著者: Edward Kwakwa氏およびIrina Chicu氏 (WIPOグローバル・チャレンジ・パートナーシップ部門)
2015年9月、世界のリーダーたちが国連に集まり、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択し、貧困、不平等、不公正をなくし、地球を守り、将来の世代の繁栄を確保するための大胆な行動計画を打ち出しました。2030アジェンダの中心にあるのは、持続可能な開発目標 (SDGs) です。SDGsは、全人類に対する緊急行動の呼びかけであり、誰一人取り残さずに、持続可能な未来を共に築くという強い決意です。
貧困と飢餓を撲滅することから、健康、イノベーション、ジェンダー平等、環境の持続可能性を促進することに至るまで、SDGsには、個別のコミットメントだけでなく、包括的かつ協調的な解決策を必要とする、相互に関連する幅広い問題が網羅されており、国や地域、世界の関係者間の協調的な努力と強力なパートナーシップが不可欠です。2030アジェンダでは、「すべての国及びすべてのステークホルダーは、協同的なパートナーシップの下、この計画を実行する」と述べられています。
1個人や1つの団体によって偉業をなしとげるのは難しいことは周知の事実です。史上最高のバスケットボール選手の1人であるマイケル・ジョーダンが言ったように、「才能で試合に勝つことはできるが、優勝するにはチームワークと知性が必要」なのです。そのため、WIPOは、知的財産に支えられた創造性とイノベーションを促進することにより、すべての人々にとってより良い未来を築くために、国際機関、政府、市民社会、企業、大学などと協力することに常に関心を持ってきました。
目標17は、他の目標を達成するための目標と見なされることが多く、他の目標ほど脚光を浴びることはありません。
従来、WIPOの活動は、産業とインフラの発展を求める目標9に主に関連していましたが、知的財産、イノベーション、創造性は、他の目標やその具体的なターゲットを推進する上で重要な役割を果たしています。そのため、WIPOは、加盟国間の協力を促進する中立的で包摂的かつ透明性の高い多国間フォーラムとして行動するという基本的な任務に加え、知的財産が果たすべき差し迫ったグローバルな課題に取り組むために、マルチステークホルダーアプローチも採り入れました。
目標17は、他の目標を達成するための目標と見なされることが多く、そのため、他の目標ほど脚光を浴びることはありません。しかし、経験上、いくつかの理由から、強力なパートナーシップが不可欠であることがわかります。第一に、SDGsで示されている複雑な課題に取り組むために必要なリソースや専門知識をすべて備えているステークホルダーや団体は1つもありません。WIPOの補完的な強みを活かし、パートナーシップによりリソースをプールすることで、国際社会においてより効果的かつ効率的なソリューションが開発され、実行することが可能になります。
さらに、パートナーシップによって多様な視点やアイデアを結集することにより、イノベーティブなアプローチが促進されます。共同イニシアチブによって分野横断的な学習、知識と経験の共有が促され、成果をあげるための新しい戦略や慣行につながります。
そして最後に、パートナーシップによって共同行動が促進され、SDGsへの幅広い支持を生み出すことにより、WIPOの影響力拡大に役立ちます。草の根組織、若者、女性、中小企業、先住民、地域社会など、幅広いステークホルダーを巻き込むことで、互いに協力しながら勢いをつけ、SDGsに対する当事者意識や責任感を育むことができます。
グローバルヘルスにおいて、WIPO、世界保健機関 (WHO)、世界貿易機関 (WTO) の三者間協力は、3機関の取り組みを調整することに重点がおかれています。これは、世界中の政策立案者に対し、特に知的財産と貿易に関連する公衆衛生問題への取り組みを支援するためのものです。新型コロナウイルスのパンデミックの中、WIPO、WHO、WTOの各事務局長は、既存の協力の枠組みを強化することに合意しました。すでに3つのワークショップが開催されており、知財ライセンス、技術移転、ノウハウと臨床試験情報の共有、パンデミック対応のための情報リソースへのアクセスと利用、コロナ以降のイノベーションと診断へのアクセスについて考察しています。
経験上、いくつかの理由から、強力なパートナーシップが不可欠であることがわかります。
グローバルヘルスの推進を目指して、WIPOは、インド科学技術省バイオテクノロジー局 (DBT)、インド工科大学デリー校 (IITデリー)、インド工科大学ボンベイ校 (IITボンベイ) とも提携し、WIPOグローバル・ヘルス・イノベーション・フェローシップを立ち上げました。このプログラムは、意欲的な医療技術開発者に対して研修を行い、積み残しになっている健康上の課題を認識させ、対応する技術を発明して患者の治療に統合するスキルを身に付けさせることを目的としています。2024年に、アフリカ出身の4名がWIPOの支援を受け第1回のフェローとなります。
