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WIPOアカデミー – 成長と発展のための実践的な知財スキルの構築

2023年9月

著者: Sherif Saadallah氏、WIPOアカデミー事務局長

WIPOアカデミー (以下、当アカデミー) は、知的財産 (IP) に関する研修と教育を提供する世界最大の機関です。1998年の設立以来、当アカデミーは、世界各地の百万人超の受講者に対して、今日の複雑で変化し続けるグローバルIP環境にうまく適応し、これを活用できるように研修を提供してきました。

25年前の設立以来、WIPOアカデミーは世界各地の百万人超の受講者に対して研修を提供してきました。

当アカデミーのピープルファースト (people-first) のアプローチにより、起業家、イノベーター、女性、地域・先住民コミュニティ、学者、若者など、知的財産制度の活用に関心を持つ全ての人が知的財産研修を受けられるようになっています。

WIPOアカデミーのピープルファーストのアプローチにより、誰でも知的財産研修を受けられるようになっています。

このアプローチは、新型コロナウイルス感染症 (COVIT-19) のパンデミックの最中に功を奏しました。この時期、当アカデミーは起業家向けに、ビジネスの発展と成長のための知的財産の活用を支援するための多種多様なオーダーメイドのオンライン講座を開催しました。パンデミックは問題を引き起こしましたが、知的財産教育を提供するための、より効果的な新しい方法を模索するまたとない機会となりました。

WIPOアカデミーとトリノ大学 (University of Turin) が協力して提供する知的財産 (IP) の修士課程 (LL.M.) の学生が、国際労働機関の国際研修センター (ITC-ILO) の支援を受けて、スイスのジュネーブにあるWIPO本部を研修訪問 (写真: Berrod / WIPO)

新たなターゲットグループへの支援

各国政府がCOVID-19のパンデミックや厳しい経済的逆風の影響に取り組み続ける中、世界中の政策立案者は、イノベーションと創造性が世界の経済回復とより良い復興の鍵であると認識しています。一方で、クリエイター、イノベーター及び起業家が経済的、社会的及び文化的利益のために自分のアイデアを競争力のあるビジネスに変えることを可能にする実践的な知的財産スキルの需要が高まっています。そのため、WIPOアカデミーは現在、知的財産制度を効果的に活用するために必要な実践的な知識とツールを受講者に提供するための知的財産スキルの研修に力を入れています。

WIPOアカデミーは、知的財産制度を効果的に活用するために必要な実践的な知識とツールを受講者に提供するための知的財産スキルの研修に力を入れています。

現在、当アカデミーでは、知的財産は世界中のあらゆる人に関係があるという確固たる信念に基づき、知的財産制度の活用方法を実際に理解することによって最も恩恵を受ける立場にあるグループ、特に中小企業 (SME) に手を差し伸べています。

伝統的に弁護士の分野と考えられてきましたが、今日、知的財産は、世界中のあらゆるバックグランドの人々の野心や目標をサポートできる強力なツールとして広く認識されています。そのため当アカデミーでは、利用しやすく、理解しやすく、多言語に対応し、実用的で、知的財産の世界に関わることに関心がある全ての人に関係する知財研修資料を提供しています。

実用的な知的財産ツールで起業家をスキルアップ

世界銀行によると、中小企業は全企業の90%を占め、世界の雇用の50%超を占めています。新興国では、フォーマルセクターで操業する中小企業がGDPの最大40%に寄与しています。インフォーマルセクターの中小企業も含めると、この割合は更に高くなります。しかし、今日の厳しい経済環境の中で、こうした企業の多くは生き残りをかけて苦労しています。起業家の経済的重要性を考慮すると、起業家の支援に全力を尽くし、起業家が事業主や雇用者として成功するために必要な知的財産の知識やツールにすぐにアクセスできるようにし、雇用の機会を創出し、経済の回復と成長を促進する必要があります。

このため、ビジネスにおける知財の活用がWIPOアカデミーのプログラムの重要な焦点となっています。当アカデミーの知的財産研修機関 (IPTI: Intellectual Property Training Institutions) のネットワークは急速に拡大し続けています。当アカデミーの研修プログラムは現在、創造的・革新的な分野の中小企業のニーズも対象に含め、中小企業が知的財産制度を最大限に活用してその事業目標を達成できるように構成されています。

今日、知的財産の理解は、あらゆる分野でビジネスを成功させるための核となっています。

知的財産権を正しく理解することで、中小企業は革新的で創造的な製品やサービスの価値を保護及び活用し、自身のビジネスの知名度と評判を高め、第三者の知的財産権を誤って侵害することに起因する費用を回避できます。今日、知的財産の理解は、あらゆる分野でビジネスを成功させるための核となっています。

そのため、WIPOアカデミーの知的財産研修機関が提供するプログラムは、料理法、手工芸品、観光、農業といった基幹産業の地元起業家向けに調整されています。具体的には、パンデミック後の経済回復を支援する必要性を考慮して、WIPOアカデミーの知的財産研修機関は地元企業と積極的に連携し、メンターシップその他の研修イニシアチブを通じて、その知財資産を把握して保護を求めるように地元企業を指導し支援しています。

WIPOアカデミーは、ビジネススクールを含むようにアカデミックパートナーのネットワークを更に拡大し、知的財産、戦略、起業家精神に焦点を当てた新しい経営学修士 (MBA) の学位を授与します。これらのプログラムは2024年に開始されます。

