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カメルーンの農村地域に安価ながん医療を提供する医療技術とは?

2024年10月

著者:Catherine Jewell氏、WIPO前上級情報責任者

GIC Spaceは、独自の医療技術を駆使して、母国カメルーンの貧困地域における医療格差の是正に取り組んでいます。世界保健機関 (WHO) のAfrica Innovators Network(アフリカ・イノベーターズ・ネットワーク) の一員として、その主要プロジェクトであるGIC Medは、農村地域の人々に手頃な価格で利用しやすい乳がん・子宮頸がん検診を提供しています。プロジェクト立ち上げ責任者のConrad Tankou氏が、GIC Medモデルについて、なぜ看護師のスキルアップが重要なのか、また知的財産 (IP) が女性の健康管理の向上にどのように役立っているのかについて、WIPOマガジンに語りました。

GIC Spaceはカメルーンの女性のがん治療をどのように改善していますか?

Conrad Tankou氏 (写真:Xavier Messina氏提供)

GIC Spaceは、私どもが構想を思いついてから約3年後の2019年に設立されました。GIC Spaceとは、Global Innovation and Creativity Spaceの略です。私どもは、多様な経歴、スキル、経験を持ち、技術革新に協力できる人材を集めて、社会的課題に取り組むことを目指しています。メンバーは、フルタイムのスタッフ8名とパートタイムのスタッフ5名からなります。

私どもは、主力プロジェクトであるGIC Medを通じて、アフリカの女性に乳がんと子宮頸がんの診療を行っています。これは、カメルーンの農村部にある地域病院での私の仕事にヒントを得たものです。ある女性を進行した子宮頸がんと診断し、専門医による治療を受けるよう紹介した後、私は農村部の女性でがん検診を受けている人があまりにも少ないことに気づき、何とかしなければならないと思い立ちました。

私はまず、他の医師たちと協力して子宮頸がん検診キャンペーンを実施しました。ところが、それには手間がかかり、長続きしませんでした。私はもともとテクノロジーが好きでしたので、友人を数人呼び寄せてモバイルアプリを開発し、それによって作業の負担を軽減し、円滑に作業が進められるようにしました。その後、カメルーンでは子宮頸がんよりも乳がんの方が頻度が高いことを知り、より大きな効果が得られるよう、両方の病態を対象としたソリューションの模索と開発に着手しました。

これまでに15,000人以上の女性を検診してきました。ひと月あたり最大250人の女性を診察しています。

私どもは、最終的に5つの新技術を開発しました。デジタル顕微鏡システム、スマートスペキュラム(膣鏡)、細針生検アダプター、遠隔医療プラットフォーム、そして3Dシミュレーションを利用した看護師を訓練するためのユーザーフレンドリーなeラーニングプラットフォームです。これらの革新的技術は、遠隔地の患者の子宮頸がんと乳がんの迅速な検査と診断をサポートします。これらは信頼性が高く、地域の医療従事者にとって使いやすく、費用対効果が高く、現地でも入手することができます。

世界保健機関 (WHO) は、開発途上国における子宮頸がん検診に視診法を推奨しています。病理診断、パップスメア (細胞診検体)、HPV DNA検査など、別の検診方法もありますが、低コストで必要な消耗品も手ごろな価格で入手できるため、農村部では視診法が推奨されているのです。

GIC Medモデルは、地域社会でどのように実践されているのですか?

私どものアプローチを実施する最善の方法は、既存の保健医療システムのなかで活動することだとわかりました。すべての場所ですべての女性に手を差し伸べたいのであれば、すべての村の保健所と協力する必要がある、ということに気づいたのです。成功するかどうかは、そうした診療所で働く看護師のスキルを向上させることができるかどうかにもかかっていました。そこで私どもは、3Dシミュレーションと対話型のゲーム化されたeラーニング・プラットフォームを開発し、看護師たちの環境に合わせた簡単な学習オプションを提供することにしたのです。

農村部に根付いている保健所と提携することで、私どもの技術がそうした地域で社会文化的に受け入れられやすくなりました。また、このようなアプローチは、女性たちが慣れ親しんだ環境で、顔見知りの人から治療を受けられるため、患者の安心と信頼を築くのにも役立ちます。

e-ラーニング・プラットフォームに表示される、スマートスペキュラムの使用方法に関するシミュレーションと対話型の指示 (写真:GICMED提供)

御社の革新的技術に対する地域社会の女性の反応はいかがでしたか?

