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デザイナーのための新条約、採択間近

2024年10月

著者:Marcus Höpperger氏 (WIPO商標・意匠部門上級部長)、Marie-Paule Rizo氏 (WIPO政策立法助言セクション長)、Marina Foschi氏 (WIPO上級法務官)

WIPO 加盟国、政府間組織およびオブザーバーは、本年11月、サウジアラビアのリヤドで会合を開き、世界中で意匠保護を促進するための新しい意匠法条約 (DLT) を確定し、採択する予定です。

WIPOのハーグ制度に基づきFERRARI S.p.A.によって登録された自動車の工業意匠 (国際登録番号 DM/218 451)

WIPO 総会は、2022 年、数年前から準備が進められてきた DLT に関する交渉を妥結させるための外交会議を開催することを決定しました。そもそも、意匠とは何でしょうか。また、この条約はデザイナーたちにいかなる影響をもたらすと期待されているのでしょうか。

意匠は、家具、ファッション、パッケージデザインから、製品、ソフトウェア、自動車のデザインに至るまで、多くの分野に及んでいます。最も基本的なこととして、意匠は物体の見た目や感触を左右します。私たちが着ている服、座っている椅子、天気をチェックするのに使っているアプリなど、意匠は私たちの身の回りにあふれています。また、製品が市場で成功するかどうかも、意匠が重要な役割を果たしており、私たちが製品を購入するのは、それが必要だからというだけでなく、その意匠が気に入ったからでもあります。

新しい条約の目的は、デザイナーが世界中で自分の作品を保護しやすくし、それによって彼らがより安定した生活を送れるようにすることです。

知財を確実に保護することが重要

企業が意匠の研究開発に時間と資金を投じるのは、意匠が消費者に影響を与え、市場競争力を高めることを知っているからです。しかし、意匠が知的財産権によって保護されていない場合、そうした投資は無駄になる可能性があります。保護がなければ、意匠は発売と同時にフリーライダーによって模倣される可能性があります。そうなれば、創作者の競争優位性や消費者に対するその意匠独自の魅力が制限されてしまいます。したがって、知的財産権を確実に保護することが、あらゆる創造的プロセスにおける重要なステップとなります。知的財産権は、排他的権利を与え、他者が意匠を無断で複製し営利利用することを防ぐための法的救済手段を提供するものだからです。

企業はこのことを理解しています。世界的なデータに基づいてWIPOが発表した統計によると、2022年の意匠出願件数は全世界で110万件に上り、2008年から2022年にかけて出願された意匠の数は、ほぼ着実に増加しています。

迷路のように複雑な保護手続

意匠を保護するための手続は迷路のように複雑に思えるかもしれませんが、今日ハードルは2つあります。

第一に、意匠を保護する手段は国によって異なります。国によっては、意匠は「登録意匠」として出願しなければなりません。登録制度には、知的財産庁による意匠出願の審査が必要な場合があり、その内容は国によって異なります。その他の法域では、意匠は「意匠特許」として特許法の下で保護されますが、これは通常、知的財産庁が意匠出願の審査を徹底的に行った上で初めて付与されるものです。

第二に、登録によって保護を受けるにせよ、意匠特許の付与によって保護を受けるにせよ、デザイナーは通常、保護を求める国の知的財産庁が定める出願手続に従わなければなりません。意匠権は領域的なものであり、保護を受けた国または地域に限定されるため、デザイナーは、意匠の保護を希望するすべての国または地域で同じ手続を踏まなければなりません。

このため、デザイナーが複数の法域で意匠を保護することは難しく、面倒な作業となります。

意匠法条約の採択に向けたWIPO外交会議のメインビジュアルは、サウジアラビア知的財産総局 (SAIP)が開発した「リヤド2024」のエンブレムを使用し、左側に会議の公式タイトル、右側にWIPOのロゴをあしらっています。 (写真:SAIP、WIPO提供)

DLTによる手続の容易化

DLTが採択されれば、保護手続が簡素化・合理化され、煩瑣な事務作業が不要になります。これにより、意匠保護手続の枠組みがより予測しやすくなり、手続自体が複雑でなくなり、費用も抑えられるようになります。デザイナーにとっては、複数の異なる法域に出願することがこれまでより容易になります。

新しい意匠法条約 (DLT)

