著者: Catherine Jewell氏、WIPO情報・デジタルアウトリーチ部 (Information and Digital Outreach Division)
世界中のサッカーファンが、2022年11月20日から12月18日にかけて開催されるFIFAワールドカップ カタール2022™の開幕を待ち望んでいます。大会期間中に、世界の強豪32か国の代表チームが優勝を目指して競い合います。
12月18日の決勝戦で勝利するのが誰であれ、FIFAワールドカップ カタール2022™は、アラブ諸国で開催された中東初の大会として歴史に刻まれることになります。先ごろWIPOマガジンによって行われたインタビューで、在ジュネーブ国際連合カタール政府代表部特命全権大使Hend Al-Muftah博士は、カタールの国としてのブランドを強化する上でのスポーツの戦略的重要性について次のように語っています。
2008年に、持続可能な活気溢れる知識集約型経済への転換を目指し、「国家ビジョン2030 (National Vision 2030)」を打ち出しました。以来、国と人材の開発、経済の多様化、平和のための国際的な調停、大型スポーツイベントの開催などを通じて、カタールのブランドを構築し、国際的な知名度を高めるために尽力してきました。これらの活動により、私たちの能力を強化し、信頼できる国際的なプレーヤーおよびパートナーとしての評判を確立することができました。
スポーツは、カタールというブランドの強化において不可欠な要素です。スポーツ外交は私たちの外交活動の一翼を担っています。スポーツは危機に際して外交関係を強化・更新するための国際的な取り組みを支えることが可能な強力なコミュニケーションツールだからです。カタールにとって、スポーツ外交は、経済、雇用創出、そしてカタールの国際的な魅力に大きく貢献するものです。スポーツ分野に対して行っている投資や展開中のプロジェクトによって、我が国のブランドが強化され、世界における位置づけが高まっています。過去10年にわたり、カタールでは、来たるFIFAワールドカップはもちろんのこと、ハイレベルな世界的スポーツイベントが数多く開催されてきました。これらのイベントを通じて、カタールが世界に対して何を提供できるのかを示し、持続可能な開発、社会的包摂、異なる文化や国の人々によるコミュニティや相互尊重の価値に対する我々のコミットメントを示すことができます。私たちは、スポーツによって、このような普遍的な価値観を世界中に広め強化することができると信じています。
スポーツは危機に際して外交関係を強化・更新するための国際的な取り組みを支えることが可能な強力なコミュニケーションツールです。
過去15年にわたって行われた投資のおかげで、カタールには、ルサイル・スタジアム (ルサイル)、アル・バイト・スタジアム (アル・ホール)、アル・ジャヌーブ・スタジアム (アル・ワクラ)、アハメド・ビン・アリー・スタジアム (アル・ラーヤン)、そしてもちろんドーハのハリーファ国際スタジアムなど、世界の最先端を行くスポーツ施設が揃っています。各施設は、持続可能性の原則に基づいて建設されています。例えば、スタジアム974は、輸送コンテナと組み込み式の鋼材のみで構成されており、世界初の簡単に解体可能なスタジアムとして、カタールの持続可能な建設に対する取り組みを示すものです。FIFAワールドカップ大会終了後には、スタジアムの座席の多くは、特にアフリカのスポーツインフラを必要とする国々に寄贈され、世界中でサッカー文化やスポーツの普及に役立てられる予定です。また、各スタジアム間は1時間も離れておらず、観衆が1日に複数の会場を行き来したい場合でも、楽に移動することが可能です。長年にわたり、注目度の高いスポーツイベントを開催してきた経験により、カタールは今や国際的なスポーツの舞台で、世界のスポーツ拠点における主要プレーヤーとなっています。
FIFAワールドカップ カタール2022™を開催し、世界最大の「美しい試合」の祭典に参加し応援する人々を5大陸すべてから迎えることは、私たちの価値観を表す国のブランドの中心的な柱となるものです。これらの価値観の多くは、普遍的なものです。
スポーツを通じて、情熱を共有する人々が一堂に会し、平和のメッセージを伝えます。私たちは、私たちが共有しているもの、私たちを結びつけているものに光を当て、友情、文化交流、相互理解のための機会を創出します。この名高い大会の開催は、この困難な時代における平和のための調停者としての我々の役割を裏付けるものです。
