著者: Ann Chaplin氏 (クアルコム社法務顧問兼コーポレート・セクレタリー、カリフォルニア州サンディエゴ)、Holly Fechner氏 (Invent Together専務理事、米国ワシントンD.C.)
2022年、Invent Togetherとクアルコム社は、The Inventor's Patent Academyを立ち上げました。これは、発明者のなかでこれまで少数派にとどまってきた集団を対象として、発明品に対する特許の取得に必要な情報と知識を提供する無料の学習プラットフォームです。私たちのパートナーシップは、実用的な手段の開発を通じて特許をより身近なものにすることによって、状況を改善しようとしている人々に対して可能なロードマップを提供するものです。
WIPOが最近とりまとめた報告書によると、1999年から2020年の間に登録された国際特許出願のうち、女性の発明者が占める割合は13%に過ぎませんでした。女性発明者の割合は増加しており、その増加ペースは過去5年間で最も高くなっているとはいうものの、報告書によれば、国際特許における男女平等が達成されるのは2061年になるということです。つまり、40年も先の話なのです。
国際特許におけるジェンダー公正の実現は、2061年まで待たねばなりません。
発明と特許取得の公平性を阻害するいくつかの要因が指摘されています。例えば、発明に触れる機会が少ないこと、教育、リソース、指導を受ける機会や資金力が不十分なこと、そして、根強い偏見と差別が存在することなどです。このような障壁を克服するには、すべての当事者が戦略的に行動し関与していく必要があります。
米国を拠点とするInvent Togetherアライアンスはグローバルに展開しており、発明と特許の世界に存在している多様性の格差を明らかにして、これに対する理解を深め、このような格差を克服するための官民の取り組みを支援する活動に尽力しています。
Invent Togetherの取り組みの一つとして、企業や学界内での発明者の多様化を図る目的で行う一般の認知度向上とベスト・プラクティスの促進があります。2021年以来、Invent TogetherはWIPOとの提携の下で、一連のオンライン・セミナーを通じて、世界中の発明者にアプローチしています。こうしたセミナーは、欧州と米州を中心に、アフリカ、アラブ、アジア太平洋地域も対象とするものですが、発明と特許取得における多様性の格差についての認識を高め、ベスト・プラクティスを共有、促進する貴重な機会となっています。
このような取り組みの成果をさらに充実すべく、2022年には、クアルコム社と共同で、The Inventor's Patent Academy (TIPA) を立ち上げました。これは、発明者が、自分自身の知的財産を保護することの重要性を認識するとともに、特許取得のメリット、特許取得のプロセスについて学ぶことができるオンライン学習プラットフォームです。TIPAのコンテンツ開発に当たっては、発明者や特許権者、特許実務家に加え、公平性、多様性、インクルージョンの各分野の専門家から助言を得ました。
TIPAからは、特許取得の基本について、実践的な知見を得ることができます。
このプログラムによって、特許取得の基本に関する実践的な知見を得ることができます。また、説得力のある解説動画を通じて、少数派である発明者がしばしば直面する根深い課題とこれを克服する方法を探っていきます。
リリースされて以降、すでに1,500人近くがTIPAを利用して学習しています。TIPAには、利用者のプロフィールと満足度をより的確に理解するためのアンケート(任意回答)が付されていますが、TIPA利用者の3人に2人がこれに回答しています。また、回答者のおよそ4人に3人は、因習的に少数派とされる集団の一員であることを強調しています。その4割以上が女性で、さらにその7割が有色人種の女性でした。
TIPAは、意図した層に首尾よく到達し、このような発明者が障害を克服しながら特許のエコシステムを進んでいくために必要とする手段を提供することができました。
TIPAは、これまで少数派にとどまってきた集団による発明や特許取得を促進するために、どのようにすれば、企業や非営利団体などが先導していけるかを示す一例にすぎません。しかし、1つの取り組みだけでこの根深い問題を解決することは不可能です。
発明の世界に存在する多様性の格差を克服するには、社会のあらゆるセクターが幅広く関与していくことが必要です。
発明の世界に存在する多様性の格差を克服するには、社会のあらゆるセクターが幅広く関与していくことが必要です。イノベーションや知財の分野において、多様性やインクルージョン、公正といった課題に対して目に見える変化を目指すグローバルな取り組みに参加したいと考えるならば、検討すべきベスト・プラクティスとして以下のようなものがあります。
発明者が増えれば、より多様でより特異性のある問題を解決できるようになります。
発明者が増えれば、より多様でより特異性のある問題を解決できるようになります。私たちは、力を合わせて障壁を打破していかなければなりません。そして、より革新的な考えを持つ人々が、発明に対する特許を取得し、雇用を創出し、世界経済を活性化し、賃金と富の格差を縮小し、さらには、これまでにない方法を見出すことによって社会全体を改善していけるよう、団結していくことが求められているのです。
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