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日本における知的財産を活用した資金調達―課題と可能性―日本報告書の暫定調査結果に注目したオンラインイベントの開催報告

2022/07/07

中小企業は世界の雇用の半数以上を占め、経済の原動力となっています。しかし、その多くは、生き残るための鍵となる「現金」へのアクセスを欠いています。有形資産等のハードアセットが無ければ、従来の資金調達は困難と思われるかもしれません。このような資金調達のギャップは持続可能な経済発展を実現するための障害となっています。しかし、発明や創造に価値を見出す企業にとって、このギャップを解消する新たな選択肢が生まれつつあります。

政府から民間企業に至るまで、融資者や発明家に安心感を与えるために無形資産に注目するプレーヤーが増加しています。世界知的所有権機関(WIPO)は、無形資産が主流の資金調達手段にしていくことを目指しています。この取り組みにおいては、成功事例や課題にも注目しています。レポートシリーズ「Unlocking IP-Backed Financing, Country Perspectives」の作成も行い、企業が知的財産やその他の無形資産を金融資産として活用するために政府や金融機関が取っている措置を解説しています。このレポート(報告書)では、各国の現状を共有するだけでなく、この種の融資をより広く利用できるようにする上で障壁となる各国のハードルも明らかにしています。

2022年6月、日本国特許庁による後援ならびにFIT/日本産業財産グローバルファンド(Funds-In-Trust Japan Industrial Property Global)による支援を受けて日本報告書の概要が発表されました。その中でも、日本の特徴として紹介された内容は、資金調達の改善と併せて、中小企業の主力事業の発展を支援する地方金融機関の取り組みです。澤井智毅WIPO日本事務所長は、「無形資産の重要性が高まる時代において、中小企業は知的財産を活用して成長でき、またそうすべきです。」と述べました。さらに、最近日本で承認された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」のための行動計画を含め、日本国内において無形資産に重点を置く傾向が高まっていることを説明しました。

日本報告書の作成にご協力をいただいた肥塚直人氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 知的財産コンサルティング室 主任研究員)は、多くの政策的な取り組みにより、無形資産を活用した資金調達を拡大する道が開かれたことを強調しました。例えば、日本政府は、知的財産を切り口とした事業評価の支援を行っています。このような知財ビジネス評価書は、融資の際のコミュニケーションや借入側の知的財産に関する事業戦略についての理解を深めるのに役立ちます。続いて、東京証券取引所の上場企業に適用される日本のコーポレートガバナンス・コードが2021年6月に改正されたことで、企業の知的財産に対する戦略的な考え方が変化しつつあることについて説明されました。この改正では、企業の取締役会が人的資本・知的財産への投資等の重要性に鑑み、これらをはじめとする経営資源の配分や、事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うべきであることが明記されました。これにより、企業や投資家が持続可能なビジネスにおいて、知的財産が果たす役割の重要性に対する理解がより深まる環境が整備されました。最後に、知財金融の認知度を高めるための取り組みが紹介されています。資金調達だけでなく、地域や国内経済の活性化という視点からも、知的財産の視点は注目されていると言えます。

山形県を拠点とし、次世代のバイオマテリアルを開発するSpiber株式会社で、日本の取り組みが実を結びました。同社が、独自で開発したタンパク質素材「Brewed Protein™(ブリュード・プロテイン™)」は、糖類を栄養源にする微生物の発酵プロセスにより生産しており、同素材はアパレル・ファッション業界をはじめ、輸送機器、コスメ、医療など様々な業界における産業利用が期待されています。石油化学製品ではなく、植物由来のバイオマスを主原料としているため、Brewed Protein™素材は、ポリエステルやナイロンなどの石油由来素材よりも海洋や土壌における環境分解性が優れていると説明しています。また、カシミヤをはじめとしたアパレル業界で高級素材として多用される動物繊維は、動物の飼育工程で大量のメタンガスが排出されることが課題視されていますが、同社のライフサイクルアセスメント(現在第三者によるレビュー中)によると、今後Brewed Protein繊維は、カシミヤと比較すると大幅に温室効果ガスの排出量が抑えられると想定されています。同社は、研究開発の成果を保護するため、100件以上の特許ポートフォリオを構築しました。その知的財産をもとに、当初は250億円(約1億8,300万米ドル)の資金を確保し、さらにその資産を活用して総額400億円(約3億1,100万米ドル)の追加資金を確保しました。この資金をもとに、海外に新たな工場を建設し、製品の供給体制を拡充するなど、事業の拡大に取り組んできました。

Spiber
真提供:Spiber株式会社

融資を受けるため、Spiber社は自社の知的財産が事業にどのような価値をもたらすかを示す必要がありました。同社の菅原潤一氏(取締役兼執行役)は、「私たちのアプローチが成功したのは、知的財産をベースにしたビジネスの可能性を示すことができたからです。無形資産と事業のストーリーを組み合わせることで、将来のキャッシュフローの蓋然性を説明しました。」と述べています。さらに、「証券化を利用する理由の一つは、株式の希薄化を避け、有形資産のみならず無形資産も利用できるようにするため」と述べ、このような資金調達手段の利点を強調しました。

無形資産による資金調達は、Spiber社のようなイノベーティブな企業にとってゲームチェンジャーとなり得ます。Alison Mages WIPO知的財産商業化部門 部門長は、「無形資産による資金調達の案件が増え、その結果、中小企業にもチャンスが生まれるなど、勢いは増している」と述べました。より多くの企業にとって、無形資産による資金調達を現実的な選択肢とするためには、政治的・技術的な側面から取り組むことが必要です。また、「この分野で、政府や商業団体がどのような取り組みを行っているかを調査する証拠基盤を構築することが不可欠である」と説明しました。Unlocking IP-Backed Financing, Country Perspectivesでは、無形資産による資金調達の動向に関する重要な考察が述べられています。

前進するには、それなりの努力が必要です。Guy Pessach WIPO知的財産ビジネス部門 ディレクターは、「資金調達のアクセスについて再考する必要があるかもしれない」と指摘しました。単に、従来型の銀行取引とのミスマッチという理由から、資金調達で困難に直面するイノベーティブな中小企業が増えています。このような課題を乗り越えることが、経済成長には不可欠です。「そのため、WIPOでは関係者を集めて解決策を見出すべく、行動的なアプローチを行っている」と述べました。

WIPOの重要な役割は、分野を問わずステークホルダーを結集し、前進を図ることです。2022年11月、金融、ビジネス、知的財産の各分野で活躍する官民両方の幹部によるハイレベルな対談を開催予定です。対談では、知財金融におけるグローバル・コミュニティの意識を高め、その潜在的可能性を示すことを目的としています。

アーカイブ動画

開会挨拶

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澤井 智毅
WIPO日本事務所長

WIPOの知財金融に関する取り組み

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Allison MAGES
Head, WIPO IP Commercialization Section

日本報告書概要紹介

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肥塚 直人
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 知的財産コンサルティング室 主任研究員

国際考察(米国、中国)

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Martin BRASSELL
Chief Executive, Inngot

国際考察(欧州の事例)

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Alfred RADAUER
Head, Institute of Business Administration and Management, IMC University of Applied Sciences Krems

事業価値証券化取引事例

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菅原 潤一
Spiber株式会社 取締役兼執行役

WIPOによる調査比較

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Guy PESSACH
Director, WIPO IP for Business Division (IPBD)

無形資産を活用した資金調達に関するWIPOの取り組みの詳細はこちらからご覧いただけます。