ナツメヤシの授粉期間は極めて短く、特に大規模なナツメヤシ農家にとっては時間との戦いです。ナツメヤシにはいくつもの種類があり、それぞれに雌株の仏炎苞(ナツメヤシの花房を包む大型の苞)が異なります。また、各花の開花時期も異なります。従来の方法では、受粉を確認するために、ナツメヤシの木1本1本に3回以上登る必要があります。これは時間がかかる大変な作業であるばかりか、怪我の危険さえあります。しかし、授粉しないままでおくと、ナツメヤシの生産量が大幅に減少します。
オマーンで人工知能(AI)やロボット、ドローンを農業に応用しているスタートアップ企業ワカン・テック(Wakan Tech)にはソリューションがあります。同社は経済的なインテリジェント・ソリューションを使って、政府、ナツメヤシを生産している企業及び農家が効率的かつ安全に高い生産量を確保できる技術を開発しました。「当社はドローン技術やロボット、そしてAIを活用して、便利かつメリットがあり、農家と当社を満足させるソリューションを開発できると考えております」と同社はコメントしています。
ワカンは土木技師であったYounis Al-Siyabi氏と化学工学技師であったMalik Al-Toubi氏により創立されました。米国のケンタッキー大学(University of Kentucky)を卒業した2人は、同社より前に、別のドローン・AI技術会社HAITCH-Dを創立しました。共に、イギリス民間航空局(CAA)の商用ドローンパイロット認証を保有しています。ワカン・テックは創立者の2人が完全所有・運営しているスタートアップ企業で、CAA認証を受けた商用ドローンパイロットが商業ベースでナツメヤシに空中授粉サービスを提供するオマーン初の企業です。
Younis Al-Siyabi氏とMalik Al-Toubi氏は幼少時代を農園で過ごした楽しい思い出から、この分野に関心を持ちました。今日、ワカン・テックを創立した2人が目指すのは、最先端技術を使い、オマーンの伝統農業を守りながら、ナツメヤシ農家による外国人労働者への依存度を下げることです。
また、オマーンの若い世代が運営する農園でもオマーンの伝統農法を引き継いでいけるよう支援したいと考えています。
ワカン・テックが開発したAI搭載ドローンには、パームツリー1本1本への液状花粉の塗布を最適化するための専用タンクとノズルがついています。1つの農園で複数機のドローンを使うことで、従来の受粉作業より木1本あたり30倍の速さでの授粉が可能になります。ワカン・テックは、木ごとに受粉する花粉を最適化することで、農家の作業時間と費用の大幅な節約を実現しています。さらに、AI搭載ドローンは自動操縦されるため、農家はこの作業のために追加で作業員を雇う必要がありません。
この技術の知的財産権(IP)を保護する重要性を認識した同社は2019年9月に、「ドローンを使ったナツメヤシの新しい授粉方法」に対してオマーンで特許出願をしました(OM/P/2019/000383)。その後、複数の国でも同技術を保護するため、2019年11月には、特許協力条約(PCT)に基づく国際登録の出願も行いました(PCT/OM2019/050010)。
特許を出願することで、ワカン・テックは次の項目の保護に努めています:
知的財産権はワカン・テックの事業戦略の核をなす部分です。これらの権利により、同社はヤシの授粉分野での成果を守り、投資家を確保した上で事業を拡大するのに必要な資金を調達することが可能になります。同社は現在、製品の商標及びドローンの形状に対する意匠でも保護を求めるために手続きを進めています。ドローンで使用されるソフトウェアも著作権により保護されます。
「ワカン・テックは、若い世代が先祖から引き継いだ農園に立ち返り、技術を導入した農法をするように推奨すべきだと考えています。手中にあるのに若い世代が気づいていないこの宝は、オマーンと地域に利益をもたらすでしょう。パームツリーはオマーンの伝統農業の一部です。オマーン人は代々パームツリーと切っても来れない関係にあり、ナツメヤシは現在でもオマーンで最も人気のある作物の1つです。ですから、私たちはドローンやAIなどの技術を活用し、授粉など、危険で大変な作業を簡単にする必要がありました。また、当社の新たな方法で生産されるナツメヤシは最高水準の品質です」と同社は説明します。
「農業技術ソリューションを提供する当社は、環境に優しい未来をもたらすイノベーションの重要性を完璧に理解しています。そのため、授粉を液状にするなど、環境に優しい製品を開発し、環境リスクの低減に貢献しています。今後、このような製品を増やしていく予定です」と言います。