  • デザイナーが出願時に提出を求められる表示項目や要素の範囲を定めます。要素のクローズドリストを設定することは、意匠保護手続に関して予測可能な枠組みを設けるのに役立ちます。これにより、出願を希望するデザイナーは、どのような表示や要素が求められるのかを正確に把握することができます。
  • 出願人が出願の際に意匠をどのように表現するか(図面、写真、または知的財産庁が認める場合は動画)を選択できるようにします。
  • 一定の条件下で、出願人が複数の意匠を一つの出願に含めることを可能にします。
  • 出願日の付与に関する要件を規定します。意匠の分野では、出願日の先延ばしは権利の決定的な喪失につながりかねないため、意匠出願の出願日付与要件の範囲を最小限にとどめることがきわめて重要です。
  • 意匠の最初の開示から6ヵ月または12ヵ月の猶予期間を定めており、その間はその開示が新規性に影響を及ぼすことはありません。
  • 出願人が出願日を確保してから少なくとも6ヵ月間は、意匠を未公開にすることを認めています。
  • 出願人が期限に間に合わなくても権利を失うことがないよう救済措置を設け、ある程度の柔軟性を持たせています。このような措置がなければ、一般に期限を徒過すると権利を失うこととなり、意匠の場合その損失は取り返しがつきません。
  • 意匠登録の更新申請手続を簡素化します。

外交会議までの道のり

この外交会議の目的は、商標法等常設委員会 (SCT)がその第15回会合で意匠登録手続に関する作業を開始することに合意した2005年に始まった道のりを完結させることにあります。

同委員会は長年にわたり、条約の中核をなすこれらの手続やその他の関連問題を精査してきました。また、条約草案の規定が2007年のWIPO総会で採択されたWIPO開発アジェンダ勧告を遵守し、開発への配慮をWIPOの活動の中心に据えることができるように努めてきました。

外交会議に至るまでのプロセスは、WIPO加盟国のさまざまな発展レベル、利害、優先事項、およびその他の利害関係者の視点を考慮に入れた包摂的なものでした。条約草案に関する作業において、同委員会は国際知的財産協定、特に開発途上国や後発開発途上国にとって利害関係のある協定において柔軟性を持たせる必要性も考慮しました。

WIPOの商標法等常設委員会 (SCT)の第34回会合が2015年11月16日から18日までスイスのジュネーブで開催されました。 (写真:WIPO/Emmanuel Berrod)

同委員会は、条約の条文案と関連規則案の微調整に数年を費やしました。これらの案は、意匠の方式や手続に関するアンケート、同委員会の作業が及ぼす潜在的な影響に関する調査など、その他の文書とともに事務局によって作成されました。しかし、2つの懸案事項をめぐる議論により、2022年の画期的な決定がなされるまで、外交会議の開催について合意には至りませんでした。

第一の問題は、技術的支援と能力構築に関するものです。この点に関しては、2012年と2013年の早い時期に、アフリカン・グループ、欧州連合とその加盟国を代表する欧州連合代表部、および大韓民国代表部からいくつかの提案がなされました。すべての代表団が、条約実施におけるこうした支援の重要性に同意しています。しかし、これを条約の条文に明記するか、何らかの決議で対処するかは、外交会議で決定するしかありません。

第二の問題は、2015年11月にアフリカン・グループが行った提案に関するものです。伝統的意匠の不正利用を防止するため、アフリカン・グループは、意匠出願に含めるべき表示または要素の最大リストを定めた条約案第3条1項(a)に、意匠に使用される、または意匠に組み込まれる伝統的文化表現、伝統的知識、生物学的・遺伝学的資源の出所または起源を開示する非強制的要件を盛り込むことを提案しました。しかし、一部の代表団はこの提案を支持しませんでした。2019年、メキシコのSocorro Flores Liera大使が交渉の進行役を務め、妥協案を提案しましたが、これについては外交会議でも議論される予定です。

残された未解決の問題について合意を形成し、この新条約を採択することが今や外交会議の参加者に課せられた責務であり、この条約はグローバルな意匠保護を促進し、長年の懸案事項を解決する突破口となるはずです。

意匠法条約の締結と採択のための外交会議は、2024年11月11日から22日まで開催されます。詳細情報およびすべての会議資料は、WIPOのウェブサイトから入手できます。

本稿に記載されている見解は著者の個人的なものであり、必ずしもWIPOまたはWIPO加盟国の見解を反映したものではありません。

WIPO Magazineは知的財産権およびWIPOの活動への一般の理解を広めることを意図しているもので、WIPOの公的文書ではありません。本書で用いられている表記および記述は、国・領土・地域もしくは当局の法的地位、または国・地域の境界に関してWIPOの見解を示すものではありません。本書は、WIPO加盟国またはWIPO事務局の見解を反映するものではありません。特定の企業またはメーカーの製品に関する記述は、記述されていない類似企業または製品に優先して、WIPOがそれらを推奨していることを意図するものではありません。