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ブラジルにおける「環境に優しい」発明の迅速な保護に関する最新状況

2021年8月

Pedro MoreiraDannemann Siemsen パートナー(ブラジル リオデジャネイロ)

*このニュース記事は WIPO Greenとの共同制作です。

過去10年にわたり、ブラジルの国立産業財産庁(National Institute of Industrial Property 、INPI)は、運用効率の向上、特に特許出願の処理に関する慢性的なバックログの削減に取り組んできました。また、同庁はこれにより国家および国際的なコミットメントに従って環境に配慮した技術の商業化の促進に努めてきました。

2012年、INPIは産業財産事項を担当する管轄国家機関として、環境技術に対して迅速な特許手続きを提供する「グリーンパテント」プログラムを試験的に実施しました。当プログラムは2016年にINPI提供のサービスに完全に統合され、2020年にはさらにアップグレードされました。ブラジルはかかるプログラムを導入した最初の新興経済国となりました。

ブラジルと再生可能エネルギー

ブラジルは、世界でも上位の再生可能エネルギー生産国の1つであり、発電量の80%以上を再生可能エネルギー(エタノール、太陽光、風力など)から供給しています。Apex-Brazilによれば、エネルギー需要は2029年までに20%増加し、風力および太陽エネルギーの推定設備容量は、ブラジルの国家エネルギー計画2029に従って2019年の176ギガワット(GW)から2029年には251GWに増加することが予定されています。これらのデータは、ブラジルの急速に進化するダイナミックな環境技術分野における事業発展と成長の可能性を示唆しています。INPIのグリーンパテントプログラムは、このような背景のもと、環境に配慮した技術(EST)の商業化を支援することにより、ブラジルにおける特許のバックログの対処や国家の再生可能エネルギー目標の推進に役立っています。

イノベーション支援におけるNPIの役割

世界中にある他の知的財産庁と同様に、INPIはそのサービスを通じてESTなどの革新的技術の開発および商業化を支援するうえで重要な役割を担っています。

イノベーションとそれを支える研究開発は多くの費用と高いリスクを伴う事業であるため、研究開発の結果を保護し、投資収益率を確保し、ビジネスを構築できるという保証なしにこれらに着手する企業はほとんどありません。

ここで、知的財産権、特に特許が重要な役割を果たします。INPIなどの国内知財庁によって付与された特許権は、最先端の技術を保護し、特許権の名義人に最大20年間の排他的権利を付与します。特許を保有する個人または企業はこれらの権利に基づいて、誰が事前の許可なしに保護された技術を製造および販売できるかどうかを決定できます。これにより、特許技術のライセンスを供与したり、事業パートナーと技術移転契約を締結したりする機会が得られます。このような取り決めは、企業に新しい収益源をもたらし、市場におけるテクノロジーの普及を支援します。知財庁は、WIPOのPATENTSCOPEなどの国内特許データベースおよび国際特許データベースから検索可能な特許文書に含まれる貴重な技術情報および事業情報へのアクセスを促進する上でも重要な役割を果たします。

特許バックログの課題

世界中にある多くの知財庁が未審査の特許出願という膨大なバックログに直面しています。これは主に世界中で出願されている特許出願件数が増加したことに起因しています。

INPI出版の2015年レポート pdfによれば、今世紀の初めの10年でブラジルにおける特許出願件数は71%増加しました。これは、他の中南米諸国における特許出願と比較して約80%、世界平均との比較では35%高い数値です。

このような高い成長を遂げる中、さまざまな運用上の課題と複雑な知的財産規制環境も作用し、ブラジルに未審査の特許出願という多くのバックログが発生するようになりました。INPIpdf は、2018年の時点で約207,195件の特許出願が審査待ちであり、特許出願の手続き(出願から付与まで)には平均して10年以上かかっていることを報告しています。

特許出願の処理に長いタイムラグがあると、特許出願人、つまり特許保護を求める個人や法人に法的な不確実性が生じます。これらのタイムラグにより、起業家が技術を商業化したり、そのライセンス供与をしたり、投資の見返りを確保したりする機会が妨害されます。さらに、出願人による研究開発活動に対する資金供給が抑制されます。

INPIが講じる措置

INPIは未審査出願のバックログに対処するために、いくつかの具体的な措置を講じてきました。これにより、さまざまな自動化イニシアチブと国際協力の強化を通じて、最適化された作業の取り決め、合理化されたワークフローとプロセスがもたらされました。INPIのグリーンパテントプログラムの下で開始された特許審査手続きの加速化はこの推進力の重要な部分を担っています。