このスリリングな世界的イベントを祝うために、世界中のスポーツファンをお迎えすることを楽しみにしています。
カタール人は熱心なサッカーファンです。実際に、サッカーはこの国で最も人気のあるスポーツです。ですので、今後数週間にわたってサッカーの世界の中心となり、またもちろん自国の代表チームが世界のサッカー強豪国と戦うのを見ることができることに、私たちは大きな興奮を覚えています。また、この代表的なスポーツイベントを中東で初めて開催する国となることをたいへん誇りに思っています。
2022 FIFAワールドカップを開催することは、事業成長のための投資やパートナーシップを促進するという意味で、大きな経済的機会となります。
2022 FIFAワールドカップの開催によって、我が国が世界的に名高いイベントの開催に精通していることが再確認されます。また、事業成長のための投資やパートナーシップを促進し、カタールが起業家や投資家が安心して活動できる場所であることを示すという意味でも、大きな経済的機会となります。2022 FIFAワールドカップをカタールで開催することによって、スポーツインフラ、観光、文化の面でカタールは大きく変貌し、発展を加速させました。また、大会終了後も、長きにわたり経済的利益の向上や国際的パートナーシップの構築に貢献し続けることができます。そしてもちろん、私たちの文化を紹介し、多文化環境における我が国ならではのおもてなしを披露する素晴らしい機会でもあります。
スポーツは、私たちの国家ビジョン2030 (National Vision 2030) の中心的な柱です。私たちは、スポーツに関連するいくつかの分野に分散投資する多面的な戦略をとっています。その目的は、専門知識と卓越性を有する世界的に認められたスポーツの拠点としてカタールを位置づけることです。
大型スポーツイベントの開催は、その戦略の一翼を担っています。カタールは、長年にわたり、2006年アジア競技大会、アジアサッカー連盟 (AFC) アジアカップ2011、2015年世界男子ハンドボール選手権、2019世界陸上競技選手権大会、2021 FIFAアラブカップ、そして来たるFIFAワールドカップなど、何百ものハイレベルなスポーツイベントを開催してきたことにより、この分野において深い専門知識を身につけてきました。また、AFCアジアカップ2023の開催も決定しています。カタールはまた、陸上競技、自転車、ゴルフ、モータースポーツなど、注目度の高い様々な選手権イベントを開催しており、例えば2021年11月には初めてF1グランプリを開催しています。
スポーツの発展を促し、世界のスポーツにおけるカタールの夢を支援するため、2008年には、カタール首長の決議第1号によって、アスパイア・ゾーンが設立されました。アスパイア・ゾーンは、アスパイア・アカデミー、アスペター、アスパイア・ロジスティクスという3つの機関により構成されています。
2004年に設立されたアスパイア・アカデミーは、才能あるカタールの若手アスリートを発掘・教育し、スポーツキャリアの発展を支援することに重点を置いています。この戦略は功を奏しており、2014年には、カタール代表ユースチームがAFC U19選手権で優勝しました。2019年には、カタールのナショナルチームが初のAFCアジアカップ優勝を果たしています。同様に、2020年東京オリンピック競技大会では、Fares Ibrahim (重量挙げ) とMutaz Barshim (走り高跳び) が金2個、ビーチバレーのCherif YounousseとAhmed Tijanが銅1個を獲得し、カタールとしては初めて合計3個のメダルを獲得しました。東京オリンピックは、カタールのスポーツ史上、最高の大会となりました。
アスパイア・ゾーンには、先駆的な世界トップクラスのスポーツ医療施設であるアスペターもあります。アスペターは、中東・湾岸地域初の整形外科・スポーツ医学の専門病院です。最先端の施設と一流の医師・研究者からなるグローバルチームが、アスリートの怪我について予防や管理を行い、パフォーマンスを向上させるための一連のサービスや技術を提供しています。多くの著名なアスリートが、アスペターの専門知識の恩恵を受けています。
