著者: Catherine Jewell氏、WIPO情報・デジタルアウトリーチ部 (Information and Digital Outreach Division)
統計によれば、3人に1人が生涯のうちにがんにかかります。そのため、治療可能で治癒が可能な時期にがんを早期発見することが必要不可欠です。シンガポールと米国を拠点とする精密がん治療 (precision oncology) 企業、Lucence社が開発した高感度血液検査によって、早期発見が現実のものになろうとしています。Lucence社は、画期的な技術によって、シンプルな血液検査によるがん治療と治癒率の向上に取り組んでいます。同社の超高感度リキッドバイオプシー検査によって、1回の採血でがんの診断を正確、迅速かつ安価に行うことが可能となり、これにより適切な治療方針を医師が決定して健康転帰を改善することができるようになります。『WIPOマガジン』の取材に応じ、Lucence社の創設者兼CEOであるMin-Han Tan博士が、がんの早期発見を通じて世界中のがん患者の命を救うという同社の取り組みについて語ります。
がんは、発見が早いほど、治療の侵襲性が低くなり、痛みも少なくなります。
医療によって人々を積極的に直接助けることができます。それが私にとって魅力です。がん治療はやりがいのある仕事であり、がんを克服するためにテクノロジーをいかにして役立てることができるかを理解することに、やる気を感じています。がんは主な死因の一つであるため、この分野で働くことは、心の問題にも深くかかわることを意味します。Lucence社は、患者さんの苦しみの軽減において一翼を担っており、そのことには大きな意味があると考えています。
がん治療はやりがいのある仕事であり、がんを克服するためにテクノロジーをいかにして役立てることができるかを理解することに、やる気を感じています。
当社では、がんの早期発見や、よりよい治療法の選択ができるよう、リキッドバイオプシーや血液検査を開発しています。患者さんは、1か月も待ってリスクの高い侵襲的な組織生検を行う代わりに、簡単な血液検査によって1週間以内に結果を知り、治療法の選択について決定を下すことができます。リキッドバイオプシーは、早期発見や治療方針の決定の面で、がん患者に大きな変化をもたらしています。当社の今後の目標は、これらの検査の感度をさらに向上させることです。これにより、より幅広い種類のがんをより早期に発見し、患者が早期治療の恩恵を受けることができるようになり、治癒の可能性を高めることができます。
当社では、がんの早期発見や、よりよい治療法の選択ができるよう、リキッドバイオプシーや血液検査を開発しています。
当社は、がん専門医を対象に、がん患者の血液検体を正確に検査できる幅広い臨床サービスを提供しており、治療を巡る人生にかかわるような重要な判断を行うことができるようにしています。当社は、がん治療の最終的な責任者である医師や腫瘍内科医と協力し、適切な治療が行われるよう努めています。腫瘍内科医としての私の最優先事項は、Lucence社が提供するテクノロジーとサービスによって、できる限り最善の治療をサポートできるようにすることです。
今日、これらの血液検査は、生検が困難ながんの患者さんに最も有用です。肺がんや消化器がんのほか、骨に転移する乳がんや前立腺がんなど、広範囲に転移するがんがこれに該当します。これらのがんは医師にとって診断が難しく、がんの存在を特定するために必要な組織生検は侵襲的で痛みを伴い、リスクが高いものです。血液検査で同じ情報を得る方がはるかによい選択です。当社の検査では、効果的な治療法を選択するためにがんを診断します。当社の夢は、複数のがんを早期発見するのに十分な感度を持つ血液検査を開発することです。
医療とは、本質的に、患者さんや家族がテクノロジーやサービスを通じていかにして恩恵を受け、よりよい治療を受けることができるかという、一連の物語です。イノベーションと品質を融合させ、よりよい結果をもたらすことなのです。血液検体の一つ一つが患者さんと患者さんの物語を表していることを理解し、患者さんの人生をよりよいものにするプロセスの一端を当社が担っていることを理解していることが、当社の原動力になっています。
