実は環境に優しくない製品をグリーンに見せかければ逆効果になります。(写真:  Sian Wynn Jones / Unsplash)

消費者集団訴訟がもたらす潜在的な大損害を示す1つの例が、調理油メーカーWesson社の判例です。Wesson社の調理油の消費者は、実際には遺伝子組換え作物 (GMO) で作られている調理油を100%「ナチュラル」だとするWesson社の主張に対して、推定的集団訴訟を起こしました。この訴訟は8年という長期にわたりましたが、最終的に和解に達しました。

では、訴訟の対象となるグリーンウォッシングの要件とは何でしょうか。一例を挙げると、埋め立てが予定されていて分解されないゴミ袋などを堆肥化可能と表示することです。  環境への悪影響を取り除くために必要なリサイクル (水のペットボトルや炭酸飲料の瓶など) にインフラがごく一部しか対応していない場合にリサイクル可能と主張することも、グリーンウォッシングとなる場合があります。この1年間に米国では、ボトルの大半が埋め立てられ、リサイクルされていないにもかかわらず、広くサステナビリティを主張しているとして、Coca-Cola社やBlue Triton Brands社 (Poland Spring、Deer Parkなどの水ブランドのメーカー) などに対する訴訟がありました。提訴したのはSierra Clubなどの環境擁護団体です。

消費者は、環境への取り組みを実践してきた実績あるブランドに忠実です。

こうした傾向の一例として、2021年8月に環境団体のEarth Island InstituteがBlue Triton社を提訴し (Earth Island Inst.Blue Triton Brands)、Blue Triton社のサステナビリティの主張は、不当な取引慣行を禁止したコロンビア特別区の消費者保護手続法 (Consumer Protection Procedures Act) に違反すると主張しました。 これに対し、被告のBlue Triton社は、同社のサステナビリティの主張は野心的な目標で誇大表現にあたり、訴訟の対象にならないと主張しました。本件は現在も係争中です。

この種の主張は、場合によっては法的な処罰を受けないこともありますが、消費者は警戒しています。真にグリーンな製品に対する需要が高まる中、実は環境に優しくない製品をグリーンに見せかければ逆効果になります。

2021年1月、欧州委員会は各国の消費者庁と協力し、消費者向けウェブサイトの年次調査に関する報告書 [PDF] を発表しました。これはEUの消費者保護法に対する違反を調査したものです。この調査は初めてグリーンウォッシングに焦点を当て、さまざまな消費者製品のグリーン主張を調査しました。その結果、調査を行ったウェブサイトの42%で主張が事実に反する、または誤解を招く可能性があり、不公正な商習慣として訴訟可能な主張とみなされるだろうと結論付けました。

多額の費用がかかる執行措置や訴訟の脅威に加え、さらに深刻な長期的代償として、顧客を失う恐れもあります。消費者は露骨なグリーンウォッシングを嫌います。例えば、YouTubeをざっと見ただけでも、ミレニアルまたはZ世代の消費者が、特に悪質なグリーン・ウォッシャーに注意を喚起し、多くの有名ブランドを揶揄するコンテンツを作成しています。この種の悪評はブランドにとってマイナスで、環境への取り組みを実行するブランドにより多くのお金を払うことを厭わない次世代の消費者が興味を失うことで、何十年もかけて築いた信用を損なう可能性があります。

グリーン商標登録の出願は増加傾向

環境や気候変動対策に関連した製品やサービスの商標出願は増加し続けています。2021年9月、欧州連合知的財産庁 (EUIPO) は、EUグリーン商標報告書 (Green EU trade marks) を発表しました。この報告書は、太陽光発電 (photovoltaic)、太陽光 (solar)、風力 (wind)、リサイクル (recycling) など、環境保護とサステナビリティに関連する900超の用語を検索し、商標出願を分析したものです。 この報告書によると、EUIPOが業務を開始した1996年に1,600件だったグリーン商標は、2020年に16,000件近くと増加の一途をたどっています。グリーン商標登録の出願は現在、年間出願件数の10%から12%を占めています。