WIPOアカデミーの使命は、成功に必要なツールを学習者に提供することです。

知的財産に対する法的・理論的アプローチにもそれなりの役割がありますが、当アカデミーでは、現在、スキルの構築に重点を置いています。当アカデミーの使命は、成功に必要なツールを学習者に提供することです。当アカデミーではこれを、実践的な実際の事例研究、知的財産の商業化・ライセンシング・交渉・ブランディング・特許明細書作成に関する実践的な模擬演習を特徴とするプログラム (新「WIPO国際特許明細書作成研修プログラム」認定など) 、 (「知的財産及び輸出に関するエグゼクティブコース」の新ディスタンスラーニングコースで取り上げられているような) 実践的なチェックリスト及び可能な場合は就業体験を通じて実現します。このような経験学習を通じて、受講者は実際の知的財産の課題について貴重な洞察を得ることができ、学習内容をすぐに応用することができます。

デジタル知的財産研修の強化と受講者の拡大

2020年、WIPOアカデミーはプログラムをハイブリッド型仮想配信に方向転換しました。当アカデミーの最先端の強化型のeラーニングプラットフォームは、現在、10を超える言語で講座を主催し、世界中の学習者に機会を提供しています。

現在、アカデミーの全てのプログラムにはディスタンスラーニング (遠隔学習) の要素が含まれており、より便利で融通が利くようになり、凝縮されたマイクロラーニングモジュールを、移動中にモバイルデバイスで視聴する機会が受講生に提供されます。

2020年、WIPOアカデミーはプログラムをハイブリッド型仮想配信に方向転換しました。最先端の強化型のeラーニングプラットフォームは、10を超える言語で講座を主催し、世界中の学習者に機会を提供しています。 (写真: Berrod / WIPO)

WIPOアカデミーのプログラムへのアクセスが容易になったことで、早くも受講者が増加しています。一例として、パンデミックの最中にデジタルオンリーの形式に移行したWIPOサマースクールへの参加は、2020年と2021年に受講者が160%増加しました。

受講者の増加により、提携大学や知財研修機関からのバーチャル教科書やデジタル知財ライブラリの需要が高まっています。この需要に応えるために、当アカデミーは、WIPO国際知的財産教育ネットワーク (WINIPE: WIPO International Network for IP Education) を設立しました。WINIPEは、170冊を超える知的財産出版物、教科書、電子書籍をデジタルでホストし、WIPO共同修士課程プログラムの全ての教授、講師、専門家、現在の学生及び卒業生に無料で提供しています。これらのエクサイティングで新しい開発は、WIPOの教育及び研修イニシアチブの環境フットプリントの削減に役立ちます。

パートナーシップを通じて知的財産教育の提供を強化

新たなオーディエンスに知的財産を紹介するというWIPOアカデミーの取組みは、パートナーシップがこれまでになく重要になっていることを浮き彫りにしています。当アカデミーでは現在、さまざまな地域の国々がパートナーとして団結し、主要な知的財産トピックに取り組み、その過程で互いに学び合うことを可能にするプログラムも提供しています。過去20年間にわたって、当アカデミーはパートナー、学者、専門家、卒業生からなる広範なネットワークを構築してきました。この中核コミュニティは、受講者が知的財産制度を効果的に活用して利益を得るために必要な知的財産に関する知識や知見を効果的に提供する上で中心的役割を果たします。

WIPOアカデミーの同窓生コミュニティの拡大は、同アカデミーの活動が新世代の知的財産関連の有力者に影響を及ぼしていることの証です。

WIPOアカデミーの同窓生コミュニティの拡大は、同アカデミーの活動が新世代の知的財産関連の有力者に影響を及ぼしていることの証です。当アカデミーの同窓生は、政府、学界、科学研究及び企業の出身です。同窓生たちは、日々、習得した知識と経験を活かして世界中のあらゆる人による知的財産の効果的活用を支援及び拡大して知的財産が生活を変えることができることを証明しており、これがWIPOアカデミーへの還元及び次の学習者たちへの恩送りとなっています。

今後について

WIPOアカデミーのプログラムの進化、特に、ビジネスに焦点を当てた新しいスキル構築アプローチ、デジタル学習の機会の拡大、知識とスキルの認定及び認証のための新しいプログラム、パートナーシップ構築のためのアカデミーの取組み及びアカデミー同窓生のネットワークは、アカデミーが成功を重ねるための強固な基盤となっています。しかし、やるべきことはまだたくさんあります。そのため、当アカデミーでは、新たな知的財産研修及び教育の発展並びに教育傾向に乗り遅れることなく、誰もがアクセスできる高品質な知的財産学習を提供し続けるように努めます。

WIPOアカデミーの目標は、知識と技能を共有し、より大きな利益のために革新的で創造的なアイデアの可能性を活用するように他者をインスパイアする、権限を付与された知的財産ユーザーのコミュニティを成長させることです。WIPOアカデミーは、より多様な新たなオーディエンスに知的財産とその利点を紹介するために協力することで、全ての人の利益となる包括的なイノベーションエコシステムの構築を支援し続けます。

WIPO Magazineは知的財産権およびWIPOの活動への一般の理解を広めることを意図しているもので、WIPOの公的文書ではありません。本書で用いられている表記および記述は、国・領土・地域もしくは当局の法的地位、または国・地域の境界に関してWIPOの見解を示すものではありません。本書は、WIPO加盟国またはWIPO事務局の見解を反映するものではありません。特定の企業またはメーカーの製品に関する記述は、記述されていない類似企業または製品に優先して、WIPOがそれらを推奨していることを意図するものではありません。