INPIは革新的なグリーンパテントプログラムを通じて、特許の係属期間を出願日から約14か月に短縮し、適格な技術を付与することに成功しました。同プログラムは、国際特許分類のグリーンインベントリ(Green Inventory of the International Patent Classification)に沿って、再生可能エネルギー、輸送、省エネルギー、廃棄物管理、農業などの急速に進化している分野の特許技術に利用できます(ボックスを参照)。

INPIのグリーンパテントプログラム

2012年4月(2012年4月17日の決議283/2012による)、INPIは、EST関連の特許出願に関して迅速な審査を実施するグリーンパテントプログラムの試験運用を開始しました。

2011年1月2日以降にINPIに申請された特許出願のみがプログラムの対象となりました。ブラジルで国内段階に移行した特許協力条約(PCT)に基づいて申請された国際出願は試験運用の対象にはなりませんでした。他の要件の中でも、適格出願には最大15のクレーム(特許出願人に付与される排他的権利を定義する)と最大3つの独立クレーム(前文と発明を定義するために必要なすべての要素を含む単独のクレーム)を含めることができます。試験運用は2013年4月17日まで実施され、500件の特許出願が対象となり、大成功を収めました。

国際特許分類のグリーンインベントリ (Green Inventory of the International Patent Classification、IPC)

IPC専門家委員会 によって開発された「IPC グリーンインベントリ」により、国連気候変動枠組み条約 (UNFCCC)にリストアップされている環境に配慮した技術(EST)に関連する特許情報が簡単に検索できるようになりました。

ESTは現在、IPC全体にわたる多くの技術分野に広く散在しています。グリーンインベントリはそれらを1か所に集めるための試みです。

ブラジル特許商標庁のグリーンパテントサービスの
対象となる特許出願を識別するために使用される公
式スタンプ

INPIは試験運用の成功を受けて、2016年12月に同プログラムの本格的なサービス提供を開始しました(2016年12月6日の決議175/2016による)。 INPIは出願日に関する制限なしにPCTに基づいて申請された国内特許出願および国際出願を対象とするようにプログラムを拡張しました。

このサービスは2020年7月にさらにアップグレードされ(2020年7月30日の決議247/2020による)、現在では持続可能な農業に関連するアプリケーションもサービスの対象となっています。また、サービスに関連する料金の引き下げはありません。

グリーンパテントサービスの対象となる適格な特許文書とそれに関連する公式の電子ファイルカバーには公式スタンプ「PATENTES VERDES」(グリーンパテント)が付けられており、簡単に識別できます。

成果

2012年の同プログラムの開始以来、約870件の特許出願がINPIのグリーンパテントサービスの下で申請されました。

2015年と2016年(上記)に申請された特許出願の急激な減少は、当時ブラジルを襲った経済危機を反映しています。

外国企業の現地関連会社を含むブラジルの出願人は、INPIのグリーンパテントサービスの最大のユーザーです。ほとんどの出願が民間企業および個人によって申請されており、化学の分野に関連する出願が最多です。

グリーンパテントサービスの下で処理された特許出願は、特許審査に関して優先順位が与えられます。ただし、特許性(新規性)、進歩性(非自明性)、有用性(産業上の利用可能性など)の観点から、通常の出願と同様の実体分析の対象となります。2020年4月までに、受理した出願の34%が却下され、38%が容認されました。27%が審査待ちで、放棄されたのは適格な出願のわずか1%でした。

2020年6月、INPIは、特許審査の期間(出願から付与まで)を平均14か月に短縮したことを発表しました。これは重要な成果です。グリーンパテントプログラムにより、環境技術分野の個人や法人が簡単にテクノロジーを保護し、商業化することができるようになりました。これは企業だけではなく、環境にとっても朗報です。私たちは皆、新しい環境技術に焦点を当てた研究開発と、それらの商業化をサポートする効率的な知的財産サービスの恩恵を受けています。

実際のグリーンパンテントサービス

私の実務では、一部の顧客が加速した新しい特許システムを使用しています。たとえば、ブラジル企業Manancial Projetos e Consultoria Ambiental社は、発明者であるJúlio César Simões Prezotti氏が鉱業の影響を受けた地域の環境回復プロセスを開発してから2年(19か月)以内の2014年に特許(BR 10 2012 019092-3)を取得しました。現在、このプロセスはブラジルのエスピリトサントの3つの地域で使用されています。もう一つの企業であるNew Steel社は、環境に優しい鉄鉱石残留物の処理に関して2つの特許(BR 10 2012008340-0とBR10 2015 003408-3)をそれぞれ4年以内と3年以内に取得しました。

両社は、加速されたプロセスの直接的な利点に加えて、プログラムを通じて付与された「グリーンパテント」ラベルが自社技術の市場価値とその有効性の認識をさらに高めたことに言及しました。これは顧客や投資家を誘致する際に非常に役立ちました。

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