これまでのところ、私どもの技術、特にスマートスペキュラムは高い評価を得ています。従来のスペキュラムは不快で痛みを伴うため、しばしば女性の検診意欲を削いでいました。私どものスマートスペキュラムは、その問題を解決します。これは、スペキュラムとコルポスコープ (膣拡大鏡) の機能を兼ね備えたようなもので、子宮頸部の拡大画像をスクリーンに表示します。この技術を応用して、スマートフォンに画像を表示できるようにしたところ、農村部の多くの女性がこのプロジェクトに参加するようになりました。興味深いことに、彼女たちは自分の子宮頸部の画像を見たがっていましたが、それにはまず子宮頸部の検査を受ける必要がありました。これが、女性たちに思い切って検診を受ける気持ちにさせたことは明らかです。私どもはまた、熟練度の低い医療従事者でも最小限の訓練で使用できるよう、技術を簡素化するためにさまざまな努力を積み重ねてきました。その結果、医療関係者の間でも、私どもの技術に対する理解が深まっています。

子宮頸がんの予防と管理のために、どのような治療技術を使っていますか?

早期発見と適切な治療が子宮頸がんを予防します。治療には、ポータブルでバッテリー駆動のサーマルアブレーション (熱焼灼) 装置を使用しています。私どもは、メーカーと協力し、パートナーシップ契約を結びたいと考えています。これまでに、健康検診キャンペーンを通じて15,000人以上の女性を検診してきました。地元の医療施設と連携し、ひと月あたり最大250人の女性を診察しています。さらに、特定の場所や村で女性のための検診を行う健康キャンペーンも実施しています。各キャンペーンは3日から1週間続けて行われ、1日に150人から250人の女性が受診に訪れます。

子宮頸がんの罹患率はどのくらいですか?

有病率 (ある一時点において疾病を有する人の割合) でいうと、3〜5%です。プロジェクトの拡大に伴って、開発途上国のがんに関するより信頼性の高いデータが集まり、より良い医療政策に役立てることができるようになるでしょう。

幸いにも、私どもは自分たちの取り組みを公開したりしませんでした。私どもの技術が独創的であり、保護する必要があることは気づいていましたが、どうすればよいのかわかりませんでした。

御社のビジネスモデルについてお聞かせください。

私どもが特にターゲットとしているのが、立場が弱く、所得の低い農村部の女性であるため、適切なビジネスモデルを見つけることは至難の業でした。その負担を軽減するため、私どもは保健所と提携し、そこで看護師のトレーニングを行い、技術や消耗品を無料で提供しています。その見返りとして、私どもは保健所に対して、その管轄地域の女性たちを集めて、最小限の費用で検診を受けさせるよう要請しています。しかし、この助成金は、検診にかかる費用を自己負担できる女性や、こうした検診サービスを対象とする健康保険に加入している女性の多い都市部では適用されません。このようにして、私どもは農村部の女性に対する助成金を引き受けています。

どのようにして知的財産について知り、なぜそれが御社のビジネスにとって重要なのですか?

技術革新に取り組み始めたとき、私どもは知的財産になじみがありませんでした。幸いにも、私どもは自分たちの取り組みを公開したりしませんでした。私どもの技術が独創的であり、保護する必要があることは気づいていましたが、どうすればよいのかわかりませんでした。当時からすでに、スタートアップ企業が大企業にアイデアを盗まれて失敗した事例を数多く耳にしていました。幸いにも、私には知財弁護士の友人がおりました。彼のおかげで、私は知的財産、特許、そして複数の国で発明を保護することを容易にする特許協力条約 (PCT) について多くのことを学びました。その弁護士の助けもあり、私どもは特許出願を開始し、保護できる革新的なソリューションを新たに開発する意欲をますます高めていきました。やがて私どもは、市場で信用を築く上での知的財産の価値をよく理解するようになりました。

輸入品が地元の製品よりも優れているという意識を変える必要があります。知的財産権の保護は、地域ソリューションの信頼性を高めるのに役立ちます。

特許はどのくらいお持ちですか?

今のところ、4件の特許を取得しており、あと1件取得できる見込みです。

GIC Spaceと他のインキュベーターとの違いを教えてください。

一般的なインキュベーターの場合、発明家がアイデアを出し、その発明の開発と商業化について指導を受けます。しかし、GIC Spaceの場合、発明家たちが協力し合い、ソリューションを共同で創造する場を提供します。私どもは、お互いに協力し、学び合うことで、技術革新を可能にします。こうしたアプローチをとることで、私どもは多様なスキルや才能を結集し、社会起業家として確実に儲かるソリューションを生み出すことが可能となり、その結果、私どもも、より効果的な活動を行うことができるようになります。

現場の看護師に細針生検アダプターの使い方をトレーニングする。 (写真:GICMED提供)

開発途上国におけるイノベーターとはどのような存在ですか?