コロナ禍が始まったとき、当社はコア技術を使って新型コロナウイルス感染症の診断法の開発を行った最初の企業の一つでした。当社は、新型コロナウイルス感染症の唾液診断について世界最大級の研究を行い、新型コロナウイルスのRNAをより適切に診断し検査する方法を知ることができました。当社はこれらの教訓を生かし、同じ方法を用いて血液中の悪性腫瘍のRNAを検査できることに気づきました。血液中のDNA検査とRNA検査を組み合わせることができることは、がん患者の治療にとって画期的なことです。つまり、適切な治療法を予測する鍵となる腫瘍の挙動や、発症する可能性のある抵抗性の種類を予測し、治療面での対策を練ることができるのです。当社の目標は、この中核的な科学的進歩を他社にも開放し、より多くの患者さんがこの恩恵にあずかることができるようにすることです。
米カリフォルニア州とシンガポールに1つずつ、計2つの研究所を持っています。これらの研究所を通じて、米国とアジアにサービスを提供しています。当社は、これらの地域のほか、中東、アフリカを含む他の地域の研究機関との共同研究を継続的に行っています。
このような共同研究によって、研究開発のプロセスが豊かなものとなり、がんをより深く理解することができるようになります。がんをより深く理解するには、遺伝子の多様性をより深く理解する必要があり、そのことががん克服の鍵を握っています。世界的な規模で研究することによって、より正確な診断を患者さんに提供するために必要な知識が生み出されます。
当社のテクノロジーとサービスによって、より迅速に、より簡単に、よりリスクが少なく、そして多くの場合、より安価に治療を実現できるよう、患者さんを支援しています。患者さんは、正確ながん診断を受けることで適切な治療を受けることができます。がん患者にとって時間は貴重であり、患者さんにとって最善の治療法が何であるかを迅速に理解することが重要です。高額な治療を2か月も受けて、それが適切な選択ではなかったと後から知ることは、誰にとっても嫌なものです。当社が今日、がん患者さんのためにもたらしている変化は、こうしたことです。検査の感度を向上させ続ければ、1回の血液検査で複数のがんを早期に発見できるようになるでしょう。そのための研究は、パートナーとの協力のもと、現在も進行中です。
当社のテクノロジーとサービスによって、より迅速に、より簡単に、よりリスクが少なく、そして多くの場合、より安価に治療を実現できるよう、患者さんを支援しています。
がんは、発見が早いほど、治療の侵襲性が低くなり、痛みも少なくなります。当社では、治療可能で治癒が可能な早期段階でがんを発見できるようにしようとしています。
がん専門医として、究極の願いは、自分の仕事によって人々の暮らしに変化がもたらされることです。ですから、私にとって、商業利用は研究の自然な流れでした。この技術を発明した後、当然、次のステップとして、より大きな規模で世に送り出す方法を考えました。
多くのことを学ぶ機会がありました。患者さんを治療するための実用的な商品に知財をいかにして変換するかを学ぶことは、洞察に満ちたものでした。私が学んだことの中で最も興味深かったことの一つは、患者さんが最善の治療を受けられるようにすることが中核的な目標である場合、ニーズはどこでも非常に似ているということです。もちろん、支払う側がおかれている状況には違いがありますが、ニーズがいかに普遍的なものであるかについて、商品を開発する側で明確に理解されていることに、非常にやる気を感じさせられます。課題は常にありますが、商品とサービスによって患者さんのお役に立てることが、重要な原動力となっています。
当社の研究を商品化するためには知財が不可欠であり、知的財産権を確保することは当社が取り組むべき重要なステップであることは常に認識していました。
移行において重要だったのは、知財の運用です。当時、私はシンガポールの科学技術研究庁 (A*STAR) の研究員でした。この技術がうまくいくという確信が持てたときに、行動に移すことを決めました。臨床上の共同研究者と行った研究結果によって、患者にとって重要なものを大規模に提供できることを再確認できました。A*STARを通じて取得した知的財産権もあったため、機は熟したと判断しました。A*STARは、会社をスピンアウトさせて商業化するプロセスを非常によくサポートしてくれました。