スポーツ戦略では、カタールにおけるスポーツメディアの発展もサポートしています。テレビチャンネルBeINスポーツネットワークの展開によって、スポーツメディアとマーケティングにおける国際的なリーダーになることを目指しています。
カタールは、他国の様々なスポーツ投資の機会も活用しています。例えば、2011年に、カタールはフランスのサッカークラブ、パリ・サンジェルマンを買収しました。これにより、同クラブは、ヨーロッパのみならず、世界でトップクラスのクラブとなりました。同様に、2017年に、カタール航空はFIFAのオフィシャルエアラインパートナーとなり、現在では世界中の主要サッカークラブと国際スポーツパートナーシップやスポンサーシップ契約を数多く結んでいます。
カタールは、国の社会的、経済的、文化的な発展の目標を支える上で、知的財産 (知財) が果たす中心的な役割を認識しています。知財制度は、スポーツ産業を含むすべての経済分野において、イノベーション、創造性、ビジネスの成長を刺激し、奨励する重要なメカニズムです。知的財産権の戦略的な管理は、例えば、ファンエクスペリエンスを豊かにして環境目標の達成を可能にする新しい最先端技術へのアクセスを容易にし、企業スポンサーや放送事業者から必要な資金を確保するなど、あらゆる大型スポーツイベントの中核をなすものです。知的財産権を効果的に管理してこそ、FIFAワールドカップ カタール2022™のようなメガスポーツイベントの開催に必要な投資を確保し、そこから経済的価値を生み出すことが可能となります。そのため、知財はカタールの国際スポーツ戦略において不可欠な要素となっています。
ここ数年、カタールは、いくつかの国際条約の受諾や知財法の枠組みの近代化によって、知財分野において力強く発展してきました。大型スポーツイベントの開催に取り組むことによって、これにさらに拍車がかかり、スポーツ界のみならず、わが国の経済発展を支えるために知的財産が担っている重要な役割に対する認識と理解を高める絶好の機会にもなります。
知財制度は、スポーツ産業を含むすべての経済分野において、イノベーション、創造性、ビジネスの成長を刺激し、奨励する重要なメカニズムです。
カタールは、大型スポーツイベントの開催に関わる複数のパートナーの知的財産権を保護するために、一貫して必要な措置を講じています。例えば、2004年に、カタールは、2006年アジア競技大会 (正式名称: Asiad XV) の商標、ロゴ、著作物および関連する権利を保護するために、法律第27号を制定しました。同様に、FIFAワールドカップ カタール2022™でも、2021年法律第10号ワールドカップFIFAカタール2022の開催に関する取り決め、2021年法律第11号FIFAの商標、著作権及び関連する権利の保護に関する法律など、多くの法律が採択されています。カタールはまた、FIFAと緊密に連携し、2022年ワールドカップのための知財ガイドライン を作成しています。これらの措置によって、カタールの国内知財の法的枠組みがさらに強化されています。
知財所有者の権利を守る強固な知財制度の整備に対するカタールの取り組みは、スポーツ分野や広範囲の経済にとって好ましい投資やビジネスの環境を創出する鍵となります。例えば、スポーツ分野では、WIPOが管理する「衛星により送信される番組伝送信号の伝達に関する条約 (ブリュッセル条約)」の承諾を2022年9月にカタール閣僚評議会が承認するなど、スポーツ放送事業者の業務環境を改善するための措置が取られています。放送事業者がイベントを放送するために行う高額な投資を保護し、世界中の視聴者がイベントを楽しめるようにすることを目的としています。スポーツ放送事業者を含む放送事業者の権利の保護について、WIPO著作権等常設委員会 (SCCR) においても国際パートナーとの協力を早急に継続していきます。
世界中のスポーツファンにカタールにお越しいただき、FIFAワールドカップ カタール2022™でまたとない思い出を作っていただければと思います。一丸となって、次世代のサッカー選手に刺激を与えていきましょう。この記念すべきイベントに参加されるすべてのチームの幸運を祈ります。最強のチームが勝つことを願っています。
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