私どもは、自社の革新的技術によって問題を解決します。開発途上国で革新的なソリューションを提供する機会は数多くあります。しかしその反面、私どものアイデアを前進させるために必要なリソースにアクセスしたり、熟練したチームを組織したりするのは非常に難しいことです。最大の障害となるのは、地元のソリューションが地元の状況に適応したものであっても、一般的には受け入れられないことです。輸入品が地元の製品よりも優れているという意識を改める必要があります。この点で、知的財産権の保護は、特にそれが国際的に保護されている場合には、地元のソリューションに対する信頼を築くのに役立ちます。

自分の発明を保護しないまま公表すれば、誰でもそれを利用することができるようになります。

カメルーンの若いイノベーターや起業家に何かアドバイスをお願いします。

若い発明家や起業家は、まず行動し、あらゆる角度から探求する必要があります。自らの想像の域を超えて考えるようにすること、そして、自分が創造したものを保護し、それに価値を与えることです。発明を保護することで、それを次のレベルに引き上げるのにふさわしいパートナーを見つけることができるでしょう。信頼が得られれば、それを土台にして適切なネットワークを築き、本格的に規模の拡大を図ることができるようになります。

イノベーターはどのタイミングでアイデアを市場に出すべきでしょうか?

今日、若者はソーシャルメディアで人気者になるという夢にとらわれがちで、自分のやっていることを公開しようと躍起になっています。しかし、自分の発明を保護しないまま公表すれば、誰でもそれを利用することができるようになります。また、市場に出すことを急げば、技術革新の過程で避けられないデバッグ (欠陥の修正) や改良の機会も奪われてしまいます。

若者に知財教育を施すことは、彼らが今後正しい知的財産の選択を行う上で助けとなるでしょう。

GIC Medにとって知財が重要な理由を教えてください。

知財が重要な理由は、私どもの技術をスケールアップし、サハラ以南のアフリカでそれを必要としているすべての国に確実に届けたいからです。私どもは、私どものソリューションを活用してより大きな効果を生み出したいと考えており、知的財産はその一助となります。知的財産を所有することで、戦略的な方向性、スケールアップの方法、提携先をより自由に決められるようになります。

しかし、知的財産制度はもっと利用しやすくなる必要があります。若者が知的財産について自ら学び、知的財産が彼らの野心をどのようにサポートしてくれるのかを理解させるには、それが鍵となるでしょう。また知的財産庁が、若いイノベーターが自分たちの革新的技術を保護しやすくすることも重要です。状況は改善されつつありますが、制度をより利用しやすくするためには、まだ多くのことがやれるはずです。

起業して最初のプロトタイプを作るのに1,000米ドル、特許出願にさらに1,000米ドルが必要、というのはなかなか厳しいものです。若い発明家や起業家に知財教育を施し、知的財産制度を利用するために必要な情報を提供しながら、発明を保護しやすくしてあげることは、彼らが今後正しい知的財産の選択を行う上で助けとなるでしょう。

デジタル病理学プラットフォーム (写真:GICMED提供)

若いイノベーターや起業家を支援するためにWIPOには何ができるでしょうか?

WIPOは重要な役割を担っており、若いイノベーターを勇気づける素晴らしい活動をすでに行っています。 若者へのWIPOの取り組みは、特に知的財産に対する認知度が低い地域において、WIPOがその影響力をさらに拡大する貴重な機会を提供しています。課題となるのは、知的財産を若者にとって魅力的なものにすることです。そのためには創造的な関与が必要であり、若者が知的財産から何を得ることができるのか、また知的財産制度を利用することで自分たちの目標をどのように前進させることができるのかを真に理解できるようにする必要があります。

御社の技術にAIを組み込むことを検討したことがありますか?

それは私どもの次のステップになります。私どものソリューションをスケールアップし、十分なデータが得られたら、AI診断システムを構築して、私どものソリューションを最適化し、ワークフローを改善することで、病理医が大量の症例を処理できるようになるでしょう。

今後の計画について教えてください。

私どもの優先課題は、パートナーシップを通じて革新的技術をスケールアップし、農村地域における乳がんや子宮頸がんの罹患率の低減に取り組むことで、社会的効果を向上させることです。また、このプロセスで収集したデータを使って政策に影響を与え、質の高い医療への普遍的なアクセスを促進したいと考えています。さらに、私どもの技術を前立腺がんなど、他の疾患にも応用していく予定です。

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