クリーンエネルギーと気候変動対策の分野では、WIPO GREENオンライン・プラットフォームによって主要ステークホルダーを集結し、データベース、ネットワーク、加速プロジェクトを通じてグリーンテクノロジーのイノベーションと普及を促進しています。これまでに150を超える組織がWIPO GREENと提携しており、気候変動や環境問題との闘いに取り組むネットワークを構築しています。WIPOは、知的財産庁などの省庁から、中小企業、フォーチュン500企業に至るまで、各地の様々なステークホルダーと協力し、現地で気候変動に対処するためのイノベーティブなソリューションを開発しています。例えば、ラテンアメリカにおける加速プロジェクトは、クライメート・スマート・アグリカルチャー (climate smart agriculture) に関連する持続可能な技術ソリューションを育成し、食料安全保障の問題に関する技術を求める者と提供する者との間のつながりをさらに発展させることを目的としています。WIPOのプロジェクトパートナーとしては、アルゼンチン、ブラジル、チリ、ペルーの知的財産庁など、各国の政府機関が挙げられます。
WIPOは、知的財産庁などの省庁から、中小企業、フォーチュン500企業に至るまで、各地の多くのステークホルダーと、現地で気候変動に対処するためのソリューションにおいて協力しています。
質の高い教育に関しては、知財に関する知識やスキルへのインクルーシブなアクセスに関する取り組みをWIPOアカデミーが主導しており、例えば、ユネスコと協力し、STEM分野において女子生徒や女性科学者の教育機会を拡大しています。アタル・イノベーション・ミッション (AIM) は、WIPOと国立インド変革機関 (NITI) との間の協力協定であり、若者にとって不可欠な知財スキルを育成するイノベーションラボやインキュベーターなどの活動を創設できるようWIPO加盟国を支援するための協力を目的としています。イノベーションハブTANITプロジェクトは、チュニジア若者スポーツ省 (MOYS)、国立標準化工業所有権機関 (INNORPI)、およびチュニジア著作権・関連権利保護機構 (OTDAV) と共同で開発されました。このプロジェクトの枠組みの中で、WIPOはすでにマンヌーバ・ユース・センターでチュニジアの若者50名を対象に予備研修を実施しています。
ジェンダー平等に関しては、2023年にWIPOによって知財・ジェンダー作業部会 (IP and Gender Working Group) が設立されました。この作業部会は、女性などの進出度が低い集団の経済的エンパワーメントに焦点を当てたジェンダー・イニシアチブとパートナーシップを促進し支援することを目的としています。国際貿易センター (ITC)、WTOのジェンダー・リサーチ・ハブなどの組織が、これらのイニシアチブの開発におけるWIPOの主要パートナーです。
これらをはじめとする数多くの成功したパートナーシップの事例が、SDGsに関するWIPOの取り組みの中心にありますが、コラボレーションの構築プロセスに課題がないわけではありません。WIPOは、適切なパートナーの選定と、説明責任および透明性の審査に細心の注意を払っています。最近設立されたパートナーシップ審査委員会は、WIPOからの財政的貢献を伴うパートナーシップ協定を締結する前に、WIPOの各部署が実施したデューディリジェンスプロセスを審査する役割を担っています。その目標は、将来のパートナーシップが、最も安全で、費用対効果の高い方法で、最善の結果を生み出すことを保証することです。
SDGsの達成はまさに、全員が力を合わせて取り組むべき課題であり、強力な共同行動が求められています。
潜在的な課題はあるものの、WIPOにとって、そしてSDGs達成への取り組みにとって、効果的なパートナーシップの構築が不可欠であることに変わりはありません。2030アジェンダ実施の中間点を過ぎた今、SDGs達成に向けた進展を加速させるには、あらゆるレベルでの新たなコミットメントと行動が必要です。SDGsの達成はまさに、全員が力を合わせて取り組むべき課題であり、強力な共同行動が求められています。分野や国境を越えて協力することで、人類の力を結集し、すべての人にとってより公平な、持続可能で豊かな未来を築くことができます。今こそ行動を起こす時です。SDGsの成功は、よりよい世界という共通のビジョンを追求するために人類が団結できるかどうかにかかっています。
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