当社の研究を商品化するためには知財が不可欠であり、知的財産権を確保することは当社が取り組むべき重要なステップであることは常に認識していました。
ディープテック企業である当社にとって、知財はなくてはならないものです。当社の知的財産は、当社がサービスを提供し、患者さんのニーズに応えるための基盤となっています。当社の知的財産によって、当社の研究開発とブランドが支えられ、患者さんのニーズを満たす能力を当社が有していると投資家が確信することができます。知財によって、当社が世界中で行っている様々なパートナーシップも促進されます。こうしたパートナーシップでは、専門知識、能力、資産の面で、各当事者が何をもたらしているかを、すべての当事者が理解する必要があります。
ディープテック企業である当社にとって、知財はなくてはならないものです。
研究室で開発された医薬品や医療機器が患者さんのもとに届くようになるまでには、複雑なプロセスが必要となります。コロナ禍によって、新型コロナワクチンの開発であろうが診断ツールの開発であろうが、医療における大きな問題を解決するには、複数の関係者が協力する必要があることがはっきりと示されました。パートナーシップは非常に重要です。有能なパートナーと組むことは、多くのビジネス課題の解決に役立ちます。
医薬品や医療機器を成功に導くには、病院、製薬会社、研究機関といった多くのステークホルダーが一致団結する必要があります。研究室で開発された知的財産が患者さんのもとに届くようになるまでには、多くの場合、複雑な官民のパートナーシップが必要です。技術開発から、商品を裏付ける証拠を収集するために必要な調査研究、商品の流通に至るまで、適切なパートナーがいれば大きな違いがもたらされ、必要なものを患者さんが手に入れることができるようになります。医療診断の商品化には、パートナーシップが不可欠です。
当社の主な目標は、DNAとRNAを組み合わせた検査技術を世界中の人々に提供することです。当社では、できる限り多くの患者さんがこの恩恵を受け、最善の治療を受けることができるようにしたいと考えています。科学的な観点から言えば、当社の目標は、症状がなく、一見健康な人でも、例えば年に一度の健康診断の際に、早い段階でがんを発見できるよう、検査を向上させることです。
当社の主な目標は、DNAとRNAを組み合わせた検査技術を世界中の人々に提供することです。
がんを早期に発見して治療することは、あらゆる人々の利益につながります。患者さんの利益に焦点を当てることによって、患者さんにサービスを提供しながら、手頃な価格の拡張性の高い技術を提供する方法を見つけ出し、医療費を削減することができます。このことを理解した上で、より多くの人々が必要とする商品に、イノベーションが効果的に変換されます。何年もかかるかもしれませんが、治癒が可能な時期に複数のがんを早期に発見するための、正確で利用しやすい手頃な価格の検査の実現に向けた明確な道筋を描かなければなりません。コロナ禍によって、医療診断の開発がいかに複雑であるか、そしてそのプロセス全体を加速させることが可能であることが示されました。命にかかわる技術進歩なのですから、重要なことです。
自分にとって解決可能な最大の課題を選び、その解決に向かって努力し、うまく商品化させてください。
WIPOグローバル・アワード・プログラム
Lucence社は、2022年に初めてWIPOグローバル・アワードを受賞した5社の1つです。このプログラムは、知的財産を活用し、国内外でプラスの影響を及ぼしている優れた企業を表彰するものです。グローバル・アワード・プログラムは、イノベーションや創造性がすべての人の利益となるよう、知的財産によって支えられる世界を実現するという、WIPOの使命に根ざしています。
2023年6月に、WIPOは、WIPOグローバル・アワード2023の最終選考に残った25社を発表しました。受賞者は、2023年7月11日に発表されます。
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