しかし、製品をグリーン、サステナブル、エコ・フレンドリーと称するなど、環境に関する直接的な主張が含まれた商標の場合、商標出願は拒絶される可能性が高くなります。拒絶理由の大半は、商標が記述的であるというものですが、商標としての機能を果たしていないという理由もあります。3つ目の潜在的な拒絶理由は、商標が誤解を招くというものです。

クリエイティブなマーケターは、保護の対象となる商標や、ブランドが約束する環境面のメリットを示唆しているが記述的でない商標を識別する方法を巧みに見つけ出します。

記述的商標を理由とする拒絶は、描写される製品に関連して商標に含まれている言葉を分析するため、簡単明瞭です。例えば、米国特許商標庁 (USPTO) は、環境に悪影響を及ぼしていないセメントをGREEN CEMENT、環境に優しいカードキーをGREEN-KEY、製造用複合材料に使用される天然繊維をCARBON NEGATIVE FIBER、衣料をZERO WASTE TEEという商標で登録することを拒絶しました。EUも同様の分析を行い、実際にEUIPOのガイドラインの中で「エコ」や「グリーン」などの言葉に言及し、こうした言葉は環境に優しいと主張する製品やサービスとの関連で使用する際には記述的であると指摘しています。

意味が限定されていないグリーン商標の使用がグリーンウォッシングとの非難を受けやすいのは、そもそも商標を構成する少数の単語では主張を十分に限定できないためです。グリーンウォッシングは主張が具体的または限定的でない場合に発生するため、ほとんどの商標が最初からこの基準を満たしていません。

クリエイティブなマーケターは、保護の対象となる商標や、ブランドが約束する環境面のメリットを示唆しているが記述的でない商標を識別する方法を巧みに見つけ出します。例えば、アウトドア・ライフスタイルの衣料ブランドPatagonia社は、BETTER THAN NEW®などの登録商標で消費財を識別しています。別の衣料メーカーEverlane社は、リサイクル繊維を使用した製品についてRECASHMERE®やREWOOL®などの商標の登録に成功しています。

認証マークによるグリーン認定

企業がグリーン認定を受ける実証済みの方法の1つが、認証マークを使用することです。消費者は購買の意思決定を行う際に、認証マークを信用するようになっています。認証マークは、マークの使用を希望する企業が満たすべき基準と審査方法を設定する団体によって所有されています。例えば、海洋管理協議会 (MSC) の漁業認証プログラムは、漁業が海洋に及ぼす悪影響の低減を目的とした厳格な基準を設定しています。この基準は科学の発展に伴い定期的に更新され、認証を受けるには基準を満たしていることを証明する必要があります。MSCの認証マークは、消費者が目にする製品のほか、小売業者やレストランでも使用されており、認証マーク付きの海産物や魚がMSCの基準に基づいて捕獲されていることを示します。

企業がグリーン認定を受ける実証済みの方法の1つが、認証マークを使用することです。

もう1つの事例としては、Leadership in Energy and Environmental (LEED) 認証マークがあり、建築・建設業界でサステナブルな建物のベスト・プラクティスを示すために使用されています。  認証プログラムとして高く評価されているLEED認証は、水使用量の低減や炭素排出量の削減など、大幅な環境改善をもたらす建築プロジェクトを特定します。他にも、建物の持続可能性を評価・認証するBREEAM (Building Research Establishment Environmental Assessment Method)、農場向けのレインフォレスト・アライアンス (Rainforest Alliance) 認証、消費者製品・商業製品のためのグリーンシール (Green Seal)、ブドウ園・ワイナリーのためのSIP認証など、数多くの認証プログラムがあります。

サステナビリティへの取り組みを速やかに伝達する方法を模索しているブランドにとっては、商標と認証マークを合わせて使用することが最適な選択肢となるでしょう。

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